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【薺SIDE】
薺は撫子と別れた後に大穴を迂回し、結界を取り囲む様に増え続けた魔虫を倒し、ヘイズスターバースト達と合流しようとしていた。
すると、急にアプリのアラートが鳴った。
どこかで、魔法陣が生成されたのか……それとも、魔物が出現したのか?
このアラートは、聖騎士団が管理する区域内に、魔法陣が生成された時や魔物が出現するであろう兆しが現れた時に、音を分けて知らせてくれる便利な機能だ。
このアラートのお陰で、事が悪化する前に対処する事が出来る。
新しく加わった部隊指定で、アプリから聖騎士団を指定発動すれば、混乱も起きないだろう。
だけど今回のアラートは、いつもと違うな。
この鳴り止まないアラートは、恐らく魔物の戦闘区域内に入った事を示す音。
魔虫を倒しつつ、アプリで戦闘区域内に入った部隊を確認すると驚いた。
「なんで、朝熊達がここに?」
確かチアさんの妹の話では、金狐と銀狐が引き留めていた筈では?
思わず口走ると、小桜が顔を出した。
「花さんら、来たんどすぅ?」
「ああ、そうなんだ」
花達が来た場所を説明すると、小桜が桜に告げ口していた。
「あの狐ら、何してはるんやろかぁ? 後でお仕置きしいひんと、いけまへんなぁ」
すると、桜が小桜を通して愚痴を言った。
「駄目だよ、桜。金狐さん達に、おいたしたら」
「薺さん、冗談どすぅ」
桜に釘を刺すと、小桜が笑って冗談だと言って来た。
だけど、念の為に小桜の頭を撫でておいた。
小桜を撫でたのには、理由がある。
本当なのかは不明だが、小桜の頭を撫でると、桜に「金狐達に、優しくしてあげてね」と言う僕の思いが伝わるらしい。
「せやけど、どうしはるのん?」
「そうだね」
向かうべきだろう。
そう考えていると、少しだけ四神相応の極意の位置にズレが生じた。
しまった。
だけど、これ位なら修正できる。
そう思い、位置を修正した。
するとその瞬間、水蒸気爆発が起きた。
クッ!
少しのズレだったけど、感覚に微妙な位置ずれが起きたか。
「花さんら、お迎え行かな……」
すると小桜が何か言いかけ、僕の肩まで駆け登った。
「狐火!」
そして、足下後方に出現した魔幼虫を倒してくれた。
「小桜、ありがと」
小桜にお礼を伝えると、笑みを浮かべて僕のポケットに入って行った。
こうして小桜は、僕を手助けしてくれる。
朝熊達を迎えに行くにしても、その間に襲われたら元も子もない。
せめて、聖騎士にしなくては……。
部隊指定で、朝熊達に聖騎士団を発動すると、状態が半妖となっている事に気がついた。
「地祇と天狗の加護による、天狗化?」
あやかし達のように、HPとMPが増えたのはその為か。
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親衛隊副隊長
半妖:地祇と天狗の加護(天狗化)
天狗刀:大僧正村正 天狗盾:太郎坊之神楯 所持
朝熊 :HP 2530/2530
:MP 1176/1176
姫の親友女官近衛騎士長
半妖:地祇と天狗の加護(天狗化)
天狗弓:高林坊与一 天狗小刀:内供奉村正 所持
花 :HP 2086/2086
:MP 3032/3032
姫の友侍女騎士
半妖:地祇と天狗の加護(天狗化)
天狗弓:菊丈坊光義 天狗小刀:薬師坊村正 所持
椿来 :HP 1406/1406
:MP 2012/2012
半妖:地祇と天狗の加護(天狗化)
天狗弓:高天坊宗茂 天狗小刀:法性坊村正 所持
美桜 :HP 1406/1406
:MP 2012/2012
半妖:地祇と天狗の加護(天狗化)
天狗弓:小桜坊宗茂 天狗小刀:覚海坊村正 所持
百合愛 :HP 1406/1406
:MP 2012/2012
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これって、姫の影響を受けて天狗化したのか?
