85話 完璧
これがラストマッチで助かったな。
僕らのように順位を上げるのに必要なポイントが各々分かっているため、無理矢理にでもキルムーブに出る部隊が多い。
そのおかげで戦局がよく動き誘導がしやすい。
これが初戦とかだと陣取りゲームのようになって、一人の僕が生存する場所は無かっただろう。
……って、まあその場合だと僕らだってこんな無茶なムーブしないし、意味ない仮定だな。
第二収縮を終えて第三収縮の待機中。
『火口』付近から逃げてきた僕は『エネルギー研究所』の一隅に潜んでいた。
第三収縮を終えるタイミングで安全地帯の端となる予定で、さらにこの『火山地帯』で一番大きなスポットであり隠れるのにもちょうどいい。
しばらく待っていると第三収縮が始まり、さらに研究所内に戦闘音が響き始めた。
「よし、やってるな」
『火口』付近での戦闘に引っ張られた部隊が、安全地帯の内側を目指そうとするも、同じように動いていた他の部隊と走りながら戦っている。
そうなることは分かっていた。
安全地帯に向かって急がないといけないが、無防備に走っては相手部隊に落とされる。それ故に交戦しながら進むが、もちろんスピードが落ちて泥沼といった状況。
「さて仕上げに……っと」
僕は手榴弾を取り出して放り投げる。逃げてくる部隊、その背後に落ちるように。
戦闘をするつもりはない。その証拠に手榴弾はダメージを与えていない。
だがこれで二つとも部隊を倒せる。
と、僕が目論んだとおりに爆発後、逃げていた部隊は一転、足を止めてもう一方の部隊に襲い掛かる。
急な攻撃に攻められた部隊は壊滅。
攻撃した部隊も範囲に飲み込まれてダメージを食らい壊滅した。第三収縮ともなれば大ダメージになる。
何故こうなったか? 逃げていた部隊の心理は手に取るように分かる。
あの手榴弾一発で安全地帯の端で待ち構えている部隊がいると判断したのだ。このまま逃げても待ち構えている部隊に倒される。
それだったらもう一方の部隊を倒して少しでもキルポイントを稼いだ方がいい。
落ち着いていれば待ち構えている部隊の全容を把握する余裕もあっただろうが、戦場は瞬間の判断が重要だ。実際にちゃんと待ち構えられていたら正解の行動であり、そのまま逃げ続けるべきだった、というのは結果論でしかない。
とにかくこれで部隊の数を減らすことに成功した。
順位を二つは上げたということでちゃくちゃくと進んでおり――。
「……っ!?」
その時近くで足音がした。慌てて隠れるが……姿を見られた気がする。
マズい、マズい、マズい……!!
くそっ、何でこんな安全地帯の端にまで部隊がやってきたんだ!? 漁夫を狙っているならもうちょっと早く来い! そしたらさっきの部隊の始末は任せてやったのに!!
内心で悪態を吐くがそれで事態が改善するわけじゃない。
戦場にイレギュラーは付き物だ。
そんなことは分かっている。
でもそれが起きるべきは今じゃないだろう……!!
「……………」
いやでもこの事態を予想してすぐに隠れるべきだったか……気を抜いた。
みんなの頑張りに応えるために、僕は完璧じゃないといけなかった。
他じゃない、僕が悪い。
どうする……ここからリカバリーするためには……気付いていない可能性に賭けるか? それとも一か八かで安全地帯の外の方に逃げるか……でも、体力が続くかどうか。
「負けられない……みんなのためにも負けられない……!」
小声で呟きながら僕は決断しようとして。
「早く負けなさいよ、マモル!!」
そんな声が聞こえてきた。
「……え?」
「もうアカネちゃん何てこと言ってるのよ!! ……あ、ごめんね、マモル君。こっちの方は気にせず集中してね」
「……いやいやいや無理ですよ!! 一体何があったんですか!?」
「ふぉっふぉっ、どうやら会場の実況もマモル様の現状に気付いたようでして、場内が盛り上がっているのです」
「現状……?」
「『このまま2位まで上がればDAY1突破! さあ一人でどこまで粘れるのか!』……って大注目よ!! マモルのくせに、アカネよりも目立ってるんじゃないわよ!!」
「えぇ……それは理不尽だろ」
でもそうだ、ヘッドセット越しではあるが確かに周囲のボルテージが上がっているのを感じ取れる。
「もうほんとごめんね、集中を乱して」
「……いえ、おかげさまで視界がクリアになりました」
大きく息を吸って吐き出す。
そう、気付けば周囲から足音はしなくなっていた。どうやらみんなと話している内に敵は立ち去ったようだ。どうやら僕に気付いていなかったということだろう。
焦って飛び出したらそれこそ見つかって終わっていた。
僕は完璧じゃない、でも敵だって完璧じゃない。
そして『完全指揮』だってきっと完璧じゃない。
ふとそう思った。
「はっはっはっ、楽しくなってきましたね!!」
僕は高笑いを上げる。
追い詰められて大切なことを忘れていた。
これはゲームだ、楽しまないでどうする。
こんな大舞台で、しかも大勢が注目する中で、大それたことをしでかそうとしているのだ。
僕はワクワクするべきなんだ。
「ジイクさん、一ついいですか?」
「何なりとお申しください」
「この試合、2位になれたら、こうかっこいい編集を入れて動画化してくれませんか? 後付けの解説でも何でも協力しますので」
「……ここまでの注目度ならば動画化すればかなりの集客を見込めます。願ってもない提案ですな」
「はぁ? そんなの絶対駄目よ! ア・カ・ネ・のSSS爆勝chなのよ! 何、堂々と乗っ取ろうとしているのよ!!」
「そうだな……じゃあ今度からマモルのSSS爆勝chに改名するか」
「……もう一度言うわ。さっさと負けなさい」
「ア、アカネちゃん。負けると私たちが優勝出来なくなるんだけど……」
「じゃあ目立たないように勝ちなさい!」
「この状況から勝てばどうしても目立つでしょうな」
「……分かったわ。じゃあ終わったら訓練場に来なさい。一対一でボコるから。『生意気なオーダーをボコってみた』って動画出すから」
「理不尽だろ、それ」
アカネの声音からして本気だろう、おっかない。
「マモル君」
「何ですか、リリィさん」
「目一杯楽しんでね!!」
「もちろんです」
話しながらも周囲の状況確認は怠っていない。
先ほどまでいた部隊が十分に離れたと判断して行動を開始する。
残り生存者48人。約半分は残っている。
2位になるとしたら生存者が5人以下となる計算だ。
でも今の僕はそれが遠いとは思わなかった。




