58話 第二予選、2マッチ目
第二予選、1マッチ目の総合順位は9位。
25チームいるため上位の方ではあるものの、3次予選に進めるのは1位のみ。
SSS全国大会で優勝する、という目標を掲げている私たちにとってこの結果は良いものではない。
「……ごめん。再使用可能時間見誤った」
いつになく元気の無い声でアカネちゃんが謝る。
「ううん、あの状況だししょうがないって」
リリィこと私は慰めの言葉をかける。
緊迫した状況が連続していたしそこまで頭が回らなくても仕方が…………。
「…………」
いや。やっぱりこの1マッチ目、ジイクさんとアカネちゃんの調子は悪い。
キラー選手とバアサーカー選手は強敵だ。技量が高く、してやられた部分はある。
それでも絶好調のジイクさんとアカネちゃんなら何とか出来たはず……と思ってしまう。
(不調の原因……マモル君の想定だとジイクさんに何かがあって、それを話してくれないからアカネちゃんも不貞腐れている)
一体何が起きたのだろうか?
でもジイクさんが黙るなんてよっぽどのことだ。ただ同じチームでしかない私がそんなデリケートな話題に踏み込んでいいんだろうか?
そもそも人の心配の前に自分の心配だ。
今だってアカネちゃんのミスをカバーして、私がバアサーカー選手を倒せていれば問題なかった。
マモル君は最後の一人になったときもあきらめず、手榴弾で敵の一人を確殺してポイントを奪っている。
足を引っ張ってばかりじゃいられない……2マッチ目集中しないと。
それから少しして2マッチ目が始まった。
現在の順位9位から一気に1位に躍り出るのは難しくても、ここで少しでもポイントを稼いで順位を上げておかないと逆転することは不可能になってしまう。
さっきと同じポジションに降下して物資を漁りながら祈るように安全地帯の発表を待つ。
この『工場』マップ、やはり安全地帯の場所が大きく戦況を分ける。
自分が中心にいるなら外に出て周囲を牽制するだけで順位を上げられる。
対して範囲から外れてしまった場合、外を大きく移動するのはただの的でしかないため中で移動するしかないが、乱戦に巻き込まれる危険性がかなり高くなる。
そうなってはいくら戦況のコントロールが得意なマモル君といえど、運悪く落ちることを避けきることは出来ないだろう。
運命を分ける安全地帯の場所が示されて――。
「僕たちとは反対の方角ですね」
結果は最悪だった。
大移動を強いられる……どうしてこんなタイミングで……。
「移動を早めましょう。物資の交換を終えたら開始します」
私が自分の運の無さを嘆く間に、マモル君がオーダーを出す。嘆いたところで変わらない、ある状況に対応する、その切り替えの早さがマモル君の凄いところだ。
「うん、そうだね!」
半ば空元気だけど、少しでも閉塞感を打破するため明るい声で返事する。
そうして安全地帯に向けて移動を開始した私たち。
敵がどこに潜んでいるのか分からないためコソコソとした移動だ。
鳥使いの索敵スキルは使っていない。
スキルを使えば鳥の鳴き声でこちらの位置を知らせてしまうし、また索敵もあまり上手く行かないからだ。
というのも敵がいる座標が分かっても、その高さは分からないのである。
外、屋上にいる敵も索敵に引っかかってしまい、無駄に警戒して損したという結果を生みかねない。
なるべく音を立てないように移動して、移動して、移動して――。
移動した先で敵と鉢合わせた。
「っ……!?」
安全地帯にぎりぎり入っている製品保管室。その中に入って一次収縮はやり過ごすつもりだったが先客がいた。
敵もどうやら同じ算段だったのだろう、待ち伏せだったなら真っ先に銃弾が飛んできているはずだし完全に偶発的な遭遇。
もしこれが現実の戦場だったら、最善の選択肢は一次停戦を申し出ることだ。
戦い始めればその戦闘音により漁夫を呼ぶ。双方共倒れとなる未来がかなり固い。
しかしここは電子の戦場、SSSにおいて敵と意志疎通をする手段は煽り行為などを防ぐため実装されていない。
意志疎通が出来ない敵、思い浮かぶはいつやられるか分からない、やられるより先にやらないと。
ただそれだけ。故にバトルロイヤル。
「ぶっ倒す……!!」
突如として開かれた戦線は全員が前線となる。
ならば特攻前衛が一番早く反応するのは当然とも言えた。
アカネちゃんがマシンガンの弾をばらまいて敵を削る。
