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「撫子さん、オーバーロード倒す事出来たんどすな」
そう言って、桜が笑みを浮かべた。
「……はい。ですが、私達が倒したのではありません」
どうして桜は、あの存在に気づかないの?
もしかして、殺気がないから?
そういえば、薺君も私が伝えるまで気づかなかった。
デビル エッグから生まれた物は、一体何?
「それと、残念なお知らせです。オーバーロードの代わりに、今度はデビル エッグから何かが生まれました」
「デビル エッグ?」
あれっ? 桜が、聞き返した。
桜なら、神眼鑑定で看破していると思ったのに。
もしかして、私にしか見えていないの?
いや、そんなことは有りません。
なぜなら、ブルーローズは気づいていたからです。
「はい」
桜に説明すると、顎に手をやった。
私の言葉が、信じられないのでしょうか?
「何や、うち嫌な事思い出してもうたのん」
えっ? 思い出した? 一体、何を?
今は、少しでも情報が欲しい。
「桜、何か知っているのですか? もし良ければ、教えて下さい」
手を組んで見つめると、桜が頷いた。
「伝えといた方が、良さそうどすな」
そう言って、消滅したオーバーロードが居た場所を見つめた。
今そこは残骸の代わりに、巨大なデコレーションケーキが聳え立っています。
「……闇の卵より生まれ出た悪魔は、魔王を吸収し邪神となりてこの世を滅ぼした。これは曽て、別次元の世界で有った話どす。隕石を神眼鑑定しても、その卵か分かりゃしまへんでしたけど、一難去ってまた一難……もう、訳わからへんどすな。まるで何かに、手の平で良いように転がされとるようやわ……」
桜と話しをしていると、薺君が桜の側に来た。
「桜、ごめんね。小桜の事……」
すると、桜が首を横に振った。
そして自分の手の平に息を吹き付けると、撫子色の細かな光りが集まりだした。
その光りを薺君の胸ポケットに入れると、輝きが収まり膨らみが出来た。
「……小桜?」
薺君が声をかけると、ポケットがモゾモゾ動き出した。
そして、ポケットの縁に小さな手がかかると可愛らしい狐耳がひょっこり顔を出した。
「ふぁぁぁー。……薺さん、おはようさんどすぅ」
涙目で欠伸をすると、小桜が可愛らしい笑顔で薺君を見上げた。
「小桜、おはよ。無事、だったんだね」
すると、薺君が小桜の頭を指で撫でて笑顔を向けた。
「うち、お姉様の分身やさかい平気どすぅ。そやけど、薺さん。心配してくれて、おおきにぃ」
そんな二人の様子を見た桜が、頬を染めて私の腕に手を回してきた。
どうやら、桜も嬉しかったようです。
そんな心温まる一時を、割って入る事態が起きた。
巨大なデコレーションケーキが、真っ二つになったのです。
「くふ、ふふふ」
ケーキが二つに分かれると、中から不気味に笑う紫髪の女性が現れた。
もしかして、あれが邪神?
神眼鑑定すると、完全に阻害された。
今までのように、一部さえも情報を確認することは出来なかった。
こんな事が出来るのは、神に匹敵する存在。
つまり、桜が言っていた邪神そのもの。
すると、邪神がケーキのクリームを手に取って舐めた。
「くふ。なかなか、美味なのだね」
……喋った。
人の言葉が、話せるの?
なら、どうにか話し合いで解決出来ないかな?
