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超加速飛行で近接した瞬間、クイーンの凄まじい早さに驚いた。
何て、早さ……巨体なのに、私の剣速を越えている?
ですがいくら早くても、私の感覚に捕らえきれないなんて……。
その違和感が判明しないまま、クイーンに剣を再び振るうと右に躱された。
ならば、これなら躱せないはず。
「【飛翔龍穴!】」
飛翔龍穴は、龍穴の空間を繋げ瞬時に移動するブルーローズの水の龍穴を改良したもの。
改良したことで、そこから出て来る速度と攻撃速度が、水の龍穴を遥かに上回っている。
この能力を使用し、金清水を纏った懐剣でクイーンを切り裂く!
「シュッ! ……エッ?」
剣を振り切った瞬間、クイーンが消えた。
そんな……これは、躱せないと思ったのに。
そして、私が剣を振り切った先の地面が切り刻まれ爆風が起きた。
ここで、クイーンのおかしな点に気がついた。
音速を超える速度で剣を振るえば、衝撃波が起きる。
私より遥かに巨大なクイーンが、剣より早く動けるならば、周りを巻き込む程の爆風と衝撃波が起こるのは当然。
しかし、クイーンにはそれがない。
もしかして、私のように能力で瞬間移動しているの?
ですが何も無い所に、巨大なクイーンが現れれば、空気を押しのけた衝撃の風が起きてもおかしくはない。
一体、どういう移動方法なの?
このまま躱され続けられたら、融合を解かなければならなくなる。
だけど、移動のカラクリが分からない以上、私の攻撃が当たらない。
下着で視力を強化し、空間認識の能力を高めていても、クイーンを捕らえられないなんて……。
異界スキルで、移動しているの?
もしそうなら、神眼鑑定でも鑑定不可能。
ですがきっと、どこかに何らかの手がかりが有るはずです。
「キャー!」
そう思っていると、背中に強烈な衝撃が走った。
【朝熊SIDE】
「花、何を見つけたんだ?」
スマホに向かって話しかけると、花の顔がスマホの画面に映った。
『「ちょー大っきくて、赤黒いの」』
「そうか……」
……花、顔で表現されても説明が雑すぎてよく分からん。
だが、赤黒い物体は魔虫共を集める原因の可能性が高い。
この陣を守る為に、破壊しておいた方が良いだろう。
あれだけ矢を放って、破壊出来ない所を見ると……式神を、向かわせた方が良いか?
いや、ここの守りが薄くなる。
かと言って、花しか届く距離では無いだろう。
考えていると、笑い声が聞こえてきた。
「キャハハハ!」
そして、その笑い声がどんどん近づいてきた。
……やっぱり、花か。
「貴人ちゃん、暇だから朝熊君のところに行くよー。ほら、ついてきてねー」
「花様、お待ち下さい!」
その笑い声に続いて、貴人の慌てる声。
やはり、あの場所に花を留まらせることは無理だったか。
器用に走りながら魔虫を倒しているが、行く手には魔幼虫もいるぞ。
「来い、魔虫共! 【サークル アロウズ ハスティラティ!】」
花の行く手を阻む魔虫共を引いていくと、天空と勾陳に加えて、太陰と太裳が魔虫共を倒していった。
すると、天空が俺の側に来た。
「朝熊様は、花様にお優しいですね」
「いや、天空あれ見てくれよ! 流石に、ほっとくと不味いだろ!」
俺が指さす方向には、椿来が数多くの魔虫共を引き連れていた。
すると、天空が先ほど引いた魔虫共に突進していった。
「花ちゃん、そっち行くと危ないよ! ……もぉー! 花ちゃんは、じっとしてないんだから……天后ちゃん」
「えっ? 椿来様、持ち場を離れると困ります。あっ! 椿来様、お待ち下さい」
花に続いて、椿来も来たか……。
「来い、魔虫共! 【サークル アロウズ ハスティラティ!】」
椿来の行く手を阻む魔虫共を引いていくと、勾陳が側に来た。
