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朝早く起きてシャワーを浴びた私は、早速自宅へ向かいました。
何故かというと、昨日お風呂から上がってくるとママからの着信が沢山入っていたのです。
読み返して行くと、公園へ行く前に自宅へ寄るようにと書かれて有りました。
そして、服のコーディネートやメイクをママがすると書かれてあったのです。
ですが、お使い様のお告げで制服を着ていかなくてはなりません。
ですので、言い訳として学校へ寄る旨を書いて送信したのです。
(ごめんなさい。お風呂に入っていました)送信。
(撫子ちゃん、ごめんね夜遅くに)既読。
(学校に寄る用事が有るので、制服で行かないといけないのです)送信。
(あら、残念。学校なら仕方がないわね)既読。
この後メイクの話になり、都合を言って断りました。
ですが、結局メイクだけは折れてくれませんでした。
そして、今日はお父様とママが出かける日です。
ですので、早朝から自宅へ行く事になったという訳です。
自宅へ着くと、早速ママがやって来ました。
そして食卓へ急がされ、私が食事を食べ終わると歯磨きを急がされました。
歯磨きをし終わると、シャワーを浴びるように言われました。
シャワーを浴びて上がってくると、メイク道具を持ったママの化粧水指導が入り、最終的には制服に似合う自然な仕上がりのメイクとなりました。
私的には、いつもとあまり変わらない気もするのですが、ママから言わせると全然違うそうです。
そして、忙しいママはお父様に付き添い外出されました。
ママから解放された私は、向日葵の下着と制服を着てお姉さんの自宅へ向かいました。
お姉さんの自宅に到着すると、なぜか薺君も制服姿でした。
そして、薺君は私を見ると「かわ」と言った後に手で口を塞ぎました。
一体、何が言いたかったのでしょう?
言いかけた言葉に加え、私と同じ制服を見て不思議に思いましたが、お姉さんが自宅から出てきたので気にしないことにしました。
「車で行くさかい、隣の駐車場行くで」
お姉さんはそう言うと、両手に手袋を嵌めました。
日焼け避けの、手袋でしょうか?
ですが、私が知っている白い手袋では有りません。
お姉さんが、駐車場のシャッターをリモコンで操作すると赤い車が見えました。
不思議な形の車を見て私は小首を傾けていると、薺君の眼が輝いていました。
「格好いい……」
男の子は、こんな車が好きなのでしょうか?
「せやろ、うちの愛車やねん」
そう言って、お姉さんが誇らしげに薺君の肩を叩いていました。
ですが、この車の後ろに大きな羽が付いています。
これは、何のために有るのでしょうか?
しかも、ドアが二つしか有りません。
私達三名、乗れるのでしょうか?
「撫子ちゃん、狭いけど後ろでええか?」
「はい、良いですよ」
私は助手席に乗るより、後ろの方が慣れていますからね。
「ほな、春野君はうちの隣や」
「お姉さん、ありがとうございます」
助手席のシートを倒すと、私は後ろに乗り込みました。
確かに、お姉さんの言うとおり後ろの席は狭いです。
ですが、私なら座ることは出来ます。
後ろに座ると、私はシートベルトを締めました。
お姉さんと薺君が前のシートに座ると、エンジンをかけました。
すると、凄いエンジン音がしました。
「二人とも、シートベルトしっかりしときや。ほな、行くで……」
お姉さんがそう言った瞬間、目つきが変わりました。
そしてその後、私に取って地獄とも言える時間が始まったのです。
シートに背中が追いやられ、私は必死にシートベルトにしがみつきました。
眼を瞑り車の加速に耐え、気がつくと大きな公園の駐車場へ来ていたのです。
「撫子ちゃん、着いたで」
お姉さんが声をかけ、助手席のシートを倒してくれたので私は車を降りることにしました。
出るときふらつくと、薺君が私を支えてくれました。
薺君は、平気なようです。
どうやらお姉さんは、車に乗るとスピード狂になるようです。
私は、お姉さんと薺君と一緒に大きな公園の入口に向かう事にしました。
入口で受付を済ませて、フリーパスのカードを首から提げ大きな公園の中に入ると、様々な施設が目の前に広がっており、私より小さな子達が白く巨大なフワフワした物の上を飛んで遊んでいました。
「ちと、お姉さんお花摘みに行ってくるわ」
お姉さんが、トイレに駆け込みました。
どうやら、我慢していたようです。
私も、施設を見に行く前にトイレに行くことにしました。
「私も化粧室に行きますが、薺君はどうされます?」
「僕は待っているよ」
用を済ませ化粧室から出てくると、薺君がいませんでした。
しかも、周りにいた人達も居なくなっていたのです。
そして、まばらに縫いぐるみが置いて有ったのです。
不思議に思い鶏に似た縫いぐるみに近づくと、警告を知らせる赤い光りが点りました。
私は咄嗟に身を後ろに躱すと、鶏の縫いぐるみが飛びかかってきたのです。
トイレに逃げ込もうと後ろを振り向きますが、トイレが消えていました。
しかも、入口まで消えていたのです。
お姉さんは? 薺君は? 一体、どうなったのでしょう?
