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撫子達がたどり着いた空洞には魔虫の姿はなく、キラキラと輝く白雪が幾つも降り積もり、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「……綺麗」
雪が、輝いてる。
その光景に見とれていると、姫立金花が私の胸元から飛び降りた。
「イベリス、見ろよ。これって、雛菊ちゃんの雪の結界だよな」
すると、イベリスも飛び降りて雪の匂いを嗅ぎ出した。
「クンクン。ブルーローズちゃんの、匂いもするにゃ」
つまり、白雪が吹雪くこの奥に雛菊達が向かったということですね。
白雪が吹雪く空洞内に入ろうとすると、イベリスと姫立金花が何やら言い合いながら歩いて来た。
「イベリス、ブルーローズ様にちゃん付けすると怒られるぞ!」
「可愛いから、良いにゃ」
クスッ!
ブルーローズ、今頃クシャミしてるかも。
「じゃー、イベリス。可愛い金花も、ちゃん付けしろよな!」
「金花とインカルナタは、ミィの特別にゃ。だから、付けないにゃ」
「そうなのか? なら、呼び捨てでもいいぞ!」
姫立金花が嬉しそうにして、イベリスに身体を寄せると、二匹が揃って私の胸元まで戻って来た。
ちょっとした事で喧嘩する二匹ですが、仲は凄くいいみたいです。
私は二匹を撫でると、白雪が吹雪く洞窟の先を見た。
そして予見の猫耳で、この先の状況を確認する事にした。
すると、この先には大きな空間が地下へ幾つも続いている事が分かった。
しかも、道を示す様に水と雪の結界が交互に張られていた。
これなら、迷うことはない。
風の神通力を使用し超加速飛行すれば、ブルーローズ達に追いつけそうです。
「イベリス、姫立金花、風の神通力を使用して飛行します。だから、振り落とされない様にしてね」
「了解だぞ」
「了解にゃ」
二匹が服にしがみ付いた事を確認すると、私は暴風の神通力を使用し超加速した。
【石楠花SIDE】
一方、石楠花は陣を作るのに手間取っていた。
むう……作っても作っても、最後の陣だけが破壊されてしまうのぉ。
四つの陣は、設置に適した守りやすい場じゃった。
しかし、最後の陣は守りに適さぬ場。
この魔虫の数、流石に四体の式神だけでは荷が重いか。
じゃが、わしもこの場を動けぬ。
妙案は、ないかのぉ?
何か無いかと、周りを見渡していると、銀狐の門が光った。
「援軍か?」
千里眼を使用し様子を見ると、銀狐の門から花達が姿を現した。
銀め、このような場所に花達を案内するとは……あ奴、何を考えておるのじゃ?
花達は、撫子の親友じゃぞ!
『「花、すぐ立ち去るのじゃ!」』
神通力を使用し、花に『テレパシー』を行った。
すると、花がわしを探し始めた。
『「石楠花ちゃん? どこどこ?」』
ちょこまか動くと、魔虫共に見つかってしまうではないか!
すると、朝熊と百合愛達が花を止めた。
クッ!
わしとしたことが、話す相手を間違えてしもうたわい。
『「朝熊、なぜここに来た。お主達では、ここの魔物を相手に出来ぬぞ! 即刻、立ち去るのじゃ!」』
すると、朝熊が百合愛達に言って、花を銀狐の門まで下がらせるよう、言い聞かせていた。
『「済みません、お待たせしました。石楠花様、空から現れた綺麗なお姉様達から、この服と武器を託されたのですが、見覚えないですか? 石楠花様に、使用方法を聞くよう言付けされたのですが……」』
『「わしにじゃと?」』
朝熊に言われてよく見ると、服と武器に見覚えがあった。
あれは……天狗羽織と天狗武器じゃな。
これを管理しておるのは、治朗坊と僧正坊。
二人が、来たのか。
あの二人が来てくれたなら、話は別じゃ。
この状況を、打開できる。
朝熊に詳しく話を聞くと、治朗坊と僧正坊が羽織と武器を託した後、直ぐにその場を立ち去った事が分かった。
二人が朝熊達に天狗の神器を託したと言うことは、八天狗の総意であり、こちらへ来ることが出来ないと言う証。
やはり、別の場所でも異変が起きておるのか。
じゃが、天狗の神器は人が扱えるような代物ではないぞ。
……まさか、天狗酒を飲ませたのか?
