38話 スター杯本選 ゴールデンドラゴン
スター杯本選1マッチ目、安全地帯の第一収縮が完了した。
画面に表示される生存部隊数は24。『GD』に落とされた部隊を除いて全てが生存している計算だ。
「いつもだったらこの時点で半分になっていてもおかしくないのに……流石大会ですね」
リリィさんが感嘆と共に呟く。
バトルロイヤルにおける鉄板戦術は漁夫だ。漁夫をされないためにはどうすればいいか、それは先に戦闘を起こさないことである。
おそらく全部隊がそのように考えているのだろう、結果として戦闘が起きずヒリヒリとした緊張感の中静かに時が進んでいく。
その硬直した場を動かすのが安全地帯の収縮だ。範囲の外にいるとダメージを食らうため中に移動しようとするが、狭まる範囲に全部隊のスペースは用意されておらず、奪うために戦闘が起きて、さらには漁夫も入ってくる。
さながら陣取りゲームだ。
「予選でも本来ならこんな感じの展開になるはずだったんですけどね」
マモルこと僕は苦笑と共に呟く。
予選ではチーミング集団との戦いのせいで僕たちは序盤から戦っていたが、それ以外の場所は静かだっただろう。
「第二収縮までのカウントダウン開始、同時に第三収縮の範囲が判明しました。私たちは第三収縮でも範囲の内側ですな」
ジイクさんが報告する。
本来なら次に収縮する範囲しか見れないが、ジイクさんのキャラ『祈祷師』のスキルによってさらに次に収縮する範囲まで見ることが出来る。
陣取りゲームの中で一早く確保するべき場所が分かるのは強いけど、それは敵も同じことが言える。大会ともなると多くのパーティーが祈祷師を組み込んでいるからほとんどイーブンだ。
「このまま最終範囲も『原生住民の住居』になりそうですね」
「えー、すごいごちゃごちゃしそうで今からうんざり……」
アカネが辟易している。
スポット『原生住民の住居』には小さな家が多く並んでいる。
ゲームによっては家に耐久度があったりロケットランチャーなどの重火力武器で壊すことも出来たりするが、SSSにおいて建物はドアを除いて破壊不可能オブジェクトとなっている。
家の中にこもって待ち構えれば外から攻略するのは難しい。そのため一つの住居に一つの部隊が陣取れるため、範囲が狭くなっても多くの部隊に生存圏があることになる。
しかしまた範囲が狭くなると、それら家にこもっていた部隊が一斉に次の安全地帯に向けて動くため混戦になると予想される。
「こういう展開になると罠師が輝いてくるんですよね」
僕はスキルを使って現在籠もっている家の裏口すぐに罠を置く。先ほど表口にも同様に仕掛けたので、これで敵が突破しようと踏み込んだ際に罠を踏むことになるだろう。
籠もった場所を要塞化出来るのが罠師の設置型スキルの利点だ。
そこだけ見ると強そうに思えるが、安全地帯が遠かったりして常に動かないといけないような展開だと使いにくいのでそこでトレードオフ出来ている。
「部隊のキャラ一人違うだけで戦術も変わったりしますからな。
まあ予選を見たところ、陣取りに有利な祈祷師、索敵出来る鳥使い、色々と便利な工作家を組み込んでいる部隊がほとんどで、残り一枠に巫女や衛生兵などを入れている部隊が多かったようです」
「そうですか。私たちは祈祷師と鳥使いと巫女がいて……工作家がいなくて罠師って感じですね」
「ウォール便利だものね。爺の狙撃を防いだみたいに漁夫に対する警戒として使ったり、広い場所でも即座に遮蔽物を作ってそこから顔を出したり引っ込めたりして撃ち合い出来たりね」
「最終安置が広場だったりすると、どの部隊もウォールで遮蔽物を作ってから勝負がスタートするみたいなところがあるからなー。というか無い部隊が集中的に狙われて落とされる。
まあ万能といってもウォールは時間経過で消えるから、こういう籠もるときに要塞化出来るわけじゃないけど」
SSSには色んなキャラがいてそれぞれが違うスキルを持っているが、こういう大会の場ではどうしても特定キャラの使用率が高くなってしまう。
キャラそれぞれに個性を付けながら同じような使用率にさせるというのはやはり難しいだろう。
「しばらく籠もることになりますが、油断だけはしないようにお願いします」
「はーい」
「うん」
「承知しました」
そうして僕たちは家に籠もったまま安全地帯の第二収縮、第三収縮を経過。
じわりじわりと部隊数が減っていき付近でも戦闘が起こる中、僕らは家に籠もったまま過ごす。
未だに0キルなのでキルポイントは0だが、順位ポイントは上がって行くし、最終的にはどうしても戦闘しないといけないのでそこでキルポイントは稼げるという判断だ。
さらに運が良いことに第五収縮の範囲内にある家は僕らがいる場所だけとなった。他の範囲は屋外で狙われやすいということもあってとても有利だ。
しかし、それだけに狙われやすいということで第五収縮が始まるとこの場所を奪おうと部隊が詰めかけてくる。
1部隊、2部隊は先に仕掛けておいた罠もあって壊滅させたが3、4部隊も詰めかけてくると流石に裁ききれない。
結果僕らの部隊は全滅、順位は5位だったが、キルポイントは10とかなり稼げたので中々のスタートだ。
「まあまあね」
アカネも喜びも不満も無いという様子だ。
「え、えっとどんな感じなんでしょう? 最後何かもうてんやわんやで……」
小さな家に数部隊が詰めかけた乱戦だったため、リリィさんは結果を把握出来ていないようだ。
「お疲れ様でした。まずまずな結果でしょう」
