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7話 部隊壊滅


 潜伏によって一人目はスムーズに倒すことが出来た。

 南の広場にあった光点は四つ。敵チームはあと三人はいると考えていいだろう。


 倒した敵から物資を漁った守こと僕はすぐさま自身のキャラのスキルを発動する。


『マモルくんのキャラって……えっと……』

「罠師ですね」

『ああ、そうそう罠師、罠師。あんまり見ないからパッと出てこなかったです』

「まあいわゆる不人気キャラですね」


 リリィさんの使う鳥使いというキャラは、柔和な顔付きのお姉さんでありホーク君……ではなく飼っている鳥の挙動もかわいく、またスキルも敵の位置を知れるという無難に役立つスキルのため、ビジュアルと強さを兼ね備えたキャラとして人気が高い。


 対して僕が使っている罠師は薄汚れた作業着を来た偏屈さが顔ににじみ出ているおじさんが脇に作業箱をぶさらげているという造形で、お世辞にも人気の出る容姿ではない。


 スキルも罠設置とだけ聞くと強そうだが、スキルを使うと地面に屈んで罠を設置してそれが終わると立ち上がり汗を拭い「ふう」と一息吐いて……ここまでの一連の流れ3秒間完全に無防備である。

 普通の生活における3秒は短いが、戦闘中における3秒は無限だ。敵が近くにいれば殺しきるのに十分な時間であり、そのため戦闘中に使うスキルではなく戦闘前に使っておくスキルという認識だ。

 ネットのキャラ評価ページなどでは『汗を拭ってねえでさっさと動けよ、このおっさん!』とよく揶揄されている。


 この罠の性能が高ければまだ救いもあるのだろうが、ここでも3重苦を兼ね備えている。

 まずは目立つ。罠なのに目立つ。少し離れた場所から十分に視認が可能だ。

 次に壊せる。中心の制御の部分にある程度の銃撃を入れれば壊せる。手榴弾なら一撃だ。

 最後に効果が微妙。踏んだ相手を一撃で殺す、とかいう効果ならまだロマン砲として使われただろうが、実際は中心の制御からキャラ五人分くらいの範囲に入った相手を痺れさせて一定時間スロウ状態にするだけだ。


 とはいえ全く使えないキャラだったら僕だって使っていない。

 慣れれば色々と悪さ出来るキャラで、その中でもちょうど今が一番罠師を強く使える場面だ。


 小部屋の中央近くでスキルを使用、三秒かけて罠をセットする。

 そしてまた物陰に隠れると部屋の外からドタドタと駆けてくる音がした。


 先ほど奇襲した敵のチームメイトのおでましといったところだろう。

 やられた味方の敵討ちを目的として、逃がさない内にと急ぎながらも、銃を構え警戒しながら僕たちのいる小部屋に入ってきて。


 部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、罠が作動した。




「今です!」

「はい!」


 敵が痺れて動きが鈍ったところに僕とリリィさんは物陰から飛び出す。

 敵はそれを見て銃口をこちらに向けようとしているが、スロウ状態ではそれもままならない。

 そのまま僕たちの十字砲火に為す術もなくダウンから確殺状態に落ちるのだった。


 これが罠の強い使い方だ。

 目立つ罠も壁越しにまで見ることは出来ない。屋内にセットしておけば踏み入れた瞬間に作動させることが出来る。立てこもって防衛するときにはとても役立つスキルだ。




 二人倒したのでこれで敵チームも残りは二人。 

 同じ人数になったので互角……と言いたいところだが、少しだけ相手が有利だ。

 相手は仲間を殺された場所からしてこちらの居場所を把握出来ていること。

 さらに一つだけ誤算もあった。


「さて次の敵が来る前にさっと物資を漁って……」

「リリィさん、すぐにこちらに来てください!」

「へっ……うわぁっ!?」


 慌ててリリィさんを呼び戻すと、ちょうど部屋の外から銃弾が飛んできた。


 こういう部屋の内にいる利点は敵が突撃してくるときどうしても扉を開けて通らないといけないというものがある。

 扉の開閉と銃撃はゲームの仕様上同時に出来ない。手榴弾で扉を破壊するという方法はあるが、それでも破壊するまでに時間を稼ぐことが出来る。


 しかし、現在その利点を僕たちは失っていた。

 というのも先ほど倒した敵の棺桶がちょうど扉の位置にあって扉を閉めることが出来ないのだ。罠を踏んだ瞬間そのまま強引に突破しようとせず、反射的に引こうとしたせいだろう。

 外から斜線が通っているため、小部屋内の物陰に隠れて銃撃をどうにかやりすごす。




「ど、どうしますか! え、えっと相手が入ってきた瞬間にやりかえすとか!?」


 リリィさんは焦りながらも上擦った声で提案する。

 確かにどうしても敵がこの部屋に入ってこようと思えばあの扉の位置を通らないといけない。来ると分かっているならそこに銃のエイムを置いておけばいいわけで、移動した後にエイムを合わせないといけない相手より有利だ。


