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【ブルーローズSIDE】
鎮座するバアルゼ・クイーンは、ブルーローズの予想を越えた大きさに成長していた。
……巨大化しておった天を、遥かに越えておる。
生半可な攻撃では、ダメージを与えられないだろう。
いや、我らも撫子のお陰で強くなった。
巨大な物には、それ以上に強力な攻撃で、一気に畳み掛ければいい。
「ブルーローズたん、ハエたんのお腹が変だよ?」
「ん?」
雛菊に言われて、鎮座するバアルゼ・クイーンの腹部をよく見ると、真っ黒な霧が渦を巻いていた。
周りに飛んでいる魔虫共でカモフラージュしているが、あれは瘴気で間違いない。
「やはりな……」
バアルゼ・オーバーロードは魔王となった後にクイーンを生み出し、能力の一部と魔法陣の赤核を譲渡していたか。
オーバーロードを神眼鑑定した時に、魔法陣の情報が出てこなかったのは、そういう訳か。
「雛菊、心してかかれ」
「うん」
雛菊の返事を聞くと、攻撃を仕掛けることにした。
先ずは、どの程度通じるか見極めなければなるまい。
左手で清水陣を構築しつつ、神龍刀に清水を纏わせた。
ここまで上がった、神聖な清水だ。
クイーンよ、篤と味わうがいい。
「【清水の刃!】」
神龍刀で清水の刃を放つと、同時にジャンプした。
すると、清水の刃はクイーンを守護する魔虫共を次々と切り裂き突き進んだ。
しかし、クイーンに大きなダメージを負わせることはできなかった。
神聖力が増したとは言え、直ぐに放てる清水の刃の一撃程度ではダメか。
今の攻撃でクイーンが我に気づき、瘴気の入り交じる炎を集め出した。
だが遅いぞ、クイーン。
こちらは既に、雛菊が白銀之大太刀を振り上げているからな。
「【久遠雪斬!】」
その瞬間、魔虫共を砕き散らせながら雛菊の斬撃がクイーンに迫る。
すると、クイーンが炎弾を作る前に雛菊の斬撃が到達し、歩脚の鉤爪を凍らせ砕け散らせた。
巨大な分ダメージを負わせたのは極一部だったが、どこまで神力を込めれば良いか把握出来た。
それに雛菊よ、良いコンビネーションだ。
ここから一気に、連続で叩き込む。
クイーンの頭上に飛んでいた我は、神龍刀に清水の力を込め振り下ろした。
「【清水瀑布!】」
その瞬間、クイーンの頭上に幾つもの清水の斬撃が滝のように落ちる。
すると、クイーンが触覚を動かした。
我の攻撃が決まったと思われたその瞬間、クイーンの触角辺りから、瘴気を纏う無数の針を放ってきた。
後方に翻ると、清水瀑布とクイーンが放った針が打ち消し合った。
フッ! これは囮だ。
我は、一人ではないからな!
「【久遠雪華!】」
その瞬間、クイーンの足下に肉薄していた雛菊が、雪の結晶を形取った巨大な連撃を放った。
刹那、クイーンの腹部に巨大な雪の華が咲き誇る。
すると、クイーンは二本の歩脚を犠牲にして防いだ。
だが、我らの攻撃はこれだけではない!
