73話 覚醒
『きちんとした戦いだと順当に強い人が勝ちます。弱い人がワンチャン掴めるのは戦場が荒れているときです』
いつだったかマモル君が教えてくれた言葉。
それに従って、みんなの力も借りて、戦場に混迷を持ち込んだ。
落ち着いて囲まれれば私なんて一瞬で倒されるだろうが、今この戦場で落ち着いている人は誰もいない。
私の姿を隠していたスキル『スモークグレネード』の煙が晴れた。
潜んでいられるのもここまで、攻勢に出る。
狙うのは少し距離を開けてこちらに銃を向けている敵。
至近に身を隠せる遮蔽はない、中距離での撃ち合い、どちらが先にダウンさせるかの勝負だ。
お互いどれだけ敵の身体に銃弾を当てられるかが鍵となる。
(こういうときは……)
プロプレイヤー『グラン』選手が持つ技能『中間支配』
確か、指南動画だと――。
(うん、こんな感じだったはず)
撃ち出した銃弾は一直線、レーザービームのように敵の身体を捉えて大ダメージを叩き出しダウンさせる。
(よし、今のでアーマー削られたし交換して……)
距離を詰めてダウンした敵を確殺。棺桶から敵が付けていたアーマーに着替える。
これで体力満タン、まだ戦える。
私は、私だけの強み、技能なんてものを持っていない。
人の真似をするのが精一杯だ。
弱い私らしいセコい戦い方だけど……みんなのチームメイトだと胸を張って言えるように頑張らないと。
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リリィさんはおそらく僕らの技能の真似をしている。
その事実はどうにか飲み込んだ、いや目の前の現実に飲み込まざるを得なかった。
いや、そこまではまだ理解できる範疇だった。
チームメイトとしてこれまで近くで何度も見てきた動きを再現出来たのだろう、と。
しかし、今リリィさんが見せた動きは――僕ら3人の中には無い動きだった
「い、今、弾が一直線に飛んでいったよね……?」
アカネが驚愕している。
FPSをプレイしない人からすれば、銃弾がまっすぐ飛ぶなんて普通のことじゃないか、と思うかもしれないがそうではない。
銃弾を飛ばした反動で銃口が上を向くからだ。撃ち続けるほどにその反動は大きくなり上がり続ける。
そのため一直線に飛ばすためにはその上がった分だけ下げないといけないが、精密な操作が求められる。
訓練場で動かない的を相手にするくらいならともかく、戦場でのプレッシャーの中、棒立ちでは的なので自分も敵も動きながらという条件の下で、敵に対して一直線に銃弾を当て続けるなんて――。
「プロプレイヤーのような……いや正にプロの動きじゃないか、今のは……?」
「……プロプレイヤー『グラン』選手の技能『中間支配』。その動きにすっかり酷似していたように見えましたな」
ジイクさんが肯定する。
リリィさんが僕らの技能だけでなく、プロの技能も再現させた。
実際目の前で起きていることだが……僕には到底信じられることではなかった。
まるでゲームやマンガの展開としてある突然のパワーアップイベント、『覚醒』のような出来事だが……現実ではそんなこと起こるはずない。
考えられる可能性は二つ。
一つはチートなどの不正行為を働いた場合、もう一つはリリィさんが実力を隠していた場合。
でもリリィさんの人となりを知っている僕は両方ともあるはずがないと断言する。
でも……だったら、これは……。
「おそらくですが、リリィ様には元からこれくらい動けるだけの実力があったのでしょうな」
ジイクさんが口を開く。
「どういうことですか?」
「マモル様も見たとは思いますが、リリィ様はネコブラであれだけ複雑なコンボを決められるほどのゲームの才能を持っていました」
「あー、スター杯の打ち上げのときですね」
「幼い頃からゲームをしていて経験値を積んでいる上に、ゲームの才能もある……正にリリィ様はゲームの申し子だったのでしょう」
「ええと……ですが……」
「ええ、それでもマモル様視点からは信じられないでしょう。しかしリリィ様の視点に立って考えれば分かります。
これまで色んなゲームをしてきたリリィ様は、少し前に新しくSSSを始めました。とはいえいくら才能があるといっても操作すら覚束ない状況では勝つのは難しいでしょう。
しかし徐々にSSSにおける経験値を貯めて、リリィ様の才能も花開こうとした……まさにそのときマモル様と会ったのでしょう」
「僕と……?」
「はい。マモル様と一緒に勝ったリリィ様はチームを組んで、以後マモル様のオーダーに従ってSSSをプレイするようになりました。
マモル様は才覚あるオーダーですが……一つだけ見誤っていることがありました。それは――」
「なるほどリリィさんの力の限界値……ってことですか」
すとんと胸に落ちた。
僕はリリィさんの実力が出会った頃のおたおたした初心者から成長していない、と思い込んでいた。
