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76話 準備

1100pt超えました! 感謝!


「すごく広いな……」


 本選のドーム会場に踏み込んで一言目に出た感想がそれだった。

 オフラインでの決戦ということで予選を勝ち抜いた人たちが全員集まるわけだから、それなりのスペースが無いといけない、と想定はしていたけど、それでも予想を上回る広さだ。




「明日はこんなところで戦うんだね」


 横に立つリリィさんも度肝を抜かれているようだ。ちなみに現実で会うのは合宿以来となる。




「観客席も十分にあるわね。チケットも完売したって話だし、たくさんの人の前で目立ってやるわよ!」


 アカネのテンションも上がっているようだ。にしても現実の動き付きで見るとクソガキ感が二割くらい増している気がする。




「ふぉっふぉっ、盛り上がるのは分かりますが先にすることはしましょう。私たちのスペースに行って早めに設定を済ませないと」


 逆に2割くらい落ち着いているように見えるジイクさん。言動も同様に僕たちの僕たちのやることを示す。




 SSS全国大会、アマチュア部門の本選は明日だ。

 しかし、選手は前日に会場入りするように運営から通達されていた。


 というのもデバイスの設定のためである。

 FPSゲームにおいて快適にプレイするための環境は人それぞれだ。

 カメラの移動速度や照準の移動速度、アイテムや射撃のためのボタン配置、視野角の設定など、それぞれにこだわった設定をしているのが普通である。


 今回オフライン大会にあたって、SSSをプレイするためのデバイスは大会運営が用意している。

 大会のスポンサーがハイスペックデバイスを選手分だけ用意したというのだから、宣伝目的だとしても太っ腹だ。


 しかし運営側が用意したということは、デバイスの設定は初期状態ということ。

 本選当日は朝から開会式をしてその後すぐから戦いが始まるので、余裕を持って前日にチームごとに用意されたスペースで個人のデバイス設定を行っているのだ。




「……ふう、こんなものかな」


 設定を終えて訓練場で試し撃ちなどをしていつもの感覚でプレイ出来るか、まで確認を終えた。

 ちなみに僕は視野角広めでカメラの移動速度も早めだ。なるべく戦場で情報を素早く集められるようにそう設定している。

 逆に照準速度は遅めで、これはエイムを瞬時に合わせるのが苦手だからだ。




「それにしても……」


 周囲を見回す。

 前日ということで会場を囲むように配置されている観客席はガランとしている。

 対して会場中央、メインステージでの動きは活発だ。僕らと同じようにデバイスの設定をしている選手たちや動き回るスタッフたち。まだ準備段階だというのにその熱量は高い。




「何か感覚違うな……。環境のせい? 設定のせい?」

「この感じならもうちょっとカメラ速度速めていいわね」

「……ふむ。視野角を調整しましょうか」


 他の三人はまだ設定に時間がかかっている。

 デバイスの設定は咄嗟の時にこそ違いが出る、つまりよく戦闘する人の方が凝った設定になっていることが多い。

 またいつもと違ってハイスペックのデバイスのためその調整も必要になったりする。


 僕は普段から比較的初期状態に近い設定でプレイしていたのと、今回用意されたデバイスと同じモデルを使っていることから調整が容易かったため、早く終わり暇を持て余していた。




「散歩でもするか」

 会場内を歩き回ることは特段禁止されていないため、ふらふらとあてどなくさまよう。

 色んなチームのスペースを遠目に覗くが、デバイスの設定に時間をかけていたり、逆に全員終わったのか4人で練習していたりもする。


 何にしろ選手のほとんどがデバイスと向かい合っている中――その人だけは周囲を睥睨していた。

 距離を取って見ていたが、ふと視線が合って、そのままこちらに接近される。




「あ、すいません、じろじろと見て。ええと僕は……」

「いや、名乗らなくていい。知っている、チーム『APG』のオーダー、マモルだろう」

「……そちらこそチーム『GD』のオーダー、カイトさんですよね?」

「ああ、その通りだ」




 そう、まさかの優勝候補『GD』の『完全指揮パーフェクトオーダー』カイト選手とばったり出くわすこととなった。

 カイト選手はメディアでの露出も多い、だから僕はその姿を知っていたのだが。


「それにしても驚きました。僕なんかのことを知っているなんて……」

「謙遜するな。当然のことだ、もう一つの優勝候補の情報を集めることは」


 アマチュア最強とも言われ、界隈でも有名なチーム『GD』。しかしその地位にあぐらをかかずにしっかりと情報収集をしている、されている。




「まあ油断はしませんよね。リリィさんの力を見ては」

「それだけではない」

「……え?」

「貴様のオーダーとしての腕前もだ。あのときの……非公式のソロ大会で見せた御業……忘れるわけがない」

「と、言われましても……」


 何やら因縁めいたものを語るカイト選手だが、あいにく覚えが…………いや、そういえばソロ大会っていうと…………。


「……まあいい。どんな相手だろうと俺は負けない。負けられない理由があるからな」


 記憶のフォルダを漁っている内にこちらが覚えていないと判断したのだろうか、一方的に話を切り上げて去っていくカイト選手。




「ゴーイングマイウェイ、って感じの人だったな。強い人って本当独特の雰囲気を纏っているよなあ」


 取り残された僕はポツリと呟く。




「それにしても……」


 去り際にカイト選手は負けられない理由があると言った。


 勝ちたい・負けたくない、ではなく負けられない。


 そしてその表情は言葉と等しくとても硬かった。


 何か事情があるんだろうけど……。




「うーん……楽しんでゲームしてないのかな……?」








 その後、僕はチームのスペースに戻った。

 デバイスの設定を終えたみんなと一緒に確認や練習をして感覚を掴む。


 夕方、僕ら含め選手たちは隣接されたホテルに戻った。


「明日はこれまで生きてきた中で一番長い一日になるだろうな……」


 普段は夜型の生活だが、翌日のために早めに就寝した。



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