ジイクさんが労う。
「お疲れさまです。それにしても僕らの後に1部隊落ちて、残りは3部隊ですか……1マッチ目どこがスター取るんですかね」
最終安置となった狭い円には12時、4時、8時と綺麗に三方分かれて3部隊生存している。
12時と4時の部隊の前には低い柵があり、どちらも撃たれないようにしゃがんで待機しているようだ。
8時の部隊は先ほどまで僕らがいた家の中にいる。家の後ろ半分が範囲に飲み込まれているが、前半分でも十分にスペースがある。
どこの部隊も4人揃って生存しているようだ。
「そういえば『GD』ってもう落ちたんですかね?」
「いえ、キルログに落とされた表記は無かったはずなのでまだ生きているはずです」
「うへっ、あの乱戦でログ管理出来てるなんて、すごいなあ」
「まあこれくらいは出来ないと、って思ってますので。あとキャラ構成的に『GD』は屋外にいる部隊ですね」
「残り3部隊……これってあれだよね? 先に戦い始めた方が負けるってやつ」
「基本はそうですね。先に2部隊が戦えば、その決着が付いた瞬間に残りの1部隊は漁夫を仕掛けることで簡単に勝てますので」
「うんうん。それでこの狭い範囲で一つだけ屋内を取れている部隊が攻められにくいからかなり有利……って認識で合ってる?」
「その通りです。屋外のチームがやり合うまで待てますからね。しかしまあ屋外にいるのが『GD』ですから……『完全指揮』がどんな采配を振るうかが見物ですね」
「パーフェ……って、えっとあれだよね? 『GD』のオーダーに付けられた異名みたいなやつ」
「技能ですがまあ異名みたいになってますね。リリィさんはその様子だとあまり『GD』に詳しくない感じですか?」
「もちろん名前は聞いたことあるし、何となくは知ってるんだけど、詳しくは知らなくて……」
「2マッチ目、3マッチ目で戦ってもおかしくない相手ですし、ちょうどいいので説明しましょうか。
『GD』のメンバーは『カイト』『シズカ』『アポロン』『アルテミス』選手、四人とも僕やリリィさんと同じ高校生みたいですね」
「高校生……私と同じ……あっ、うん、そうそう、そうよね!」
「……?」
「えっとそれでアポロン、アルテミス……って神様の名前だよね? 確か双生神で……」
「その通りで、二人も実際に双子であることからそういう名前を付けたんでしょうね。この二人の技能は『以心伝心』完璧な連携で戦場を蹂躙してきます。
配信とか見てると普段から言い争ってる様子が見られるんですけど、いざ戦闘となるとお互い阿吽の呼吸で動くんですよね」
「うーん、私一人っ子だからそういう感覚分からないなー」
「次がシズカ選手。技能は『絶対遵守』。オーダーであるカイト選手の指示を完璧にこなす、ロボットのような正確さを持つプレイヤーですね」
「咄嗟だと指示出されても上手く反応できないこととかあるのに、すごいなあ」
「最後にチームのリーダーのカイト選手、技能は『完全指揮』ですが……その一端が今から見られそうですね」
リリィさんに解説している間に最終収縮が始まったようだ。範囲がゆっくりと狭くなっていき、最終的に0となって生存圏が無くなる。
そうなる前に敵を倒さないといけないのだが、屋外にいる1チームが同じく屋外にいるもう1チームに戦闘を仕掛けた。
仕掛けた側がキャラ構成的に『GD』だろう。ちなみに普段からカイト選手が工作家、シズカ選手が鳥使い、アポロン選手が巫女、アルテミス選手が祈祷師を使っていて、この大会でも変わっていないはずだ。
「先に戦闘を! でも大丈夫なんですか!?」
「分かりませんが、とりあえず相手の不意を突くことには成功したみたいですね」
仕掛けられた側は泡を食ったような対応だ。おそらくこのままジリジリと範囲が狭まるのを待って家の中にいる部隊が外に出ざるを得なくなってからが本番だと考えていたのだろう。
アポロン選手とアルテミス選手が迷い無く敵部隊へと切り込み、シズカ選手とカイト選手が中距離からフォローする。
「敵の油断するタイミングに戦闘を仕掛ける判断。そしてオーダーでありながらきちんと戦闘に参加する。当たり前といえば当たり前ですが、その練度も十分に高い」
キルログにカイト選手が一人ダウンさせたと表示される。
「開幕直後に一部隊倒したときといい攻めの指揮も取れて、ジイクさんの狙撃を防いだように守りも疎かにしない。それでいて――」
屋外での戦闘は『GD』勝利で決着が付きそうだが、敵だってやられるがままだったわけではない。『GD』も十分に削られていて、このままでは家にいる部隊から漁夫を仕掛けられてスターを取られるだろう……と思われたそのとき。
カイト選手は反転して単身で家の方に突撃して工作家のスキル『ウォール』を発動。
家のドアの前に壁を作り出して、そのドアが開かないようにした。
「真面目な手段だけでなく、あのように搦め手も使える」
家の表口は封鎖され、裏口は元々範囲に飲み込まれている。
中にいた部隊は完全に閉じこめられた。
慌ててドアを破壊して、ウォールも破壊して外に出ようとするも壁は固く時間が足りない。
一人また一人と迫ってきた範囲のダメージでやられていく。
「オーダーの完成系『完全指揮』。いわば僕の上位互換的存在ですね」
なるべく感情を込めないように、淡々と呟く。
「マモル君……」
リリィさんが名前を呼ぶその前で、『GD』はスターを獲得、キルも十分に取っており合計ポイントも1位で1マッチ目は終了した。




