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5話 VC


「すいません、その行動待ってもらえますか」


 SSSの野良マッチ中、守こと僕がVCボイスチャットを通じて話しかけたところ。




『うわっ、あわっ、あわわわっ!? だ、誰っ!?』


 通話先の女性の慌てふためいた声に加えてガタガタッとした音も響く。驚きすぎて何か落としたのだろうか?

 やっぱりVCボイスチャットが繋がっていると思っていなかったんだろうな、と判断する。

 驚きすぎて誤って銃を撃っていたら困ったことになっていたが、女性は行動をキャンセルさせる方に反応したようなので制止させる目的も無事達成出来たようである。


 SSSはVCボイスチャットとゲーム内での音が独立している仕様だ。VCボイスチャットでどれだけ大きな声を上げても、それで敵チームに気付かれることはない。

 階下の敵チームがこちらに気付かないまま移動して去った様子を見届けていると、女性もようやく落ち着いてきたようだ。




『あ、そっかー。これVCボイスチャットかー。びっくりしたー。部屋に幽霊でも出たのかって思っちゃった』

「やっぱりVCボイスチャット繋がっているの気付いていなかったんですね」

『すいません、繋ぐの初めてで驚きすぎましたね』

「いえいえ、気にしないでください」

『……そっか。さっきマイクを切り忘れてそのまま…………って、ちょっと待ってください。もしかしてマッチ始まってから今までの独り言も……』

「ええと、ばっちり聞こえてましたが」

『うわぁぁぁぁっ!!』


 悲嘆に暮れた声が響く。どうにも感情表現が豊かな女性のようだ。


「何かすいません」

『いいの……不注意な私が悪いんだから……別に聞かれて困ることは何も言っていないはず……言っていないよね?』

「普通なゲーム中の独り言だったと思いますが」

『ゲーム中に独り言話すって時点で恥ずかしいような……』

「…………」


 返答に困って口をつぐむ。


『って、ごめんね。こんなこと言われても困るよね。それに今はマッチ中だし集中しなきゃ』

「大丈夫ですよ。今のやりとりの間に最低限の物資回収は終わらせて合流しましたから」

『い、いつの間に……』


 敵チームが去ったため天井から降りて、近場のめぼしい沸きポイントから物資を回収して、二階にいる女性のキャラの場所まで来ていた。

 被弾すると体力の代わりに削れてくれる低級アーマー、そのアーマーを直す修理キット、体力を回復できるポーション、投げると一定時間を置いて爆発する手榴弾1つ、ハンドガンとその弾薬。

 本当に最低限ではあるが戦うための準備は整っている。




『そういえばどうしてさっき撃つの止めさせたんですか? 相手が一階にいて、こっちが二階にいましたし十分有利だったと思うんですが』


 女性の疑問。

 高所が有利というFPSの基本を抑えているあたり、全くの初心者というわけではなさそうだ。


「そうですね、地理的には有利でしたが、それ以外に不利な点が二つあって」

『二つ?』

「一つは人数、あの時点では僕が合流出来てなかったので1対3になるところだったおいうのと、もう一つは装備の差ですね」

『あー、人数はその通りですね。でも装備というのは……』

「敵チームの一人が高級アーマーに加えてEXウェポンを装備していました」

『うわー、それは流石に無理ですね。にしてもよく分かりましたね』

「上から観察していたので」




 俺たちの味方であった二人を囲んで始末した後に始まった4対4の敵チーム同士のぶつかりあい。

 もし完全に二つのチームが同じ強さだったとしたら、戦う内にお互い同様に損耗して、勝ったとしても生き残りはボロボロな一人が残るだけという結果になるはずだ。

 しかしそうはならず、一方が三人も残しながら相手を殲滅した。


 この圧倒的な差を生み出した要因が装備の差だろう。

 銃弾を1、2発分のダメージを肩代わりしてくれる低級アーマー、その二倍の耐久力を持つ中級アーマー、さらにその上に位置する低級の三倍の耐久を持つ高級アーマー。

 その高級アーマーが運良く降下地点近くに落ちていたのだろう。これを装備していれば少しくらいの被弾を恐れずに攻めることが出来る。


 その上にEXウェポンだ。

 EXウェポンとは他の装備よりも一段上の性能を持った銃のことだ。今回はEXマシンガン、装弾数が多い上に撃ったときの反動も低めで扱いやすいという反則級の強さを持った銃だ。

 こちらも運良く降下地点近くに落ちていたのだろう。

 この二つが揃った結果、一方的に蹂躙する戦闘となった。




『人数と装備……うう、そうですよね。そうなると私たちが勝つのも難しいですよね』


 女性が嘆く。

 人数もまた重要なファクターだ。チーム戦である以上人数の多い方が有利で、4対2で正面からぶつかれば余程のことが無い限り4人の方が勝つだろう。


 現状僕たちは二人チームだし、装備も僕はハンドガンで女性は普通のライフル銃を持っているだけ。

 人数も装備も劣っている僕たちはこのまま負けるのを待つしかないのか?