ですが、気にしている暇は有りません。
何故なら、飛びかかってきていた鶏の縫いぐるみが再び襲いかかってきたからです。
縫いぐるみの攻撃を左腕で受けた瞬間、ネックレスのルビーが煌めき薄い光りが身体を覆いました。
左腕に、一瞬痛みが走りましたが傷はありません。
ですが、左上に最大HPと最大MPが表示されバーが少し減り、HPが12から11に減少していたのです。
痛みが走った左腕を右手で触ると癒やしの手が発動し、HPが11から12に戻りましたが、MPが6から5に減ったのです。
私は危機感を感じ、その場から逃げました。
ですが、縫いぐるみが追いかけてきます。
足に意識を集中させ走ると、逃げ切ることが出来ました。
そして、逃げ切った先に大地から水が噴き上がる場所が見え薺君が居たのです。
ですが、先ほどの鶏よりも大きな鼠の縫いぐるみと戦っていました。
薺君は鼠の縫いぐるみを木刀で倒すと、こちらを振り向きました。
「姫、どうしてここに?」
「分かりません」
私はこれまでの経緯を、薺君に話しました。
すると、ここの情報を教えてくれたのです。
ここは、天啓を受けた者を鍛える為にお使い様が創りだした鍛錬の間だそうです。
そして、実際に魔物の縫いぐるみと戦っても傷を負うことは無いそうです。
しかし傷を負わない代わりに、左上に表示されているHPが減っていくそうです。
全てのHPを失うと失敗となり、強制的に外へ出され経験値が下がってしまうそうです。
経験値が下がりすぎると、レベルが下がるそうです。
経験値を下げずに鍛錬の間から出るには、メッセージカードで指定された魔物の縫いぐるみを倒していかなくてはならないそうです。
ここで、メッセージカードと言う言葉が出てきたので薺君へ確認することにしました。
「メッセージカードって、向日葵のですか?」
「はい。もしかして、姫もメッセージカードを貰ったのですか?」
メッセージカードの内容を薺君にお伝えすると、彼は首を傾げました。
薺君曰く、鍛錬の間へ送られる場合は事前に指定された魔物を何匹以上倒すようにとメッセージカードに表示されているようです。
ですが、私のメッセージカードには有りませんでした。
有ったのは「公園指定制服、模擬試験、合否判定、ヒント」です。
薺君は少し考えると、私に付いてくるように言いました。
そしてついていった先に、掲示板が有ったのです。
掲示板の前までやって来ると、掲示板に三枚の紙が貼られていました。
その中の一枚を、薺君は指さしました。
「姫、この掲示板に貼られている紙が依頼書です」
薺君が言うには、依頼書に書かれてある依頼を達成すると、手にしている依頼書に向日葵の判子が押されるそうです。
掲示板の裏には報酬精算機があって、向日葵の判子が有る依頼書を報酬精算機に入れるとランダムで報酬が貰えるそうです。
ただ、ランダムなので何が出てくるかは分からないそうです。
ですが、殆どがコインでたまに武器の割引券が出てくるそうです。
その割引券は自動販売機で売ることが出来て、報酬のコインより多いそうです。
薺君はここの依頼を何度も達成して、報酬で封印された木刀を購入したそうです。
ですが木刀を購入した瞬間、依頼書が消えてしまったそうです。
ですので、この掲示板に現れた依頼書は私のだと言うのです。
依頼書を見てみると、討伐依頼が二つとお手伝い依頼が一つ有りました。
討伐依頼の一つ目は【ケケッコ鳥を五匹討伐せよ】で、二つ目は【水ネズミを二匹討伐せよ】でした。
そしてお手伝い依頼は【倒したケケッコ鳥一匹と水ネズミ一匹を買い取りボックスに入れよ】でした。
「ケケッコ鳥と水ネズミとは、何でしょう?」
「姫、ケケッコ鳥とは鶏のような姿をしている鳥です。水ネズミとは、僕が倒した鼠の事です」
もしかして、私が危険を感じて逃げたあの縫いぐるみですか?
