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邪神を取り巻く白い花、本来緑が有る低木に色が無い事が不気味すぎる。
それにこの空間、何か嫌な感じがする。
まるで、何もかも失っていくような……。
すると、邪神が笑みを見せた。
「うふ、ふふふ。如何です? 虚無の花園は」
虚無の花園……何も存在しない、花園と言うこと?
だから、鬼神武器が消えたの?
幸い、懐剣と天八岐は健在。
だけど、いつ消えるか分からない。
「貴女は、一体何がしたいの?」
そう言って邪神を睨むと、小さく笑った。
「クスッ! そんな怖い顔で睨むと、綺麗な顔が台無しよ」
「五月蠅い! 早く、ここから出しなさい!」
「残念……ここは、何もとらわれない虚無の花園。私以外、何をしても出ることが出来ないわ」
なら、桜の能力で時を遡ります。
「神明鳥居、明神鳥居よ、ここに過去と未来を繋げ! 【稲荷時潜り!】」
時を遡るスキルを使用したが、スキルが発動しなかった。
そんな……戻れなくなってる。
「無駄よ。時神と鬼神、二つの力を合わせなければね」
「クッ!」
邪神を倒せば、この空間から出られるでしょうか?
懐剣を構えると、邪神が手を前に出した。
「貴女、そこから動かない方が身の為よ。うふ、ふふふ」
邪神が笑うと、ランタナの花が揺れた。
これは誘っているのか、それとも忠告しているのか?
ですが、動かなければ始まりません。
懐剣を構えて一歩進むと、途轍もない殺気が右から感じられた。
しかし、右には誰もいない。
左? いえ、前? いえ、後ろ?
この殺気は、一体何?
邪神を見ると、その場から動いていない。
すると、周りで揺れていた一本のランタナが白い空間に溶け込んだ。
「始まったわね」
邪神が私を見て微笑むと、白に染まっていった。
「何が?」
問いかけると、邪神が空間に溶け込む様にして消えた。
すると、両足に殺気が突き刺さった。
この殺気は、どこから?
周りを警戒した次の瞬間、両足に激痛が走った。
「痛……」
下を見ると、両足が白に染まっていた。
これは……足が、動かない。
この不可解な症状は、一体何?
すると、私のHPが凄い早さで減り始めた。
次の瞬間、両下腿にも激痛が走った。
……これは一刻も早く治さないと、数秒で全身を浸食され死に至る。
「癒やしの光り!」
咄嗟にスキルを使用すると、発動することが出来なかった。
……嘘でしょ?
MPを確認すると、MPの表示が白に染まっていた。
そんな、どうして?
すると、HPの減少が加速しだした。
あまりの痛みで、息が出来ない。
「……アメ……ノ……ヤマタ……おね……がい」
掠れる声を振り絞り、呼んでみたが反応が無い。
まさかと思い、天八岐を確認すると白に染まり色を消失していた。
天八岐が全て染まると、白の浸食が加速。
遂には、服と下着まで伝染し私の全身が白一色に染まった。
全身を襲う激しい痛みに加え、残り少ないHPの数値。
「……わたし……もう……ダメ……みたい」
……皆、ごめんね。
死を覚悟したその時、ネックレスに黄色い光りが灯り、女の子のフィギュアが出てきた。
そう言えば旅行へ行くとき、この子達もと思って連れて来たんだ。
涙を流し、色を失った身体でフィギュアを抱きしめると、温かく心地よい光りを放ちだした。
「あたた……かい……」
まるで、大事な人に抱きしめられているような感覚。
そんな、感覚が私の全身を包み込んだ。
激痛が消えていくと共に、心地よい温かさと安心感に満たされていく。
これは、お兄ちゃんと同じだ。
お兄ちゃんの膝に座って背もたれにしている時、上を見上げるといつも頭を撫でてくれた。
あの時も、心地よい温かさと安心感で私は満たされた。
寒い時は、コタツとお兄ちゃんで暖まり安心感に満たされる。
眠れない時は、お兄ちゃんが寝るベッドに潜り込み安心して眠った。
甘えたいときは、一緒にお風呂に入っていっぱい甘えたっけ。
あの時はそんな毎日が当たり前で、お兄ちゃんがいなくなった時の絶望感は……。
この時、私はあの日に誓った一番強い思いを思い出した。
「うちは、あんちゃんを……」
すると、女の子のフィギュアを中心に身体の色が戻り始めた。
同時に、HPの減少が残り1で止まった。
そして、向日葵のアイコンが自動的に開かれると、ポイント交換ギフトに新たなスキル【魂の開花スキル:限界突破】が加わり、ポイントを消費せずに自動的に取得した。
次の瞬間、レベル99の数字が00となり、持っていた懐剣から木片がこぼれ落ちた。
慌てて懐剣を見ると、木の懐剣の中に金属の刀身が覗いていた。
すると、抱いていた女の子のフィギュアが花園の中心を指さした。
「教えてくれて、ありがとう。あそこを、切るのね」
すると、女の子のフィギュアが微笑んだ。
懐剣を持って一歩進むと、白い花弁が私に触れた。
その瞬間、白い花弁に色が付き、殺気が消えた。
殺気は、この花園が放っていたんだ。
どおりで、殺気を放っていた場所が周りだった訳です。
進むにつれて花弁に色が付いていくと、手に持っていた懐剣の木が崩れていき、刀身が露わになった。
すると次第に、白銀の刀身が金色に輝きだした。
今なら、分かる。
これが、本来の天佑神助の光り。
限界突破を得たことで、懐剣は真の力を宿すことが出来たんだ。
女の子のフィギュアが指し示した場所へ着くと、色が変わらない真っ白なランタナが有った。
「ごめんね」
そう言って真っ白なランタナを切り裂くと、空間に切れ目が入った。
その瞬間、色のある空間の切れ目に吸い込まれた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。