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87話 滅亡


「これで良かったか?」

「え、あ、大丈夫です」


 カイト選手が自販機から取り出したお茶を受け取るマモルこと僕。

 話を聞いてもらうせめてもの礼だ、ということで奢られたのだ。

 二人して椅子に座りテーブルを挟んで向かい合う。




「そうだな……まずは今日のラストマッチ見事だった」

「あ、ありがとうございます」


「インタビューは聞いた……『煽争アジテーション』作戦だったか。そのアイデアは俺の中に無かったものだ。もし俺が同じ立場だったら一か八かで抗戦していただろう」


「カイト選手ほどの力があればその選択で十分だと思います」


「何を言う。お前の戦わないためのオーダー、ベクトルは違えどそれもまた力だろう。……まあ歪だとは思うがな」


「そうですね、自分でも真っ当では無いと思います」


「…………」




 何の意図をもって僕が呼び止められたのかは分からない。

 だが好都合だ。




「でもこの力で明日は勝ちます、勝たせてもらいます」


 僕は言い切った。

 気持ちでは負けない、自分を追い込んで後に引かないように喝を入れる意味でも。




「そうか……当然だな。誰だって勝つためにこの大会に参加している。当たり前のことだ」


「…………」


「それでも……俺には負けられない理由がある」


 硬い表情で言い切られる。


 昨日、大会準備の会場入りで偶然出会ったときも同じような表情だった。


 何か抱えているものがあるんだろうか?






「何で負けられないのか……理由を聞いてもいいですか?」


「世界の滅亡を防ぐためだ」


「……、…………、………………?」




 セカイノメツボウヲフセグタメダ?


 頭の中で反芻してみるもどうにもその言葉の真意が掴めない。


 SSSの全国大会で優勝することが……どうして世界の滅亡と繋がるんだ? え、そんな重要な戦いだったのか? あ、いやこれボケなのか? 『そんなわけないだろ!』とツッコむべきなのだろうか? いやでも真面目な表情しているし……いやそこまで含めたお笑いなのか……?


 混乱する僕を他所にカイト選手は説明を始める。








「俺たち四人は『組織』で生まれた。『組織』ではエージェントを育てるため幼い頃から徹底した教育を施していた。俺たちのセクションで教育された子供たちは50人。毎日血の滲むような特訓、他の子どもたちとの競争があった。 誰も信じられない日々。だが唯一あいつだけは……いや話が脱線しているな。そうして迎えた最終試験の日。俺ら四人は脱走を計画していた。腐った『組織』の内部にも俺たち子供たちを哀れんでくれるような聖人はいた。……そう、いたんだ。だがあの人は殺され、計画のバレた俺たちは窮地に。……ってこれも関係ないか。そうして掴んだ平和な日々。だが当然あの『組織』が存在している以上そんなわけはない。この度俺たちはやつらの計画を傍受した。それはそう、SSSのプロゲーマー界隈で計画を実行することで世界を滅亡させる恐ろしい計画。計画の詳細は……部外者には教えられないが。だから俺たちはプロゲーマー界隈に潜入してその計画を防ぐ。


 そのためにも負けられないんだ」




「……なるほどな」


 何がなるほどなんだ?

 一から百まで作り話としか思えないんだが。『組織』ってなんだ? っていうかそこまで言いかけたならちゃんと全部説明してくれ、色々気になる。あの人が殺されて窮地に陥って、どうやって生還したんだろうか?




「…………」


 そんな中二病の妄想のような話をしていた間も真面目な表情だ。


 どうやらボケではなく、本気で話しているようだ。


 世界の滅亡を防ぐ、そのために負けられない……か。





「その話を僕にして何が言いたいんですか?」


「っ……それは……」


「詳しいことは分かりませんが世界の滅亡を防ぐ、とは大層な目標ですね」


「…………」




「じゃあ僕にも負けられない理由があるんですよ。この大会優勝したら賞金とともにプロゲーマーになれて大金を稼ぐことが約束されますよね。そのお金を使って僕は不治の病にかかった妹を助けたいんですよ。だから負けられないんです」


「…………」


「そうだとしたら世界が滅亡することが分かっていても、妹を助けるために僕らが勝つことを優先するのは悪ですか? 理由の大小で勝つべき、負けるべきが決められるべきですか?」


「いや……違うな」


「僕らが勝つことで世界が滅びるようなら、そんな世界滅びればいいです。そんなに世界を滅ぼしたくないなら負けなければいいだけです」




「……すまなかった。大変無礼だったな」


「いえいえ。僕だって勝利宣言なんてしましたし、そもそも理由も僕が聞いたことですし。

 ちなみにさっきの話は嘘です。僕に妹はいません。勝ちたい理由はそれが楽しいからです。そんな小さな理由ですからお気にせずどうぞ」


「……ああ、そうだ。負けなければいいだけ……そうだ」


 カイト選手はブツブツと呟きながらその場を去っていく。




「…………」


 何かすごいことになったな。

 今のやり取りを経て、僕の中に動揺は無かった。


 元々分かっていたことだ。この大会に出場するのは誰だって勝つことが目的だ。彼らはそこにちょっと世界の滅亡という理由が乗っただけ。

 だからって僕らが負けてやる理由にはならない。




 どちらかというと問題はカイト選手の方にある。

 わざわざ僕を呼び止めて、あんな理由まで話して……まるで勝負相手である僕らに同情してもらって負けてほしいと言わんばかりに。

 どう考えてもメンタルに異常を来たしている。


「だったら好都合だな」


 強敵が勝手に弱ってくれるのだ、これほど喜ばしいことはない。




 さて早めに寝て明日へ備えないと。


 と、立ち上がって部屋に戻る途中……どうしても頭から離れないことがあった。






「うーん……やっぱりどうやって窮地から生還したんだろうか……気になるなあ」



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