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真っ白な物に包まれた瞬間、これが雛菊の白雪だと分かった。
次の瞬間、真っ白な雪が半透明となり周りの景色が見えた。
虚空の猫足の能力下では本来、物体や魔法などに突入した時は瞬時に半透明化する。
ですが思考加速のお陰で、一瞬齟齬が生じ何に突き進んだのかが分かるのです。
そして同時に、ブルーローズ達の状況が判断できた。
クイーンのブレスが、そこまで迫ってる。
このままでは、瘴気のブレスが濃すぎて、ブルーローズの障壁では貫通されてしまう。
並列思考と思考加速を使用し、皆へ同時に『心』で指示を出し、皆の能力を集結させなくては間に合わない。
空間認識能力をフルに使用し、それぞれの位置を特定。
そして同時に、姫立金花へ指示を出す。
『「姫立金花、イベリスと共に超加速!」』
『「了解だぞ!」』
姫立金花が私の胸元から飛び出ると、人の姿となった。
そしてイベリスを抱き寄せ、雷の能力を使用し加速しだした。
同時に、イベリスにも指示を出す。
『「イベリス、二人に虚空の猫足」』
イベリスに指示を出した所で、姫立金花の加速がいつもより遅い事に気がついた。
まだ、完全に回復しきれていないか。
これでは、間に合わない。
なら、私が超加速をすればいい。
超加速しつつ、変更の旨を伝える。
『「イベリス、訂正します! 雛菊に、虚空の猫足を使用!」』
『「撫子ちゃん、分かったにゃ!」』
姫立金花とイベリスを追い抜き、雛菊に指示を出す。
『「雛菊、後方へジャンプ!」』
『「うん!」』
超加速で雛菊を追い抜くと、ブルーローズに指示を出す。
『「ブルーローズ、融合します!」』
『「承知した!」』
再度空間認識能力で全体を確認すると、私達が融合した直後、ブレスが到達することが分かった。
ならば融合と同時に、あの瘴気を上回る力で撃ち抜けばいいだけです。
『「怪力乱神融合」』
融合した瞬間、私の能力が一気に増大した。
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LV99
撫子 HP 362946/362946 MP 358608/357108
(怪力乱神融合:水神Ⅰ)
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同時に、花ちゃん達のHPとMPが表示されていた事に気がついた。
何で、花ちゃん達が戦闘区域内に?
花ちゃん達の事が気になりますが、今は光りの力と清水の力を掛け合わせる事に集中しなくては、あのブレスを撃ち抜く事は出来ない。
光りを掛け合わせる事に集中すると、清水が銀色に輝いた。
神聖な光りを纏う、銀色の清水。
これなら、あのブレスを撃ち抜く事が出来る。
「銀清水!」
右手で銀清水を放つと、瘴気のブレスを撃ち抜きクイーンに向かって突き進んだ。
ですが、銀清水と瘴気のブレスが衝突した瞬間、僅かながら拮抗したことが分かった。
すると、クイーンが全ての歩脚に黒い瘴気と炎を集めて掛け合わせた。
掛け合わせると、クイーンの腹部に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
その瞬間、黒い瘴気を纏う巨大な火の玉が生成された。
生成が、早い。
あの魔法陣が、生成を早めているの?
刹那、瘴気の黒炎弾が放たれた。
すると黒炎弾が辺りの白雪を蒸発させながら、銀清水と衝突し打ち消し有った。
だけど、まだ天八岐がいます。
天八岐が銀清水を放つと、クイーンが凄まじい早さで躱した。
巨体なのに、何て早さで飛ぶの?
ならば、更なる光りを合わせ両手で清水を放ち早さをアップさせる。
両手を合わせると、銀色だった清水が金色に輝いた。
「金清水……!」
金清水を放つ瞬間、私はその手を止めた。
これでは、駄目。
打ち消せないとクイーンが判断した攻撃は、躱される可能性が高い。
空間認識能力と思考加速で、そう言う考えに行き着いた。
ならば近接戦闘をして、私も超加速すれば良いだけです。
そう考えていると、雛菊が『撫子お姉たん、今良ーい?』と言って『心』に話しかけて来た。
雛菊によると、クイーンの耐性が先ほどより上がっているそうです。
しかも、一撃で倒さないとクイーンは更に強くなってしまうようです。
ならば、その耐性を遥かに上回る強力な一撃でクイーンを葬り去れば良い。
金清水を最大まで凝縮させ、懐剣と天八岐に纏わせた。
すると、クイーンが後方に下がった。
そして、魔法陣から黒い瘴気を纏った魔虫を呼び出した。
つまり、懐剣と天八岐に警戒を強めたのですね。
「天八岐、クイーンを直接攻撃しに行きます!」
「心得た!」
天八岐が返事をすると、八束剣からその姿を甲冑と短刀へと変えた。
左手に短刀を持つと、甲冑が分解し、私の龍角、胸、腰、両翼、両手、両足、龍尾に着いた。
「主の今の姿は、ドラゴンに似ている。ドラゴンは、身体自体が武器だ。よって、この姿が一番望ましい」
「天八岐、ありがとう」
お礼を言って両手の剣に力を入れると、私はクイーンの元へ飛び加速した。
【朝熊SIDE】
一方、朝熊達は式神と共に第五の陣の設置場所近くまで来ていた。
おいおい、マジかよ……。
ここまで式神が、行く手を阻む魔虫共を全て倒してくれたが、流石にこの数は無理だ。
って言うか、多いなんてレベル越えてるじゃねえかよ!
しかも、何であの場所だけ異常に多い?
呼び寄せている何かが、いるのか?