朝熊達をよく見ると、天狗の羽が生えており、半妖化していた。
治朗坊達は、無茶をしよるのぉ。
天狗酒は、人にとって毒じゃぞ?
朝熊に経緯を聞くと、天狗酒を野湯に薄めて飲まされた事が分かった。
成る程のぉ。
大地のエネルギーで、僧正坊が中和させたか。
僧正坊は、そういった能力に長けておるからのぉ。
『「朝熊、他に託された物はないか?」』
天狗酒があれば、わしは野湯で上がった能力以上の力が出せる。
そうなれば、今以上に強力な式神を作り出す事が出来るのじゃ。
『「石楠花様の、服と武器。それに、お酒が入った酒瓶が五本有ります」』
『「でかした、朝熊! 直ぐに、わしの元へ来るのじゃ!」』
わしは、朝熊達に天狗羽織と天狗武器の使用方法を詳しく教えた。
武器は、それぞれに適した物を与えたようじゃ。
花達には、天狗弓と天狗短刀。
そして、朝熊には天狗盾と天狗刀を与えたようじゃ。
それに天狗羽織を着れば、全体の防御力が向上するだけで無く、能力を使用すれば常に透明になることが出来る。
イベリスの能力のように、魔虫達の攻撃を擦り抜ける事は出来ぬが、魔虫共に見つかることはないし、透明な状態で攻撃する事が出来る。
居場所を悟られなければ、攻撃防御共に優秀な羽織なのじゃ。
朝熊達を誘導し近くまで飛んできてもらうと、わしは姿を見せた。
そして直ぐに朝熊から天狗羽織を受け取り、再び姿を眩ませた。
「ねぇねぇ、石楠花ちゃん。撫子ちゃん達は?」
すると、花が撫子の居場所を聞いてきた。
「ブルーローズ達の元へ、向かった」
「じゃー、花達も行くー!」
「いや、待つのじゃ。あそこは、魔虫達で溢れかえっておる。それに、わしはここから動けぬ」
「えー、石楠花ちゃん動けないの?」
「うむ……」
花達に事情を説明すると「じゃー、花達手伝うね」と言って、快く承諾してくれた。
簡単に言うと、四つの陣は式神だけで事足りる。
じゃから、最後の陣を強力になった式神と共に、花達に向かってもらう事にしたのじゃ。
すると、花達が作戦会議をしだした。
「花達は攻撃に専念し、朝熊君は花達を守る事に専念。式神ちゃんは、臨機応変に行動してもらう。それで、良いかな?」
「ああ、良いぞ。百合愛、美桜、椿来も、それで良いか?」
「「「勿論、良いですわよ」」」
すると、細かいことを確認すると言って、美桜と椿来が朝熊の所へ話しに行った。
わしはその間に、天狗酒を飲むことにした。
天狗酒を一口飲むと、身体中から力が溢れ出てきた。
クウゥー! これは、利くのぉー!
もう、一生飲めんと思うてたわい。
おっと、忘れる所じゃった。
わしは、懐から力を失った鬼天面を取り出した。
「友よ、これがわしが言っておった天狗酒じゃ」
そう言って、鬼天面に天狗酒を垂らした。
「美味かろ。存分に、飲むが良い」
すると鬼天面が力を取り戻し、角が伸びて金色に輝いた。
善鬼の力も、一気に増大しおったか。
これは、凄まじい力じゃ。
何か有った場合、使えるやもしれぬ……。
鬼天面を懐にしまうと、強力になった十二体の式神を作り出した。
そして、四つの陣へ四神を向かわせた。
ここまで強力になった四神達なら、少々の事では倒されんじゃろう。
すると、話し合いが終わったようで花達がやって来た。
「石楠花ちゃん、準備できたよ」
「うむ、分かった」
返事をすると、わしは待機させている式神の方を向いた。
「貴人は花に、騰虵は百合愛に、六合は美桜に、天后は椿来にそれぞれつけ。天空と勾陳は、守りの要である朝熊につくのじゃ。そして、太陰と太裳は陣の構築にあたるのじゃ。良いな!」
八体の式神に任務を命じると、それぞれが護衛についた。
こうして、花達と式神達が合同で最後の陣を作る事となった。
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