「……確かに、忙しくなりそうですね」
「だろ?」
すると、美桜も数多くの魔虫共を引き連れて来た。
「あれー、面白そうね! 六合ちゃん、私達も行くわよ!」
「美桜様まで……。あっ、お待ちください!」
まっ、花と椿来が来たら美桜も来るわな……。
「来い、魔虫共! 【サークル アロウズ ハスティラティ!】」
美桜の行く手を阻む魔虫共を引いていくと、太陰も側に来た。
「朝熊様、楽しそうです」
「そうか? だが、今のうちに引いておかないとヤバイ。……勾陳、太陰、二人とも悪いな」
「「いえ、お気になさらないで下さい」」
すると、百合愛が更なる魔虫の群れを引き連れてやって来た。
「騰虵ちゃん、太陰ちゃんと太裳ちゃんの下着も気になるわ。私達も、行くわよ!」
「はい、百合愛様」
百合愛だけ別の事に興味が有るようだが、やはりこのメンバーは、式神でも止められなかったか。
って言うか、騰虵はなんで百合愛に同調しているんだ!
だが、流石にあれを一気に引くと不味い。
すると、太裳が側に来た。
「朝熊様、問題は有りません」
「そうか? なら、まとめて来やがれ! 【サークル アロウズ ハスティラティ!】」
百合愛が引いている魔虫の群れを全て引くと、太裳が舞を舞いだした。
「春夏秋冬、憂い無し! 【四時の恵み!】」
そして舞い終わると、式神達がオーラを纏い始めた。
どうやら、式神達の能力を向上させるスキルを発動させたようだ。
式神達がオーラを纏うと、数秒もかからずに魔虫の群れを全て倒した。
倒し終えると、花達が来たので赤黒い物体をどうするか話し合った。
すると花を筆頭に、椿来、美桜、百合愛が同時に天狗弓を射る事となった。
どうやら同調と言うスキルが有るらしく、二人以上で同時に弓を射ると、矢同士が同調し、飛距離が数倍になり能力も同調するようだ。
その為、弱点必中、速度低下、吹き飛ばしなどが同調し、強力な矢になるそうだ。
「花、本当に赤黒い物体を破壊出来るか?」
「うーん。分かんない。だけど、やってみるよー」
「そうか。なら、俺が花達を守る。式神達は、五の陣を守ってくれ!」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
こうして俺達は五の陣を守りつつ、赤黒い物体を攻撃する事となった。
【撫子SIDE】
天八岐を纏っていたお陰でダメージは皆無でしたが、私は壁まで吹き飛ばされた。
『「お姉たん!」』
『「撫子ちゃん!」』
『「撫子様!」』
すると、雛菊たちが私の『心』を通して叫んだ。
『「大丈夫! 少し、驚いただけです」』
心を通してダメージが無いことを伝えると、私は甲冑を触った。
「天八岐、ありがとう。助かりました」
「気にするな」
天八岐を纏っていなければ、危ないところでした。
ですが、私も尻尾で一撃喰らわせた。
金清水と天八岐を纏った、龍尾の一撃。
流石に、クイーンもダメージを受けているはず。
一撃で倒さずに攻撃を与えると、進化する恐れが有りますが、手がかりを探すには仕方ありません。
『「虚空の猫足、使うにゃ」』
『「待って、イベリス」』
私は常に、強化した眼と空間認識で位置や距離感覚を確認している。
なのに、どうして攻撃されたのか?
クイーンの攻撃を、見極めなければなりません。
ですが、恐らくこの攻撃も神眼鑑定すら鑑定不可能な異界スキルによる攻撃。
見極めるのは、困難かもしれませんが……。
クイーンを見ると、クイーンだけでなく黒魔虫の一部が陥没していた。
しかも、陥没した場所が揺らいでいたのです。
再生? いえ、私が見て来た超再生と違う。
これは、明らかに別の能力。
行動を繰り返す度に、少しずつクイーンの能力が分かりだした。
「ウッ……クッ!」
又、どこからともなく攻撃された。
見えている所に、クイーンがいないのかな?
