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【朝熊SIDE】
一方、朝熊達は式神と共に、第三の陣へ向かっている所であった。
第五の陣を設置する場所へ行くには、第三の陣を通って行く方が安全だったからだ。
式神を先頭に俺が続き、その後ろを花達と共にする式神達、そして後方にも式神を配置する形で進んで行くと、別方向へ花が向かいだした。
「花、方向転換する時は事前に教えてくれよ。そうしないと、式神達が迷うだろ?」
「だって、急にこっちだって感じるんだもん」
相変わらず花の行動は突拍子もないが、この行動のお陰で魔虫が多くいる場所を回避出来ていた。
以前から思っていたが、この花の突拍子もない行動。
色々な事に俺達は巻き込まれてはいるが、最悪な事態に陥ったことが無いのだ。
ブルーローズから聞いた話しだが、俺達が街で遭遇したシールドホーンオーガ。
もし遭遇せずに放置していたら、魔王となって街を破壊し尽くす危険性があったらしい。
つまり、未然に街と人々の危機を救ったのだ。
花には恐らく、大災害などに対する危機感知が有るのだと思う。
そして天狗化した事で、その能力が開花したのだろう。
恐らくだが、ここに来たのもそうなのだと思う。
初め天狗様の命により、銀狐が天狗酒を石楠花様へ届ける手筈だった。
それが、野湯に天狗酒を落としてしまった。
その事を切っ掛けに、俺達がここへ来る事となったのだ。
ここへ来る少し前の事だが、天狗様達が野湯へ降り立った時の事である。
凜とした天狗様が銀狐に命令し、天狗酒を手渡ししていると、トイレから帰ってきた花が、綺麗と言って凜とした天狗様に抱きついた。
その突拍子もない行動により、凜とした天狗様が花と一緒に野湯へ落下。
慌てて皆で野湯へ飛び込むと、俺達の身体に異変が起きた。
すると、グラマーな天狗様が神通力を使用して元に戻してくれた。
戻してもらった後、凜とした天狗様に皆で謝罪していると、グラマーな天狗様が「この子達、適性が有るわね」と言った。
そして、天狗様が二人して話し合いしだした。
話し合いが終わると、グラマーな天狗様が俺達に、調合した天狗酒を飲むように言ってきた。
申し訳なく思っていた俺達は、素直にその天狗酒を飲み干した。
すると、酔いも痛みも何も無く天狗化したのだ。
そして、現在に至る。
今はまだ、俺達が来た事で何か変わったのかは分からない。
だけど、俺達が来た事で石楠花様が喜んでくれた。
つまり、姫の役に立てたのだ。
ただ、俺達でさえ理解できない花の行動。
その自由すぎる行動に、式神達が戸惑っているのは言うまでもない。
でもこの行動のお陰で、戦闘回数が少ないのは明らかなんだよな。
だって予定していた時間よりも早く、この中間地点に飛んで来ることが出来たからだ。
しかも、石楠花様が新たに作り出した式神は魔虫を物ともせず倒す事が出来る。
この強さも、ここまで早く来る事が出来た要因だと思う。
ただそのせいで……本来は有り難いのだが、俺達が攻撃する暇がない。
第三の陣へ安全に向かうには、とても良い事なのだが、暇を持て余す花達が何をしでかすか心配なのだ。
そして、その心配は式神達にもある。
実は、式神達はとても可愛らしい少女なのだ。
しかも、美しい服を着ている。
石楠花様によると、強力な能力を持った式神を作りあげる場合、自分の中で一番の姿を思い描く必要が有ったそうだ。
その結果、式神達は美少女となった。
花はその可愛らしい式神達の服に興味が有るようで、色々と話を聞いていた。
「貴人ちゃん、その服が綺麗だよね。何で、出来ているの?」
「花様、これは全て主様の神通力による物です」
「ふーん、そうなんだ。貴人ちゃん可愛いから、凄く似合ってるね」
「お褒めの言葉、有り難く存じます」
貴人は花に笑顔を向け、お礼を言っていた。
そう、ここまでは普通なのだ。
しかし姫が居ないと、椿来、美桜、百合愛の興味が式神へ行き、やがて暴走するのだ。
要注意の三人を見ていると、椿来が横目で花達を見て笑みをこぼしていた。
あの横目と笑み、嫌な予感がする。
椿来は、デザイナーの娘。
何かと気になる服を見つけると、生地をチェックする為だと思うが……デパートに行った際、マネキンの服を脱がすのだ。
その時と、同じ横目と笑みだったのだ。
流石に、式神の服は脱がさないと思うが心配だ。
「天后ちゃん、水色の羽織触ってみても良いかしら?」
「はい、椿来様。ご自由に触られても、構いません」
言ってはならないことを式神が言った気がするが、様子を見つつ、何かする前に止めるか。
すると、椿来達の様子を見ていた美桜が式神の姿を食い入る様に見つめだした。
再び、嫌な予感がする。
美桜は、体操服メーカーの娘。
肌にあたる質感に拘るので、生地と肌のあたりを触る癖が有る。
以前デパートに行った際、マネキンの服に手を突っ込んでいた。
流石に、式神の服の中に手を突っ込まないとは思うが……。
「六合ちゃん、この服の肌のあたりは良いですか?」
……美桜、いきなり直球で来たか。
「美桜様、お確かめされても構いませんよ」
あっ!
