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【石楠花SIDE】
一方石楠花は、桜の結界まであと少しの所まで来ていた。
ミステリアス ワールド テリトリーに予想以上の体力と魔力を消費したため、四神を呼び戻し白虎に跨がって歩いている所で有った。
「ふぅー……」
わしと羽団扇の能力を高めたが、流石に疲れたわい。
まあ、数百年の時をかけて天が作りだした社じゃから仕方あるまい。
この空間は全て自然の摂理を逸脱し、天を主とした数えきれぬ妖狐達の力で出来ておる。
一から構成を変えるには、五の陣を形成しても体力と魔力をごっそり半分持って行かれたわい。
魔力を戻すために休んでいると、白虎が横を向いた。
「私はこの姿で石楠花様をお乗せし、移動するだけで良いのですか?」
「うむ。そのまま、獣形態で頼む。このモフモフの毛が何とも心地良く、わしの心を癒し回復が早まるのじゃ」
白虎の攻撃力は青龍と同等で、式神達の中でも上位に入る。
じゃが、わしの回復のため今は乗り心地を優先する。
乗り心地で言えば、白虎は朱雀同様にフワフワで最高じゃからのぉ。
ただ、今はテリトリーのせいで獣形態の朱雀は飛べん。
じゃから人型となり、行く手を阻む魔虫共を、青龍達と共に退治してもらっておるのじゃ。
「お褒め頂き、感謝致します。存分に、ご堪能下さい」
「うむ」
白虎が前を向いたので、背中に抱きつきモフモフの毛を堪能。
ウットリして頬ずりしていると、青龍と眼が合った。
……魔虫の数も減っておるし、弱すぎて力を持て余しておるようじゃのぉ。
じゃが、今は遊んでやれん。
テリトリーの維持を、せねばならんからのぉ。
……仕方がない、少し白虎と戯れさせるか。
手招きをすると、右側を守る青龍が嬉しそうにわしの顔を覗き込んできた。
「石楠花様、何かご用ですか? この辺りは、敵影が見当たりませんね」
この辺りは、結界に近いからのぉ。
「粗方、ヘイズスターバースト達が始末したのじゃろう」
それに弱い魔虫相手なら、あやかしの軍勢でも事足りるからのぉ。
桜達の結界へ行くのに、四人を呼んだのは、ちと過剰じゃったか?
じゃがわしが倒されると、テリトリーを操れんようになるからのぉ。
過剰な位が、丁度良いのじゃ。
「暇じゃったら、青龍も白虎をモフるか? モフモフの毛が、頗る心地よいぞ」
そう言って、瞬きをした次の瞬間、青龍が消えた。
よし、上手くいったか?
顔を上げて確認すると、青龍が白虎に頭から囓られていた。
「……石楠花様、触りに行ったら噛みつかれました」
なぜ青龍は、白虎の胸元をモフりに行ったのじゃ?
あんな所をモフると、噛まれるのは当然であろうに……。
加減しておるから良いものの、青龍の行動が、ちと予想の斜め上を行きおった。
「カッカッカ!」
じゃが、愉快な奴じゃ。
笑っていると、後方を守っていた玄武がやって来た。
「青龍、そんな所を触るから噛まれるのよ」
すると、胸を気にするように触った。
玄武は、式神の中で最強の防御力を持つ防具を常に身に付けておる。
じゃから、胸が大きいのか小さいのか知らぬ。
故に、どの様に気にしておるのか分からぬのじゃ。
「玄武、白虎と朱雀を触るならここだろ? 一番、フカフカだからな」
懲りずに再び胸元を触った青龍が、今度は白虎に叩かれ吹き飛んだ。
これで青龍も、よい気分転換になったじゃろう。
フラフラしながら青龍が帰って来ると、左側を守っていた朱雀がやって来た。
「青龍は、デリカシーが有りませんからね。白虎、触るならお腹ですよね」
朱雀が白虎のお腹を触ると、白虎が振り上げた前足に青龍が直撃し吹き飛んだ。
まっ、青龍は頑丈じゃから問題は無いじゃろう。
吹き飛んだ拍子に、魔虫を巻き込んでおるし……。
「朱雀、お腹は擽ったいので止めて下さい!」
「白虎ったら、嬉しいくせに」
四神達の仲睦まじい様子に笑顔を向けていると、結界上空に黒い物が見えた。
次の瞬間、こちらに向かって飛んできた。
【撫子SIDE】
撫子達は第五の陣を守る勾陳と太陰と太裳の三人と分かれ、第二の陣を通り、第四の陣経由で薺達がいる場所へ向かっている所であった。
すると、いつの間にか獣型となり今まで何も話さなかった姫立金花が顔を出した。
しかも、何故かずっと私の胸元から隠れるように式神達の様子を窺っていたのです。
「ねえ、金花? どうして、隠れているの?」
小声で確認すると、イベリスも出てきた。
「シィー。撫子ちゃん、静かにしてほしいにゃ」
「……ええ」
小首を傾け二匹の様子を見ていると、姫立金花が深く息を吐いた。
「フゥー……イベリス、もう出てきても平気だぞ」
「ふにゃー。一時は、どうなるかと思ったにゃ」
「だな。でも、安心だぞ。六合に続いて、騰虵も第四の陣を守護しに向かったからな」
実は、チアさんの妹と合流して直ぐに、天空さんと天后さんは第一の陣と第三の陣に向い、第五の陣は勾陳さんと太陰さんと太裳さん達が残ることになりました。
この子達が隠れていた理由は、初めて見る式神達に警戒していたのですね。
ですが私と違って、この子達なら匂いで石楠花の式神だと気づいていた筈です。