着地と同時に地を蹴り、神龍刀の刃を斜め上にする。
「神龍刀よ、清水を纏って駆け登れ! 【清水昇龍閃!】」
その瞬間、青い光りがクイーンを切り裂いたと思われた。
しかし、多量の瘴気を切り裂いた瞬間、クイーンが後方へ飛んで回避した。
クイーンめ、腹部の瘴気を障壁として使ったか。
だが、終わりではない。
「【久遠雪嵐!】」
クイーンの歩脚が再生する前に、雛菊が無数の連撃を放った。
刹那、クイーンが斬撃の嵐に包まれた。
すると、魔虫共が身を挺してクイーンを守った。
だが、今の斬撃は魔虫共をものともしない攻撃。
流石にクイーンでも、痛手を負っているはず。
そう思っていると、魔虫共の死骸が転がっているだけだった。
「ブルーローズたん、上」
「うむ」
前方を見上げると、クイーンが天井にへばり付いていた。
こ奴……あの一瞬で、音も立てずに飛んだのか。
すると、クイーンが羽を摺り合わした。
その瞬間、蠅声が辺り一面に木霊して、歩脚と腹部の瘴気が再生した。
すると同時に、腹部の瘴気から魔虫の大軍が現れ、一面の卵から魔幼虫が這い出てきた。
だが、今更大軍で応戦するなど愚の骨頂。
我は着地すると同時に、左手で構築していた清水陣を解放した。
「祓い清めよ! 【大津波!】」
その瞬間、クイーンもろとも魔虫の大軍を大津波が飲み込んだ。
だが、終わりではない!
クイーンが壁に激突すると、雛菊が天井に集めていた白雪を解放させた。
「ピィも、ブルーローズたんの真似っこ! 【大雪崩!】」
天井から凄まじい勢いで白雪が落ち、クイーンごと全てを飲み込み凍らせた。
やったか?
そう思った次の瞬間、砕け散る音がして、クイーンの背が割れた。
そして、瘴気を纏ったクイーンが中から現れた。
脱皮? 羽化?
いや、クイーンに常識は通用しない。
ただ分かるのは、先ほどよりも禍々しい瘴気を纏っておる事だ。
「ねえねえ、ブルーローズたん。何か、黒くなって大きくなったよ?」
雛菊に言われて、クイーンに神眼鑑定を行うと、神聖な力への耐性が上がっていた。
クイーンは傷つくと、その分耐性が上がるのか。
このまま攻撃を繰り返すと、更に強くなる恐れが有る。
つまり、我らだけでは倒せぬということだ。
雛菊と共に撤退を考えたが、クイーンがここから出た場合、オーバーロードに干渉する恐れが有る。
応援を呼ぶ必要があるが、それには強力な攻撃を与えぬよう調節を行い、引き留める者が必要。
我が引き留め、雛菊が助けを呼ぶ。
それしか、あるまい。
そう考え雛菊を後退させようとすると、クイーンが瘴気のブレスを吐いた。
【撫子SIDE】
ブルーローズが雛菊を後退させようと考えた少し前、撫子は水と雪の結界に包まれた空洞を飛んでいた。
暴風の力を強め、更に加速しているとイベリスが顔を出した。
「イベリス、顔を出すと吹き飛ばされますよ?」
「撫子ちゃんの服に、尻尾を絡ませているから大丈夫にゃ」
そう言ってイベリスが、匂いを嗅ぎ出した。
どうやら、方向が間違っていないか確かめているようです。
すると、姫立金花も顔を出した。
二匹の毛が揺れて、少し擽ったいです。
風が当たらないよう、左手で二匹の顔を覆うと、姫立金花が私の手を舐めた。
キャッ、擽ったい。
見下ろすと、姫立金花が私の顔を見上げていた。
「撫子様、戦っている音が聞こえるぞ!」
姫立金花に言われて、耳を澄ましてみると確かに聞こえる戦闘の音。
つまり、二人は既にバアルゼ・クイーンと戦っていると言うことです。
急がなくては……。
更に加速を早めると、前方から見えていた穴から多量の水が噴き出した。
これは、ブルーローズの清水。
「あの水に、飛び込みます。二人とも、衝撃に備えて下さい」
注意を呼びかけると、二人が服につかまり、背を私の胸に預けてきた。
「ここは、フワフワだから安心にゃ!」
「撫子様のここは、金花達よりフワフワだからな!」
「……」
褒められているのか分かりませんが、私達は噴き出す水に飛び込んだ。
その瞬間、真っ白な物に包まれた。
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