60話 奇策
SSS全国大会、第二予選、最終3マッチ目。
開始してから五分、未だ戦闘が起きずに少しずつ緊張感が高まっていくこの戦場を前にして。
バアサーカーことアタシは萎えていた。
「どうせガチャなのに時間かけさせるなよなー……」
「姐さん、機嫌直してくださいっす!」
ヨイショしてくれるが気が乗らないものはしょうがない。
アタシには3マッチ目の顛末までが見えているからだ。
これまでの同様に内をアタシたち『BFT』が、外をキラーとかいうやつら『WOD』が取る。総合ポイント一位と二位だがそこまで差はない、最後の直接対決に勝った方が次の予選に進めるだろう。
しかしその最後が問題だ。
工場はその構造上、最終安置が建物の無い場所になるようゲーム上設定されている。
建物が最終安置になって、工場内と屋上にチームが分かれたとき、戦うことなくどちらが先に範囲のダメージで死ぬかの耐久戦となってしまうからだ。
なので外の平地で戦いあってスター獲得者を決めよ、となるがこれでもまだ内と外、対等な条件ではない。
最終安置の狭まり方次第でどちらが先に工場から出ないといけないか、屋上から飛び降りないといけないかが決まるからだ。
前者なら上から撃たれてただの的になって負けるし、後者なら近距離戦に持ち込んで勝てる。
実際1マッチ目は前者のパターンでWODが勝ち、2マッチ目は後者のパターンでアタイたちが勝った。
3マッチ目、どちらのパターンになるかで予選通過者が決まるという事態……まじめにやれと言う方が無理な話だねえ。
この筋書きにもしケチを付けられるとしたら――ジイクたちの部隊かねえ。
でもやつらは4位、WODとBFTどちらのポイントも超えなければ予選を通過できない。
外でどんだけ頑張っても内のアタイらがポイントを稼いで突き放すだろうし、逆もまた然りさ。
普通にやったんじゃジイクたちに勝ち目はない。
「………………」
だからやつらが1位通過を諦めていないとしたら……一つだけ取り得る奇策に心当たりは付く。
それは部隊を2つに分けること。
2人を内に、2人を外に向かわせる。
SSSは4人1組のチーム戦だけど、22に分かれることはルール的に禁止されていない。戦力を分けることにほとんど利点が無いため誰もしないだけ。
数こそ正義のSSSでは技量によっぽどの差が無い限り人数の多い方が勝つ。
故に分けるのは無謀だけど、それでもジイクたちは賭けに出るしかないだろうねえ。
上手く行けば外でも中でも勝って逆転1位――そう夢見るしかない。
実際起きたら中々に面白い試みだけど……それでも乾きは満たされなかった。
結局ジイクたちが逆転に必要なのはアタシを止めること。
だけどあの娘の技量ではアタシに勝てるはずがない。
電子の戦場しか知らず経験も浅いあの小娘に何故負けるというのか?
「ああ退屈だ、退屈だ……」
現実の戦場では流石に通用する年齢じゃなくなって、第一線を退いた。
それでも戦場を忘れられず、電子の戦場に飛び込んだ。
現実の筋力やスタミナの優劣は関係なく、反射神経なんかの衰えは経験でカバー出来る。
アタシは生涯現役、ずっとずっと戦い続ける。
ジイク、あんたがSSSをプレイしているって知ったとき、少しは胸がときめいたんだよ。
あんたもあのときと変わらず、戦い続けているんだって。
でも違った。
あんたは変わった。
理由はすぐに分かった、その隣にいる小娘のせいだ。
ずいぶん立派に育てたじゃないか、親の真似事頑張ったんだろう。
でもそうやってあんたは大人になった。
まるで子供のような無邪気で、残酷な、アタシを魅了した戦場での苛烈さは失われた。
アタシだけなのかい? あのときの感情を持ち続けているのは。
「っ! 近くで銃声が!」
「姐さん!」
「……はいはい、わーったよ」
考えたって仕方ない。今の腑抜けたジイクに期待するなんて無駄無駄。
過去から現在に思考を引き戻す。
どうやら3マッチ目最初の戦闘が始まったようだ、幸いにも近くのためそのまま漁夫に向かう。
たどりついたところでちょうど敵を落としたのかキルログが流れてきて――――。
「なっ……!?」
その表示された名前に、『ジイクフリート』の文字にアタイは心底から驚いた。
今の銃声とキルログのタイミング……間違いない、すぐそこにいるのはジイクだ。
遠距離が得意なジイクが内の近距離でキルを取る。
4対4の戦いなら味方が削ったところに最後の一撃を与えて、偶発的にそうなることもあるだろう。
だけど、やつら、チーム『APG』の面々はそこに2人しかいない……!
それはつまりアタイの思っていたとおりの奇策を……内と外で22に分けて……なのにジイクを内の担当にした……っ!?
ジイクの隣にいるのは鳥使い、つまりあのオーダーと小娘が外に向かったのか……?
遠距離が得意なジイクを内に、近距離が得意な小娘を外に入れ替えてきた。
馬鹿げている、馬鹿げている……!
あのオーダーによるものか? ……ったく、常識を破壊してくるような……これが正に奇策……!
「ははっ……!」
知らず知らずの内にこぼれた笑み。気付けば乾きは収まり、血が滾っていた。
「面白い……!」
ジイクたちが撃ち漏らした敵がこちらに流れてきたのでアタシは処理する。
これでキルログが流れて、アタイがここにいることをジイクも理解しただろう。
ジイクがこちらを見て、一瞬動きを止めたような気がした。
ああ、そうだ!
我が戦場でのパートナーよ!
アタシはここにいる……!
傭兵時代、幾度と無く模擬戦をした仲だ。
あの頃のように……久しぶりに――
「遊ぼうじゃないか、ジイク……!!」
ーーーーーーーー
最終3マッチ目開始から五分ほど。
キラーこと拙者は、スナイパーライフルの望遠スコープでも遠くに見えるくらいの射程外の距離にその姿を見た。
罠師。
この戦場ではチーム『APG』のオーダーしか使用していないキャラ。
その傍らには巫女、操りしは遠距離はまるで駄目なプレイヤーのはず。
その2人だけが外で動いている。
未だキルログが流れておらず、人数欠けによる仕方ない動きではない。
22に分けて外と内を制圧する策、よもや実行するとは思わなかったが……それにしてもまさか外に来たのがこの2人とは……。
舐めている。
「神聖な狩り場に迷い込んだ獲物――逃さず狩る……!!」