そんなことを言ったら、美桜が……やっぱり、服の中に手を突っ込んだか。
……式神は平気な顔をしているし、まあ止める必要は無いだろう。
あれ位、クラスの女子同士でも有るからな。
まあでも、式神が嫌がりだしたら止めるか。
すると、美桜達の様子を見ていた百合愛が不敵な笑みを浮かべた。
この表情は、一番危ないかもしれない。
百合愛は、下着メーカーの娘。
特に綺麗な子の下着が気になるようで、あの手この手と仕掛けをして見ようとする。
恐らくだが、俺達の学校を含め、近隣学校にいる美少女全ての下着は網羅しているはずだ。
すると、百合愛が守護してくれている式神に近づいた。
「騰虵ちゃん、見てみて。私の下着、綺麗でしょ」
ブッ!
……百合愛も美桜と同じで、ど真ん中のストレートだな。
って言うか、何という下着を着けて……。
「はい。百合愛様の肌が透けるほど綺麗ですね」
いや、綺麗かもしれないが透けすぎだろ!
「貴女の下着は、どこのブランドかしら?」
百合愛、何を今更。
式神の服は石楠花様の神通力によるものだって、花と貴人の話しに聞き耳を立てていた君なら知っているだろ?
「石楠花様の神通力で作られた物ですので、分かりかねます。百合愛様、申し訳ありません」
「良いの。ごめんね、騰虵ちゃん。私の実家の家業が、下着メーカーだから気になったの。もし良かったら、貴女の下着見ても良いかしら?」
「はい」
返事をすると、騰虵が下着を百合愛に見せようとしていた。
姫が一緒に居る時は、皆の興味が姫に行き、このような事はしないのだが……。
花が止めない以上、ここは俺が止めないとな。
そう思い、百合愛がいる方へ向かった。
「ちょっと、待っ……グハッ!」
そして止めようとした瞬間、背中に衝撃が走った。
「ねえ、朝熊君。いつまで、見てるのかなー? 花の友達、変な目で見てると叩くよ!」
いや、もう叩いただろ。
俺は、注意しようとしていただけなのに。
まったく、まだ姿が女のままで本調子じゃないのに容赦ないな。
手加減してくれたと思うが、HPを見て驚いた。
なんと、300も減っていたのだ。
……花、天狗化してなかったら、戦う前から瀕死だったぞ!
薺が、アプリで騎士団指定してくれていて助かった。
「痛て、てて……」
涙目で背中を摩っていると、式神達が笑っていた。
せめて、守護する天空と勾陳は俺を心配しろよな!
文句を言いたい気持ちを抑え周りを見てみると、式神達と花達が打ち解けていた。
「あれ? 何で、花のMP減ってるの?」
すると、急に花が声を上げた。
頻りにMPを気にしていたので見てみると、花のMPが100消費していた。
手加減してくれていたが、どうやら無意識に魔力を込めていたらしい。
どおりで、痛かった訳だ。
すると花が、俺の背中を摩って謝ってくれた。
花を撫でて落ち着かせると、第三の陣から第五の陣の設置場所を見た。
すると、奥で魔虫が群がっていた。
ここから先は、回避出来ない危険エリア。
花達と式神達の、協力が必要な場所だ。
俺達は打ち解けたことで、戸惑いは無くなった。
痛い思いはしたが、懸念が無くなった今なら、連携攻撃も可能だろう。
「ここからが、本番だ。皆、遅れずについて来てくれ」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」
「天空、勾陳、よろしく頼む」
「「はい、朝熊様」」
こうして朝熊達は、魔虫が群がる道を進み、第五の陣を設置しに行くのであった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一日置きの更新とさせて頂きます。
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