不思議に思いつつ見ていると、花ちゃん達に振り回されている貴人さんの事を、二匹が見つめていることに気がついた。
「残りは、問題にゃい」
「ドジっ娘だからな」
「ドジっ娘にゃ」
……貴人さん、ごめんね。
うちの子達が、酷いことを言って。
すると、周りを警戒してくれている貴人さんがクシャミをした。
だけど、あれは仕方がないと思う。
花ちゃん達のペースに巻き込まれると、私も失敗しますし……。
そう思っていると、椿来ちゃんが射った矢が魔虫を貫通して生クリームの層に命中した。
すると、生クリームの層が辺りに弾け飛び、貴人さんと一緒に花ちゃんも頭から生クリームを被った。
「あっ! ごめんなさい」
椿来ちゃんが謝ると、花ちゃんが笑い出した。
「キャハ、ハハハ。椿来ちゃん、気にしなくて良いよ。皆、お菓子塗れだしね。貴人ちゃん、顔に生クリームついてるよ?」
「……花様もです。綺麗に致しますので、少しお待ち下さい」
「キャハ、擽ったい。貴人ちゃん、拭かなくて良いよ」
貴人さんが花ちゃんを拭いていると、今度は百合愛ちゃんと美桜ちゃんがフルーツソースを被った。
魔虫を倒したのは良いですが、飛び上がった所で倒したので、消滅と同時にフルーツケーキに変わり、ケーキが落ちてきた事でそのフルーツソースを被ったようです。
「キャッ! 百合愛ちゃん、ごめんね」
「プッ! 良いですわよ。だって、美桜ちゃんも頭の上に」
「クスッ! ですわね」
美桜ちゃんと百合愛ちゃんがお互いの顔を見て笑い合っていると、花ちゃんが貴人さんの側に近づいた。
「ほらね? 貴人ちゃん」
「はい、花様……キャッ!」
すると、花ちゃんが貴人さんの頬に付いていた生クリームを舐めた。
貴人さんは、花ちゃん達に馴染んでいるようです。
成る程、他の式神達にも親しまれていた理由が分かった気がします。
楽しそうな皆の姿を見ていると、雛菊が顔を出した。
「お姉たん、もう平気?」
雛菊も、イベリス達に言われて隠れていたのかな?
「はい」
返事をすると、雛菊が隠れていた理由を教えてくれた。
イベリスと姫立金花は、宿屋の温泉で石楠花に洗ってもらう際に逃げ回った。
そのせいで、少々荒っぽい洗い方を石楠花にされたようです。
それがトラウマで、式神達にも同じ事をされると思ったようです。
私はその時、百合愛ちゃん達に色々されてたから……。
ですが、石楠花の式神だからと言ってもねえ?
……私の服の内側が、べとべとしていた理由が分かりました。
この子達、よく見るとフルーツソースでべとべとです……。
「そうだったのね」
二匹を下に降ろすと、お互い舐め合って綺麗にしていた。
ここは温泉ではないですし、誰もがお菓子で汚れているので、神通力で洗うしか無いと思いますが……。
ですが、トラウマだと仕方がないかもしれません。
「まっ、貴人は撫子様と同じで穏やかだから心配ないけどな。ドジっ娘だし」
「凄く優しい所も、撫子ちゃんにそっくりにゃ。にゃは、ドジっ娘だしにゃ」
複雑な気持ちで二匹を見ていると、雛菊が胸元から出てきて人型に変化した。
「ピィはね、いつでもお姉たんと融合できるようにしていたの。だって、お姉たんから初めて見た子達って伝わって来たんだもん」
成る程。
雛菊は、私が式神達と面識が無かったことで、その僅かな警戒心を感じ取ったのですね。
「ありがと」
お礼を言って雛菊を撫でていると、朝熊君が隣に来た。
「姫、悪いな。色々、迷惑かけて」
「いいえ。来てくれて、ありがとうございます」
朝熊君と話していると、百合愛ちゃんが側に来た。
「撫子ちゃん、ボリュームシリコンパッドを取りましたの?」
どうやら、先ほどまで盛れるシリコンパッドを入れていると思われたようです。
「……違います」
そう言って、胸元で休んでいる可愛らしいブルーローズを見せた。
すると、百合愛ちゃんが目を輝かしてメモをとった。
「ふむふむ。可愛らしい、美ラインドールパッドも斬新で良いですわね」
ですから、百合愛ちゃん?
私、美ラインパッドも入れていませんよ?
すると、イベリスが百合愛ちゃんの足に肉球を押しつけた。
「百合愛ちゃん、パッドじゃ無くてミィ達が入っていたにゃ」
イベリスは、私のフォローを入れてくれたようです。
「ふむふむ。成る程、成る程。魅惑のキャットバストパッドも良いかもしれませんわね」
……イベリスを見て、更にイメージが湧いたようです。
すると、姫立金花がイベリスの肩を叩いた。
「イベリス、百合愛ちゃん聞いてないぞ」
「みたいだにゃ」
二匹が呆れていると、百合愛ちゃんがメモを何枚も書き出した。
「キャー! 来た来た来た! 撫子ちゃんといると、本当に下着のイメージが湧きますわ!」
「アハ、ハハ……」
苦笑いをしていると、チアさんの妹が側に来た。
「娘娘、あれは何でしょうか?」
「えっ?」
妹さんが指さす方向を見上げると、上空に黒いものが見えた。
すると、大きくなってこちらへ向かって来ているのが分かった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一日置きの更新とさせて頂きます。
不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。