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私は報酬精算機に行くまで、先ほどの六本爪のケケッコ鳥の違和感について考えていました。
私が離れた位置で隠れ、薺君が一人で戦った時、六本爪のケケッコ鳥とは力が拮抗している様に見えました。
そして薺君が私を抱き上げ逃げている時、薺君だけが戦っている時よりも速度がかなり遅く感じました。
それに、六本爪のケケッコ鳥から逃げ切った時、私を初めにターゲットした事で急に弱くなりました。
これらの事から、恐らく相手のレベルで強さが変わる魔物だったと考えられます。
私は薺君に、それらの事を話しました。
なぜなら、次の依頼も協力して倒すように記載されています。
ですので、水ネズミもその特徴である可能性が高いのです。
後は、攻撃です。
攻撃だけは、薺君から詳しく話を聞かないと分からないです。
「薺君、六本爪のケケッコ鳥に攻撃された際の話を聞かせて頂いても良いですか?」
「はい、姫にご説明致します」
薺君に説明して頂くと、幾つかの特徴が分かりました。
私には力が拮抗している様に見えていたのですが、薺君曰く素早さは薺君の方が早かったらしいです。
ですが、たった一度の攻撃で連続十九回ダメージを受けたらしいのです。
そのダメージの量は後へ行くほど減っていき、一番初めに減ったHPが十九で次から十七>十五>と減っていった事を覚えているそうです。
私の場合、一度攻撃され逃げたときHP12から11に減ったことを覚えています。
恐らく私達の防御は関係なく、HPに関係が有るのだと思います。
なぜなら、薺君のHPの最大値が190で私の最大HPが12だからです。
そして恐らく、十の桁以上の数字が攻撃回数でダメージは割合ではないかと考えたのです。
「姫は、頭が良いのですね」
「いえ、薺君が色々と覚えていたお陰です」
「ただ私達二人で一緒に行った場合、攻撃回数とダメージ量が不明なのです。それに、次の水ネズミの居る場所も……」
私はダメージを負ったときのことを考え、MPを確認する事にしました。
MPを見てみると、MPが6に戻っていました。
MPも、自然回復が出来るとは思いもしませんでした。
「薺君、傷ついた時は言って下さいね。攻撃でお役に立てない私は、直ぐにHPを回復させますので」
「姫、有りがたい話ですがMPは鍛錬の間を出ないと回復しません。ですので、大切に使って下さい」
「ですが、私のMPは既に最大値まで回復していますよ? MPも、自然回復するのでは?」
「僕のMPは、いつも鍛錬の間を出ないと回復されません。もしかすると、鍔の能力かもしれませんね」
何の能力も無い飾りの鍔だと思っていたのですが、MPを自然回復する能力を秘めていたとは思いもしませんでした。
報酬精算機の前に着くと、薺君が六本爪のケケッコ鳥を私に渡してくれました。
「薺君、ありがとうございます」
お礼を言って、薺君から六本爪のケケッコ鳥を受け取ると掲示板に紙が現れ、英字が記されていたのです。
「薺君、これは何でしょう? NWNESと、記されています」
「何かの、暗号でしょうか? ですが、分かりませんね」
二人で考えてみたのですが、何も思いつきません。
六本爪のケケッコ鳥を持って考えていたので、取りあえず買い取りボックスへ入れることにしました。
私が買い取りボックスへ六本爪のケケッコ鳥を入れると、薺君の声がしました。
薺君がいる掲示板前に行くと、新たに「50、20、100、300、500」と数字が記されて居たのです。
「姫、もしかすると東西南北と歩数を現しているのかも知れません」
薺君がそう言ったので、英字と数字を当てはめてみました。
北に50歩、西に20歩、北に100歩、東に300歩、南に500歩となります。
つまり、その位置に目当ての水ネズミが居るかもしれないと言うことです。
私達は、早速その場所へ向かうことにしました。
早速その場所へ向かおうとしたのですが、北に50歩、西に20歩、北に100歩、東に300歩、南に500歩でしたので、差し引きすると東に280歩で南に350歩となります。
ですので最短距離をと薺君へ伝えました。
すると指示通り歩かない場合、魔物が出現しないことが有ったと言われました。
ですので、指示通りに歩く事にしました。
掲示板の裏に回り進もうとすると、薺君に左手を掴まれました。
「姫、どちらに向かわれるのですか?」
そして不思議そうに薺君は、小首を傾けました。
「北だと思うのですが……」
自身無く答えると、薺君は私の隣に来ました。
「姫、そちらは南西です。姫は、地図の出し方をお知りになかったのですね」
薺君はそう言うと、地図の出し方を丁寧に教えてくれました。
私は安易に考え、掲示板を向いた方向が北だと思い込んでいたのです。
地図を表示するには、右上にあるMと表示されている所へ指で触れると全体の地図が表示され、閉じる場合は地図に有る右上の×を指で触れると消えるそうです。
地図の右上には東西南北のコンパスが表示され、いつでも北の位置が分かるようになっているそうです。
地図を見ると、白い光点が有りました。
それは、私の位置を現しているのだそうです。
白い光点が二つ有ったので、もう一つは薺君を現しているのだと思います。
北へ向かって歩いていると、二人の歩幅が気になりました。
そう言えば、この歩数は私のでしょうか?
