24話 過去
「えっと……マモル君。今のは狙ってやったの?」
「もちろんですよ」
交流戦、1マッチ目。
自分の投げた手榴弾で自殺したマモルこと僕とリリィさんはVCルームに戻って会話していた。
「いや、あれだけ手榴弾を反射させて自分の所に戻ってこさせるのもすごいと思うけど……そんなピンポイントで狙えるならジイクさんたち倒せば良かったんじゃないの?」
「物陰に隠れていてジイクさんたちの正確な場所が分からなかったので無理です。顔を出した瞬間撃ち抜かれるだろう状況でしたし」
「それもそうか」
「あ、1マッチ目終わったみたいですね。ジイクさんとアカネがスターをゲットしたみたいです」
倒されてからはアカネの配信を見ていたのだが、どうやらあの後何事もなくジイクさんとアカネが勝ち残ったようだ。
全体の勝負としてはアカネたちの勝ち、だが僕たちの勝負は引き分けだ。勝負は残りの2マッチで決まる。
「早速次のカスタムキー来ました」
「せっかちだな……あ、いやこの配信三分遅れだからもう前に終わってたのか」
「行きましょう! 次こそ本番ですよね!」
「ええ、作戦開始です」
観察は終了。一戦目で交流戦の場がどんな雰囲気なのか肌で感じ取れた。
二戦目から勝ちを取りに行く。
僕とリリィさんは意気揚々とカスタムロビーに乗り込んだ。
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幼いころ、アカネは両親に捨てられたらしい。
はっきりしないのはアカネが物心付かないくらいだったからか、それがショックで記憶を忘れているからか。
それ以来アカネは爺と二人で暮らしてきた。
順風満帆とは行かなかった。
大人が思っているほど子供は馬鹿じゃない。
アカネは両親がいないことで、どこか他の人とは違うやつとして距離を置かれて疎まれていた。
それでもアカネは構わなかったし、爺も構わないでいいと言ってくれた。
一人家にこもるアカネのために爺がゲームを買ってくれた。
アカネはそれに没頭した。
色んなゲームを経験して辿り着いたのはFPSゲームだった。
アカネはのめり込むようにプレイして実力を付けていった。
昨今のゲーム実況ブームに乗って多くの人に知ってもらえるようになった。
普通のニュースでゲーム実況者のことが特集されたのを見て思うことがあった。
もっと有名になりたい。
アカネのことを捨てた両親にアカネの存在が知られるくらいに。
「――アカネ様」
「っと……ありがと爺」
交流戦2マッチ目。
ちょっとぼーっとしていたけど爺の警告に慌てて詰め寄っていた敵を撃ち抜く。
「これで辺り一帯は全滅ですな。一息吐けますぞ」
「じゃ漁ろっと」
開幕直後から既に三部隊と交戦した。拾った武器と交換しながらやりくりしたけど、もう無理無理の限界。
銃弾持ってないかなー……あっ、いっぱいあんじゃん。
それにしてもあいつら来ないなー。
1マッチ目は追い込んだと思ったら手榴弾で自爆していったし。
やる気あるのか、って死に方よね。
そもそもあの裏路地、他に敵がいないからタイマンだったのにそれでも逃げてばっかりってアカネたちに勝てないって思ってるわけでしょ?
正面からじゃ勝てない、って不意討ち狙ってるんだとしても、アカネはこれでもSSSをやり込んでるから不意討ち仕掛けられる場所は理解しているし、それに爺の索敵をかいくぐって不意を討とうなんて無理な話。
つまりアカネたちの負けはない、はい証明完了っと。
結果の分かってる勝負なんだからさっさとアカネに倒されに来てよね。
こんなに弱いのにアカネたちとチームを組もうなんて思い上がりすぎ。爺もあんなやつら選ぶなんて疲れてるに決まってる。今度肩もみしてあげないと。
「…………」
ただチームを組むこと自体は検討していかないといけないのよねー。
流石に今のペア大会にしか出られない状況じゃ評判も上がらない。
最近はch登録者数も頭打ちだし。
チームを組んで大会に乗り込んで良い成績を取って有名になる!
