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自宅を出てマンションへ向かっていると、ハイヒールで歩く音が後ろの方から聞こえてきた。
まさかと思い振り返ると、曲がり角で向日葵のハイヒールが見えた。
「お使い様だ」
私は足に意識を集中し一気に角まで来たのですが、次の角に向日葵のハイヒールが見えた。
一瞬とも思える早さで曲がり角まで来たのに、追いつかない何て。
間違いなく、お使い様しか考えられません。
ですが、何度追いかけても曲がり角にハイヒールの踵辺りが見えるだけ。
それに、これだけ走れば必ずどこかで人と出会うはず。
恐らく、お使い様が人払いをされているのでしょう。
そして気がつくと、公園の入口にいた。
ですが、夕方ではないのです。
不思議に思いつつも公園の中に入ると、薺君が遊具に一人腰掛けていた。
私は声をかけて近づいたのですが、薺君が私に気づいてくれません。
ですが、薺君が手にしていた物を見て私は気づいた。
「向日葵のメッセージカードと、スプーン……」
これは、五年前の過去なのでしょうか?
薺君をよく見ると、幼く見えます。
もしこれがお使い様の意思で有るのでしたら、向日葵のメッセージカードを私が見る必要が有ると言う事です。
薺君が手にするメッセージカードを緊張の面持ちで確認すると、こう記されていたのです「君が一番大切に思う人を、姫として守りなさい」と……。
そして記されていたお使い様のお言葉を確認した瞬間、私は夕方の公園のベンチに座り、ラミネートされたカードを手にしていた。
そのカードを見てみると、こう記されていたのです「撫子ちゃんは、僕が絶対に守る」と……。
私はカードを大切にしまい、マンションへ帰ることにした。
マンションのエレベーターに乗っていると、着信が入りました。
ママからにしては、少し早いかなと思いスマホを見てみるとお手伝いさんからでした。
(撫子お嬢様、クッキーはいつ頃に渡されるのですか?)既読。
そう言えば、いつ頃渡すかをお伝えしていませんでした。
人生経験豊富なお手伝いさん達でしたら、良い日をきっと教えて頂けると思います。
(渡すのは、いつ頃が宜しいでしょうか?)送信。
(撫子お嬢様次第ですが、特別な日でも御座いませんので、明日にでもお渡しされるのが宜しいかと存じます)既読。
公園でいつの間にか持っていたラミネートされたカードの件も有りますし、早めに渡す方が良いのは分かっています。
ですが、このカードをどのようにすれば良いのか迷っているのです。
恐らくこのカードは、薺君が落とした物だと思われます。
なぜならお使い様があのような過去の事を私に見せて、このカードの持ち主が薺君以外に考えられなかったからです。
ただ、どのような顔をして渡したら良いか分からないのです。
(ですが、心の準備が……)送信。
(そんな事を考えていると、渡しそびれますよ。それに私共は旦那様の夕食の後、クッキーの下準備に入りました。お嬢様も、今日作られた方が宜しいかと存じます)既読。
お手伝いさん達、クッキーの下準備に入るのが早すぎます。
私なんて、まだエレベーターの中なのに……。
ですが、お仕事の合間に作って頂いているので私には感謝の言葉しかありません。
(早々に準備して頂き、いつもありがとう御座います)送信。
(私共は、お嬢様の喜んだ顔が見られるだけで嬉しいのです。いつでも、困った事が御座いましたら何なりと仰って下さい)既読。
(感謝、致します。私も、本日作りますね)送信。
私はエレベーターを降りてマンションの部屋に入ると、早速下準備を始めました。
ネコさんの型抜きに合わせて、爪楊枝を使って湯煎したチョコでオーブンシートにネコさんの顔を描いていき冷蔵庫で冷やします。
冷やしている間にクッキーの生地を作り、冷やしていたネコさんの顔を描いたシートを取り出し、下敷きにして生地を置いて麺棒で軽く転がし、再び冷蔵庫で冷やしてから再び取り出しゆっくりシートを剥がします。
するとネコさんの顔が描かれた生地が出来るので、ネコさんの型抜きでくり抜いていきます。
後はオーブンで焼けば、ネコさんクッキーの完成です。
綺麗に出来たネコさんクッキー達を透明袋に入れてリボンを付けると、薺君の分、花ちゃんの分とに分けました。
そして可愛いネコさんの紙袋には花ちゃんのクッキーを入れた透明袋を入れ、綺麗な紙袋には薺君のクッキーを入れた透明袋を入れました。
後はお姉さんの分もと思ったのですが、材料が無かったのでお手伝いさんが作ってくれた分を渡そうと思います。
後は薺君の綺麗な紙袋に、ラミネートされたカードをどのようにして入れるかです。
悩んでいると、お姉さんから着信が有りました。
この着信音は、電話です。
「夜遅くに、堪忍なー。聞きたい事が有るんやけど、ええかな?」
「はい、良いですよ」
お姉さんの話を聞いていると、銭湯から機嫌良く帰っている時に街灯の点いた公園で男の子が一人捜し物をしていたそうです。