「っ……またもや……」
敵が完全に音を立ててなかったとはいえ、またも敵の潜伏に気付けなかったジイクさんが歯痒そうにしている。
「……まあやるしかないですか!」
「フォロー入るね!」
マモル君は一瞬逡巡するも切り替え戦い始めて、私もそれに続く。
こうして突如開かれた戦闘は何とか私たちの勝利を以て終える。
しかし、ここからが本番だ。
「漁夫警戒!」
私たちは勝ちこそしたものの、無傷でとはいかなかった。
それぞれダメージを負っているし、敵の粘りにより戦闘が長引いてしまったことがマズい。
つまりは新たな敵が近づくのに十分な時間があったということだからだ。
「スキル使います!」
「お願いします!」
どうせ自分たちの居場所がバレているならデメリットは無しだ。私は鳥使いのスキルを使う。
マップに表示された敵の位置によると、迫ってきているのは2部隊。
「応戦するわよ!」
「ここは逃げましょう」
アカネちゃんとジイクさんが相反する提案を上げる。
「いえ、ここは――手榴弾来ます!」
マモル君が口を開きかけて、警告を発した。
部屋に投げ込まれた手榴弾、咄嗟のことにアカネちゃんは部屋から出て敵に向かうことで回避、ジイクさんは部屋の中爆発の届かない位置に回避、そして私も回避しようとして……。
「あっ……」
足下にあった棺桶に足を取られそのまま爆発に巻き込まれてしまいダウン。
「こんなやつら……!」
アカネちゃんは勇猛果敢に挑むものの、こっちは足並みが揃っていないため1対4ではどうしようもなくダウン。
「流石に厳しいですか……」
ジイクさんは紛れて逃げようとするも敵に捉えられてダウン。
それぞれ確殺を入れられて脱落となった。
「ご、ごめん……えっとマモル君は……」
部隊最後の一人、マモル君はまだダウンしていない。上手く隠れたんだろうかと見てみると、部屋のど真ん中、フォークリフト車の上にしゃがみ姿勢でいた。
「えっ!? そんなとこ敵から丸見えじゃ……!?」
「ええ、ですが心理的に見えないんですよ。
部屋に入ってまず敵が見るのは地面に散らばった棺桶、ダウンしたリリィさんたち。どうしても敵の目線は下に向きます。それでも分かりやすい隠れ場所は警戒するでしょうが、こんな部屋の中央にまでは意識が届きません。
そこにアカネを倒したもう一つの部隊が到着すれば応戦するしかない。完全に僕から意識は逸れます」
マモル君の言うとおり、部屋の中で二部隊が争い始めたが、マモル君の方には一発も銃弾が飛んでこない。心理的なエアスポットに上手く入っている。
「さて、これで危機は脱せましたが、攻撃すればたちまち蜂の巣。皆さんのバナーを拾うのも無理でしょう。なのでここからは一人でハイドします」
ハイド、全く戦わずとにかく生存することを重視して順位を伸ばすことを目的とする行為のことだ。
「ごめん、アカネが勝手に動いたから」
「私もですな。普通に考えれば敵が逃がすはずがない、と分かったのに……」
「……大丈夫です、アカネ、ジイクさん。
流石に敵だって誰もダウンしなければどこかに隠れていると警戒したでしょう。三人もダウンしたからあと一人もどうにかなった、と錯覚して僕もハイド出来ているんです」
アカネちゃんとジイクさんにマモル君は何でもないかのように答える……その奥にどのような思いを抱えているか、私には見通せない。
「……さて。ということであとは僕の一人行動です。意志疎通は不要なので、ちょっと集中するためにVCを一時的に切断しますね」
ブツッ、となってマモル君がVCから落ちた。
ゲーム画面を見ると、マモル君は敵部隊が争い合っている隙をぬって部屋を脱出している。
孤独な戦場に挑むマモル君。
「…………」
それを私は、チームメンバーとして、座して見ているだけでいいのか?
否だ。
マモル君、あのときは反対し損ねたね。
二人の変調に私たちに出来ることはないって。
デリケートな問題だったらどうしよう、って理屈も重ねて動くことを諦めていた。
でも、そうじゃないよね。
ただチームが同じなだけ……じゃない。
私たちはチーム、仲間なんだ。
踏み込む資格は十分にある。
マモル君が頑張っているのに、私が臆してて良いわけがない……!!
「ジイクさん」
「……何でしょうか、リリィ様」
「単刀直入に聞きます。一体何があったんですか、白状してください!」