そう考えていると、石楠花が瞬間移動してきた。
「あ奴は、一体何じゃ?」
「恐らく、邪神かと」
「……じゃから、わしのテリトリーが効いておらぬのか。……また、厄介な相手が現れたのぉ。撫子、もうテリトリーの操作は必要無かろう。わしと融合するか、桜とするかじゃ」
石楠花がそう言ってくると、桜が私の腕を引いた。
「石楠花さん、テリトリー操作継続、お頼申します」
「ん? 桜、何か策が有るのか?」
「テリトリー、うちらに影響しはるやろ?」
「成る程のぉ。逆手に、取るのか。うむ。わしに、任せるのじゃ」
すると、石楠花と式神に加え雪狼までもが姿を消した。
「えっ?」
急に消えた皆を心配していると、姿を現した。
『「心配するな。わしらはここにおる」』
そして『耳元』で石楠花の声が聞こえたと思うと、再び姿を消した。
気配だけで無く、触れる事すら出来ない。
「イベリスの、虚空の猫足?」
『「似ているが、少し違うのぉ。説明するのが、ちと面倒じゃから簡単にじゃ。テリトリーにおけるルールで、わしらはこの世界に居るようで、この世界には存在しておらん。じゃが、わしらは撫子達と会話する事が出来る。それにのぉ、こちらから相手に対し一方的に攻撃ができ、撫子達の支援ができるのじゃ。勿論、相手からの攻撃は、わしらに一切当たらんから安心するが良い。ただ、テリトリーの影響を受けぬ相手に、わしらの攻撃が通るか不明じゃ。恐らく、撫子達の支援しか出来ぬじゃろう」』
「皆に、被害が出ないので有れば安心です。石楠花、ありがとうございます」
『「うむ。薺、桜、撫子を頼んだぞ」』
「はい」
「……承知しておます」
薺君が石楠花に返事を返すと、桜が少し返事を遅らせた。
すると、石楠花が再び現れた。
『「カッカッカ! 桜、心配性ですまんのぉ」』
そして謝ると、桜が頬を朱色にした。
「うちかて、同じ状況なら同じ事言ったどす」
すると、石楠花が自分の懐を触りだした。
『「おおー、そうじゃった。天狗酒を、振る舞っておらんかったのぉ」』
そして天狗酒の瓶を取り出すと、桜が涎を垂らした。
「……ジュルリ。ハッ!」
桜が涎を垂らした事に気がつくと、石楠花が笑った。
『「カッカッカ! 桜も、いける口か」』
二人の様子を見ていると、町内会のお酒の席を思い出した。
近所のお爺ちゃん達も、ああいう顔してたな。
私は勿論、ジュースでしたけどね。
先ほどから邪神の様子を見ていたのですが、なぜかケーキを食べながら寛いでいた。
邪神の心境は分かりませんが、私達の事を脅威とは思っていないのかもしれません。
皆の事を石楠花に任せると、私は桜の方を向いた。
すると、頬を朱色に染め天狗酒を飲んでいた。
「桜、融合良いですか?」
「天狗酒、ほんに美味しおすなぁー。うち、気分えーしぃー。撫子さん、いつでもかまへんよぉー」
桜、こんなに飲んで大丈夫かな?
少し不安が有りましたが、桜と融合することにした。
「怪力乱神融合!」
桜と融合した瞬間、甘美な味が口いっぱいに広がり身体中に力が湧いてきた。
……何、これ?
いつもと、明らかに違う。
これが、天狗酒の力?
すると薺君の身体に撫子色のオーラが現れ、直ぐに消えた。
今の、目の錯覚?
そう思っていると、薺君が驚いていた。
「凄い。僕の能力まで上がった……」
その言葉を聞いて、HPとMPを確認すると桁の多さに驚いた。
HPが232667640でMPが245085820……これって、私酔ってるのかな?
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LV99
三明の剣:大通連 小通連 顕明連 所持
(鬼神化)
撫子 HP 232667640/232667640 MP 245085820/245085820
(怪力乱神融合:稲成時神Ⅰ)
時神の眷属
(鬼神化)
小桜 HP 1163330/1163330 MP 1225420/1225420
(恩恵Ⅰ:絆の狐憑きリスク消去)
(恩恵Ⅱ:一時能力時間二倍・再発動時間短縮)
LV99
薺 HP 2716/2716 MP 884/884
(恩恵Ⅰ:初志貫徹一騎当千LV1 常時発動能力二倍)
(恩恵Ⅱ:一時能力時間二倍・再発動時間短縮)
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目を擦ってみましたが、変わりませんでした。
ここまで能力が上がっているなら、負ける気がしません。
ですが、話せるなら交渉してみたいと思います。
薺君と一緒に結界の穴に飛び込むと、邪神が腕を組んで待っていた。
「くふ、ふふふ。準備が、出来たようなんだね」
「待ってくれて、ありがとうございます。もし良ければ、話し合いで解決出来ませんか?」
「くふ、ふふふ。それは、無理なんだね。ケーキは美味いが、そろそろ刺激が欲しいと思っていた所なんだね」
……やっぱり、駄目か。
武器を構えると、私は薺君と共に邪神に向かって駆け出した。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一日置きの更新とさせて頂きます。
不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。