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【ブルーローズSIDE】
撫子達が来る少し前、ブルーローズと雛菊は大穴に入る準備をしていた。
「雛菊、大穴の中では何が起こるか分からぬ。故に、武器を装備するのだ」
そう言って清水神龍刀を装備すると、雛菊が頷いた。
すると、聖なる白雪で白銀之弓箭と白銀之羽々矢を作り出した。
雛菊は、地祇の祝福を完全に物にしたようだ。
白銀の翼を広げると、雛菊を白銀のオーラが包み込んだ。
「ブルーローズたん、いっくよー」
「うむ。……ん!」
返事をして、いざ大穴に飛び込もうとすると、雛菊が空に向かって白銀之羽々矢を無数に射った。
「地祇弓箭 【銀世界!】」
すると、空が銀色の世界に包まれた。
我は魔力を抑えて一点突破しようと考えていたが、雛菊は入口の魔虫を一掃するつもりのようだな。
そう考えていると、雛菊が右手を掲げた。
「からのー、雪だるまたん」
すると、一本の白銀之羽々矢が巨大な雪だるまと化した。
「行っちゃえー! 【大雪だるま落とし!】」
刹那、次々と白銀之羽々矢が巨大な雪だるまと化し、大穴に突き進んだ。
すると、大穴を犇めき合っていた魔虫が全て凍り砕け散った。
しかも巨大な雪だるまが轟音と共に降り注ぎ、広範囲の魔虫の群れを押し潰していった。
成る程……雛菊はあやかしの軍勢の事を考え、大穴から湧き出ていた魔虫の群れを一掃し、同時に大穴から溢れ出てくる魔虫の群れの侵攻を止めたのか。
「「「「「「「「「「ウォォォォォ! 雛菊ちゃーん!」」」」」」」」」」
すると、ヘイズスターバースト達の所から雛菊へ、推しの声援が五月蠅いほど聞こえて来た。
雛菊が笑顔であやかし達に手を振ると、我の方を振り向いた。
「ちょっと、やり過ぎちゃった?」
「いや、見事だ!」
「エヘッ」
雛菊が舌を出して可愛く振る舞っていたが、凄まじい威力だった。
日を跨ぎもせぬうちに、これ程まで成長できたのは、やはり撫子の影響……。
あやかし召喚士である撫子の能力が上がると、ここまで能力が上がるのか。
ひしひしと感じる、この能力の高まり。
清水神龍刀を持つ手が震えていたのは、武者震いではなく、高まりすぎた能力を、自然と押さえつけていたせいか。
しかも、撫子がインカルナタと融合した瞬間、追加された能力があった。
良縁天佑神助と言い、繋がりをもった主が、あやかしと融合すれば融合するほど、その恩恵を我らに分け与える。
但し、日をまたぐとリセットされる。
恐らくこの能力が、ここまでの力を我らに与えたのだ。
大穴を見ると、雛菊によって見事なほど雪と氷に埋め尽くされていた。
そのお陰で、魔虫の群れを倒す手間がなくなったのは有り難い。
同属性の我らなら、氷に空間を設けるなど造作もないからな。
「フッ! 雛菊よ、礼を言う」
笑みを見せると、雛菊が顔を寄せて来た。
雛菊、近すぎるぞ。
それに、なぜ我の頬を引っ張る?
「ひなぎくー、ひっぱうあ!」
頬を引っ張られたまま「引っ張るな!」と抗議すると、雛菊が小首を傾げてきた。
「ブルーローズたん、何言ってるの? もっと、可愛く笑わないとダメだよ?」
其方が、頬を引っ張るからであろう!
頬から手を離させて怒ると、今度は腕を絡ませて来た。
全く……雛菊は、何を考えているのか分からぬ。
撫子は、よく雛菊を制御出来るものだな……。
「ハムハム」
「フニャァァァ」
そう考えていると、雛菊が耳を噛んだ。
まさかと思うが、雛菊……奴の影響を受けたのか?
「ブルーローズたん、今の可愛いー」
「……雛菊、誰から教えを請うた?」
「黒たんが、教えてくれたのー」
あ奴は……いらぬ事を、雛菊に吹き込みおって。
黒め、今に見ておれ。
天が目覚めたら、講義してやる!
甘えてくる雛菊を躱しつつ、氷と雪の中に空洞を開け進んでいくと、突き上げる激しい揺れに加え氷を砕く音が聞こえてきた。
地中より、魔虫共が侵攻して来たか。
「雛菊、警戒せよ! ん?」
先ほどまで後ろをついてきた筈なのに、どこに行ったのだ?
……後方を見渡すと、空洞が至る所に開いていた。
雛菊は、直進してこなかったのか?
