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暗愚な王太子、野心溢れる皇太子、わたくしは戦う公爵令嬢

作者: ユミヨシ

ユリーナ・アレクトス公爵令嬢は、ため息をついて、贈られてきた花束と髪飾りを眺めていた。


月に一度のプレゼント。婚約者なのだから当然の扱いだろうけれども、

何故かプレゼントはあるけれども、この国の王太子はユリーナに会って交流を持とうとはしなかった。婚約して3年にもなる。会ったのは互いに15歳になる初回、婚約を言い渡された王家のテラスでお茶をした一度だけだ。髪色が金髪で青い瞳のアルド皇太子殿下。背が高くて男らしい方と言う印象はあって好ましく思ったのだけれど。会話はまったく弾まなかった。

趣味は?と聞かれて、読書ですわ、と答えて。好きな食べ物はと聞かれて、桃ですわ。と答えて。そんな感じだった。


きっと…わたくしの事、お気に召さないのだわ。


アレクトス公爵家は国一番、権力のある公爵家である。


その家の長女であるユリーナが王妃候補に挙がるのは当然の事で。


社交界デビューをする年になって、夜会に初めていった時も、既にアルド王太子殿下は、他の女性をエスコートしてダンスを踊っていた。


まるで自分と言う婚約者がいないように、空気のような扱いで。


エスコートしてくれて、夜会に連れて来てくれた兄ジョイドが、ユリーナの気持ちを汲んでくれて。


「酷い男だ。王太子殿下は。ユリーナという婚約者がありながら、エスコートもせず、他の女性と踊って。ユリーナの事はまるで無視。なんて事だ。」


「いいのです。婚約して以来、一度もお会いしていないお方ですから。」


その時、数人の貴族令息達が近づいてきて、


「ジョイド殿。こちらが、貴方の妹君のユリーナ殿。」

「これは噂通りだ。美しい。」

「王太子殿下の婚約者だなんて、もし、そうでなかったら私が申し込んでいる所だ。」

「いや、それを言うのなら私だって。」


口々にユリーナの事を褒めちぎる。


どうも、ユリーナの美しさは評判になっているようだった。


「是非、私とダンスを。」

「いや、私とダンスをっ。」


口々にダンスを誘う貴族令息達。


他の貴族令嬢は嫉妬を籠めた目でこちらを見ていて。


アルド王太子殿下はと言うと、連れの令嬢と共にユリーナの方を見てぽかんと驚いた顔をしていた。


「ユ、ユリーナか?」


「ええ、そうでございます。王太子殿下。」


「美しくなったな。」


「そうですか?」



そう言えば、3年前のユリーナは、それ程、美しい令嬢ではなかった。

食が細くて痩せていたのだ。

それを改善するために、領地の中でも空気と水の美味しい所へ滞在し、

食が進むようになり健康的にユリーナはなる事が出来た。


アルド王太子は、ユリーナに手を差し出して、


「是非とも私とダンスを。」


連れの令嬢がアルド王太子の袖を引っ張って、


「酷いですわ。婚約を白紙にして、わたくしを娶って下さると言っていたではありませんか。

王太子殿下。」


「所詮、男爵令嬢。側妃にしては良いが、王妃という器ではないわ。」


その時、一人の男性が、貴族令息達を押しのけて現れた。


「是非、私とダンスを踊って下さいませんか。ユリーナ。」


「貴方様は。」



レイベルト・ランディーノ


ランディーノ帝国の皇太子である。


レイベルト皇太子はユリーナの手を取って、


「貴方は冷たい人だ。私の気持ちは伝えていただろう。」



そう、ユリーナが領地で静養していた時に、国境近くの街へ買い物に出かけた事があった。

そこで知り合ったのだ。


数人の男達と共に、街に居たレイベルトと。


何回か顔を合わせるうちに、親しくなって街のカフェでお茶をすることになった。


