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女神のウツワを借りた俺は、出来る限り平和に暮らしたいの外伝。妹編です。
予想以上のボリュームとなったので、こちらに分ける事にしました。
「あんちゃん、撫子また来ちゃった」
自宅から食材を持って来た私は、何時ものようにマンションの合鍵を使い、大好きなお兄ちゃんに甘えにやって来た。
すると、眩しい光りが辺りを照らし、とても眼を開けていられる状況ではなかった。
「キャッ、何この光り?」
蛍光色でもないし、日光色でもない。
兎に角、私が生まれてから見たことが無い光りだった。
そして光りが消え去ると、パソの椅子に座っていた筈の兄ちゃんがいなくなっていた。
「あんちゃん、また隠れん坊? 撫子、もう子共やないけん。はよ、出てきて」
お風呂場に行ってみたけれど、お兄ちゃんの姿が無い。
ベットの下。
押し入れの中。
洋服ダンス。
ベランダ。
水屋の引き戸の中。
……ゴミ箱の中も見たけれど、どこにもいない。
「あんちゃんが、撫子の眼の前で消えたばい」
お兄ちゃんが何時も座っていたパソの前に行くと、キーボーとマウスが無くなっていることに気がついた。
そして、パソの電源がついたままで404 File Not Foundとなっている事。
私は自宅に戻り、パソに付いていたキーボードとマウスを引っこ抜いて、お兄ちゃんのマンションへ行きURLをコピーし、そこにブックマークを付けた。
そして、再び自宅に戻りお父様に報告。
すると、返ってきた答えが、撫子に兄はいないという言葉。
それなら写真がと確認するも、お兄ちゃんの姿だけが不自然に消えていた。
ママや弟に聞いても、同じ返事だった。
そして、あのマンションの名義はお父様となり、私の勉強部屋となっていた。
次の日、お兄ちゃんが勤めていた薬局へ行くと、お兄ちゃんの名前が書かれていた表札が無くなり、知らない名前に変わり見たことが無い人が働いていた。
つまり、私の記憶以外からお兄ちゃんの存在が消えていたのだ。
こんな事が出来るのは、神様しかいない。
私は毎日マンションへ通い、そのURLにアクセスする事にした。
「絶対に、あんちゃんは撫子が見つけ出すけん」
それまで無事でいてね、お兄ちゃん。
※ ◇ ※
次の日、学校の授業が終わると近くの図書館に行くことにした。
過去に、同じ事例が無いか確認するためだ。
神隠しとしか考えられない、この状況。
誰かがきっと、書物として残しているはず。
手早く帰る準備をしていると、スマホを持った女の子達が集まってきた。
「ねえねえ。今月の特集って、撫子ちゃんが表紙だよ。凄ーい」
ティーン雑誌が掲載されているスマホの画面を指さして、新しい物好きリーダーの女の子が話しかけてきた。
この子、名前何だったかな?
確か、IT企業の社長令嬢だったと思う。
「ありがとうございます」
お礼を伝えて席を立とうとすると、新しい物好きの女の子達が他にもやって来た。
「私、来月になったらお小遣い貰えるの。撫子ちゃん、洋服選ぶの手伝ってー」
確か、この子は有名デザイナーの娘だったかな?
父親の自社ブランド服を、私に着てもらいたいのかもしれない。
だけど、ティーン雑誌の事務所から止められているのよね。
それに、制服以外の普段着はティーン雑誌の事務所からお願いされた服を着ている。
私がその洋服を着て町中を歩くと、その服が飛ぶように売れるらしい。
なので私は、洋服を買いに行く必要が無い。
「都合が合えば、ですけどね」
私が断るように答えると、すかさず次の子が追い打ちをかけてくる。
「ずるーい。私も行くー」
行くとは言っていないのに、どうしても行かせたいようだ。
この子は確か、デザイナーの娘が出店しているデパートの娘だったかな?
直ぐに、学校を出るつもりだったのにどうしよう。
私は、お兄ちゃんの手がかりとなる本を早く探しに行きたいのに。
そうしている間に、私の親衛隊と自称している男の子達までもが集まってきた。
「藤野さーん」
すると、図書委員の花ちゃんが先生に呼ばれている姿が見えた。
「はい」
「悪いけれど、プリントを職員室の私の机に持って行って頂けないかしら? 先生は、この重い機材を機材室に運ばないと行けないの。図書室の鍵は、いつものように先生の机の上に置いてあるからね」
「はい」
これは、チャンスかもしれない。
「先生、私も手伝います」
「花楓院さん、良いの?」
「はい」
私が席を立ち、鞄を持て先生と花ちゃんの所へ行こうとすると、自称親衛隊が後ろをついてきた。
女の子達は、重い荷物を持ちたくないようで帰って行ったけれど、この子達はどうしよう。
「姫、僕たちも手伝いましょう」
因みに、私は姫と親衛隊の方々に言われている。
恥ずかしくて断ったけれど、無駄でした。
「ありがとうございます」
私が親衛隊を引き連れて、先生と花ちゃんの所にやって来ると、先生が重そうな機材を持とうとしていた。
でも、台車を持ってきていないようだ。
私が機材を一つ持つと、親衛隊全員が機材を持ってくれた。
これなら、台車も必要なさそうだ。
先生が、ニコニコしている。
この日の授業の為に、先生は朝から一人で機材や荷物を運んでいたらしい。
「皆、先生の機材運ぶの手伝ってくれるのね。先生、凄く嬉しいわ。じゃー、男の子達は機材を持って先生についてきてね。花楓院さんは、藤野さんと一緒にプリントを運ぶの手伝ってあげてくれるかな」
