71話 最後の1人
リリィこと私のチームメンバーは優秀だ。
とはいえ当然ながら毎回マッチに勝てるわけではない。
敵の攻撃を受けて部隊が壊滅することなんて数え切れないほどある。
でもその攻撃が仕方なく巻き込まれた乱戦なら、生存能力の高いアカネちゃんが一番長く生きて。
奇襲ならばいち早く察知したジイクさんが長く生きて。
策謀ならばそれを見抜いたマモル君が長く生きる。
部隊が壊滅するとき、いつだって私は最初の方で落ちていた。
部隊の最後の一人になったことは数え切れないマッチをこなしてきた中で、それこそ一度もない。
しかし、その初めての機会がこの第三予選2マッチ目で起ころうとしていた。
漁夫部隊が迫る中、マモル君が出したオーダー。
それは私一人だけがボート乗り場に向かうこと。
色々な考えが頭を巡るのに反して、私の身体は反射的に動いていた。
マモル君の、オーダーの命令に従うことは私がこれまで幾度と無く実践してきたこと。
私が考えたことが無いようなことでも、突拍子が無くても、その命令に従って悪くなることはない。
それが身に染みているから思考とは裏腹に身体が動いたのだろう。
ボート乗り場は近くすぐにたどり着く。
しかし、敵も目敏く私を見つけて背後まで迫っているようだ。
さっきから銃弾が何発か掠っている。
それでも私はまっすぐに駆ける。
そもそもボート乗り場は開けていて銃弾をやり過ごすことが出来る遮蔽が無い。
でも、それだけではなくて――。
「リリィには手を出させないわよ!」
仲間を信じているからだ。
アカネちゃんが私を狙う敵のさらに背後から攻撃する。
「アカネ様。2人はこちらで戦闘中です、1人抜けたのでそちらの方で……」
「分かってるわよ!」
それぞれ2対1でも粘るジイクさんとアカネちゃん。しかし万全のときならいざしらず、2人とも先ほどの戦闘を経て消耗している。時間を稼ぐのが精一杯だろう。
2人の頑張りを無駄にしないように私はボートに到着。目的地の設定は――。
「中央街、東降り場です!」
「分かった!」
私は間髪入れずにマモル君の言葉通りに設定する。
すぐにボートはマップ中央に向かって動き出して……つまりは安全地帯の範囲外に出て行った。
ボートに乗っていようが範囲外のダメージは避けられない。
すでに収縮の段階も進んでおり、かなり大きなダメージを断続的に食らう。
私のHPが尽きそうになったそのとき、ボートは再び安全地帯の範囲内に入りダメージが止まった。
どうやら一度範囲の外に出るがまた戻ってくるUの字形の航路だったようだ。
ボートが止まったため私も降りる。
「僕たちが起こした戦闘に寄せられておそらく付近に敵はいないでしょうが、一応遮蔽に入ってから回復してください」
マモル君は降り立ったばかりの場所なのに分かったように話す。
回復をしながら私はマモル君の出したオーダーの真意を測っていた。
マモル君は漁夫が来た時点でチーム全員が生き残ることは不可能だと判断していた。
だからその場から逃げることにした。
でも部隊を壊滅させる絶好のチャンスを敵が逃すはずもない。
だから足止めが必要だった。
足止めは少ない人数で多くの敵と戦わないと行けない。
だから強い人が選ばれた。
だから弱い私がこのようにして一人生き延びた。
「何とか逃げられたようね」
「グッジョブですな、リリィ様」
アカネちゃんとジイクさんが声をかけてくる。
2人とも私がボートに乗っている間にダウン、確殺まで入れられている。
棺桶からタグを拾えば蘇生させることも出来るが、どうせ今頃私たちを漁夫した部隊がさらに漁夫されて大乱戦が起きているだろう。そんな場所に一人で近寄れるわけがない。
つまりこの2マッチ目、あとは私1人で戦うしかないのだ。
「しかし、あそこで中央街に目的地設定させるなんてやるわね」
「安全地帯の内側に行ければベストだが、どこ行っても敵部隊が待ちかまえているだろうしな。航路が範囲外に一度出るがギリギリ耐えられるダメージだってのは知っていたから」
「あの忙しない状況でそこまで考えられるとは……いやはや流石です」
「残ったのはリリィ一人。じゃあここからは潜伏ってわけ?」
「ああ。リリィさん、なるべく敵がいなさそうなルートを指示するのでお願いしますね」
「ふぉっふぉっ、私も死んでしまったからこそ、リリィ様の画面から最大限に戦場把握することに集中しますので」
「……うん、分かった」
