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90話 負けられない


「よし! 完璧よ!!」


 決勝戦第一マッチ終了。

 マモルこと僕らチーム『APG』は見事スターを獲得した。序盤からの良い流れを上手く最後まで保つことが出来たおかげだろう。


「『GD』は首位転落……序盤に落ちて点数を稼げてなく、二位のチームが暴れていたからですかな」


 順位表を見ながらジイクさんが言う。優勝を目指す僕らにとって一位との点差が縮まるのはありがたいことだ。




「『GD』……何か不調みたいだね」

「分かるんですか?」

「うん。前に学べるものがないかってたくさん過去の動画見たことがあるんだ。でも今日の『GD』はいつもと違うと思う」


 リリィさんが会場に流れる第一マッチのリプレイに映し出された『GD』の壊滅シーンを眺めている。

 『技能模倣(コピー)』はプロの技能を観察して再現しているわけで、つまりリリィさんの観察力はかなり高い。そのリリィさんだからこそリプレイシーンからだけでも推察出来たのだろう。


「…………」


 みんなには昨夜カイト選手と話したことは言っていない。僕にわざわざ負けられない理由を話したほどの空回り具合。それがそのまま本日のプレイに影響しているのかもしれない。


 こっちの良い流れに加えてあっちの悪い流れ。

 チャンス……ではあるが。




「上手く行っているときこそ堅実に、です。僕たちは僕たちのやるべきことをやっていきましょう次のマップが発表されましたので作戦会議をしますよ」


 みんなに呼び掛ける。




 流れなんてものに頼りきるつもりはない。

 自分たちの実力で切り開く、それだけの力はある。


 それに。


(アマチュア最強の称号は伊達じゃない…………相手の失態ばかりに期待できるはずがない)


 半ば確信めいた予感が僕の中にはあった。






========






 『GD』チームスペースにて。


 それから二マッチを終えて、第四マッチが始まろうとしていた。


(3マッチともパッとしない結果だ……)


 カイトこと俺は自身の不甲斐なさに憤慨していた。


 1マッチ目はほとんど最初に落ちて、その反省を踏まえて2マッチ目は慎重に行くもやりすぎて0キルの8位とポイントを稼げず、3マッチ目は中盤で1部隊壊滅させるも戦闘が長引いたせいでやってきた漁夫に負けるというよくある死に方で4キル12位。


 気づけば総合順位も3位まで落ちている。1位とそこまで差は付いていないが、問題は上ではなく下だ。

 最下位からスタートしたチーム『APG』が猛追を見せて総合順位6位にまで付けている。追い抜かれるのも時間の問題だ。




(原因は分かっている。俺のオーダーのせいだ)


 いつものキレが全く感じられない。凡百のオーダーが出す指令しか出せていない。当然そんな立ち回りで戦えるほど甘い舞台ではない。


 アポロンにも、アルテミスにも、シズカにも非は無い。

 みんな俺の指示に100%応えてくれる。

 なのに俺は……どうして……。




「………………」


 この大会は絶対に負けられない。世界の滅亡まで残った時間は少ない。今すぐにでもプロ界隈に潜入して『組織』の陰謀を暴かないといけない。


 負けられない、負けられない、負けられない、負けられない、負けられない……!









「なあ、カイト」


 そのときアポロンの声が耳に届いた。




「……どうした?」

「そういや聞いてなかったけど、カイトって大会の優勝賞金何に使うつもりなんや?」

「………………は?」


 思考がフリーズする。

 まだ優勝もしていない、決勝戦の途中なのに、賞金の話……? いやそもそも賞金など知るか、プロ入りして世界の滅亡を防ぐことだけが俺の使命であり――。




「ワイはやっぱ旨いもん食おうと思ってるんや! 全国各地からお取り寄せするで!!」

「…………」

「カニ、ステーキ、メロン!!」




「全く、アポロンも馬鹿言ってるんじゃないよ」


 アルテミスがその言動をたしなめる。




「そ、そうだな……今は――」


「食べ物なんて食べたらそこで終わりじゃない。お金をかけるべきは機材からでしょう。ゲーミングチェア、ヘッドセット、ゲーミングデバイス……全部最高級品で取り揃えたいわね」


 アルテミスまでそんなことを言い始める。




「ワイは今の機材で満足しているんですー。弘法筆を選ばずですー」


「そうね、あんた程度のレベルじゃ違いが分からないものね」


「ああん、何おう?」


「その喧嘩買うわよ」




 そんな低レベルな言い争いを始めたところで。




「全く二人ともそこまでにしなさい」


 シズカが仲裁に入る。




「聞いていれば食べ物だの機材だの……くだらない。真に買うべきは疲労回復グッズよ。マッサージチェア、バスグッズ、あと寝具周りは全部変えたいわね」


 いや、火に油を注いだだけだった。






「疲労回復って……ババアかいな」


「あんたみたいなガキの面倒を見ているから疲れているのよ」


「あ、それも良いわね。候補に入れときましょ」


 3人の話は止まらない。こうしている内に第四マッチの開始は迫っている。


 どうしてこんな……世界の滅亡を防ごうと思っているのは、負けたくないと思っているのは俺だけなのか……?






「………………」


 いや、違うか。


 そういえばあのときもそうだった。


『組織』からの脱走がバレて窮地に陥ったときに。




『なあ、普通の暮らしを送れるようになったら何がしたい?』


 言い出したのはアポロンだった。






「ふっ……ったく」


 苦笑混じりについ呟く。


 すると三人とも話を止めて、俺の方を向いた。




「旅行に行くぞ」


「……ほう」

「え?」

「それは……」




「プロ入りしても地盤を固めるまですぐには動けないはずだ。それまでの間で賞金を使って旅行に行く。場所は……そうだな、南の島がいい。昼は海水浴に夜はバーベキューだ」


「おっいいな! 気が合うやないか!」

「私は山がいいけど……」

「近くに温泉があると嬉しいです」




「場所の選定は終わってからだ。とりあえずまずは次のマッチ……勝つぞ」


「りょーかい、っと!」

「そうね」

「承知しました」




 3人とも良い返事をする。


 世界の滅亡を防ぐため負けられない。


 それはそれとしてこのメンバーで大会を勝ち抜きたい。




「少し焦りすぎていたか……」


 程よく肩の力が抜けている。つまり今まで力が入っていたわけで、それでいいパフォーマンスが出来るわけない。







(そういえば彼は言っていたな……)

 昨夜のマモルとの会話を思い返す。




『勝ちたい理由はそれが楽しいからです。そんな小さな理由ですからお気にせずどうぞ』




「そんな大きな理由のために戦っているものに……勝てるわけが無かった、ということか」


「……ん、何か言ったかカイト?」


「いや、何でもない。時間もない、作戦を話す」









 そうして始まった第四マッチ。


 チーム『GD』は序盤から他チームを圧倒。


 16キルのスター獲得で一気に首位に返り咲いたのだった。



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