攻撃を数回受ければ、何かの手がかりが掴めると思ったのですが、何に攻撃されているかすらも分からない。
『「撫子様、金花もう見ていられないぞ!」』
『「金花、暴れると駄目にゃ! それに、ミィ達が行くと足手まといにゃ」』
『「けどよ……」』
『「お願い、金花押さえて。龍人化してるから、私は大丈夫だからね」』
姫立金花に優しく言い聞かせていると、今度は前から衝撃が来た。
「カハッ、クッ!」
息を吸い込んだときに、不意打ちの衝撃。
天八岐を纏っていても、龍人化した身体でなければ、危なかったかもしれない。
ならば、先ほどから感じている違和感の正体を突き止められる事ができれば……。
「キャー! カハッ、クッ!」
吹き飛ばされたと思うと、壁に打つかる前に再び何かに攻撃された。
ですが、下着の能力でもっと空間認識能力を研ぎ澄ませればきっと。
念の為に癒やしの光りを自分に使用し、連続してくるクイーンの攻撃を無視する。
そして、もっと空間認識能力の範囲を拡大する。
『「ふえーん」』
そうしていると、雛菊が泣きだした。
『「お姉たん、ピィも見ていられないよー」』
『「雛菊、ごめんね。もう少しで、何か分かりそうなの。お願い」』
『「……グスン。うん」』
「カハッ、クッ! キャァァァ!」
そして、かなり遠くの壁にまで吹き飛ばされた。
『「お姉たん!」』
『「撫子ちゃん!」』
『「撫子様!」』
雛菊達の悲鳴が聞こえてくる中、私は突き刺さる音を壁の中から感じ取った。
さっきから聞こえていたのは、この音?
ここだ! 間違いない!
空間認識能力、最大範囲!
そして空間認識を広げると、矢を放ったのは花ちゃん達だと分かった。
花ちゃんの矢は、弱点に突き刺さる。
つまり、この壁の中がクイーンの弱点。
矢が刺さっている位置を、特定した。
見えた!
金清水、最大解放。
クイーンに攻撃されている間、溜め続けていた金清水を懐剣と小刀に全て注ぎ込むと、剣先に龍爪の様なオーラが現れた。
それを、壁に突き刺した。
「【金清水龍爪撃!】」
その瞬間、技を使用して壁を大きく切り裂いた。
すると、巨大な赤黒い塊に無数の矢が刺さっているのが見えた。
まさか、クイーンの核と赤核が合わさった物?
ですが、矢の刺さり方が浅すぎる。
「貫け、天八岐!」
部分甲冑となっていた天八岐が、槍となり核を貫いた。
刹那、巨大な地揺れが起きた。
地揺れが治まると、核が色を失い砕け散った。
すると、クイーンと黒魔虫に見えていた物が消失し全ての壁が溶け始めた。
もしかして、この地下全てがクイーン?
違和感の正体は、これだったの?
詳細は分かりませんが、このままではクイーンの崩壊に巻き込まれてしまう。
『「虚空の猫足にゃ」』
すると、イベリスが私に能力を使用してくれた。
「ありがとう、イベリス。皆、私につかまって下さい」
上を見て指示を伝えると、雛菊達が人型から獣型へと変化した。
皆が胸元に入った事を確認すると、両手から多量の金清水を放った。
クイーンの核と赤核が消滅した事は分かりましたが、地下を完全に浄化するためです。
「では、脱出します!」
「うん!」
「了解だぞ!」
「了解にゃ!」
金清水を激流にして放出させると、私達はこのまま上に抜けて、地上を目指すことにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一日置きの更新とさせて頂きます。
不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。