61話 入れ替え
時は少し遡り、3マッチ目開始前。
「内と外どっちに展開しても行かなかった方の部隊にポイントを稼がれて負けるからアカネたちを二手に分けるのは理解したわ。
でも何で爺が内でアカネが外なのよ!? どう考えても逆じゃない!」
僕の話した奇策に対するアカネの反応。
最初部隊を2つに分けると言ったときは『面白い奇策じゃない』という反応だったが、その人員の内訳を発表したらこのように返ってきた。
まあそれも想定済みではある。近距離戦、遠距離戦、それぞれ得意な分野を持っているのに真逆な戦場に配置を入れ替えるなんておかしな話だ。
「えっとそもそもの話をしてもいいですか? 2人ずつに分けて本当に戦えるんですか? 2対4なんてすぐ倒されてしまいそうですけど……」
「もちろんまともに戦えば負けるでしょう。しかし内は入り組んだ地形や漁夫を呼びやすい構造を利用して上手く攪乱しながら戦えば何とかなりますし、外はそもそも複数人で戦闘するだけのスペースが無いですからそこまで人数差による不利が少ないです」
そもそも1マッチ目、外にいたときはジイクさんとリリィさんの2人がスナイパーを持って僕とアカネは何もする事がなかったし、内ではこちらより人数の少ないバアサーカー部隊にやられた。
このことからも分かるように『工場』というステージは普通のステージよりは人数が少なくても戦える構造になっている。
「それは分かったわよ。で、何でアカネが外に行くのよ? 言っとくけどスナイパーなんて持たされても全く当たらないからね!」
何故か自信満々に言うアカネ。実際合宿の時も一人だけ苦手克服ではなく、得意を伸ばすために近距離戦の強化を重点的にやってきた。
「内と外、二手に分かれて戦場を抑えにいく……ここで問題だけど、内と外、どっちがポイントを稼ぐべきだと思う?」
質問に質問で返す。
「そんなの簡単よ! 乱戦が起きる内だわ!」
「……なるほどそういうことですか、マモル様は外でポイントを稼ぎたいのですな?」
「はい、その通りです」
「何でよ? 内の方がたくさん戦えて、たくさんキル出来るじゃない」
「もちろん上手く行けばそうでしょうな。しかし私たちに残されたのは残り1マッチ、ぶっつけ本番しかありませぬ」
「嵐の海に繰り出せば波に乗れることもあるだろうけど、波に沈む可能性だって十分にある。そんな運否天賦に賭けるよりもっと確実な方法があります」
「それが外……だからアカネを外に向かわせるってこと? でもさっきも言ったとおりアカネは長物なんて扱えないんだってば」
「だったら長物を使う必要など無いということでしょう」
「混沌としている内よりはまだ外の理路整然とした戦場の方がまだマシです。僕が全てをコントロールして道筋を作る。だからアカネはいつも通り暴れてくれ」
「ふうん……なるほどね。実際どうするかは分からないけどそこまで言うなら任せたわよ」
アカネも納得したようだ。
「必然的に私とジイクさんが内に行くってことですよね? 単純にどうすればいいんですか?」
リリィさんの問い。
「リリィさんとジイクさんに求めるのはバアサーカーの抑え込みです。ポイントを取ることはそこまで求めません、嵐が起きないように丁寧に対応してください。内が停滞すれば前述通り外で僕たちが稼いで勝てますから」
「なるほど……『戦場把握』を持つ私の出番ということですな」
「はい。1マッチ目と2マッチ目の汚名返上、期待してますからね」
別に仕方ないことだったとは思うが、ジイクさんを煽る目的で僕は口にする。
「ふぉっふぉっ。マモル様のオーダーにケチを付けるわけではないですが……一つだけよろしいですかな?」
「何ですか?」
「余裕があればバアサーカーをキルしてしまっても構わないのでしょうか?」
