41話 スター杯本選 3マッチ目
「安全地帯は中央か……これはありがたいな」
スター杯本選、3マッチ目。
マモルこと僕は表示された安全地帯の位置に安堵する。
「そんなにいい安置なの? だって『神殿の廃墟』でしょ? 敵がどの位置にいるか分かりにくくない? もちろん普段なら乱戦上等だけど、負けられない大会だと大変って感じじゃないの?」
「もちろん大変だけど、それ以上に『GD』の逃げを封じられるし、運が良ければ乱戦の中で倒れてくれるかもしれないからね」
「あ、そっか」
アカネは納得した様子だ。
現在5位から逆転優勝を狙う僕らだが、どれだけポイントを稼いでもそれ以上に『GD』に稼がれては優勝することは不可能だ。
そのため『GD』はなるべく戦わずに順位ポイントを稼ぐという手段を取ってくる可能性があったが、今回の安全地帯にあるスポット『神殿の廃墟』や『森林地帯』には安全に隠れられる場所はほとんどない。
必然的に『GD』もどこかで戦わないといけなくなり、倒れてくれればそれ以降ポイントを稼ぐことが出来なくなる。
「もちろん私たちがうっかり倒される可能性も十分にあります。警戒していきましょう」
「そうですね」
僕が言う前にジイクさんが注意を促す。
これまで通り僕らはマップ南の方に降りて物資を漁り、そして敵に会わないように注意しながら『神殿の廃墟』までやってきた。
スポット『神殿の廃墟』はその名前の通り森の奥地に佇む、朽ちかけた巨大な神殿といった場所だ。
特徴はその広さで内部に複数の広場や長い廊下、多くの小部屋など様々な構造を有している。
同じような内装が続くため初心者がよく迷うと聞くし、また同じようでも場所によってひび割れているので通り抜けられる壁や亀裂があって上下に移動が可能だったりと、全ての特徴を覚えているのは中級者でも少ないだろう。
また音も室内で反響してどこから発されているのか分かりにくいときがあったり、方向が分かっても正確な場所までは掴めなかったりで全体の状況が把握しにくい。
総じて立ち回りが難しい場所だ。
僕たちはとりあえず南の一角にある小部屋に潜伏する。
「ポイントを稼ぐ必要はありますが、当然ながら先に戦いを仕掛けては漁夫が来る可能性が高まります。ここぞというタイミングまで待機です」
僕はチームに指示を出して、そして待つ。
第一収縮の開始、画面に表示されている残り部隊の数は20。1マッチ目が第一収縮が終わっても24部隊残っていたことを考えると減りが少し早い。
最終マッチということで一発逆転を狙った部隊がキルムーブを取っているのだろう。
第一収縮の完了、残り部隊は18。暴れていた部隊が討ち取られたようで少し戦況が落ち着く。
第二収縮の開始、残り部隊は16。ここまで範囲内だった『森林地達』が範囲外になっていく。ほとんど『神殿の廃墟』だけが安全地帯となった。
第二収縮の完了。残り部隊は15。『森林地帯』から『神殿の廃墟』に乗り込もうという部隊と待ち伏せしていた部隊が戦闘を繰り広げているようでまだ遠くでは銃声が鳴っており――。
そして待ちに待っていた時がきた。キルログのアポロン選手がキルを取ったという表記だ。
「ジイクさん! どうですか!?」
「……複数の箇所で戦っているのと、反響して分かりにくくはありますが、流れた瞬間から判別するに東の広場だと思われます」
「了解です! 総員、東の広場へ!!」
指示を出すや否や颯爽と動き出すメンバーたち。
3マッチ目、一番の狙いは『GD』だった。
逆転優勝に必要なのは『GD』を上回ること。だったら『GD』を倒してこれ以上ポイントを稼がせないのが一番早い。
もちろんただただそれを待ったり祈ったり、他で勝負する選択肢もあったが、
『そんな守っても勝てないでしょ』
というアカネの言葉もあり、僕らは積極的に『GD』を狙うつもりだった。
とはいえ『GD』がこの戦場のどこにいるのかは分からない。鳥使いのスキルは敵の位置がわかるだけで敵が誰なのかは分からないし、当然ながらゴースティングなど論外だ。
唯一分かるとしたらキルログくらいだろう。
倒したプレイヤー名、倒されたプレイヤー名の中に『GD』のメンバーがあれば戦闘中であることが分かる。そのときに鳴った戦闘音と照らし合わせればどこにいるのか大体分かることもある。
「むっ、さらに銃声とアルテミス選手のキルログ。やはり東の広場で間違いなさそうですな」
さらに追加された情報で居場所を確定させる。
「スキルの結果来ました!! 周囲にいるのは2部隊だけです!!」
「だったら絶好の漁夫チャンスじゃない!」
移動しながら使用したリリィさんの索敵スキルの報告、巡ってきたチャンスにアカネが沸き立つ。
「『GD』に立て直す暇を与えないためにも電撃作戦で行きます!! 皆さんはこのまま進んで、接敵次第攻撃を仕掛けてください!!」
「えっ!? マモル君は!」
「僕は別行動します!!」
真っ直ぐ進むチームメンバーと分かれて、右手に見えてきた階段を上る。
上る分出遅れたため、先に3人の方が東の広場にたどり着いた。
そのときちょうどキルログが二つ流れて、『GD』が戦っていた敵部隊が全滅。完璧なタイミングで漁夫を開始する……!!