いや、姫は大穴に入った。
そして、朝熊達がいるこの場所は銀狐の門を示している。
所持している、天狗の武器……これらの事から判断すると、天狗化させたのは大天狗だと考えられる。
「お迎えしに行く必要性、無うなりましたなぁ」
小桜がそう言って、嬉しそうな声で話しかけてきた。
「みたいだね」
そう応えて結界の周りを一周すると、ヘイズスターバースト達が見えてきた。
朝熊達を心配したが、聖騎士団と天狗化の能力が有れば戦力としては十分か。
そう考えつつ空を飛ぶ魔虫の群れを一掃すると、ヘイズスターバーストが手を差し伸べて来た。
その手の上に着地すると、僕を見上げるあやかし達の姿が見えた。
なので、ありがとうの意味合いを込めて手を振った。
「「「「「「「「「「オォォォォォォ!」」」」」」」」」」
すると、あやかし達の気合を入れるような雄叫びが鳴り響いた。
「ヘイズスターバースト、遅れてごめんね」
遅れてきたことを謝罪すると、ヘイズスターバーストが首を横に振った。
「薺殿、我らに謝る必要は無い。寧ろ、感謝したい。我らの撫子姫を、助けに行ってくれていたのだからな。それに、見てくれ」
ヘイズスターバーストにそう言われ、手の平からあやかしの軍勢を見渡すと、魔虫を倒すスピードが上がりだした。
「薺殿が手を振った瞬間、士気が上がった。あやかし達に疲れが見えていたが、これならまだまだ戦える」
そうは言っても、ここはヘイズスターバーストの指揮下にある軍勢。
僕よりも、ヘイズスターバーストによって士気が上がる方が良い。
あやかしの軍勢は恐らく、一撃一撃が必殺技というヘイズスターバーストの技を見すぎた事で、僕の素早い技に士気を上げたのだと思う。
ならばヘイズスターバーストに、連撃の技を披露してもらえばいい。
「ヘイズスターバースト、もし良かったら僕と一緒に連携攻撃してくれないかな?」
「是非、お願いしたい」
「なら、決まりだね」
「うむ」
承諾してくれた。
なら、後は呼び名だけ。
僕は、共闘する時にかけ声や名は必須だと思っている。
特にヘイズスターバーストは、名前が長いからね。
「悪いけど、名を呼ぶとき短縮しても良いかな?」
「薺殿の、好きに呼ぶといい」
「ありがとう。じゃー、ヘイズって呼ぶね。だから、僕の事は薺って呼んでくれるかな?」
「分かった」
ヘイズの了承を得ると、小桜が僕の胸ポケットに入ってくれた。
戦闘態勢に入った事を、感じ取ってくれたようだ。
「ヘイズ、行くよ。僕に、合わせてね」
「我らに、任せよ!」
先行して分身し、魔幼虫を木刀で打ち上げて行くと、ヘイズが一振りで切り裂く。
そしてその量を次第に増やしていき、ヘイズが技を出す切っ掛けを作っていく。
僕が魔幼虫の群れを、打ち上げるこの場所。
ヘイズなら、きっと気づいてくれる。
そう思い、魔幼虫の群れを打ち上げる速度を更に加速させた。
すると、ヘイズが一撃で切り裂ける量を遥かに上回った。
「これは……まさか?」
「ヘイズ、気づいてくれたかい」
「ああ、任せよ!」
そう言って、九つの場所に打ち上がった魔幼虫にヘイズが狙いを定めた。
「鈞天、蒼天、昊天、炎天、玄天、変天、幽天、朱天、陽天!」
そして一撃必殺の技を魔幼虫に繰り出し、空を飛び回る魔虫を誘導する。
すると、中心に魔虫の群れが集合し一塊となった。
今だ、ヘイズ!
「武王骨神流奥義! 【九天斬!】」
刹那、天を突き抜けるヘイズの秘技が空の魔虫を一掃した。
すると、静粛が一瞬訪れた次の瞬間、
「「「「「「「「「「ウォォォォォォ!」」」」」」」」」」
全軍から、轟音とも思える雄叫びが鳴り響いた。
これで、あやかしの軍勢の士気が更に上がった。
それに、ヘイズの指揮も。
こうして薺達は、魔虫の群れを倒していった。
すると、急に地中から奇妙な音が鳴り響いてきた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
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不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。