3話 野良マッチ
今回のステージ『熱帯雨林』はその名前の通り木々の茂る自然が舞台のマップだ。
配置されている主なオブジェクトとしては見渡しが悪い上に落ちている物資も乏しい『森林地帯』、周辺を見下ろせる強ポジ『巨大樹』、小さな住宅が連なる『原生住民の住居』、そしてマップの中央に位置する『神殿の廃墟』などがある。
プレイヤーは最初この戦場の上空を通過する飛行船から好きな場所に降り立ってから戦闘を開始する手筈となる。
四人チームの一人が代表者となり、飛行船から下りると残りの三人も勝手にそれに付いていくというシステムだ。
僕が代表者だったら最初に降りるポジションは一択、『森林地帯』だ。
物資が乏しい不人気ポジションだが、だからこそ他の人が降りてこないとも言える。乏しいといえど一チームで独占して漁ることが出来るならある程度は装備を整えることも可能だろう。
バトルロワイヤルで一番ランダム性が高い時間帯が初動だ。
武器を拾って戦うというルール上、落ちた付近に運悪く銃が無くて無手のまま銃を拾った運の良い敵と会ってしまえば、無抵抗で殺されることが確定してしまう。
ひっくり返せば運さえ良ければ勝てるということだが、そんなのただのギャンブルだ。勝つための戦略とは言えない。
初動は確実に準備を整えて、運悪く負ける可能性も減らしたい。
……なのだが。
「『神殿の廃墟』降りか……まあそうなるよね」
代表者はシステムによって四人の中からランダムに割り振られる。今回選ばれたのは僕以外の人だった。
チームで組んでいたならここから代表者の地位を譲渡してもらうか、VCで降りる場所を指示することも出来るのだが今回は意志疎通手段が限られる即席チームだ。
真っ先にマップの中央、『神殿の廃墟』に降りていく代表者に僕は着いていくしかなかった。
一応同行を解除して、僕一人だけで『森林地帯』に行くことも出来るのだが、四人でチームなのに一人だけ別行動なんてそれこそ最大の負け行動だ。
こうなったからには仕方がない、思考を切り替えよう。
それにとんでもない悪手というわけではない。どころか世間一般的には初手で『神殿の廃墟』に降りる方がセオリーな行動とも言える。
マップの中央に位置するため安全地帯がどこに設定されても移動しやすく、物資の沸きポイントが多いため装備を整えやすい。
絶好のポイントだ。
味方にとっても、敵にとっても。
「ざっと数えて……10チームかな? いやいや、降りすぎでしょ」
飛行船から下りながら周囲を見渡すと同じように降りた他のプレイヤーで流星群のような光景が出来上がっていた。
一回のマッチが25チームであることを勘案すると、約半分が『神殿の廃墟』に降りる計算だ。
『神殿の廃墟』は広めのオブジェクトとはいえ、10チーム40人が降りれば激突は必死だろう。
「っ、せめて最初で死なないように……」
地上が近づいてきたところで僕は同行を解除。他の3人と離れて、朽ちかけた天井に着地する。天井には物資が全く落ちていないため最初にここに降りるのは良くない選択肢なのだが、このまま下まで行ってはマズいと判断したため緊急的な手段だ。
他の味方はそのまま崩れた天井を通り抜けて二人は神殿の一階に着地、もう一人は上手く操作して吹き抜けから直接二階に着地、そのまま小部屋に滑り込んだようだ。
そして僕が天井から見守る中、一階に降りた2人は早速2チームに囲まれ攻撃されて、拾った銃で応戦するもさすがに人数差は如何ともし難く、ものの数秒でキルされるのだった。
「あー……やっぱりこうなったか」
カモとなった二人を始末したためか、次は囲んでいた2チームで戦い合う様子を眺めながら僕は呟く。
広い神殿でも同じポイントにもう二つのチームが降りようとしているのは見えていた。僕が一緒に一階まで降りて三人で応戦した場合でも同じ結末になっただろう。
マッチが開始してから一分も経たない内に4人チームが2人チームとなってしまった。
当然だがものすごい不利だ。この有様から1位、スターを取るなんて夢のまた夢のように思えてしまう。
「………………」
もう夜も遅いから1ゲームくらいしかする時間が無いと思ってたけど……まだ開始一分、今ここで死ねばもう1ゲームする時間は優にある。
わざと負けるなんてもっての他だが、別に何かが賭かった勝負でもないし、大会の予選というわけでもない。
そうだ、負けたって失うものは無いんだ。
階下の戦闘もちょうど収まった。3人に減らされながらも勝ったチームが、負けたチームの持っていた物資を漁っていて隙だらけだ。
一か八かの特攻を仕掛けて勝てればオッケー、負けても次のマッチに行けると考えた――そのとき。
「えー、もう二人やられちゃったの!?」
そんな女性の声が聞こえた。
現在僕は一人暮らしだ。部屋に姉なり母なりが入ってきたというわけではない。
いや、そもそもその声はヘッドセットを通じて聞こえてきた。
SSSのゲーム内から……だがSSSのゲーム音ではない。
「どうしよう、どうしよう……」
VCだ。生き残った味方の一人のボイスアイコンが点滅している。
「意外だな……」
野良チームでもVCを繋げることは出来るが、実際に繋ぐ人はほとんどいない。
素性の知らない人と組まされる以上、お世辞にもいいとはいえないFPSプレーヤーの民度からして、暴言や罵声を浴びせられる可能性が少なからずあるからだ。
僕も以前は野良マッチするときはVCを切っていたが、久しぶりでどうやら設定を忘れていたようだ。
まあマイクは切っているからこちらの声があちらに聞こえてたことは無いはず。
そしてもう一つ意外だったのが声の主が女性、感じからして年上であることだった。
FPSというと銃を持って争う血みどろのゲームのため男性ばかりがやっているというものだったが、最近は女性のプレイヤーも増えていると聞いたことがある。そもそも僕が元いたチーム『銀鷲』も二人は女性だったし。
「最低限の物資は集まったけど……って、あれもう一人はどこに……あっ、天井か。って、天井……?」
女性の声の調子は、どうやらこちらに対して話しかけている様子ではない。
ゲームをしながら発した独り言が、マイクを切り忘れたのか、VCを切り忘れたのか分からないがそのまま流れてしまっているのだと考えられた。
「うー、ものすごい不利だけど……スターを取るために諦めないんだからね!」
自らを鼓舞するように発された女性の言葉に、僕はハッとなった。
負けても大丈夫なんて……何を考えていたんだ。
そんな態度ゲームにも味方にも失礼だ。
どんなときだって勝つための努力を怠らない、普段からそう心がけてここまで向上してきたのに……。
チームから追放されてちょっとムシャクシャしただけ、だと思っていたけど、思った以上に心にダメージがあったようだ。
でも良かった、初心を思い出すことが出来た。
だったらここからやることは一つだ。
二人だとか、未だに武器も物資も何も持っていないだとか関係ない。
スターを取る。
そのために――。
「とりあえず下の三人が隙だらけだし、あそこを狙って……」
女性の操るキャラが二階の吹き抜けから顔を出して、下を狙おうとしたところで。
「すいません、その行動待ってもらえますか」
僕はヘッドセットのマイクをONにして、VCを繋げた。