必死になって探していたので、お姉さんも一緒になって探してあげたそうです。
ですが捜し物は見つからず、お姉さんがもう少し探すので男の子へは帰るよう伝えたそうです。
そして男の子が帰った後、お姉さんは一人で街灯が点る中、男の子の落とし物を捜していたそうです。
その時に、ふと公園で私が隠れていた事を思い出したそうです。
ですので、私に何か知らないかと連絡してきたという訳です。
私はお姉さんに落とし物を拾った事と、内容を伝えるのは恥ずかかったですが、カードの内容を伝え、薺君に私が内容を見た事を知られず渡すには、どうしたら良いか尋ねました。
するとお姉さんが見つけた事にするので、明日学校へ行く前にお姉さんの自宅に寄るよう言われたのです。
お姉さんへお礼を伝え電話を切ると、早朝にクッキーの袋を一つだけ頂いていく旨をお手伝いさんへ送信してから休む事にした。
※ ◇ ※
朝早く起きると、ネコさんが描かれた便箋せんに「薺君、いつも助けてくれて有り難う。体育の授業の時も、助かりました。昨日クッキーを焼いたので、良かったら食べて下さい。撫子」と書いてクッキーが入っている紙袋に入れました。
そしてシャワーを浴びて学校へ行く準備をし、二人のクッキーの袋と薺君のカードを鞄に入れ、向日葵の下着を着て自宅へ向かいました。
自宅へ向かって歩いていると、お姉さんが自宅から出てきて新聞受けに新聞を取りに行っている所でした。
そして、大きな欠伸をすると私に気がついた様です。
「撫子ちゃん、おはようさん」
まだ眠そうですが、もしかしてお姉さんは昨日の件で私を待っていてくれたのでしょうか?
もしそうでしたら、申し訳ないです。
「お姉さん、おはようございます」
お姉さんへのお礼のクッキーもまだ自宅へ取りに行けていませんが、取りあえず私は挨拶をする事にしました。
私が挨拶をすると、お姉さんは「ちょっと、待っといてな」と言って自宅に入って綺麗なデパートの手提げ紙袋を持って帰って来ました。
「今から、先生家向かうんやろ。わざわざ戻ってくるの悪い思うて、封筒用意しといたんや」
やっぱりお姉さんは、私の為に朝早くから待っていてくれたようです。
「こんな朝早くに、済みません」
「いや、ちゃうねん。うちの子らがな、新聞屋来よる時間に起こしに来るんや。ほんで、この時間に毎日起きてしまうんや。やから、昨日の件で起きたんちゃうで」
お姉さんはそう言うと、手提げ紙袋の中に有った封筒の裏と中を私に見せてきた。
「うちが封書の裏に(春野君の、落としもん拾たで)って書いたさかい。ほんで中の封書にな(うち、撫子ちゃんと知り合いやねんけど、撫子ちゃんには内容知らせとらんさかい大丈夫やで)ってメモ入れといわ。撫子ちゃんは、知り合いのお姉さんに手提げ袋渡すよう頼まれたって言っといたらええねん」
お姉さんは私と薺君の事を考えて、色々と用意してくれたようです。
私は鞄から薺君のカードを取り出すと、お姉さんが見せてほしいと言ってきました。
恥ずかしかったですが、内容は既に知られています。
ですので、見せる事にしました。
「春野君って、ええ子やな。うち、何かキュンキュンしてきたわ」
お姉さんはカードを封筒に入れると、封をしました。
封をしたことで、私が見ていないと示したのでしょう。
そして、手提げ紙袋に封筒を入れると私に渡してきました。
「お姉さん、お気遣いありがとうございます」
お礼を伝えると、自宅へ向かうことにした。
お姉さんへ渡すクッキーは、学校の帰りにでも渡そうと思います。
※ ◇ ※
自宅の玄関前に着くと、お手伝いさんの一人がクッキーを入れた小さな袋を五つ持って待っていた。
一つと伝えていたのですが、少しばかり多いようです。
ですがよく見ると付箋が付いており、父母弟と予備と書いてあった。
そう言えば昨日は、薺君と花ちゃんへ渡すクッキーと薺君のカードの事で頭がいっぱいでした。
ここまで考えてくれているなんて、流石私の事を長年気遣いお世話して頂いているお手伝いさん達です。
それと、クッキーが入っている袋もお手伝いさん達の手作りのようです。
手作りの袋は光沢がある白い厚紙で出来ており、赤いリボンが付いていました。
その赤いリボンの真ん中には金の糸で繋がっているハートのタグが付いており、タグには「感謝の気持ちです。撫子」と印刷されていました。
……ちょっとした気持ちのプレゼントでしたのに、クオリティー高すぎです。
まるで、店に並んでいるプレゼント用のお菓子だと思いました。
ですが、ここまで考えて作って頂いたお手伝いさんには感謝の言葉しかありません。
「ありがとうございます」
私はお礼を言ってクッキーの袋を受け取ると、付箋を外しました。
するとお手伝いさんは、笑顔で玄関の扉を開けてくれた。
私が玄関で靴を揃えていると、足音がして後ろから抱きつかれました。
「撫子ちゃん、おはよ。ママ、寂しかったわ」
そう思って、毎日会いに帰っているのですが、まだ足りないようです。