「……言いますね。いいですよ、ただし逸りすぎないでください。あくまで目的は封じ込みです」
「承知しました」
ーーーーーー
そうして3マッチ目が開始。
僕らは物資を十分に漁ってから策通り内と外に分かれた。
このとき異なる戦場での会話が混線しても困るのでVCルームも二つに分ける。
「次に声を聞くときは、予選突破による快哉の叫びですな」
「いいわね、おしゃれじゃない」
先ほどまでぎくしゃくしていたとは思えないジイクさんとアカネの会話。
そしてリリィさんとジイクさんが別のルームへ離脱、僕とアカネだけが残る。
「それで早速外に行くの?」
「いや、ちょっと移動する。分かれる直前にリリィさんにスキルを使ってもらって近くの外の配置は分かった。ピンを刺したところを潰しに行く」
3マッチ目、僕らはこれまでより漁りに時間をかけた。
おかげで物資は充実したが、その間に他の部隊は外でそれぞれのポジションの陣取りを終えている。その中の一つを襲撃するため先に内で移動しておく。
非常口から外に出て非常階段を登り、屋上に出る一歩前で立ち止まる。
「さて、襲撃地点はちゃんと確認したな? ここからはノンストップだぞ」
「それは大丈夫だけど……でもどうやって接近するの? ポイントまで約200m、遮蔽は無いわよ。何か策でもあるわけ?」
「いや無い。一直線に駆ける」
「……マジ?」
「大マジだ」
「そんなのただの的じゃない!?」
「やれば分かる。よし行くぞ!」
「いや、ちょっ……!?」
僕は屋上へと踏みだしそのまま全力でダッシュする。アカネも困惑した様子だったが付いてくる。
さて、襲撃地点の方を見ると遮蔽の端に敵の姿を確認できる。リリィさんのスキャンにかかった後も動いた様子はないようだ。
そうして敵は一直線に駆ける僕たちに向かって銃を向けて――こない。
「撃たれない!? 何で!?」
「あのポイントからだと北と東の非常階段の方が近いからな。そちらの方を重点的に警戒していて、わざわざ遠い南の階段から敵が来るとは想定もしていない」
重要度の高いポイントから警戒を割り振る、当然の判断。
その隙を突いたから上手く行って……いや、それは本質じゃないか。
敵はおそらく警戒こそしているものの、本当に襲ってくる相手がいるとは思っていないのだ。
これまで外は陣取りゲームさながらにじりじりと戦況が動いてきた、今回もそうなるはず。
第一収縮もまだ終わっていない。マップの端で重要度の低いところにわざわざ来るはずもない。
見張りはするものの変わらない景色に集中力は落ちて、チームで雑談が始まる。
これがプロなら集中を切らさないのだろうが、この戦場にいるのは第一予選を突破したとはいえアマチュアだ。
……いやそれでもキラー選手だったら僕が屋上に頭を出した瞬間撃ち抜かれたかもしれないな。
でもキラー選手のチームは降下場所を固定していて、この辺りではない、そこまで考えての行動だ。
とはいえ近づく内に足音が響き、敵もようやくこちらに気付いたようだ。
彼我の距離は70mほど、慌てた様子ながらも応戦しようとしており、そのまま撃ち始められたらマズい。
しかし、ここまで近づければ十分に投擲範囲内だ。
「行きますよ……!!」
手榴弾を二つ山なりに投げて遮蔽の裏に落とし隠れていた敵を吹き飛ばす。
「押し通る……!! 『焔化』!!」
アカネは巫女のスキルを使って無敵状態になり距離を詰める。
僕の援護も受けてアカネは敵の懐に入った。こうなった特攻前衛を止めることは無理で、敵は一人、また一人と落ちて部隊は壊滅する。
「よし、4キル!!」
「いい調子です!!」
1マッチ目、2マッチ目と凪いでいた外に嵐が吹き荒れようとしていた。