多くのマッチやスター杯などの大会を経て成長しているのに、その頃から変わっていないと思っていた。
だから僕はその範囲で出来るオーダーしか指示しなかった。無理をさせるのは僕のオーダー理念としてないからだ。
リリィさんには『みんなのサポートをしてください』なんてオーダーを出していたけど、本当は『敵部隊を一人で始末しろ』なんてオーダーを出されたら、それを成し得るくらいの力を持っていたのに。
そして今、僕のオーダーから離れて、一人で自分の実力全てを発揮できる状況になって……本来の実力によって戦場を蹂躙している、というわけだ。
「マモル様だけが悪いとは思いませぬ。リリィ様だって自分がまだ初心者であるという態度を崩さなかった……いえ自分で自分の実力に気付いてなかったのでしょうな。これは不幸な事故です」
「……まあそうですね、この事態がわざとだったらさっきマッチの途中で自分が足手まといだ、なんて落ち込んだりしませんからね」
「そうよ、実際にはあんなヤバい『技能』を持った強者じゃない」
アカネが口を挟む。
「合宿のときにどんな技能があるか知るために色んなプロプレイヤーの動画を見るように言ったことで情報が蓄積されて…………そういえば第二予選のバアサーカー相手にもプロ顔負けのアンブッシュを成功させた、あのときから片鱗があったのでしょうな……」
ジイクさんが何やら振り返っている。
その人にしか出来ない技能を、リリィさんは圧倒的な才覚により強引に再現させている。
やっていることは他の人の真似かもしれない。
しかし、多くの人の技能を、高度な次元で再現するその所行は。
リリィさんにしか出来ない強みだ。
つまりは――。
「技能『技能模倣』……確かにヤバいな、これは」
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「さあさあ、第二マッチも残り3部隊! 激しい戦闘を経て、残りは互いにメンバー一人! 1対1対1のタイマンだが……状況は対等ではありません!!」
「ええ、戦場を支配していると言ってもいいのはチーム『APG』所属のリリィ選手……まさかここに来て隠し玉があったとは思いませんでしたね」
「チーム『APG』はこの58ブロックにおける注目チーム。故に目に見えて対策をされておりとても動きにくそうでした!」
「マップ南西に降りるチームがいなかったりかなり露骨でしたね」
「とはいえそれも戦略、それも大会!! 第一マッチは中盤で破れ、第二マッチもリリィ選手一人しか生き残なかった時点で『APG』の敗退は決定的……かと思われましたが」
「リリィ選手がその本領を発揮、プロと遜色ない動きを見せてリング収縮時には5部隊13人いたはずなのに、生きたまま3部隊3人となっております」
「さてこの三つどもえとなった状況では先に戦った方が不利となります、最後の一人が漁夫に入れますからね」
「しかし、リング収縮と配置から見てリリィ選手は先に戦わないといけないでしょうね」
「さて、最終収縮までもう少しありま――仕掛けた!! リリィ選手仕掛けました!!」
「中距離から完璧なリコイル制御による銃撃、受けた方はひとたまりないでしょう」
「とはいえここまで残ったプレイヤーとして意地があるでしょう。反撃をして……」
「しかしリリィ選手勝ちましたね、これで残り二部隊」
「さあ、最後の一人も動く! だがちょっと出遅れているか!?」
「収縮が始まってからが勝負だと思っていたのでしょう。虚を突かれましたね」
「リリィ選手この隙に迎撃体勢を取りたいところ!」
「減った体力と今撃ち切った銃のリロード……どちらを優先するかですが……」
「今し方倒した敵の棺桶に駆け寄る! どうやらアーマー交換して体力回復を優先するようだ!」
「相手もそこに仕掛けに行きましたね。リリィ選手のリロードが終わっておらず、反撃もないため近付いて銃弾を叩き込んで終わりでしょうが……」
「いや、リリィ選手の方からも接近する! なのに銃を構えていない! まさか、これは……!」
「格闘!? 無謀ですよ!?」
「リリィ選手敵を殴る! ノックバックにより、銃口があらぬ方向に向き攻撃は当たらない!」
「急いで立て直し銃口を向けますが、そこにリリィ選手はいない! いやー、キャラコンすごいですね、敵の死角を狙い接近してまた格闘……!」
「プロプレイヤー『マーズ』選手の技能『格闘王』を彷彿させる動きだ! しかしどういうことなんだ、これは……!!」
「『格闘王』がプロでも通用するのはスキル『ロボットアーム』があるからというところもあります! リリィ選手のキャラはロボットじゃないですが、その分相手もプロではなく、突然格闘を振られてパニクっているからでしょう!」
「そのまま殴って、殴って、反撃を受けるも殴って…………殴って、殴って、殴りきったぁぁぁぁっっ!!」
「チーム『APG』一人の状況から、まさかのスター獲得! これは総合ポイントでもトップに躍り出ましたね……!」




