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他に行く事ができる通路などは無く、水が流れ落ちる穴を私達は滑り降りるしか無いようです。
「姫、この先に目的の水ネズミが居るかも知れません」
「でしたら薺君に、癒やしの手を使いますね」
実はここへ来るまで、全ての洞窟水ネズミを薺君が倒してくれたのです。
せめてレベルがもう少し有れば薺君の負担を減らせたと思うのですが、レベル1ではついていく事で精一杯でした。
それに、途中で癒やしの手を使用しようとしたのですが、自然に回復するから良いと言って断られていました。
ですので、私はやっとここで薺君の役に立つ事が出来る。
「姫、お願いします」
薺君の右手に触れHPを最大値まで回復すると、お礼を言われた。
いえ、寧ろ私の方がお礼を言いたい。
「薺君、守ってくれてありがとう」
ですので私は、薺君の顔を見上げ両手で癒した右手を包み込み笑顔でお礼を言いました。
すると、薺君の頬と耳が見上げた時には薄紅色でした。
恐らく、ここまで連戦続きでしたので身体が火照っていたのだと思います。
ですが、水が流れ落ちる穴に今から入ることになるので、火照っている身体も水を浴びて涼しくなる筈です。
水が流れ落ちる穴を覗いてみると、まるで一人用のウォータスライダーのようでした。
ここは、逸れないよう二人して一緒に滑り降りるしかありません。
ですが、後ろを見ると薺君がなぜかソワソワしています。
どうやら私の事で、悩んでいる様です。
私の考えは一緒に降りると決まっているのですが、薺君が先行した時の事や、私が先行した時の事を考えているようです。
「薺君、私も一緒に降りますよ?」
「はっ、はい。では……」
今度は私を、薺君の前にするか後ろにするか悩んでいるようです。
私の方が小さいので必然的に前だと思うのですが、魔物が突然現れた時の事を考えてくれているのかもしれません。
「薺君、私の方が小さいので前に座りますよ?」
「そっ、それが良いですね」
水が流れる穴の入口に座ると、なぜか薺君が座ろうとしてきません。
どうやら、今度は私を掴む場所に悩んでいる様です。
「薺君? 私のお腹に、手を回してくれたら良いですよ?」
「……はっ、はい」
薺君は私の後ろに座り手を回して来たのですが、恐る恐る手を回されると逆に擽ったいです。
ですが、私が言い出したことなので耐えるしかありません。
こそばゆいのを我慢して、グルグル回る穴の中を薺君と一緒に滑り降りると、急に水飛沫が上がり私達は水の中にいました。
「キャッ……」
どうやら、滑り降りた場所は深いプールのような水たまりだったようです。
水の中から顔を出すと、薺君が腕を支えてくれました。
薺君は、足がつくようです。
「姫、顔が赤いですが大丈夫ですか?」
薺君が心配するように声をかけてきました。
ですが、薺君のせいだとは言えませんでした。
「……大丈夫です」
大きな水たまりを進み、奥へ行けば行くほど浅瀬になっていました。
そして、水が無くなったその奥に一体の洞窟水ネズミがいたのです。
ですが先ほどまでの洞窟水ネズミよりも、耳と眼が大きく胴が細長くて毛質が青っぽい灰色で尻尾もかなり長いです。
あの洞窟水ネズミが、目的の水ネズミでしょうか?
私が水ネズミに近づこうとすると、薺君が手で制しました。
「姫、やはり僕が先に行きます」
そう言われ前を向くと、水ネズミがいる少し手前で水が上下左右から強烈な勢いで噴き出したのです。
そして水ネズミは水が噴き出した瞬間、後ろへ下がりました。
今のは、私達を水が噴き出す場所へ誘っていたのでしょうか?
それとも、水ネズミなのに水が怖い?
吹き出した水が私達の足下へ来ると、少しだけ冷たさを感じました。
どうやら、上下左右から吹き出す水はかなり冷たい水のようです。
水ネズミが背を向けたので、攻撃するため薺君は近づいて行きました。
すると、再び水が強烈な勢いで噴き出しました。
薺君は寸前の所で後ろへ回避すると、木刀の先が凍っていたのです。
噴き出す水は、木刀をも凍らせる危険な水のようです。
あの水を、回避する方法は無いのでしょうか?
