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4話 佐藤ユリ


 私の名前は佐藤ユリ。

 地方の中規模な会社に勤める26歳のOLだ。


 大学卒業後入社したこの会社も勤続4年目。

 先日、同期で入社した同僚が寿退社した。




「いいわねー、アタシも結婚したーい」

「もう酔っぱらいすぎだよ」


 今日は自宅で親友のスズナとオンライン飲み会だ。といっても私はアルコールに弱いから飲んでいない。

 ……あれ、そうなるとオンライン何会になるんだろう?


「良い男は大体妻帯者か彼女持ちで、売れ残りには売れ残りの理由があるのよ。って、売れ残りのアタシが偉そうに言えた立場じゃないわね!!」


 寿退社した、という話題がスズナの琴線に触れたのか、酔いの力も加わりヒートアップしていく。

 スズナとは小学校から大学まで一緒だったいわゆる幼なじみだ。就職の際に離ればなれになったが、こうして今でもオンラインで繋がるくらいには仲が良い。




「でもスズナって彼氏いなかった?」

「別れた」

「え?」

「いい。男なんて禄なもんじゃないの! ユリ、あんただけはいつまでもきれいなままでいてよね!」

「きれいなままって……」


 その後も暴れ続けたスズナだが、そのまま潰れて寝だしたところで、オンライン食事会(思いついた)は一方的にお開きという事になった。




「スズナ荒れてたなー。彼氏と別れたからなのかな」


 オンライン通話アプリを終了しながら呟く。

 言われてみるとスズナはずっと彼氏との惚気をSNSに上げていたのに、ここ一週間くらい何の発言も無かった。

 そんな状況に心配してDMを送ったところ、聞いて欲しい話があるという事で今日のオンライン食事会に繋がった。

 何があったんだろうなーと疑問に思っていたけど……。




「振り返ってみるとすごい分かりやすいね」


 なのに気付けなかったのは……私が恋愛事に疎いからだろうか。


 中高一貫の女子校から、女子大学に進学、就職したのも女性が多い化粧品関連会社。男性と接する機会が少ないままこんな年になった。

 いやでも中学から大学までずっと一緒だったのに、恋愛に積極的なスズナを見ると、生まれ持った素質による問題なのかなとも思う。


 何にしろどうにも私は異性に関心が薄かった。

 それを知っているからスズナはきれいなままでいてとか言ったんだろうし、両親も最近は『いい人はいないのかい?』と聞いてくることが無くなった。諦めたのだろう。




「まあスズナのことだし、一ヶ月もすれば新しい彼氏を見つけるだろうから心配は必要ないかな。

 それより時間がちょっと出来たし……よし!」


 PCを操作してStar Struggle Shooting、通称SSSを立ち上げる。

 私の最近の関心は専らこのゲームだ。


 FPS、銃で争うこのゲームは最近こそ女性プレイヤーが増えてきたとはいえ、やはり世間一般的には男性がやるゲームだと思われている。

 以前、スズナにそれとなく話題を振ったところ。


『あ、そのゲームなら彼氏(今回別れたのとはまた別の人)がやってるよー』

『へーそうなんだ、一緒にしないの?』

『アタシ? いや、無理無理無理だって。銃声とか聞くだけで怖いし、血とかバンバン飛ぶじゃん』


 という反応だったため、私もプレイしているという言葉はそのまま飲み込んだ。




 SSSはこれでも他のFPSよりは女性プレイヤーが多いと思う。

 単純にプレイ人口が多いことと、適度に運要素があるためカジュアルにプレイしやすいこと、それとFPSなのにキャラクターに個性があって愛着が沸きやすいところだ。


 野良マッチに参加することを決めて、私は『鳥使い』のキャラを選ぶ。

 SSSはこの選んだキャラ毎に固有のスキルを使うことが出来る。

 鳥使いは肩に鳥を乗せていて、この鳥が周辺に敵がいないかを探索してくれる。いわゆる索敵系のスキル持ちだ。

 この鳥の挙動がかわいくて惚れたため、ゲームでの強さとか考えずにずっとこのキャラを使い続けている。




 SSSのプレイを始めたのは3ヶ月ほど前からだ。

 元々私はゲーマー気質で、ちょうど大作RPGを終えて次のゲームは何か無いかと探していたとき、以前何かの大会動画を見て興味を持っていたところから、ふとプレイしてみようと思った。

 ゲームの趣味だけど、女性が好む釣りとかおしゃれしてのんびりと暮らすゲームだとか言い寄ってくる男性と恋愛関係になるゲームだとかそういうのにはどうにも興味が持てなくて、どちらかというとバトルやアクション、RPGなど男性向けのゲームばかりしている。

 ……思えば昔から日曜の朝は魔法少女じゃなくて、戦隊モノを好んで見ていたし、そういう男性趣味だから異性にも関心が持てないのかもしれない。




 それはさておき、そんな男性趣味の私だったけどFPSに手を出すのはSSSが初めてだった。

 最初こそ慣れない操作に戸惑っていたけど、次第にのめり込んでいき、休日も全てSSSで潰すようになった。

 味方が強かったという理由もあったけど、初めてスターを取れたときは感動で部屋中を跳ね回っていた。

 操作に慣れてきただけでなく、ある程度のセオリーなども分かってきて、中級者と呼べるだけの実力は身に付いてきたと思う。




「明日も仕事だから……一戦だけ。そう、一戦だけだからね」


 心に決める。以前ハマりすぎて翌日が仕事なのに徹夜でSSSをプレイしてしまって出勤したときは、顔色も悪くて周りに心配をかけてしまった。

 四人の即席チームが作られてマッチが開始する。


 プレイするときはいつも即席チームだ。周囲にSSSをプレイしている知り合いはいないし、ネット上で募集しようにもどうにもメインのプレイ層が高校生や大学生と若いため、26の身ではどうにもそういう集団に紛れ込めるか心配で一人プレイする道を選ぶしかなかった。






 ――だからこそユリはVCボイスチャットがONになっているかOFFになっているか気を付ける習慣が無かった。

 それでも普段なら大丈夫なのだが、今回は別だった。

 オンライン食事会の後、片づけていないマイクがそのままONとなっていることにもユリは気付いていなかった。

 その結果。






「えー、もう二人やられちゃったの!?」


「どうしよう、どうしよう……」


「最低限の物資は集まったけど……って、あれもう一人はどこに……あっ、天井か。って、天井……?」


「うー、ものすごい不利だけど……スターを取るために諦めないんだからね!」




 ゲームをプレイしながら呟いた独り言はチームメンバーにダダ漏れで。




「すいません、その行動待ってもらえますか」




 という少年の声が聞こえてきたときは心の底から驚くのだった。


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