だが来た以上、やるしかない。
「式神各位、行動は任せる」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
石楠花様の式神は、指示を出すより自由に行動してもらう方が得策。
俺達よりも、戦闘慣れしているからな……と言いたい所だが。
貴人だけは、注意してもらわなければならない。
なんせ、花の守護担当だからな。
「貴人は、花の行動には注意してくれ」
「朝熊様、承りました」
貴人が返事をして花の守護に向かおうすると、花が俺達より先に出ようとしていた。
全く、眼を離すといつもこうだな。
「花!」
花を呼び止めると、可愛く舌を出してこちらを向いた。
「朝熊君、何ー?」
全く、どこに行こうとしているんだ。
「これ以上、近づくなよ!」
ここから先に一歩でも踏み入れると、群れている魔虫共が一斉に襲いかかってくるはずだ。
つまり、ここから先が奴らのテリトリー。
花に先行されると、貴人に余計な戦闘を強いる事になるからな。
「えー!」
「えー、じゃねえ。貴人に、迷惑かかるだろ?」
優しく伝えると、花の顔が赤くなった。
「朝熊君、そんなに花を束縛したいのー? しかたないな、もぉー」
未だに、花の考えている事が分からない。
だからこそ、俺が守らなければ。
「……まっ、そういう事だ」
花は正確無比な攻撃が出来るので、指示は必要無い。
しかし行動を制限しないと、見失う恐れが有る。
全く、花は困った迷い猫だ。
だから、俺がいるんだけどな。
「椿来は、俺達が突っ切る道を開けてくれ。その後、魔虫共が群がらない様に調節してくれるか?」
「任せて下さい」
一撃で魔虫を倒せなかったとしても、椿来の攻撃は周りを巻き込んで、吹き飛ばす事が出来る。
群れに突っ込む時に、吹き飛ばし攻撃は頼もしいのだ。
しかも椿来は、吹き飛ばした魔虫を無防備な体勢にするのが上手い。
服を脱がす、椿来の癖が関係しているのかは分からないが……。
「天后、椿来を頼む」
「承りました」
天后が頷くと、椿来の守りについた。
「美桜は、ランダムに魔虫共を攻撃して攪乱。百合愛は、陣を設置する太陰と太裳の援護に回ってくれ」
「私に、任せて!」
ランダムと言っても、美桜は三人の中で魔虫の核を狙うのが上手い。
服の中にスルリと手を突っ込む癖が、戦闘に役に立つとは思いもしなかった。
それに、一撃で倒せなくても魔虫共の攻撃速度低下を狙えるからな。
「私は、狙った獲物は逃がさないわよ!」
百合愛は本人が言った通り、狙いをつけた獲物を逃がさない。
あの手この手で、綺麗な子の下着を見ようとする執着能力が、戦闘に役に立つとは思いもしなかった。
「六合は美桜を、騰虵は百合愛を頼む」
「「承りました」」
六合と騰虵が頷くと、美桜と百合愛の守りについた。
これで、花達は配置についた。
後は切り込みをする俺達と、陣を設置する太陰と太裳だ。
「太陰と太裳は、俺達の後方に」
「「はい」」
太陰と太裳が俺の後方についたのを確認すると、俺は能力を上げるスキルを発動することにした。
「【シールド ファイティング スピリット!】」
スキルを発動すると、驚いた。
MPの消費は50となったが、防御力を50%向上し、物理攻撃耐性・魔法防御耐性を50%向上し、盾防御力・盾防御確率・盾回避力を50%向上させ、相手を押し返す力を50%向上させる事が出来るようになっていた。
全て15%向上だったのに、大幅アップだ。
しかも、2分しか持たなかった筈なのに、20分まで伸びていたのだ。
これは、天狗化の影響か?
それとも、薺の能力が上がったお陰か?
いや、今はそれよりも他のスキルを確認した方が良い。
「【ライトニング シールド リベンジ リフレクション!】」
やはり、この能力も上がっている。
MP消費は、5から50に増えたが10分に大幅に増えた。
10秒間だけ相手の攻撃を受けた際に1/2の確率で、相手に攻撃を返し相手を強制麻痺させるスキルだったのに、MP消費を抑えることが出来るようになった。
「【ウインド シールド アクセラレーター!】」
この能力も、向上している。
MP消費量は2から20に増えたが、30秒間だけ足の速さを向上する事が出来ていた能力が20分に増えた。
しかもウインド シールド アクセラレーターを使用している状態で、薺がよく使用している瞬歩のような【ウインド ブースト】という超加速スキルが使用出来るようになった。
MPを5使用する事になるが、盾を持った状態で使用すれば、相手に強烈な一撃を与え吹き飛ばすことができるようだ。
ここまで魔虫共を倒さずに来たことで不安だったが、これなら魔虫共の攻撃を防げるだけでなく、俺も魔虫共を倒す事が出来るだろう。
「天空、勾陳、切り込むぞ!」
「「はい」」
二人の返事を聞くと、椿来が弓を射った。
一体の魔虫に矢が突き刺さると、魔虫が爆散し辺りにいた魔虫共を巻き込んだ。
椿来のスキルも、俺のように向上している。
それに、何て攻撃力だ。
恐らく、椿来は驚いているだろう。
天空、勾陳に続いて飛び立つと、俺は後ろを振り返った。
「椿来、俺達に絶対当てるなよ!」
冗談を伝えると、固まっていた椿来がハッとした顔で俺の方を向いた。
「私を、信じなさい!」
「ああ」
右手を挙げて応えると、俺は式神と共に陣の設置場所を目指した。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一日置きの更新とさせて頂きます。
不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。