凍らせる水が出た場所を見ていると、薺君が帰ってきました。
「姫、一定以上近づくと凍る水を吹き出すようです」
薺君曰く、上下左右にビッシリと噴き出し口が見えたそうです。
それだけ噴き出し口が有るのでしたら、飛沫がかかっている筈です。
「薺君、怪我は無かったのですか?」
HPは減っていなくても、やはり気になってしまいます。
「はい、どこも怪我は負っていません。飛沫が降りかかり冷たさは感じたのですが、どうやら直接触れなければ凍らないようです」
薺君の指摘通り、木刀以外はどこも凍っていませんでした。
水ネズミをよく見ると、尻尾の先が凍っていました。
つまり、直接触れると私達や水ネズミでさえも凍らせるという事です。
水ネズミは尻尾に痛さを感じたのか、奥の方へ退散していきました。
「尻尾に、凍傷を負ったようですね」
自然と、言葉が出てきました。
もしかするとこの能力は、相手をよく見る事で分析する事が出来る能力なのかも知れません。
私が自信の不思議な能力について考えていると、薺君が凍った木刀を見た後に水ネズミの方を見ていました。
「あの水、逆にトラップとして使えるかも知れない」
薺君は周りを見ると、何かを探し出しました。
「薺君、どうしたのですか?」
「姫、トラップが有ると言うことはどこかに必ずセンサーがある筈です」
薺君はそう言うと、トラップがある場所へ向かい少し手前で止まりました。
恐らく、トラップの作動方法を知り水ネズミに使えるか思案しているのだと思います。
「熱線式センサー、光線式センサー、超音波式センサー、体重感知式センサー……一体どこに有るのだろう?」
ですが、センサーらしき物は見つからないようです。
私も、薺君のお手伝いをするためにトラップの手前までやって来ました。
薺君が木刀の先で、センサーが有ると思われる数㎝前から噴き出し口付近を調べ始めました。
すると、光線式と超音波式のセンサーでは無いと私に教えてくれました。
ですが、そんなことを言われても私には分かりません。
知っているのは、赤外線センサーという言葉位です。
「熱? 体重? 試してみるか……」
薺君はそう言うと、右足を少し前に出し直ぐに引きました。
その瞬間、凍る水が上下左右から噴き出したのです。
一瞬驚きましたが、薺君の言うとおり飛沫が降りかかっても冷たいだけでした。
「体重をかける前に、反応した……」
薺君はそう呟くと、木刀の先を斜め前にして地面に体重を乗せました。
「重さは反応無し……つまり、熱線式センサーか」
「薺君、私も懐剣で試してみても良いですか?」
「はい。ですが姫、近づき過ぎないようにお願いします」
「分かりました」
私は懐剣を、センサーがあると思われる場所へ近づけさせました。
ですが、反応が有りません。
今度は指を、近づけさせました。
ですが、やはり反応が有りません。
そして今度は、大胆に手の平を上下に振ってみたのですが、一切反応を示さなかったのです。
「姫と僕の、体温差? 水に浸かって、姫の身体が冷えていたのか……」
薺君はそう言うと、水に浸かりに行きました。
そして暫くすると戻って来て、再び手をセンサーが有りそうな場所に翳し直ぐに引きました。
すると、凍る水が上下左右から噴き出したのです。
「姫、手の体温を確かめても良いですか?」
「はい」
私が手を差し出すと、薺君の手は私より冷たかったです。
「おかしい……熱線式センサーでは、無いのか?」
薺君は顎に手を添えると、眼を瞑り考えだしました。
確かに、このトラップの仕掛けが分かれば対処方も分かり、水ネズミを誘い込む罠として使えるかもしれません。
それに仕掛けが分からなければ、水ネズミの元へたどり着く事が出来なくなってしまいます。
薺君が考えている間に、私の場合はどの辺りで反応するか試してみる事にしました。
少し足を進めてみたのですが、一向に反応しません。
私は、反応するまで先に進んでみることにしました。
ですが、やはり全く反応しません。
そして更に進んで行き気がつくと、噴き出す場所をすでに越えていて、眼前に水ネズミが居たのです。
胸元に付いている向日葵のワッペンが急に赤くなったので、足に意識して後ろへ飛び退きました。
その瞬間、水ネズミの長い尻尾が私のお腹の前を通り過ぎました。
私が尻もちを付くと、尚も水ネズミは尻尾で攻撃してきました。
その攻撃を左右にギリギリ回避しながら逃げていると、私の後方で水が噴き出す音が聞こえてきました。
「姫、逃げて下さい!」
回避に集中しながら、叫んでいる薺君のHPを見ると190から急に150まで減りました。
恐らく、私を助けに行こうとして凍傷になる水に飛び込み、HPの減りが異常だったので後ろへ飛び退いたのだと思われます。
でしたら早く、薺君の元へ行きHPを回復してあげなければ無茶な事をしかねません。
なぜなら現に、HPが今また150から110に落ち込んだからです。
私は全身に意識を集中させる事で、ギリギリ水ネズミの尻尾による攻撃を躱しているのですが、このままでは二人とも危険です。
私は一か八かで水ネズミに背を向け、足に意識を集中して薺君の居る場所へ逃げようと考えました。
そして背を向けた瞬間、衝撃が背中に走ったのです。
「キャッ!」
「姫!」
その瞬間薺君が叫び、身体が金色に輝きました。
同時に、私のダメージログに11の文字が現れました。
ですが気にせず薺君の元へ走り続けていると、私のHPが1だけ残っている代わりに薺君のHPが110から101になっていたのです。
そして、薺君の元へたどり着くと絶叫する水ネズミの鳴き声と共に、再び私の背中に大きな衝撃が走りました。
「キャッ!」
その瞬間、薺君のHPが再び減り101から71へと減少し、私の左肩に凍った水ネズミが打つかって来たのです。
打つかられた衝撃で、バランスを崩し私は転倒しました。
HPを確認すると1のままでしたが、再び薺君のHPが71から51へと減少していたのです。
どうやら薺君が、私のダメージを全て受けてくれているようです。
座り込んだ状態で、凍っている水ネズミをよく見ると頭に言葉が浮かんできました。
「水ネズミの、全身凍傷甚大。全身麻痺を、起こしています。薺君、今です!」
その瞬間、薺君は木刀に力を込めると木刀までもが金色に輝いたのです。
刹那、凍った水ネズミは壁まで飛ばされ動かなくなりました。
薺君の動きがあまりにも速すぎて、どうやって水ネズミを壁まで飛ばしたのか、私では分かりませんでした。
倒された水ネズミを眺めていると、薺君が私に手を差し延べて来ました。
「姫、無理をなさらないで下さい」
手を差し出すと、座り込んでいた私を引き寄せ抱きしめました。
どうやら薺君に、かなり心配をかけたようです。
「薺君、ごめんなさい。だけど、助けてくれてありがとう」
私がそう言葉を発した瞬間、天上に魔法陣が現れ私達は光りに包まれた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