 否。




「勝てます」

『……え?』

「リリィさん、二人でスターを取りましょう」


 僕は女性の名前、表示されているゲーム内ネーム『リリィ』を呼びながら、スターを取ると、一位を取ると宣言する。


 もし仮に運だけで全てが決まるゲームがあったとしたら、そんなのするよりジャンケンでもしていればいい。


 さっきの敵チーム同士の戦闘だって運が大部分を占めていたが、それが全てだったかというとそうでもないだろう。

 相手がEXウェポンを持っていることに気付いた時点で撤退するという選択を取ったり、戦うにしても上手く物陰から姿を出したり隠れたりで無駄弾を撃たせてリロードの瞬間に攻めるなどして勝てる可能性もあった。

 逆にEXウェポンを持った方も全く銃の狙いをつける技術、エイムが悪ければ宝の持ち腐れだったはずだし、全く実力が無かったというわけでもないはずだ。


 運の良い初級者が上級者を喰うこともあるし、運が悪いはずなのに実力だけでどうにかする上級者もいる。

 運と実力が程良く配分されているのがこのSSSというゲームの魅力だ。




 そして実力と一口に言っても、その分野は多岐に渡る。

 敵の攻撃を避けたり銃の反動をコントロールして銃弾を敵に当て続けるなどの技術、マップや銃の性能などについての知識。


 見た感じリリィさんは中級者と呼べる実力は身につけているように思われる。基本的な知識もあるし、今だって会話しながらもキャラを小刻みに動かすことを忘れていない。

 棒立ちではもし遠くからスナイパーで狙われた場合格好の的なため、上手い人はほとんど棒立ちの時間を作らない。

 ただ最初に1対3になることが分かっていたのに攻撃を仕掛けようとしていたように、立ち回りには少々の難があるといったところか。


 僕はその立ち回りの技術を磨きに磨いた。だから二人の力をあわせればスターを取ることも夢ではないはず……だが。




『二人でスターを……取れるならすごいけど』

「そのためにも……リリィさん、僕の指示に全部従ってもらうことは可能ですか?」


 確認を取る。

 なし崩し的に打ち解けているように見えるが、僕とリリィさんは初対面だ。『銀鷲』で活動していたとはいえ、僕が有名人であるかというとそんなわけない。もっと知名度のある配信者やプロゲーマーなどがごろごろといる界隈だ。

 リリィさんからすればこんな胡散臭い小僧の指示に従うなんてまっぴらだ、と思っても不思議ではない。




『指示に……ですか?』


 リリィさんの声音には難色が含まれている。




「あっ、いや、そのすいません。いきなりこんなこと言って、やっぱり無理ですよね」


 何て提案してんだ、と我に返った僕は引っ込めようとして。




『そっか。他人の指示に従って戦う、そういう方法もあるんですね』

「……え?」

『いやー、恥ずかしいことにVCボイスチャット繋げてSSSやるの初めてで。いつも自分で考えて、他の人とは何となくで連携してやっていたんですけど……そっか、そっか。声で指示に、連携を取ってそんな方法があるんですね』

「…………」


 そういえばVCボイスチャットが繋がっていることに気付いていないなんて迂闊だなと思ったけど、一回も繋げたことがなかったから設定をどうしているのか気にすることも無かったと考えると納得だ。


『分かりました。これよりマモル隊長の指示に従います!』


 僕のゲーム内ネームのマモルに隊長も加えて呼ばれる。


「……隊長は止めてもらえると」

『じゃあマモル……くん、でいいのかな……よろしくお願いします!』


 よろしくお願いされてしまった。

 となるとここからはもう失敗できない。スターを取れなかったとしたら全て僕の責任だろう。




『まずはどうしますか!』


 リリィさんに問いかけられる。

 現在位置は変わらず『神殿の廃墟』の一角にある吹き抜けのある広場の二階だ。一階にいたチームが去ってから近くで物音はしないが遠くには音が聞こえる。

 僕たちの目の前で1チームやられたが、最初10チームほど降下したはずだし、まだ複数のチームが神殿にいると見ても良さそうだ。


「…………」

 マップをちらっと見る。

 今回のマッチ、最初の安全地帯は巨大樹もある北東方面だ。神殿の廃墟はその範囲に入っていない。

 だと考えると……うん、行けるだろう。




「とりあえず物資が足りませんし、どこかのチームでも倒して強奪するとしましょうか」





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