それに、薺君が倒した大きな鼠?
どちらも、倒せる気がしません。
「薺君に手伝ってもらうわけには、いかないのですか?」
「僕もそう考えたのですが、手にしている木刀はこの通り渡せませんし、コインも渡すことが出来ません。それに、依頼書に書かれている文字が僕には見えません」
これらの事から、私が単独で行う依頼だと言うことが分かりました。
ただ、依頼を失敗しても再度受ける事は出来るそうです。
ですがその場合は強制的に外に出されるようで、私の場合はメッセージカードに書いてあった事も同時に失敗扱いになってしまいます。
つまり、私は依頼を失敗する事が出来ないのです。
気を引き締めて、薺君にどちらの魔物が弱いのか確認するとケケッコ鳥だそうです。
ケケッコ鳥なら素手でも倒せるそうで、薺君も初めは素手で倒していたそうです。
私は、ケケッコ鳥の依頼書を手にする事にしました。
依頼書を手にすると、他の依頼書が消えてしまいました。
どうやら、一つずつ依頼をこなさなくてはいけないようです。
ですが、武器も無しに倒せるでしょうか?
心配でなりません。
「姫、手出しは出来ませんが僕もついていきます」
薺君がついてきてくれるだけでも、私は心強いです。
「ありがとう」
元のいた場所へ戻ってくると、ケケッコ鳥の縫いぐるみがいました。
ケケッコ鳥を攻撃するために私が近づくと、足の爪で襲いかかってきました。
先ほどは咄嗟の事だったので左手で防ぎましたが、よく見るとケケッコ鳥の動きが遅いのです。
そう言えば、意識を集中させると身体能力が上がるのでした。
私は足と身体に意識を集中させ、ケケッコ鳥の爪攻撃を右に躱しました。
そして躱した瞬間、左手に意識を集中させ払いのけると、ケケッコ鳥の後頭部に当たりました。
すると、一撃でケケッコ鳥は動かなくなり消えてしまったのです。
「薺君、どうしよう? 消えちゃいました……」
これって、失敗でしょうか?
「姫、依頼書を見て下さい」
薺君の言われるまま依頼書を確認すると、向日葵の判子が一つ押してありました。
「薺君、判子がありました」
「姫、では残りを倒していって下さい」
薺君曰く、魔物の縫いぐるみが残らないのは、お手伝い依頼とは別の依頼だからだそうです。
私がケケッコ鳥を一体ずつ倒していく間、薺君は眼を離さずに見ていてくれました。
薺君が見ていてくれるだけで、ここまで落ちついてケケッコ鳥を倒せるとは思いもしませんでした。
薺君、感謝します。
私達は再び掲示板前に戻ると、依頼書が二つ貼られていました。
どうやら、依頼を無事達成すると消えていた依頼書が出現するようです。
「姫、では達成した依頼書を報酬精算機のここに入れて下さい」
「はい」
私は教えてもらった場所に達成済みの依頼書を入れると、コインや武器の割引券では無く布に包まれた棒状の物が出てきました。
薺君は初めての事のようで、驚いています。
私は、その布に包まれた棒状の物を手に取ることにしました。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