「はい」
自称親衛隊の皆様には悪いけれど、先生助かりました。
「「「「「えっ?」」」」」
この後、どうしようかと考えていたのです。
自称親衛隊の皆様は、渋々先生に連れられて機材置き場に向かった。
花ちゃんがプリントを持ったので、私も半分持った。
「撫子ちゃん、ありがとう」
「いいえ、良いですよ」
職員室にプリントを持っていく途中、花ちゃんに図書館へ行くことを話した。
話をしていく中で、私が体験した事に似た事例が、ある本に書かれている事を教えてもらった。
※ ◇ ※
図書館にやって来ると、お父様の門下生のお姉さんが本を読んでいた。
お姉さんは、お兄ちゃんのマンション近くに住んでいるので私もよく会う。
それに、実はお兄ちゃんの元門下生であり、お兄ちゃんが大学生の時の同級生だった方です。
お兄ちゃんの同級生と言う事は年齢もそれなりなのですが、お姉さんと言わないと叱られます。
お兄ちゃん曰く、大阪に長く住んでいた女性は、年齢が高くても、お姉さんと言わないと怒られる事が多いらしいです。
「お姉さん、こんにちは」
図書館なので小声で話したのですが、お姉さんは私に気づくと息を吸い込んだ。
「わおー! 奇遇やねー。撫子ちゃん!」
お姉さん、声が大きいです。
周りの人が、一斉にこちらを向きました。
そして眼が合うと、コソコソと話をしだします。
私の制服を見て学校名を言い、ティーン雑誌の表紙の子だと言って男性の視線が集まります。
バン! バン! バン! バン!
そんな視線に晒されていると、お姉さんが隣の席を叩いた。
「ここ、座りや!」
席を叩いたお姉さんに、視線が集まりましたが席を叩き過ぎだと思う。
私、その席に座るの少し恥ずかしいです。
「撫子ちゃん、ほらー遠慮せんでええよ。座って、座って」
ですがお姉さんはきっと、私の為にしてくれたのだと思う。
なぜなら、大阪の女性は優しくて世話を焼くのが好きな方が多いと、お兄ちゃんが言っていましたので。
「はい」
席に座ると、図書館の管理の人がこちらを睨んだ。
「コホンッ!」
「あ……済んません」
お姉さんが謝り私もお辞儀をすると、人差し指を口元に持っていった。
その後、私を見て笑顔を見せてきた。
管理の人は、私には怒っていないようです。
「お姉さん、今月のティーン雑誌見たわよ。表紙を飾るなんて、撫子ちゃん凄いやん」
お姉さんは小声で話しているつもりのようですが、私はまだ大きいと思う。
管理の人から、また睨まれたお姉さんは、手を使用して謝っていた。
「ありがとうございます」
私が小声でお礼を伝え会釈をすると、お姉さんは鞄から鏡を取り出し自身を映し出した。
「お姉さんが、ほんの少し若ければライバルやったのに残念やわー。またモデルの仕事、見に行くわね」
「よろしくお願いします」
「あれ? もしかして、本借りにきたん?」
ここは図書館なのですが、お姉さんは何をしにきたのでしょう?
本をよく見ると、ファッション雑誌とティーン雑誌でした。
ここには、ない本です。
どうやらお姉さんは、休憩しに来ているだけのようです。
「はい」
「お姉さんのお勧めは、こっれっよ」
お姉さんが、大きな鞄から本を出してきました。
ですが、どれも私が手にする事を拒みたい題名ばかりです。
その本と言うのが――
幼女の、正しい愛で方。
幼女と、可愛い服の関係性。
ケモ耳尻尾が似合う、幼女の特徴。
コスプレは、幼女の戦闘服。
神は、幼女に優しい世界を創った。
なぜお姉さんは、このような本を読んでいるのでしょうか?
お姉さんが本を確かめていると、鞄の中に綺麗にラミネートされた一枚の写真が見えた。
それは小さな女の子と男の子、それにお姉さんが笑顔で写っている写真でした。
姪御さんと甥御さん、でしょうか?
もしかすると、姪御さんと甥御さんと仲良くなりたいが為に、読まれているのかもしれません。
「著者シュミーロ……」
ですが、私に取っては奇跡とも言える僥倖に恵まれた。
この本の著者さんは、私が探している花ちゃんから聞いた本の著者さんだったのです。
「お姉さん、この著者の本はこの図書館のどの辺りにありますか? うち、どげんしてん、こん人ん本読みたいんよ」
私はお姉さんに、思わず方言で話してしまった。
人前では、丁寧な言葉使いをするようお父様から躾けされていたのに。
ですが、お兄ちゃんの手がかりになるかもしれない重要な本。
丁寧に、言っている場合ではなかった。
「えっ? 図書館には、置いてへんよ。だって、お姉さんの個人所有の本やからね。でも、家にはぎょーさん置いてるわよ。お姉さん、この作者さんのファンやからね」
ファン……少しこの言葉が気になりますが、今はそんな些細な事を気にしている場合ではありません。
「お姉さん、今からお伺いしても宜しいでしょうか?」
お姉さんの事は、お兄ちゃんから一人暮らしと聞いています。
一人暮らしの女性にとって、他人を自宅に上がらせるにはそれなりの準備が必要なはず。
ですが、私は断られる事を覚悟しお祈りするようにお姉さんへ頼み込んだ。
「ええよー。撫子ちゃんなら、お姉さん大歓迎やわ」
するとお姉さんは、笑顔で私の申し出を受け入れた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。