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23話 路地裏の攻防


 マモルこと僕とリリィさんは『飲食店』の裏口からそのまま路地裏に出て、広場にいるはずのジイクさんとアカネに気付かれないようにこの場から去る。

 そのつもりだったのだが……。


「マモルくん……何か足音がしない……?」

「そうですが……いや、まさか……」


 足音がするのは先ほど激戦の行われた広場の方角だ。そちらにいた敵は全てアカネたちが倒したはずで、そのアカネたちも棺桶から物資を漁っていてすぐにはその場を離れない……そういう想定だった。

 だったら一体誰が……いや目を逸らすな、希望的観測に縋るな。

 決まっているアカネとジイクさんペアだ。




「っ! 後ろから銃弾が!」

「そこの枝道に入ります!!」


 現在僕たちは路地裏の中でも大きな道にいた。その遠くから『巫女』と『祈祷師』の姿が見えるや否やこちらを攻撃してくる。

 慌てて枝道に入ったことで射線を切るが完全に捕捉されたと見ていいだろう。


「今のジイクさんとアカネちゃんですよね!? どうして私たちを追ってきて……」

「分かりませんが……とにかく逃げます! 倒されたらアウトです!」

「はい!!」


 辺りに僕たちとジイクさんたち以外がいる気配は感じられない。純粋なタイマンだが、カウンターで逆に倒すという選択肢を一秒も検討せずに逃げる。僕とリリィさんの実力では蜂の巣にされて負けるのがオチだ。

 だが無策で逃げてもいずれ捕まるだろう。


「一つ仕掛けを施しておくか……」




=====




「見つけた!!」

「そのようですな」


 ジイクフリートこと私が遠くに見つけた『罠師』と『鳥使い』の姿。アカネ様は早速手持ちのマシンガンから銃弾をバラマきますが距離もあってか当たりません。

 二人はそのまま枝道に入って姿が見えなくなりました。


「ああもう何で逃げるの!? アカネと撃ち合いなさいよ!!」

「まあまあ、追いかけましょう」

「分かってるわよ!!」


 マモル様たちが消えた枝道はさらに何個も分かれ道のある狭い通路となっており、その内のどこかに入ったのか二人の姿は見えません。

 ここ路地裏はこのように入り組んでいて追っ手を撒きやすく、その他にも――。


「足音は右の方からよね、じゃあこっちに」

「アカネ様、ストップです」

「何よ、爺! こんなときに! 早く行かないと逃げられて――」

「失礼。ですがそこにトラップが置かれています」


 アカネ様が先を見ずに入ろうとした道を正面から見える位置に移動すると、やはり罠師のトラップが仕掛けられていました。

 入り組んだ道では曲がったところで待つ角待ちという戦術が有効です。マモル様がセオリー通りそこに罠を仕掛けておいたのでしょうが、残念ながら罠師の罠は設置するとかすかに駆動音が鳴ります。

 かぼそい音のため気を付けていないと聞こえませんし、乱戦の場合は銃声でかき消されるし、屋内だと扉で音を遮れるので、あまり意識して注意しているプレイヤーは少ないですが私の耳は誤魔化せません。


 罠中央の制御部分を銃撃で破壊して、すぐに追跡を再開します


「ありがと、爺。にしてもこざかしいマネしてくれるわね……!」

「先に気付いたので足を止めたのは1秒ほど。対してあちらは罠を設置するのに3秒はかかっているはずなのでこちらの方が有利です」

「そのようね! 見つけたわ!!」


 マモル様とリリィ様の姿を見つけてマシンガンをぶっ放すアカネ様。マモル様は一貫して逃げに徹するようですぐに通路を曲がってまた姿を消しましたが、今度は何発か当たったようでダメージは入っています。


「ああもう、ちょこまかと! でも逃がさないわよ!!」

「その通りでございますな」


 入り組んだ路地というのは本来ならば逃げる側に有利な立地です。しかし私の耳は足音を聞き分けて敵の位置を捕捉し続けます。

 マモル様たちは少し広い通路に出て、私たちもそれを追って――。


「っ!? 撃ち返してきた!」

「なるほど……その場所は強いですな」


 これまでずっと逃げるばかりだったマモル様たちの反撃。

 マモル様とリリィ様は破壊不能オブジェクト『廃ゴミ箱』の裏側に陣取っています。こちらからの攻撃は全てゴミ箱に盾にされるのに、あちらは空いた穴から銃を出してこちらを狙い放題というスポットです。