「お母様、お早うございます」
挨拶をすると、ママが私の匂いを嗅ぎ出しました。
「クンクンクン。撫子ちゃんから、甘く良い匂いがするわ」
そして、私が手に持っている袋を見て何か気づいたようです。
「もしかして、ママに?」
お手伝いさんはこうなる事を予想して、玄関の前で私を待ってくれていたようです。
そう言えば、バレンタインデーの時もそうでした。
私が作った物や人にプレゼントしようとする物は、もう一つ用意しないとママへのプレゼントに変わるのです。
「ママ、いつもありがと」
私はそう言って、ママにクッキーの袋を一つ渡しました。
すると、ママが顔を寄せてきた。
「撫子ちゃん、ママ嬉しいわ。ありがと」
暫く抱きついていたママは、私の頬にキスをすると、笑みを浮かべて寝室の中へ入っていきました。
恐らく、一番に先に貰えたと言ってお父様へ自慢しに行ったのだと思います。
私は食卓に着くと、お父様の席と弟の席にクッキーの袋を置き、食事を済ませ学校へ行くことにした。
ですが、学校へ行くにはまだ時間的に早すぎるので、クッキーを持ってお姉さんの自宅へ再び行く事にした。
鞄にお手伝いさんから頂いたクッキーの袋をしまい、お姉さんの自宅へ向かっていると、学校とは逆方向へ向かう薺君を見かけた。
もしかすると、カードを探しに公園へ向かっているのかもしれません。
私は、薺君に声をかけることにしました。
「薺君、おはようございます」
「ひっ、姫……おっ、おはようございます」
私が笑顔で挨拶をすると、薺君も挨拶をしてくれました。
ですが、急に頬と耳が真っ赤になったかと思うと目線をそらされました。
最近、薺君のこの行動が多いのです。
昨日までは嫌われているかと少し不安でしたが、カードを見た事で薺君に嫌われていないと感じました。
ですが、カードを渡す切っ掛けをどうしようか迷います。
お姉さんの言葉をそのまま言っても良いのですが、なぜか言い出しにくい雰囲気でもあります。
こんな時は、少し歩いてから自然に話そうと思う。
暫く一緒に歩いていると、渡すための切っ掛けを私は思いつきました。
「昨日、お世話になったお姉さんや皆の為にクッキーを焼いたの」
「そっ、そうなのですね姫」
薺君は私の顔を見ると、なぜ吃るのでしょう?
それに、以前と同じように撫子ちゃんと呼んでくれても良いですのに……お使い様の、メッセージカードに従っているのですね。
「先ほど学校へ行く前にお姉さんの自宅に寄ったのですが、クッキーの袋を忘れていたの。ですので、自宅へ取りに行っていたのです」
「そっ、そうですか」
一緒に歩いていると、公園が見えてきました。
早く伝えないと、薺君が公園に行ってしまいます。
「そう言えばお姉さんから、薺君に言付けを頼まれていた物が有りました」
私は、さり気なく言えたでしょうか?
ですが早く渡さないと、公園を気にしだした薺君が公園に入ってしまいます。
「ぼっ、僕にですか?」
「はい。……学校で渡そうかと考えていたので、鞄に入れてあります。ですので、少し待って下さいね」
「はっ、はい」
鞄からお姉さんの手提げ袋を取り出すと、私が作った方のクッキーの袋を取り出して一緒に入れました。
「これが、お姉さんから薺君へ渡すよう言付けされた手提げ袋です。それと、私が焼いたクッキーも入れておきます。良かったら、食べて下さいね。他の方々のクッキーは、心配には及びません。お昼休みに、お手伝いさん達が持ってきて頂けるそうです」
思っていたよりも恥ずかしかったので、さり気ない言葉で伝えられませんでしたが、渡すことは出来ました。
薺君へ手提げ袋を渡すと、袋の中を覗いていました。
そして驚いたように、目を見開いていました。
どうやら、お姉さんの封筒に書いてある文字を読んだようです。
封筒を取り出すと、自分の鞄に急ぐように入れていました。
「姫、ありがとうございます」
そして私が焼いたクッキーの入れてある紙袋を見ると、鞄の中身をお姉さんから頂いた手提げ袋に入れて、私が焼いたクッキーの紙袋を丁寧に入れました。
クッキーが割れないよう、気を遣ったようです。
「姫、おばさんの家までお送りするつもりでしたが、急用を思い出しました。お手数かと思いますが、おばさんによろしくお伝え下さい」
薺君が何度も何度もおばさんと言っていますが、お姉さんに叱られなかったのでしょうか?
少し気になりますが、初めて出会った男の子に対しては怒らないのかもしれません。
「はい、ではお姉さんにお伝えしておきますね」
ですが今後の事もあるので、お姉さんと強調して伝えました。
薺君が、はっ! っとした顔をしたので、もしかするとお姉さんと一緒にカードを探している時にも、何度か注意されたのかもしれません。
私は薺君と別れると、お姉さんにクッキーを届けた後に学校へ行く事にしました。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