無駄が多い進み方だが、何か考えての事であろう。
そう思っていると、涼しい風が流れ込んできた。
「地祇弓箭 【風花!】」
そして、遠くで雛菊の声がしたかと思うと、幾つもの白銀之羽々矢が縦横無尽に開く空洞を通過していった。
次の瞬間、衝突音が木霊した。
すると、激しい揺れが静まり氷を砕く音が聞こえなくなった。
「成る程……」
至る所に空洞を開けたのは、魔虫共に攻撃を放つ為の通路を設けていたのか。
やはり、考え無しの行動ではなかった。
雛菊のことを感心していると、急に足下の氷が消え去った。
次の瞬間、スカートの中に雛菊が頭を突っ込んできた。
「あれ? 前が急に、見えなくなったよ?」
「……雛菊、良いから早く出て来るのだ」
スカートを捲り上げると、雛菊が笑顔で出てきた。
……やはり、雛菊の行動が理解できぬ。
だが撫子のように雛菊の事を理解せねば、クイーンを撃退する事など出来ぬ。
精進せねば、なるまいて。
そう心に誓い、ちょこちょこと、ちょっかいかけて来る雛菊と共に奥へ進んでいくと、巨大な空洞が広がる場所にたどり着いた。
辺りを見渡すと、数え切れない程の卵と殻が散乱しており、魔幼虫が至る所にいた。
しかし、ここはまだ一角にしかすぎない。
何故なら、この空洞の奥が魔虫で埋め尽くされていたからだ。
「雛菊、ここは我が一掃する。良いか?」
小声で雛菊に伝えると、手にしていた白銀之弓箭を下に降ろした。
「うん。良いよ-」
雛菊が返事をすると、神龍の力を一気に高め、清水神龍刀に力を凝縮させた。
すると、清水神龍刀が青白く光り輝いた。
その光りに魔幼虫と魔虫の群れが気づき、一斉に襲いかかって来た。
うむ、思惑通り見事に反応した。
ならば、神龍刀の技を喰らうがいい。
「清水神龍刀 龍技 【龍爪破魔斬!】」
龍神の力を清水神龍刀の刃に宿すと、一気に放った。
刹那、凝縮された破魔の清水が水鏡の波紋で広がり、無数の刃となって、空洞に広がる数え切れない卵と魔幼虫の群れを一掃した。
しかし、奥にはまだ魔虫が蠢いておる。
それに恐らく、蟻の巣のように幾つもの大洞窟が繋がっているはずだ。
「雛菊、技を交互に放ち一気にクイーンの元へ行くぞ!」
「ブルーローズたん、ちょっと待ってね」
「うむ。良いが、何をするのだ?」
雛菊に尋ねると、両人差し指を側頭部に持って来た。
「ピィ、雪鬼になるね」
そう言って、次々と白雪の十二支を作り出していき、聖雪の光角を作り出した。
石楠花が言っておったな、雛菊が聖雪の光角を頭に宿すと、魔力だけでなく武の神に認められし雪鬼となると。
不安定と思われた雪鬼の力も、良縁天佑神助で恩恵を分け与えられると、自由に引き出せるようになったのか。
我もこの姿で、神龍の力が引き出せるようになったが、負けてはおれぬな。
「エヘヘ。ブルーローズたん、お待たせ」
「では、行く……」
「あっ!」
行くぞと言おうとすると、雛菊の言葉に遮られた。
調子が狂うが、致し方ない。
「何だ、雛菊?」
「この汚染された空洞、白雪で浄化しておくね」
破魔の清水を放って浄化させたが、確かにこの空間は暫く浄化させる必要がある。
「うむ……」
頷くと、雛菊が白雪で刀を作り出した。
そして強大な魔力を刀に注ぎ込むと、天井に突き刺した。
「【雪化粧!】」
刹那、空洞全てが雪に覆われ吹雪が舞い散りだした。
「ブルーローズたん、出来たよー!」
「……雛菊、あの刀はどうするのだ?」
「あれは、吹雪を作り出すために作ったのー。今から作り出すのが、ピィの武器だよ?」
「そう……なのか?」
小首を傾げて雛菊の行動を見守っていると、白銀に輝く刃を持つ巨大な大太刀を作り出した。
確かに、先ほどの刀とは密度や神聖力が桁違いだ。
「ブルーローズたん、何度も待たせてごめんねー」
「もう良いのか?」
「うん」
「では、行くぞ!」
こうして雛菊と交互に技を繰り出し、幾つもの大洞窟に蠢いている魔虫共を根絶やしにして進んで行くと、瘴気が渦巻く先ほどより遥かに巨大な空洞へとたどり着いた。
そしてその奥には、真っ黒な瘴気を纏ったバアルゼ・クイーンが鎮座していた。
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