「可愛いお嬢さん。君はアレクトス公爵令嬢と聞いた。王都の事、聞かせて欲しい。」


「わたくしは、あまり詳しくはありませんわ。」


「それならば、父上の事とか。私は君の父上と親しくなりたいのだ。」


「父は、忙しくてわたくしにあまり構ってくれませんでしたわ。だから、期待しないで下さいませ。」


馴れ馴れしく色々と聞いてくるレイベルト。


ユリーナはこの男は何か魂胆があるのではないのかと思い、それ以降、

この街へは行かないようにした。



ユリーナはその事を思い出して、きっぱりとレイベルトに宣言する。


「わたくしは、貴方様と親しくなりたいとは思いませんわ。」


「冷たい人だ。そこがまた、魅力的なんだがね。」


兄のジョイドが近寄ってきて。


「まことにすみませんが、妹は気分が悪いと言っておりますので。」


ユリーナの手を引いて、


「ユリーナ帰ろう。」


「ええ。お兄様。」



夜会等、行くのではなかった。


ユリーナはそう思った。


美しくなったユリーナを見て、手のひらを返したように、近づいて来たアルド王太子。


何やら思惑があるレイベルト皇太子。


他の貴族達も油断はならない。



周りは敵だらけなのだ。




父であるアレクトス公爵は、悩むユリーナに、


「お前は我がアレクトス公爵家の令嬢だ。常に凛とあれ。いずれは王妃になって、アルド国王を補佐せねばならん。」


ユリーナはため息をついて、


「アルド王太子殿下は、噂通り駄目な方。優れた方とは思えませんわ。」


ジョイドも頷いて、


「ユリーナに対する態度がそれはもう、見ていられません。でも…酷なようだけれど、

ユリーナ。我が公爵家にとっては暗愚な国王程、扱いやすくていいんだけどね。」


アレクトス公爵も頷いて、


「暗愚な王太子殿下として有名だからな。そして、あの男は国王陛下の一人息子。

ユリーナ。お前はあの男と婚姻して、王妃になるのだ。我が公爵家の為に。」


「解りましたわ。お父様。レイベルト皇太子殿下の方は如何致します?」


「我が公爵家を取り込みたいのだろう。ランディーノ帝国とも領地は隣接しているからな。」


「取り込まれる訳にはいきませんわね。」




ユリーナは決意をした。


自分はアレクトス公爵家に生まれたからには、公爵家の利益になるように生きなければならない。


恋などと甘い事を言ってはいられないのだ。


あの暗愚のアルド王太子を、操るぐらいの悪女にならねばならない。


翌日、ユリーナは以前、プレゼントで貰った紫の宝石があしらわれた髪飾りを着けて、

紫のドレスを着て、アルド王太子に会いに王宮へ行った。


アルド王太子は喜んで出迎えてくれた。


「この髪飾りは…」


「ええ。王太子殿下に頂いた髪飾りですわ。似合いまして?」


「とても似合っている。ユリーナ。」


アルド王太子は嬉しそうに背後から抱きしめる。


「たまらないな。ユリーナはいい匂いがする。あの男爵令嬢もいい匂いがしたが。」


「王太子殿下。わたくし、下賤な側妃は嫌ですわ。側妃を選ぶのであれば、もっと高位な家からお選び下さいませ。」


「確かに、あの令嬢は下賤であったな。」


「そうでございましょう。恥をかくのは王太子殿下でございますのよ。」


「解った。」


「よろしければ、わたくしが、何人か見繕って差しあげますわ。どんな令嬢がお好み?」


「胸があった方が。」


「解りましたわ。」


アレクトス公爵家、派閥の令嬢を見繕えばいいのだ。

全てはアレクトス公爵家の為。


まだ婚姻していないのに、褥を共にすることは出来ない。

ユリーナは熱い口づけをアルド王太子と交わした後、その場を後に後にした。


馬車に乗ろうとすると、レイベルト皇太子に声をかけられる。


「話がある。共に馬車に乗ってもよろしいか?」