それとも、薺君のでしょうか?
薺君曰く、掲示板を使用出来るのは私なので私の歩数だそうです。
二人で指示通り歩いていると、洞窟が見えてきました。
「薺君、あれは何でしょう?」
「姫、水の洞窟のようです」
薺君が地図を見て、そう言いました。
以前この辺りに来た時は、無かったそうです。
私も地図を見てみると、確かに水の洞窟と表示されてありました。
この洞窟に、目的の水ネズミが居るのでしょか?
入口に入ると、なぜか男女別れた更衣室が有りました。
「姫、僕が調べてきます」
薺君はそう言って男性更衣室に入り暫くすると、向日葵がプリントされたトランクス型の水着を履いて出てきました。
薺君はペンダントとブレスレットをしていたので、私のようにお使い様から頂いた物だと思います。
「姫、更衣室の中に水着とメッセージカードが有りました。そしてメッセージカードには、この水着を着て探索するようにと記されていました。ですので、姫も……」
薺君がそう言うので、私も女性更衣室に入ると向日葵の描かれたフレアキャミワンピース水着とメッセージカードが置いて有りました。
メッセージカードを見てみると、薺君の言うとおりの事が書かれて有りました。
それと、この水着は下着と同じ効果が有るそうです。
プレゼントするとも、書かれてありました。
私は下着と制服をペンダントに収納すると、水着を見ました。
「下着みたいで、少し恥ずかしいです……」
スクール水着以外を薺君の前で着るのは恥ずかしいのですが、お使い様の指示ですので仕方がありません。
水着を着て更衣室から出てくると、薺君が驚いた表情をしていました。
もしかして、下着だと思われたのでしょうか?
それとも、似合っていなかったのでしょうか?
「……姫、凄くお似合いです」
真っ直ぐな眼で面と向かってそう言われると、嬉しいようで恥ずかしい何とも言えない気持ちになりました。
「あっ、ありがとうございます。薺君も、よくお似合いですよ」
私は、恥ずかしさを紛らわすようにそう言いました。
そして二人で一緒に奥へ進んでみると、水の洞窟という意味がよく分かりました。
ですが洞窟と言うより、どこかのアトラクション施設の様にも見えます。
ある一定時間になると、壁から水が勢いよく噴き出すのです。
「姫、下が全てノンスリップグレーチングになっていますが、足下を滑らせないようお気をつけ下さい」
薺君の言うノンスリップグレーチングの意味はよく分かりませんでしたが、横から勢いよく吹き出した水は、道路や歩道で見かける鉄格子の様な足場になっていて、水はそこへ流れ落ちる様になっていました。
先頭を薺君が歩いて、勢いよく吹き出す水のタイミングを見てくれているお陰で、私は水に濡れずに済んでいます。
確かに、水に濡れると下から吹く風で身体を冷やしてしまい体力を奪われかねませんからね。
「はい……」
私は薺君に言われて返事をし、足下を滑らせないよう気をつけました。
先へ進んで歩いて行くと、今度は水が一定時間に一度、勢いよく上から吹き出す場所でした。
「先ほどよりも、水圧が高いな。姫、お手を……」
薺君はタイミングを見計らって、一気に走り抜けるようです。
「はい」
私が右手を差し出すと、薺君はしっかりと握りました。
ですが、急に水ネズミが二体現れたのです。
水ネズミが現れた瞬間、薺君が私を抱き寄せ壁際に有る出っ張りに身を隠しました。
一瞬驚いて叫びそうになりましたが、そのお陰で二体の水ネズミはこちらに気づきませんでした。
ですが薺君、密着し過ぎて苦しいので少し抱きしめる力を緩めてほしいです。
私がそう訴えるように上を向くと、薺君の頬が薄紅色になりました。
「ごっ、ごめん」
薺君は私の顔を見下ろすと小声でそう言い、抱きしめる力を緩めてくれました。
ですが、隠れる為にかなり密着しているので薺君の激しい鼓動と体温が伝わって来ます。
もしかすると、私の体温と鼓動も同じ様に伝わっているかもしれません。
そう思うと、少し恥ずかしくなりました。
ですが、それよりも今は二体の水ネズミに集中しなくてはいけません。
私も薺君と同じ様に、壁際から二体の水ネズミを覗いてみました。
あの水ネズミは、目的の水ネズミでしょうか?