 その内、敵の銃撃が止まって……しかし移動する音もしなかった。




「冷静だな……!」

 敵の行動を読んだ僕は褒めながら物陰から出て小部屋の奥に移動する。


 それと同時に先ほどまで隠れてた位置に手榴弾が落ちて爆発した。


「えっ、わっ!?」

「リリィさん、奥へ!」


 ワンテンポ遅れてリリィさんの隠れていた場所にも手榴弾が放り込まれるが、何とか爆発する前に逃げることが出来たようだ。

 立てこもる相手に手榴弾などの投げ物で動かしてから突撃する。基本的ながらいい手段だ。

 小部屋の奥に押しやられた僕たちは扉へ射線を通すことが出来ない。この隙に敵は侵入してくるだろう。

 そうなれば一転、逃げ場の無さから窮地に陥ることになる。


 敵ながら見事と言う他無いだろう。

 それがこの部屋でなければ、の話だが。




 僕は部屋の壁に向けてキャラをジャンプさせ張り付きよじ登らせる。


「な、何してるんですか!?」

「リリィさんも続いてください!」


 突然の奇行に驚くリリィさんに端的に指示をする。

 その間にも僕のキャラは壁を登り切り、天井に入ったひび割れを通って二階に出ることに成功した。

 リリィさんのキャラ、鳥使いのお姉さんも同じように二階に出る。




「……知らなかったです。こんなところ登れたんですね」

「『SSSのマル秘テク教えます!』みたいなサイトに載っているくらいには有名なテクですが、普通にプレイしているだけじゃ気づかないかもですね」


 『神殿の廃墟』各広間にある小部屋につき大体一つは老朽化からか天井が崩れていて、そこから二階に登ることが出来るようになっている。

 知らなくても十分にやっていけるような小ネタなのだが、知っているとこのように有効活用できることがある。

 もちろん僕は知っていていざというときに逃げれるように潜伏する小部屋に選んでいた。

 一応デメリットとして逆に二階から侵入されていた可能性もあったのだが、こちらから奇襲を仕掛けられると踏んでいたし、その後焦る相手がこのルートに気付けるとは思えなくて捨てていた。




 そうしている内に敵は先ほどまで僕たちのいた一階の小部屋奥に侵入。警戒しながらも見回るが僕たちの姿が見えず混乱して同じ場所をもう一度調べていたりする。二階に出たという選択肢は思いついてもいなさそうだ。


「だったらちょうどいい……!」


 僕はそこらに落ちていた手榴弾を拾いながら、吹き抜けを飛び降りて一階に着地。

 こうして先ほどまでとは位置が逆転、敵が小部屋の中にいて、僕たちはその外にいる格好となる。


「リリィさん、この場合どうするべきだと思いますか?」

「同じことをやり返す!」

「正解です」


 僕らは持っているだけの手榴弾を部屋の中に放り込む。敵は想定外の攻撃に為す術もなく、その内にリリィさんが敵をダウンさせたというログが流れた。




 敵は残り一人。どうやらかなり遠くで漁っていたのか、その一人がちょうどノコノコと向こうから現れた。


「次の敵が……! どうしますか!」

「どうもしませんよ」

「え?」

「先ほどまで僕たちは二対四で人数不利でした。しかし今はもう二対一、逆に人数有利です。何もしなくても普通に打ち合えば負ける道理がありません」

「あ、そうですね!」

「サクっと倒しましょう!」


 勝利を確信した僕たちはライフル銃を構えながら応戦に向かう。




 一分後。


「んっ、くっ、危なっ…………よしっ! 勝ちました、勝ちましたよ!!」

「流石です……それで、えっと……申し訳ありませんが起こしてもらってもいいでしょうか……?」

「あ、そうでした! 今、起こしますからね!!」

「ありがとうございます……」


 二対一の戦い、何とか勝つことは出来たが、その内容は酷い有様だった。

 僕が敵に狙いをつけて放ったはずの銃弾は全く敵を掠めず、逆に敵の銃弾に全弾ヒットしてものの十秒でダウン。

 ただ僕が撃たれている間にリリィさんは銃弾が敵を捉えて敵のアーマーを割った。

 その後は敵とリリィさん互いに物陰に出たり入ったりを繰り返しながら息詰まる攻防を繰り広げる。

 その間ダウンした僕は床を這いつくばりながらオロオロしていた。


 最終的には先にアーマーを割った分の有利が働いてリリィさんが敵を倒したのだった。リリィさんの体力も残り一割だったのでギリギリである。




 敵を倒したことでリリィさんのキャラが僕のキャラのところまで駆け寄って来て、応急処置を行うことで僕はダウン状態から回復する。この応急処置の間は全くの無防備なので敵を倒してからじゃないといけなかった。

