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【ブルーローズSIDE】
地面が崩れ巨大な魔虫の眼が見えた瞬間、魔虫達の進行してくる勢いが増した。
バアルゼ・オーバーロード……此奴、封印される直前にクイーンをこの地に放っておったのか。
しかも、力の殆どを譲渡してまで……。
だから、簡単に封印出来たと言う訳か。
桜が、手を出さなかった訳も理解した。
本能的に、察したのだろう。
オーバーロードを倒そうとすると、クイーンが出て来るとな。
クイーンは、オーバーロードから譲渡された力を使い、幼虫を産み続け、大地の力を吸収し、社の地下を全て掌握した。
この社は、天の一部。
成る程……天が未だに昏睡している訳も、これで納得した。
つまりクイーンを倒さねば、天は目覚めぬと言うことか。
クッ! 地揺れが酷くなり、あやかしの軍勢が混乱しておる。
「「「「「「静まれ! 皆の者、臆するな! 我らは……」」」」」」
妖狐達が叫んで、沈静化させようとしている。
だが、あれでは治まらぬ。
仕方がない。
我が、鎮めるか……。
あやかしの軍勢の元へ行こうとすると、巨体が空から舞い降りた。
あれは、ヘイズスターバースト。
あ奴……居ないと思ったら、ジャンプしておったのか。
「唸れ、武王剣!」
その瞬間、魔虫の群れが消し飛んだ。
すると、混乱していた声が静まり、一瞬にして歓声に変わった。
「「「「「「「「「「オォォォォォ!」」」」」」」」」」
流石、ヘイズスターバースト。
打ち下ろしの威力が、以前とは桁違いだ。
しかも、妖狐達へ鼓舞に言葉は必要ないと示したか。
ムッ! バアルゼ・クイーンが居ない。
巨大な穴を開け、地中を移動したか。
ヘイズスターバーストが、打ち下ろした衝撃が及んだのかもしれぬ。
だが、恐らくダメージは受けていないだろう。
ダイダラボッチもそうで有ったが、巨大な奴らは的が大きい分、耐久力だけで無く様々な耐性を持っておる。
そのせいで、強力な攻撃以外は有効ではないのだ。
しかもクイーンは、神聖・神光・神雷・神風・神火・神土・神水への耐性がある。
やはり、異界の魔物は得体が知れぬな。
耐性がオーバーロードより下だが、巨大で有るため同等に近いかもしれぬ。
地中に単身で行こうとしたが、流石に我だけでは分が悪いな。
しかし、桜はオーバーロードを警戒してもらわねばならぬ。
クイーンの大きさを考えると、ヘイズスターバーストが適しているか?
いや、ヘイズスターバーストは大軍を指揮することに長けておるので、あやかしの軍勢を任せたい。
我との逆属性を考えると石楠花となるが、石楠花にはテリトリーに専念してもらわねばならぬ。
戦況によっては、テリトリーが重要な肝となるからな。
雛菊は、雪ん子から雪女として覚醒したので戦力として申し分ない。
しかし属性が同じで有るため、汎用性に富む攻撃が出来ないのがネックになるかもしれぬ。
さて、如何なものか……。
クイーンの気配を探りながら、ヘイズスターバースト達の元へ行くと、空から山の様に巨大な雪だるまが降ってきた。
その瞬間、再び攻めてきた魔虫の群れを押し潰して凍らせた。
そして衝撃と轟音が結界に打ち付けると、魔虫の群れが砕け散った。
雛菊の神通力か……。
上空を見ると、雛菊が笑顔でVサインをしていた。
「「「「「「「「「「ウォォォォォ! 雛菊ちゃーん!」」」」」」」」」」
その瞬間、あやかしの軍勢から爆音とも思える歓声が聞こえてきた。
――これは歓声というより、アイドルなどに行う推しの声援であるな……。
この軍勢、何を考えておる!
……ムッ! やはり、犯人はアヤツか!
「黒! 其方、白と共に封印の強化に行ったのではなかったのか?」
名を呼ぶと、嬉しそうな顔をして腕を絡ませて来た。
「テヘッ! 白に邪魔するなと、追い出されました」
「むぅ……」
コヤツ、叔父達に迷惑をかけてなければ良いが……後で、謝罪するしかないな。
「それより、ブルーローズ様見て下さい! 最高に統率の取れた、あやかしの軍勢を!」
自信にあふれる表情で黒が指をさすと、雛菊に声援を送っていたあやかしの軍勢が、魔虫の群れを押し返していた。
そして今度は雛菊が、声援を送ってくれていたあやかしの軍勢達を応援していた。
しかも、雪で出来たポンポンを持って踊りながら……。
確かに、押し返す勢いはヘイズスターバースト達が率いているあやかしの軍勢を越えておる。
しかし、しかしだ……男のあやかししか、おらぬではないか!
コヤツ、雛菊にも迷惑かける気か!
「ブルーローズたーん!」
黒の腕を振りほどいていると、雛菊が手を振ってやって来た。
「雛菊、黒の趣向に付き合わなくても良いのだぞ?」
「ピィ、楽しいよ。ブルーローズたんもする? ほら、ポンポン有るよ」
そう言って、雛菊が雪のポンポンを渡してきた。
すると、急に男のあやかし達の目線が我に向いた。
「「「「「「「「「「ウォォォォォ! ブルーローズちゃーん!」」」」」」」」」」
「やらぬわ!」
こんな所に、雛菊を残してはおけん。
黒の毒牙にかかるのは、我だけで十分だ。
すると、丁度良いところにヘイズスターバーストが顔を出した。
「ヘイズスターバースト、雛菊を借りても良いか?」
「……構わないが、男のあやかし共をどうする?」
ヘイズスターバーストに言われて、男のあやかし共を見ると、熱い視線を向けてきた。
「黒、責任を持って其方が応援するのだ!」
黒に命令すると、耳に息を吹きかけてきた。
「フニャァァァ!」
息をかけられ力が抜けると、今度は耳をかんできた。
「ハムハム。応援するなら、ブルーローズ様が良いですぅ」
「黒、甘えた声で耳を噛むな!」
「キャハハハ!」
黒の腕をどうにか振り払い、楽しそうに笑う雛菊を連れて行こうとすると、ヘイズスターバーストが声をかけてきた。
「ブルーローズ殿、チア達メイド隊を水神の元へ派遣させたが良かったか?」
「うむ。それは、助かる。クイーンが出てきた今、オーバーロードの封印が、いつ解かれるかもしれぬからな」
もしオーバーロードの封印が解けたとしても、チアのメイド隊がいれば暫くは持たせる事が出来る。
その間に対処する事になるが、薺から有効な手段が見つかったと聞いておる。
しかし、クイーンが地中から出てこぬ事が気掛かりだ。
やはり我と雛菊で地中に潜り、クイーンの動向を探るしかないか。
こうしてブルーローズと雛菊は、地中に姿を消したクイーンを追いかけるべく、地中の大穴に潜ることとなった。
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