「何でございましょう。わたくしは、貴方様と親しくしたくはありませんのよ。」


「ユリーナ。」


馬車の前でユリーナを強く抱きしめるレイベルト皇太子。


「私の物になれ。お前も、アレクトス公爵家も。」


「お断りしますわ。」


ゆっくりとレイベルト皇太子から離れると、ユリーナは微笑んで、


「わたくしはこの国の王妃になります。ですから、貴方様の物になるつもりはありません。」


「長い物には巻かれろと言う事だ。我が帝国の方が軍事力はある。この国など、その気になれば押しつぶしてくれよう。断頭台で泣いて後悔してもしらぬぞ。」


「その時は、微笑んで見せますわ。貴方に向かって、にっこりと…」


「それならば、強硬手段に出る事にする。覚悟するがいい。」


そう言うと、レイベルト皇太子はその場を後にした。


ユリーナは不安に襲われる。何をする気なのだろうか…





ジョイドとユリーナには腹違いの8歳になる可愛い妹がいた。マリアベルである。


ジョイドとユリーナの母はとっくに亡くなり、マリアベルの母もマリアベルを産むと同時に亡くなっていた。


だから、天使のようにかわいいマリアベルは公爵家一家に可愛がられていたのだが、

アルド王太子はアレクシス公爵家に、ユリーナにこう言ったのだ。


マリアベルが後、8年したら、側妃へ差し出せと。


さすがのユリーナも怒りを覚えた。


アルド王太子に抗議をする。


「マリアベルには、我が公爵家で相手を探して、婚姻させます。わたくしが婚姻するのですから、何も同じ家から側妃を出さなくてもよいではありませんか。」


アルド王太子はニンマリ笑って、


「君の妹なら美人になろう。側妃は何人いてもいいからな。」


許せない。マリアベルだけは… 大事な大事な妹マリアベル。


屋敷に帰れば、レイベルト皇太子が待っていた。

アレクトス公爵も、兄のジョイドも不機嫌に、ユリーナを出迎えて。


ユリーナが口を開く前に、アレクトス公爵である父が、


「我が公爵家に、ランディーノ帝国へ属せと…それがマリアベルの為だと。」


ユリーナはレイベルト皇太子に向かって怒りまくる。


「貴方様が、アルド王太子殿下に言ったのですね。マリアベルを側妃にと。」


レイベルト皇太子はニヤリと笑って、


「承知したのはあの男だ。私は耳打ちしたまでよ。」


そして、ユリーナに向かって囁く。


「私は君に子が生まれない限り、側妃は取らぬ。アレクトス公爵家を我が帝国は優遇するぞ。

私の妃になれ。ユリーナ。それがお前にふさわしい生き方だ。」



悔しい…悔しい…悔しい…


普通ならマリアベルを犠牲にしていたでしょう。

でも、マリアベルを犠牲に出来ないわ。

それは父上も兄も同じ。マリアベルは我が公爵家にとって宝ですもの。


アレクトス公爵は頷いて。


「我がアレクトス公爵家は、レイベルト皇太子殿下に忠誠を誓います。」


兄のジョイドも、


「私も同様に皇太子殿下に忠誠を。」



ユリーナは涙を流して、


「解りましたわ。わたくし、貴方様の妃になります。」




アルド王太子の国はしばらくして、ランディーノ帝国に滅ぼされた。

国王陛下と王妃、そしてアルド王太子は、辺境の修道院へ送られて、監視されて暮らしているとの事。



ユリーナはレイベルトの妃になり、後にランディーノ帝国の皇妃になった。


ユリーナは権勢を振るい、兄、ジョイドの元、アレクトス公爵家は更にランディーノ帝国内で発展した。


皇子を2人、生んだ彼女が、レイベルトを愛したかどうかは解らない。


帝国の二人を良く知る人物によれば、

レイベルト皇帝とユリーナ皇妃は夫婦というよりも常に戦友のようだったといい伝えられている。


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