「食らいなさい!!」
アカネがマシンガンをぶっ放すが、『GD』はすぐに床に崩れ落ちている柱に隠れてやり過ごす。移動中鳥の鳴き声が聞こえたし、向こうも索敵スキルでこちらのことは把握していたのだろう。
「射線増やしますぞ!!」
「手榴弾投げます!!」
隠れた敵に対する攻め方、その隠れたところを撃てる場所に移動するか、山なりに攻撃できる手榴弾を投げるか。基本の二つをジイクさんとリリィさんが実践していく。
しかし『GD』も隠れていた遮蔽から、違う遮蔽へ移動して対応する。この広場には崩れた柱や台座、像などがあって、使える遮蔽物が多い。
このままでは『GD』を捕らえきれないだろう。
だから僕は2階に上がったんだ。
「よし、上からも撃ちます!!」
2階の廊下から吹き抜けとなっている下の階めがけて銃を撃つ。『GD』はさらに増えた射線に手間取っている。これでかなり『GD』の行動は制限出来たはずだ。
「ナイス! 突っ込んでもいいよね!?」
アカネの確認に、僕は瞬時に状況を判断する。
『GD』は現在像の裏に隠れている。像を背中にすることで背後を気にしなくて良く、先ほどまでジイクさんが撃ってきた方面に『ウォール』を展開して射線を遮っている。結果、二方向だけを気を付ければ良いので警戒がかなり強くなっている。
また像の高さがかなりあり上から撃つためには角度を変えるとなると、吹き抜けになっている2階の構造上かなり遠くから撃たないといけない。
迂闊に攻め込んだらカウンターでやられる……瞬時にそんなポジションを取ってくるとは――。
「想定通りだ! 全員突っ込め!!」
僕の指示に3人共『GD』の方へと駆け出す。
僕もキャラを操作して柵を越えさせて、二階から一階に飛び降りさせた。
像にぶつかったタイミングで方向を微調整。
『GD』の四人の背後、像との間のわずかなスペースに僕は着地した。
飛び込んでくるとは思ってなかったのか慌てて振り返る四人。
意表を突くことは出来たが、ここから普通に撃ち合っても1対4ですぐに撃ち負けるだろう。
だから僕はそのまま『罠師』のスキルを発動した。
罠設置、その場にスロウ効果を付与する罠を設置するが、その後汗をぬぐうキャラのモーションが強制的に入り、全体で3秒の間完全に無防備となる。
しかし罠自体は半分の1.5秒で設置できるため、至近距離でスキルを発動した罠師を無防備だからって撃ち込み始めるとそのまま罠にかかってしまうという、僕が『銀鷲』時代によく使っていた特攻ハメ作戦だ。
この作戦を取られた場合の正解は罠の効果範囲から速やかに逃れることなのだが、それが案外難しい。
習熟したFPSプレイヤーとして、無防備な敵を見つけたら撃ってしまうのは最早習性だ。
現にこれまでこの作戦が失敗したことはない。
2マッチ目『GD』に負けたのは僕自身が戦ってしまったからだ。
撃ち合いの弱い僕が普通に戦って勝てるわけがなかったんだ。
だから僕は僕が出来ることを。
この作戦で、特攻でチームを勝たせて――――。
「……え?」
そのとき僕は信じられないものを見た。
罠設置を始めた罠師に背を向けて、その場から離れる『GD』の四人の姿だ。
……どうして?
まさか……通じないのか?
『完全指揮』は僕の考えなんかお見通し……ってことなのか?
「何よもう……!」
「これは……」
「わわっ、ちょっと……」
僕の指示で突撃したメンバーたちが想定外の激しい反撃に合う。その上単純に僕が戦闘に参加できていないため3対4だ。かなり厳しい。
「くそっ……! あっ……」
僕は汗を拭い終えた罠師が動かして援護に向かおうとするが、そのタイミングでヘッドショットを含む銃弾数発を食らいあえなくダウン。
設置した罠の上を、敵全員が効果範囲の外にいて無駄となった罠の上を、力なく這いずり回ることしか出来なくなる。
そのままメンバーたちも一人また一人と討ち取られていき……『APG』全滅。
3マッチ目の結果は14位、キルポイント0。
到底『GD』に及ぶところの無い結果で幕を閉じた。
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スター杯、大会公式放送にて。
『最終収縮開始!! 狭い範囲で見合う2部隊が移動しながら撃ち合う!!』
『位置は『GD』の方が悪いんですが『完全指揮』の指揮が劣勢を跳ねのけて行きますね』
『お互い3人ずつダウンして一騎討ち!! これを制するのは……カイト選手だ!! 『GD』スター獲得!! これはもう!! 文句無しの優勝でしょう!!』
『スター獲得おめでとうございます。一応全体結果は集計待ちですが……まあ、そうですね。決定的でしょう』
敗北イベントです。