ケケッコ鳥のように特徴的なものが有れば分かるのですが、私には分かりません。
それにもし、目的の水ネズミでありケケッコ鳥と特質が同じでしたら私が引いて来た方が瞬時に倒せる気がします。
ですが、一体だけを引く自信がありません。
もし謝って二体同時に引き、六本爪のケケッコ鳥と特質が同じでしたら、私達は危険な状況に陥る可能性が有るからです。
どうすれば良いか思案していると、薺君が私の方を向きました。
「姫、ここは僕が慎重に一体引いて確かめてみます。僕がもし攻撃され、HPが一気に減ってしまったら姫を抱いて一端退避します。宜しいですか?」
確かに、ここは私が行くよりも経験豊富な薺君に任せるた方が得策です。
「はい、お願いします」
私達は壁際を一端戻り、先ほどの場所まで来ると薺君が先行しました。
そして暫く待っていると、薺君のHPが少しずつ減っていったのですが、HPが10減った所で無事に戻って来ました。
薺君曰く、水の洞窟に存在する水ネズミだったようです。
ただ注意点を幾つか、薺君は言っていました。
一体だけ引いたつもりが二体同時に襲って来た事から判断すると、この水の洞窟で出没する水ネズミはグループで行動するタイプらしいです。
それに、水が噴き出す大地にいた水ネズミよりも少し強く、上から吹き出す水が予想以上に激しいため戦うのが困難な場所のようです。
また、奥に同じ洞窟水ネズミが三組見えたので序でに倒して来たそうです。
薺君の減ったHPを回復しようとすると、これ位は歩いていれば自然と回復するので良いと言われました。
水ネズミが再び現れる前に、私達はその奥に向かう事にしました。
水が上から噴き出す場所を歩いていると、不意に上から水が叩きつける様に降って来ました。
「キャッ!」
あまりの水の衝撃で、肩紐がズレ私は座り込みそうになりました。
「姫、早くこちらに」
薺君がそう言って抱き寄せてくれなければ、私はそのまま座り込み水着が脱げているところでした。
確かにこの勢いの水が上から噴き出すと、私の場合は戦い所ではなくなっていたと思います。
薺君に先行して洞窟水ネズミを倒してもらわなければ、本当に危ないところでした。
「ありがとう」
私がそう言って薺君を見上げると、頬を薄紅色に染め離してくれました。
そして手を繋ぐように言ってきたので手を繋ぐと、薺君は水が噴き出すタイミングが分かっているように水を避け、一気にその危険地帯を私達は抜けきる事が出来ました。
危険地帯を抜けると、今度は大きな広場に出ました。
そこには、まばらでは有りますが洞窟水ネズミの巣のようになっていました。
洞窟水ネズミを数えると、二十四体います。
つまり、十二組もの洞窟水ネズミがいる事になるのです。
これだけの洞窟水ネズミが、もしリンクしてしまうと大変なことになってしまいます。
ですが薺君は木刀を構えると、私に広場の入口角に居るように言って、少しづつ一体の洞窟水ネズミに近づきました。
すると、四体の洞窟水ネズミが襲いかかってきたのです。
どうやら大広場の洞窟ネズミは、四体で一つのグループのようです。
薺君は私から少し離れた通路へ行くと、その四体の洞窟水ネズミをあっと言う間に倒してしまいました。
そして、残りの洞窟水ネズミも同様にして倒していったのです。
「姫、次の場所へ行きます」
「はい」
この後私達は、合計八つの大広場と九つの通路のグループ洞窟水ネズミを倒しました。
二百体までは数えましたが、多すぎて数えるのを止めました。
何度も連戦し大広場と通路の洞窟水ネズミを倒したので自然回復は追いつかず、薺君のHPは190から90まで下がっていました。
そして、次に向かった先に水が流れ落ちる穴があったのです。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




