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異世界歴・天正八年 春 ー甲斐ー

 むかしむかし。

 日本によく似た異世界にも『戦国時代』と呼ばれる時期がありました。


 これは今から450年ほど前。

 ひとの世に、神やあやかしが共に存在している異世界”日ノ本(ひのもと)”で、神龍を従えた『越後の龍・上森剣神(うえもりけんしん)』や、炎虎を従えた『甲斐の虎・武隈信厳(たけくましんげん)』ら戦国武将が(しのぎ)を削っていた、群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の世のお話です。



 ***************                ***************


■■■ 異世界歴・天正八年 春 ー甲斐ー ■■■


「おやかたさまは、あつくないの?」


 父の(はかま)(すが)り付いた小さな子供が、得意げに()()り返っている男をこわごわと見上げていた。

 子供の前では、炎を(まと)った白虎が(うな)り声をあげて(うずくま)っている。

 力づくで従えたばかりの霊獣は、(いま)だ男に(なつ)いているとは言い(がた)い。


 (たけ)っている虎の首っ玉に抱き付き、「おやかたさま」と呼ばれた武隈信厳は、慌てて父の陰に隠れた子供に笑いかけた。


「ワシは熱くないが、お前は近づいちゃダメだぞぉ信倖(のぶゆき)。こんがりまる焼けになるからなっ」


 ウケようとしたのかマウントをとりたかったのか。

 さらに調子に乗った信厳が虎にぐりぐりと頬擦(ほおず)りをすると、激高(げきこう)した炎虎が信厳の頭に()みついて、ワニの(ごと)くデスロールをかましてきた。


「ぎにゃあああ!!」

「おやかたさまぁ! うわあああん!!」


 子供の絶叫があたりに響き渡り、家臣たちが一斉に、水を張った(おけ)を当主に向けてぶちまけた。



 ***************                ***************


「……うん。調子に乗り過ぎたな。信倖、トラウマにならなければ良いのう」

「トラウマになったに決まってるでしょ。あんたはいっつも調子に乗りまくった挙句(あげく)に失敗するんですから、もう少し落ち着いて」

「こわーい。怪我人なんだから、もっと優しくしてッ」


 頭に巻いた包帯をぎゅうぎゅうに()め付けられ、信厳は悲鳴を上げた。

 止血しなければならないにしてもキツすぎる。


「や、やめて……頭部の血行が悪いとパゲっちゃうわ……」

「あんたがパゲってきたのは、性欲が強すぎるせいじゃないですか? エロオヤジはハゲるって聞きますよ」

「いやああ! 容赦なさすぎィ!!」


 ごろごろと転げまわる主君を無視し、手当し終わった奥近習(おくきんじゅう)の高崎は、包帯や薬を仕舞(しま)いながら、赤子を抱いた年若い同僚に向き直った。


「信倖はどうした? 泣き止んだか」


 いつもより多く転げております、内心でツッコんでいた男は、はっと我に返る。

 主君の『霊獣之御披露目(おひろめ)』に、嫡男(ちゃくなん)の信倖とまだ赤子の次男・雪村(ゆきむら)を連れてきていた真木昌倖(さなきまさゆき)は、恐縮して頭を垂れた。

 今は馬鹿々々しい事をしているが、あれは主君の晴れ舞台だったのだ。


「今は克頼(かつより)様と遊んでいます。申し訳ありませんでした、御館(おやかた)様。真木の嫡男だというのに、あの程度で情けない」

「信倖を叱るなよ昌倖。首が真後(まうし)ろに回って白目を()いた御館様を見て、泣かない方がおかしい」


 いいからいいから、とはしゃぎかけた信厳を、高崎がすぱんと遮断(しゃだん)する。


 ボケる信厳、ツッコむ高崎、それを周囲で(はや)し立てる家臣たち。

 武隈家とその家臣団は、いつもこんな調子だった。


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