62話 遭遇
「それでは『APG』第二分隊も参りましょうか」
「はい!」
チームを二つに分けての作戦。
リリィこと私はマモル君、アカネちゃんと分かれて、ジイクさんと行動することになった。
アカネちゃんのお母さんとの電話から、チームの不和も解消され、マモル君が2位を取って一縷の望みを繋ぎ、と良い流れは来ている。
この流れに乗っていきたいと内心思うところで、次に取った行動は――。
「潜伏……ですか」
「ふぉっふぉっ、地味ですな」
巨大な工作機械の裏に隠れる私たち。意気揚々とした雰囲気とは真逆の待機である。
とはいえ今の私たちは2人部隊、4人部隊とまともにやりあえば負けるため攻めっ気を出すわけにも行かない。
「それでこれからどうするんですか? マモル君から特にオーダーはありませんでしたけど……」
マッチ間の時間に余裕がなかったためマモル君も奇策の詳細を説明するだけで精一杯だった。私たちに求められたのは内の戦場の掌握だけど、どうやって成し遂げるかは丸投げされている。練習でも想定してない状況なので全く手がかりの無い状態だ。
「流れに身を任せるしかありませんでしょうな。元より内の戦場は混沌、事前に想定するには状況が多岐に渡りすぎます」
「行き当たりばったり、ってことですか」
「それでも基本は私がオーダーを出すので付いてきてください」
「分かりました!」
どう動けば不安だったけど『戦場把握』のジイクさんが臨時のオーダーをしてくれるなら安心だ。
今でこそチームのオーダーはマモル君に譲っているけど、アカネちゃんと2人で活動していた頃はジイクさんがオーダーを務めていたみたいだし心配することもない。
「……っと、付近に足音ですな」
ジイクさんが警戒を呼びかける。
その声に耳を澄ませてようやく小さな小さな足音が聞こえてきた。会話しながらでもこの音に気付けるなんて……流石ジイクさんだ。
息を潜めて待ちかまえる。別に生身がどれだけ音を立ててもゲーム内で音はしないのだが、没入と緊張により音を立てないようにしてしまう。
そんな中敵の足音が止まった。私たちの目と鼻の先、ここで第一収縮までをやり過ごすつもりなのだろう。
別に普通な手だが、先に潜んでいる私たちに気付いていないのは大きな失点である。
「え、えっと……どうしましょうか?」
一歩物陰から出ながら撃てば、無防備な敵の背中に至近から銃弾を撃ち込める。すごぶるの好条件、おそらくファーストアタックで敵2人はダウンまで持ち込める。そうなれば2対2であり人数差も覆せる。
しかしこのような状況でさえ撃っていいのか考えないといけないのがバトルロイヤルの難しさだ。
ここで銃声を鳴らせば間違いなく漁夫が来て、それをさらに漁夫するスパイラルに陥る。そうなれば行くところまで行く、簡単には止まらないだろう。
私たちは内で嵐を起こさないように言われている、それなのに自ら嵐を起こすなんて……。
「私たちがやらなくてもいつかは嵐が起きます、介入できない遠方で起こされたらマズいでしょう。それくらいならば自ら起こして、中心に近いところでコントロールすべきですな」
「……出来るでしょうか?」
「よほどのことが無ければ大丈夫です。何より今はポイントも欲しいところ、落ちているポイントは拾っていきましょう」
ジイクさんは腹を括ったようだ。この分隊の隊長はジイクさんだ、ならば私はその指示に従うだけ。
「3カウントで行きます。3、2、1――」
「GO!!」
息を揃えて私たちは敵部隊を襲撃、想定通り一人ずつダウンを取る。マガジンが尽きたため一度リロードを挟む。
敵は泡を食った様子で統率が取れていない、一人は応戦するが一人は逃げようとする。二対一となればますます負けはなく、私たちは一人をダウン、逃げた敵はその先で別の敵と出会いキルされた。
そのキルを取った敵の名前がログに表示される。
バアサーカー。
こちらを一瞥するため流れていく視線が、ジイクさんのところで一瞬止まったような気がした。
「申し訳ありません、リリィ様」
「な、何でしょうか?」
「よほどの事態です」
「……うん、ですよね」
内の戦場に来た時点でバアサーカーと戦うことは想定の範囲内である。
でも、この初手でかち合うのはどう考えても想定外だ。
「バアサーカーは私をロックオンしました。こうなれば逃げは不可能。地の果てまで追いかけ回されるでしょう」
「つまり……作戦は失敗で……」
「いえ、作戦は成功です。私を追いかけられている間はバアサーカーを抑えているのと同義ですので」
「そ、そうですか。だったら私は何を……」
「敵は無双前衛、それとやりあうためには私の全神経を動員しなければなりません。オーダーを出す余裕も無いので、申し訳ありませんがリリィ様、ご自分で判断して動いてください」
「えっ…………えええええええっっ!?」
驚く私を後目に、バアサーカーはこちらに接近、ジイクさんは牽制射撃でそれを阻みながら距離を取ろうとする。
「頼みましたぞ」
ジイクさんが遠く離れていく中、バアサーカーも私が隠れた場所には目もくれずにジイクさんを追いかけていく。
私も置いてかれないように付いていく。
そんな中――。
「ああもうしつこいですな……これはどうですか……!」
バアサーカーと小競り合いしながら駆けるジイクさんが……何だか少し楽しげにしているように聞こえるのだった。




