46話 目標設定
リリィさん初顔見せ事件の衝撃はかなり大きく、各々が落ち着くまで時間がかかった。
そこからリリィさんはゾンビのような足取りで駅の方に姿を消し。
「お。お待たせしました……」
数分後、普通の服に着替えて戻ってきた。
「着替え持ってきてたんですね」
「そもそも駅に着いてからセーラー服に着替えたんだからね。あの服で電車に乗るなんて絶対に無理だし」
「恥ずかしいって分かっているのによく僕たちの前には姿を現せませたね」
「そ、それは……最後までずっと迷ってたんだけど、約束の時間に遅れるわけには行かなかったから、もう『ええい、ままよ!』って感じで、ね」
「結局事態を収拾させるのにかなり時間がかかっちゃいましたけど……」
待ち合わせに決めた時間からもう30分経っている。
「ふぉっふぉっ、それならご心配なく。こういうこともあろうかと、元々一時間早めに待ち合わせ時間を設定していたため今から向かえば問題ありません」
「あっ、そうだったんですか。なら良かっ…………いや、想定していたって、もしかしてジイクさん……」
「もちろん私はリリィ様の年齢偽装の件、前々から知っておりましたぞ。それで今日皆様の前に姿を現さないといけないことに悩んでいるリリィ様にセーラー服を着てはどうか、と進めたのも私です」
「何してるんですか?」
「今回の合宿費用の件、リリィ様は自分の分は出すと譲らなかったですからな。それよりも配信を盛り上げてくれた方がいいと駄目元で提案したのですが……まさか本当にするとは思いませんでした。大盛り上がりでしたし、あとで是非閲覧してください」
「絶対見ません。あー、これなら普通に費用払った方がマシだったよ……」
リリィさんがうなだれている。
「…………」
そんなリリィさんを僕はジッと見つめる。
「……ん? どうしたの、マモル君?」
「いや、その本当に大人だったんだなーって思いまして」
「あ、そうだ。何か騒々しくなって忘れてたけど……ごめんね、今まで騙していて」
「えっと……僕と初めて野良マッチで会ったときには高校生だ、って偽ってましたけど……あれどういうつもりで言ったんですか?」
「それは、その……マモル君が高校生だって聞いて、10才も上で、それなのにリリィって名乗っているなんて、こう引かれないかな、って思って……VCだけならバレないだろう、と思って嘘を吐きました」
「そうだったんですか……正直本当のことを言われても大丈夫だったとは思いますし、別に騙されたことで被害を受けたわけでも無いですから気にしてませんよ」
「本当……?」
「はい。そもそもゲームを楽しむのに年齢は関係ありませんからね」
「……そう言って貰えると嬉しいかな」
「後は……まあ正直なことを言うと、僕も最近はリリィさん本当に高校生なのか、って疑っていたので」
「ど、どういうこと……?」
「リリィさん、学校についての話が極端に少なかったし、時折仕事の話してたり、この前スター杯の打ち上げの時とか、自分が年齢偽装してるの忘れて『ネコブラ』初代から遊んでるとか話してましたし……脇が甘すぎて気になってたところに答え合わせがされてちょうど良かったです」
「ううっ……。私ってばポンコツだなあ……」
「え、みんな気付いてたの!? アカネ全く分からなかったんだけど!!」
お子ちゃまらしく、素直に人を信じていたようである。
「さて、最初から腰を折られましたが、気を取り直して行きましょう。ジイクさん、合宿所まで案内お願い出来ますか」
「もちろんでございます。歩いて行ける距離ですから、皆様こちらの方へ」
ジイクさん先導の元、僕らは駅裏を離れるのだった。
歩くこと数分、たどり着いたゲーマー用合宿所は住宅街の中に存在していた。
外装は少し広いくらいの家といった感じだが、中は複数人で一緒にプレイ出来る大部屋、それぞれ寝泊まりする個室、その他生活するのに困らない設備が整っていた。
大部屋にはデバイス一式が複数、個室にも一つずつデバイス一式が完備されており、しかもどの部屋もしっかり防音がされていて夜中に騒いでも周辺に迷惑をかけることがないようだ。ゲーマーの基本生態は夜型のためありがたい配慮である。
それぞれの個室に荷物を置いて大部屋に集合する僕ら。
「合宿開始となりましたが、ただSSSをプレイするだけではいつも通りでしかありません。そこで僭越ながらこの私が皆さんの合宿中の目標について考えてきましたので発表させてもらいます」
ジイクさんが仕切り出す。場所の手配から始まり、今回の合宿におけるまとめ役も務めてもらって本当に頭が上がらない。
「まずはマモル様。その立ち回りに関して私から言うことはありません。ですから今回の合宿ではその拙い戦闘力に関して重点的に強化していきましょう」
「はい、そのつもりでした」
今まで手っ取り早く勝つための立ち回りばかり磨いてきたが、大会を勝ち進むとなれば基本や地力が大事となってくると思っていたところだ。
「私も同じように苦手な近距離戦を重点的に強化します。反対にアカネ様は戦術面について学んでもチームへの貢献は薄いと判断したため、長所をさらに伸ばすために近距離戦の強化を行います」
「爺と同じ分野ってことね。了解」
「最後にリリィ様ですが……これが難しくて」
ジイクさんが言いよどむ。
「えっと絞りきれないくらい課題があったってことですか?」
「いえ、むしろその逆で。他のメンバーがとがっている中、リリィ様はとても丸く、全般的に成長してきています。
ただプレイ歴が浅い故の経験不足が少々。加えて本人の性格的なこともあり自信の無さが見えますが、逆説的に経験を積んでいけば解消されるものでしょう」
「だったらがむしゃらにSSSをプレイする……ってところですかね?」
「……、……、……」
「ジイクさん?」
「……いえ。それだけでは物足りないため、ちょっと難しいですがこのように目標を設定します。
ずばり、リリィ様に求めるのは『技能』の習得です」