 蘇生された僕だが体力は最低限の状態での復活なので、ポーションで体力回復、削れたアーマーは棺桶から新しいものを拾って付け替える。

 この間に第三部隊、漁夫が来ていたら逃げる余裕もなく撃たれて負けていただろう。だが幸いにも辺りは静かなままだった。




 二手に分かれて倒した敵たちの棺桶から物資を漁りながら僕は自己嫌悪に陥っていた。


 全く、何て不甲斐ないんだ……。

 二対一の戦い。敵が圧倒的な腕前を持った上級者なら、このような展開になるのも致し方なかっただろう。

 けど見た感じ敵は中級者くらいだったと思う。


 だから原因は全部僕にある。

 僕は棒立ちのまま中々敵に銃のエイムを合わせられず、合わせたと思ったら敵は移動していて見当外れの方に銃弾を飛ばしていて、あたふたとそのまま棒立ちでリロードをする。

 敵からすればそんなのただの的でしかなかっただろう。

 だから僕はものの十秒で処理されて、ほとんど敵とリリィさんの一対一という状況だった。


 僕だって分かってはいる。

 左右に動いて相手のエイムを外しながらもこちらのエイムを相手に合わせたり、物陰に隠れてリロードの隙を消したり、そもそもリリィさんもいるんだから危なくなったら敵を任せて大きく引いて回復すれば良かったんだとか。


 どうすれば良かったのか、知識はある。

 なのに体が付いていかない。

 圧倒的経験不足だ。


 『銀鷲』にいた間はなるべく撃ち合わず、撃ち合う場合でも他のメンバーに任せて僕は手榴弾を投げたりとサポートに回っていた。

 僕自身は一度も銃弾を撃つことなくスターを取ったマッチもかなりあるくらいだ。


 もちろんこれは僕が歪なだけで、世間一般的なオーダーはチームに指示を出しながら自分も戦うことが出来るという人の方が普通だ。

 僕が不器用だから、一つのことをこなすのにも精一杯だから、こんな今になった。




 醜態を晒して……リリィさんも幻滅しただろう。


『偉そうに指示を出しておいて真っ先に死んじゃいましたね』

『本当にこんな有様でスターを取るとか出来るんですか?』

『今までのはただ運が良かっただけ何じゃないですか?』


 僕を詰る言葉が幾通りにも浮かび上がり再生される。

 良くて指示を無視されるか、悪くてボイスチャットを切られるか、マッチから抜けられるか……とにかくここで二人での戦いは終わりだろうと思って。




「いやー、こんなの初めてです!」


 リリィさんの喜びの声が聞こえてきた。


「……え?」

「4キル取っちゃったんですよ! 確か称号にありましたよね、一人で敵の部隊4人倒すって!」


 言われてみれば一人目と二人目は僕も同時に銃を撃っていたが、厳密にはリリィさんの銃弾が敵を倒したという判定でログが流れた気がする。

 三人目の手榴弾に、四人目は一対一の末に倒したからリリィさんが四キルだ。


 称号とはそういう優れたプレイをしたときに与えられる、いわゆるゲーム内のトロフィー要素だ。

 一人で一パーティー四人とも倒したときに得られるのは……確か『部隊壊滅』だったっけ?

 正直なところそんなに珍しくない称号だ。

 長期間プレイしていれば、上手く奇襲がハマったとかで意識せずに達成出来る。僕自身上手く手榴弾が隠れていた部隊を吹き飛ばして手に入れたことがあるし。




「おめでとうございます」


 とはいえリリィさんには初めてのことで、本当に嬉しかったんだろう。だから僕は水を差すことなく称えて。




「マモルくんの指示のおかげですよ! ありがとうございます!」




「っ……!」


 その言葉に僕は固まった。


 僕の指示のおかげ……思えばそんな言葉をもらったのは初めてだ。

 『銀鷲』にいたころは勝てば俺たち私たちの腕前のおかげ、負けたら僕の指示のせい……ずっとそんな風に言われていたから。

 僕のすることは誰からも認められず、完璧にやったところで最低点、一つでもミスをすれば詰られる……それが当たり前だと思っていた。


 でもこうして僕の指示をすごいと称えて、感謝してくれる人もいる。そんな今まで思ってもいなかった事態を前に。




「良か……ぐっ、……った……ぐすっ、……ですね」


 僕は涙声になっていた。


「えっ、ど、どうして泣いてるんですか!?」

「泣いて……ぐすっ、ないです。咽せただけです」

「そんな様子無かったような……あ、もしかして私の完璧なプレイに感動して泣いたとか!?」

「それで良いです」

「雑ぅ!」

「……よしっ。とにかく移動しましょう! 先ほどまでの銃声を聞きつけて他のパーティーが来ないとも限りませんし、安全地帯の収縮もそこまで迫ってきてますし」

「あっ、そうですね。分かりました」


 泣いてしまったことに気恥ずかしくなった僕は強引に誤魔化す。

 マッチは始まったばかり、画面上にはまだ部隊が10以上残っていることが示されている。

 自分以外の部隊が倒れるその時まで戦場に立っていなければスターは取れないのだ。

 二人部隊である僕らはまだまだ気を緩めることが許されない。


 こうして僕の指示を褒めてくれたリリィさんと一緒にスターを取ってみせる。


 そのためにも頭をフル回転させて移動ルートを考えるのだった。


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