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8話 安全地帯


 『廃墟の神殿』で一つの部隊を倒して。

 さあ勝負はまだまだこれからといった雰囲気で。


 それから十分ほどユリこと私とマモルくんは敵と戦うことが無かった。




「それにしても暇ですねー」


 『神殿の廃墟』から出て敵になるべく見つからないルートを辿って、今回の安全地帯に設定されたマップ北東の方にある小屋に入って。

 その後どんどんと収縮する安全地帯だったが小屋は運良くずっとその内側に在り続けた。


 一度だけ敵の足音が聞こえてきたときはビビった。というのも小屋はマモルくんの判断で扉を開けっ放しにしていたからだ。

 曰く『扉が閉めているとまだ漁られていない、物資が落ちているかもしれないと入ってこられる可能性がある』とのことだ。

 外から見えない場所に隠れているとはいえ、扉が開いている状況は本当に心許なかった。


 結果的には、敵は私たちに気づかないまま素通りした。去っていくその無防備な背中に銃弾を叩き込みたい欲求に駆られたが、何の策も無く二対四を挑んでも負けるだけですよというの言葉にどうにか踏み止まった。


 二人しかいない状態ではよほど条件が整わないと仕掛けられない。

 また物資もそれなりに揃った今、戦う必要性も薄い。

 というわけで生まれた十分間の暇な時間に私たちは雑談を交わしていた。




 私はこれまで他のSSSプレイヤーと話したことがなかった。

 話したい欲求はあったのだが、それをどこで発散していいのか分からなかったのだ。現実でもSNSでもSSSをプレイしているとは明かしていなかったから。


 それにマモルくんの立ち回りのおかげで、私なんかでも『部隊壊滅』の称号を取ることが出来た。

 欲求の爆発にマモルくんへの興味も加わって、それはもう質問攻めにした。


 その結果、私の中にはSSSの有意義な情報が溜まっただけでなく、会話の端々からマモルくんが学生であること(おそらく高校生?)は掴めた。


 声の感じから年下だとは思ったけど……私が今26だから高一なら10歳下、高三でも8歳下かー。

 なのにあんなすごい指示……そんな年でと言うべきか、これが若さかと言うべきなのかは分からないけど。




「どうやら暇な時間は終わりみたいですよ。この小屋は次の収縮の範囲外です」


 私の暇ですねーという言葉に反応してマモルくんが言う。


「あっ、そうですね。移動しましょう」


 SSSでは時間と共に狭まっていく範囲の外に出るとダメージを受ける。ダメージを受けないようにその範囲内にいるために部隊が動くことで敵と遭遇、戦闘が起こるという仕組みになっている。

 ゲームによって呼び名だったり細かい仕様は違ったりするが、バトルロワイヤルではよくあるシステムだそうだ。




 私たちは周囲を警戒しながら移動して次の安全地帯の端、小高い丘の上までやってきた。

 表示されている残りは四部隊。私たちを除いた三つの部隊がどこにいるか眺めることが出来た。


「丘の下に一部隊、巨大樹の上に一部隊、その間に挟まれた一部隊……という配置みたいですね」


 マモルくんの言うとおりで、その三部隊で戦闘が起きているためか、私たちの方に注意を払う部隊はいない。

 激しい攻撃に晒されているのは挟まれた部隊だ。両方の部隊から攻撃されて逃げる場所も隠れる場所もない。

 その内最後の一人も倒れて残りは全部で三部隊。


 位置関係だけで言うと巨大樹の上の方が有利だ。私たちがいる丘よりも優に高い場所を取れているから、もし攻め込もうと思えばあっという間に上から撃たれてやられるだろう。

 しかし一番ピンチな部隊はその巨大樹の上にいる部隊だった。




「次の安全地帯から巨大樹は外れているから、あの部隊はどこかで移動するでしょう。いや助かりましたね、流石にあそこが範囲内だったら勝つのは無理でした」


 次の安全地帯は私たちのいる丘を含む一帯のみ。巨大樹の上にいる部隊はあれだけ有利な場所を自ら放棄しないといけない。

 収縮までのカウントが残り5秒を切ったタイミングで部隊は地上へと飛び降りた。

 仕様としてどれだけ高所から落下してもダメージは無いけど、着地した際に一定の隙が出来るようになっている。

 そこを狙って丘の下の部隊が攻撃を仕掛けて。


「今、ですよね!」

「その通りです!」


 事前の打ち合わせ通り、私とマモルくんの二人部隊はその丘の下の部隊を撃った。




『なるべくギリギリまで戦場に三部隊は残しておきたい』


 マモルくんが雑談の間に語った言葉です。


 残り二部隊になれば敵は私たちだけを相手することに集中出来る。そうなれば人数で劣る私たちは不利。

 三つどもえの状況で私たち以外の部隊をとことんまで争わせて削り合わせるのが理想。


 だから飛び降りた部隊の援護する要領で丘の下の部隊を攻撃する。

 私たちの攻撃に晒されてたまらず攻撃の手を止めた。物陰に隠れて丘の上からの射線を切る。

 その間に飛び降りた部隊も岩の影に隠れることに成功したようだ。




「理想的な状況です。三つどもえでなおかつ僕たちが一番の高所を押さえていて戦況のコントロールをしやすい。後は最終安置が丘の上なら迎え撃つだけで勝てますが……」

「あ、出ました。丘の中腹ですね」


 今の収縮が終わって、次の収縮の場所が表示される。


「……遮蔽物が無くて僕たちが移動する際も下から撃たれそうですね。となると次の収縮までに……いや収縮中に決着を付けるのがベストか」

「それより下の部隊が戦闘始めましたよ! どうしますか!」


 マモルくんが考えている間に二つの部隊が戦い始める。

 といってもお互い巨大な岩から顔を出して撃っては隠れてを繰り返す牽制のような戦闘だ。突撃するにも互いの元に至るまでに遮蔽物が少なく集中放火されて落とされるから迂闊に動けないのだろう。


「しばらくはちょっかいを出せませんね」

「どうしてですか?」

「現状ですが丘の下の部隊が有利です。装備の差でしょうね。巨大樹の上に籠もっていただけなのか装備が貧弱なのに対して、下の部隊は全員がEXウェポンと高級アーマーを装備しています」

「えっ!?」

「ここに至るまでに何部隊も戦って倒して装備を奪ってきた結果、そこまでの装備をそろえたのでしょう。こればかりは戦ってきた者の特権です。

 そしてその余裕で部隊の一人が丘の上を警戒しています。先ほどちょっかいもかけましたし当然の措置ですが」

「へーそうなんです……ひゃっ!」


 聞きながら丘の上から顔を出したその瞬間近くを銃弾が掠めたので、私は慌てて首を引っ込める。確かにかなり警戒されているようだ。


「有利ポジションを取っているとはいえ、装備と人数の差から撃ち合うのは無理ですね。僕たち二人とも中級アーマーに普通の武器ですし」

「でもどこかのタイミングで仕掛けないと勝てないですよね?」


「ええ、ですから勝負の瞬間は下の戦いに決着が付く瞬間……おそらく次の収縮が始まるときでしょう。

 そのときの作戦についてなんですが……一つ案があります。

 僕が犠牲になって隙を作るので、リリィさんには敵を倒してほしいんです」


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