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「次は、あたいの番だぞ!」
邪神の顔つきが、僅かに変わった。
「くふ、ふふ……良い具合に、暖まって来たのに仕方ないんだな。又途中で、あたしに変われよ」
又、変わった。
今まで気づきませんでしたが、もしかすると邪神は多重人格なのかもしれません。
私は背中に浮遊する、氷刃、火刃、風刃、地刃、雷刃、霧刃、陽刃、時刃、天刃それぞれ千本の剣を集約し、強靱で強固な一本の小さな刃へそれぞれを変えた。
今背中に浮遊するのは、大通連と小通連と顕明連の他に、氷刃、火刃、風刃、地刃、雷刃、霧刃、陽刃、時刃、天刃それぞれ一本ずつの剣です。
これなら、薺君と同時に仕掛けても邪魔にはならない。
私は薺君の側へ行くと、懐剣を構えた。
「姫、邪神の構えが変わりました。切り上げが、得意な方かもしれません」
薺君も戦っていて、途中で邪神の中身が変わった事に気づいたそうです。
ですが常に手加減をされているため、大きな違いが分からないそうです。
身構えて邪神の動きを見ていると、急に邪神が消えた。
「ガハッ!」
次の瞬間、薺君の腹部に邪神の刀の柄がめり込み、蹴られて吹き飛ばされた。
「薺君!」
駆け寄ろうとすると、邪神に行く手を遮られた。
薺君のHPを見ると、20万近く減っていました。
ですが、石楠花達に任せるほか有りません。
「くふ、ふふふ。お嬢ちゃんは、あたいがレクチャーしてあげるんだな」
そう言って、邪神が刀の背をこちらに向けてきた。
……邪神の目的が、分からない。
一体、何がしたいの?
ですが、考えている暇は有りません。
瞬時に邪神が現れたと思うと、攻撃を仕掛けてきた。
「クッ! 【霧禍の幻夢!】」
霧剣で私の幻を作りだし、幻を攻撃されている間に、邪神を切ろうとすると、またも邪神が消えた。
まさか時を止めて、止まった時の中を動いているの?
もしくは……
「常闇を照らし、青天白日の下に晒せ! 【聖なる陽光!】」
光りの陽剣で周りを照らすと、目の前に邪神が現れた。
そして二刀で、私の剣を次々と振り払うと、息がかかりそうに成る程近づかれた。
しまった。
この勢いで攻撃されると、致命傷になる。
「神雷瞬歩!」
そう思った次の瞬間、白銀の木刀と脇差しが私と邪神の間に入った。
そして、薺君の背中が私を守った。
「やらせるか!」
すると、邪神が笑みをこぼした。
「くふ、ふふ。良いね、良いねー。君の、思いを見せてくれるんだな! なら、しっかり味わえ! 【拒絶の赤!】」
そう言って、邪神は二つの刀を振り下ろした。
次の瞬間、今まで感じた事の無い赤い衝撃が全身に襲いかかってきた。
一瞬の痛みが有ったと思うと、全身が麻痺したような感覚に陥った。
これって、危機的な痛みによる防衛本能。
自分のHPを見ると、1で止まっていた。
嘘でしょ? あれだけ有った私のHPが、一瞬で?
いえ、それより薺君は?
薺君を見ると、深紅の焔が全身を包み込んでいた。
刹那、深紅の焔を纏う不死鳥が邪神に放たれた。
同時に、薺君のHPが最大値まで回復し、MPも最大値まで回復した。
「姫、大丈夫ですか?」
すると、薺君の手から放たれた暖かな焔が、私の身体を優しく包み込み、HPとMPを全快させた。
これが生と死を司る、不死鳥の焔。
「はい。ありがとうございます」
薺君にお礼を伝えていると、不死鳥の焔に焼かれていた邪神が刀を振り上げた。
次の瞬間、不死鳥と深紅の焔が消し飛んだ。
「くふ、ふふふ。少し、驚いたんだぞ。君は、その子を守り切ったんだな」
邪神が不敵な笑みを浮かべると、薺君が邪神を睨んだ。
「当然だ!」
すると、薺君が纏っていた深紅の焔が金色に輝いた。
「くふ、ふふふ。成る程、不死鳥が君の思いに応えたんだね。……良いよ、良いよ、その調子。だけど、まだ思いが足りないんだね」
「何?」
薺君が木刀と脇差しを構えると、邪神が手を翳した。
「【拒絶の黒!】」
次の瞬間、薺君が黒い檻に閉じ込められた。
「姫!」
「薺君!」
手を伸ばして近づこうとした瞬間、黒い檻に手を弾かれた。
すると、薺君が黒い檻に連続技を放ちだした。
「……ハァァァァァァ! 【天衣無縫 神火の不知火!】」
その凄まじい連続秘技を、何度も放っていましたが、檻は一切微動もしなかった。
すると、邪神が薺君を指さした。
「君は、そこで見てるんだね」
そして私を見ると、不敵に笑った。
「くふ、ふふふ。次は、お嬢ちゃんの番なんだね」
次の瞬間、私の背後に浮遊させていた氷刃、火刃、風刃、地刃、雷刃の剣を邪神が破壊した。
そして背後に回られると、耳元に顔を寄せられた。
「お嬢ちゃんは、武器に頼りすぎて判断が遅いんだな。ヒントを、一つ教えてあげるんだな。あたいの様に力を取り込み、自身の能力とするには、強い思いが必要なんだぞ」
私は背を低くして翻ると、邪神から距離を取った。
「私にも、強い思いは有ります! 皆を、守りたいと言う思いが!」
そして懐剣を前にして思いを伝えると、邪神が笑い出した。
「くふ、ふふふふふ。そこが、違うんだな。それは、第二の思いなんだな」
皆を守りたい事が、第二の思い?
この邪神、一体何が言いたいの?
そう思っていると、急に邪神の雰囲気が変り始めた。
「お嬢ちゃんには……口が軽すぎです。少し、引っ込んでなさい!」
そう言って、持っていた刀を二つとも鞘に収めた。
「仕方が、ありませんわね。私が、暫くお相手致しましょう」
この人、本当に邪神なの?
先ほどの人格より、邪悪な心が感じられない。
そう思っていると、懐から異形の面を取り出した。
「うふふ。この力を使うのは、久しぶりです。出来る限り手加減致しますが、本気にならないと貴女死にますよ」
邪神がその面を被った瞬間、殺気が辺り一面に広がった。
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