私は言葉少なく頷いた。
潜伏。
部隊のメンバーが倒れて人数が少なくなり正面から戦っても勝つことが難しくなったときなどに、戦わず隠れながら動くことでなるべく長いこと生き残ることで順位を上げる方法だ。
順位ポイントを稼ぐことで少しでも優勝出来る確率を上げる方法。
弱い私でも十分にこなすことが出来る方法だ。
私はマモル君に指示されるままに動いてさらに次の収縮をやり過ごす。
残りは8部隊。
私たちへの漁夫を発端にした戦いが大規模なものになり、かなり部隊数が減ったようだ。
これでも多く残った方だろう、大会じゃないカジュアルマッチならそのまま漁夫の連続で最後まで戦い続け、スター獲得者が決まっていてもおかしくないくらいだ。
つまり私にとってはまだ8部隊も残っている……という認識だった。
「いい感じに部隊数も減ってきましたね! いいですよ、いいですよ、残り8部隊! ここまで来れた時点でもう十分なくらいです!」
いつになく高い声音で話されたマモル君の言葉。
それが未だ一人戦場に残った私を励ますための言葉だと分かって……なおさら私の心は暗くなった。
私の現在地は次の収縮範囲内だ。しばらくは動かずここに留まることになる、少しは余裕があるだろう。
そこまで確認してから私は口を開いた。
「ごめんね、マモル君。……ううん、みんなごめんね」
=================
『ごめんね、マモル君。……ううん、みんなごめんね』
潜伏作戦を見守る中、リリィさんから飛び出した謝罪。
「えっと……急にどうしましたか、リリィさん」
マモルこと僕はその意図が取れず聞き返す。
「ごめんね、こんなこと言ってる場合じゃないって分かってるんだけど。
その1マッチ目も何も出来なかったし、この試合も私が弱いからこうして1人生き残ることになっている。
私がもうちょっと強ければ最初の戦いも消耗抑えられて、漁夫も裁くことが出来たかもしれないのに。
やっぱり私は足手まといで……私なんかこのチームにいない方が良かったんじゃないかって……そんなこと考えちゃって。
本当にごめんね。戦いの途中だってのにこんなこと言い出して。落ち込んでいる場合じゃないって分かってるんだけど……」
何やら沈んだ様子のリリィさん。
「………………」
率直にこんなときに落ち込まれても困るとは思った。
まあでも僕だって戦犯になったときは落ち込むことはある、避けられないことだろう。
リリィさんは今戦場に一人、仲間に頼ることが出来ず、なのにチームの命運を一人で背負っている。
潰れそうなプレッシャーを前に弱音を吐いてしまいたくなっても当然のことだ。
おそらく今のリリィさんの頭の中にはぐるぐると負の思考が渦巻いている。
通り一遍の慰めの言葉は意味ないだろう。
なので――。
「僕はリリィさんだからこそチームを組んだんですよ」
「……え?」
「僕にゲームをする楽しさを思い出させてくれたのはリリィさんです。私なんか、なんて言わないでください」
「リリィは必要な人材よ。何より視聴率を持っているから。……というのは冗談だから信じないでよ! 色々気付いてフォローしてくれるし助かっているわ」
「合宿の際、技能を見つけること、と私が言い出したのが良くなかったですかな。そのせいで何か秀でていないと、チームに貢献できないと思われたのでしょう。
ですが最近思い直しました、こうも尖ったメンバーの中には丸いメンバーも必要なのだと。リリィ様の広いサポートには助かっておりますよ」
リリィさんがどうやっても考えつかないこと、僕らの気持ちを打ち明ける。
「みんな……」
「僕だってもっと強ければこうしてリリィさん一人にチームの運命を託すような酷い作戦を立てずに済みました。
チームなんですから失敗はみんなのせいです。
でももしここから上手く行けば、成功すればそれは全てリリィさんのおかげです」
「みんなの……私の……」
「ですから……そろそろゲーム画面に集中してもらえますか? 収縮が始まります」
「あっ、そ、そうだね! ありがとね、みんな! うん、私集中するから!」
「…………」
「うん、だから……みんな私とのVC切ってもらえるかな? ちょっと一人で集中してみたいから」
「……分かりました。でも忘れないでくださいね、リリィさん。声が届かなくても僕たちはリリィさんを応援していますから!」
「っ……ありがと、マモル君! 私、頑張ってくるからね!」