そう考えると本当にあいつらがこの条件でアカネに勝てるくらい強かったら、まあ組んでやることを検討しないでもないけど――――。
「……え」
そのとき遠くで銃声が起きると共にキルログが流れる。
キルされたのは『マモル』と『リリィ』……あいつらの名前だ。
「……そうですか」
爺も気付いたのかポツリとこぼす。
「…………」
これで2マッチ目も引き分けになることが確定した。
勝負は3マッチ目で……いや、もう決まったようなもんじゃん。
落胆しながらも今が交流戦であることは忘れていない、そのマッチは残り3部隊まで残ったものの2部隊から集中砲火を食らって3位でフィニッシュした。
3マッチ目を開始する前に10分間の休憩を挟むことにして配信を一時休止、その間にVCコールをする。
通話相手はもちろんあいつらだ。
「おーどうしたか、アカネ」
「どうした、じゃないわよ!! アカネたちと出会う前に死ぬとか……真面目にやってんの!?」
マモルの呑気な声にアカネは吠える。
「アカネちゃん……」
「アカネ様……」
爺ともう一人あいつの仲間も一緒のルームにいるけど口を出さず見守る様子だ。
「すまん、すまん。ちょっとミスしてな。大丈夫、次のマッチできちんと倒してやるから」
「……もういいわよ、そういう心にも無いこと言わなくても」
「え?」
「アカネたちに勝てないからって、どうせ次もどこかで死んで引き分けにするんでしょ」
ヘラヘラとした言葉に思い出す。
昔、アカネも一度だけチームを組んでいたことがあった。
大きな大会に優勝してもっと有名になる、その目標に賛同してくれたはずの仲間だった。
アカネは努力した。
でも。
『えーあれ本気で言ってたの? 頑張ったって私たちなんかが優勝するなんて無理でしょ』
――その日の内に関係を全て絶ったのは覚えている。
こいつらもそいつらと一緒だ。
こんな勝負ですら本気になれないやつが、大会で本気になれるわけがない。
チームを組んでもどうせ努力しないで足を引っ張ってそのまま終わる。
「こんなやつらに時間をかけて無駄したわね。そんなに謝るのが嫌なら良いわよ、負けても謝らなくても良い。その代わりアカネの前に二度と顔を出さないでよね」
そう言い放ってVCを切ろうとして。
「本気じゃないって思われるのは心外かな。僕はいつだってSSSをプレイするときは本気だよ」
少しだけ真剣さが増したマモルの声が届いた。
「その成績でよく言えるわね。よく考えたけど、一戦目の手榴弾も狙って自殺したんでしょ」
「ああ、あのとき負けるわけには行かなかったからな、その後勝つために」
「無理よ、あんたたちじゃアカネには絶対勝てない。どうせ次も引き分けよ」
「それならこうだ。次の3マッチ目、引き分けになった場合俺の負けで良い」
「……そんなに謝りたいの? 変態ね」
「負けた場合もちろん謝るし――僕はSSSを引退する」
「は?」
「僕がアカネを直接キルした場合だけ勝ち、そのときはちゃんと謝ってもらう。それ以外の結末なら僕が謝るしSSSを辞める……これならどう?」
「あんた……本気で言ってるわけ?」
「むしろこれだけ言うくらいの僕の本気さが伝わらないかな?」
「……後から撤回するのは無しよ、ちゃんと録音してるんだからね」
「流石、しっかりしてるな」
「……分かった。なら後1マッチだけ付き合ってあげる。この結果の分かりきった勝負をね」
そろそろ配信に戻らないと、とアカネはジイクを置いて一人だけルームを後にした。
幼きアカネは気付いていない。
自分が無意識に思っていることを。
もしかしたらこいつらなら……と。
裏切られるだろうと思いながらも、一抹の希望を抱いていることを。