 正面から接近するのは無謀、ですが迂回して裏側に出ようとしても逆方向に逃げられるでしょう。

 ただ逃げ回っているように見えて、きちんとこのゴミ箱を使える方向になるように誘導していたとしたら流石です。


 どう攻略しましょうか……立てこもる相手には手榴弾を投げ込むのがセオリーで――。


「ねえ、爺」

「どうしました、アカネ様」

「近くにこいつら以外の敵っていないわよね」

「そうですな、先ほどからそれなりに音は立てていますが、近づいてくる気配も無いのでいないでしょう」

「オッケー!! じゃあ大技行くわよ!!」


 アカネ様は頷くと隠れていた場所を飛び出し、ゴミ箱に向かって正面から駆けていきました。当然ながら銃弾の雨に晒され体力が少しずつ減る中、アカネ様の操るキャラ『巫女』は詠唱を開始。


「『焔化』!!」


 スキルが発動すると『巫女』の体が解け狐火となり銃弾がすり抜けていきます。その無敵状態のままアカネ様はゴミ箱よりさらに奥まで進み、そこで効果時間が終了。実体が戻ったことで出来上がったこの状況は。


「挟み撃ちよ!!」


 私とアカネ様に挟まれる形となったマモル様たち。しかもアカネ様側からの攻撃はゴミ箱を盾にすることも出来ません。

 私もすかさず攻撃に加わり集中砲火を浴びせるとたまらずマモルたちはその場所を放棄、またも近くの路地に逃げ込みますが。




「その路地の先は行き止まり。詰み……ですな」




=====




「ヤバい、ヤバいってマモル君!! どうしよう!!」


 リリィさんがパニクっているが実際それくらい状況はヤバかった。


 角に置いていた罠はかかることなくすぐに破壊されたし、このように入り組んだ路地普通の相手なら撒く自信があるのだが、こちらの位置が分かっているように迫ってきて追いつかれてしまった。

 ジイクさんの技能『戦場把握』によるものだろう。


 逃れられる気がしなかったため『廃ゴミ箱』を使いこちら有利の銃撃戦を展開しようとしたが、こちらの意図を潰すように『焔化』のスキルを攻めに使われて挟撃される展開となってしまった。

 一応その作戦にはデメリットもあって、普通は緊急回避に使う『焔化』を先に使っているからインターバルを挟まないと再度使用が出来ない。

 他の部隊から攻撃されたり、一人でいるところを集中して狙われたりしたらピンチになるが、周囲に他の部隊がいないこと、僕ら相手なら2対1でも勝てるという自信のもとに実行された作戦だろう。

 だとしても実行に移すまでの判断が速すぎる。一分一秒を争うFPSでももっとも激しい前線で生きてきたからこその判断の早さ。アカネの技能『特攻前衛』を強く感じる場面だ。


 そうして僕たちが追い込まれたのがこの文字通りの袋小路だ。彼我の力の差を考えれば、確実に僕たちはこの場所で死ぬ。

 だが負けてやるつもりはない。




「もう一か八かで撃ち返すしかないよね!? マモル君、合図よろしく!!」

「いえ、落ち着いてください、リリィさん。その場に待機です」

「でも! このままだと手榴弾投げられてあぶり出されてやられるだけだよ!!」


 リリィさんもSSSをプレイする内に随分と状況判断が上手くなった。言うとおりで一応僕たちは物陰に隠れているが、すぐに攻略されるだろう。


「大丈夫です、やられません。必殺技を使います」

「必殺技!? 何、それ!? SSSにそんなシステム無いよね!?」

「はい。システム的なものじゃなくて……」

「よく分からないけど、この状況を打破出来るならお願い!!」

「………………」

「あれ、マモル君……? どうしたの?」

「いや、その……今この状況ってアカネが配信してるんですよね。全世界に配信してる目の前でこの必殺技使うのもなー……って」

「えっと……あまりバラしたくない的なやつ?」

「そうではないんですが……まあ負けるわけにも行きませんし、やりますか」




 どうにか踏ん切りを付けると、僕は手榴弾を取り出す。

 ジイクさんとアカネにはこの物陰に隠れたことはバレている。投げるために顔を出した瞬間撃たれるだろう。

 だから僕は隠れたまま勢いを付けて投げさせた。


 直接ジイクさんとアカネは狙えないため明後日の方向に飛ばした手榴弾は、勢いを付けたおかげで壁に当たって跳ね返り、さらにその先でも跳ね返る。

 SSSの仕様としてどれだけ勢いよく壁にぶつけても手榴弾は地面に着くまで爆発しないのだ。


 そうして乱反射を繰り返して最後は狙い通り足下に転がり――爆発。






 その真上にいたキャラを――『罠師』と『鳥使い』の二人を――僕とリリィさんの体力を奪い切りキルした。






=====




『マジウケたww』

『高度な自殺ww』

『クリップ保存!!』


 私は配信に付いたコメントをちらりと見るとそのような反応で埋め尽くされていました。

 確かに今のは画的に面白かったと言えるでしょう。

 手榴弾を反射させてこちらを狙うつもりが自分の足下に転がって自爆、とそのように見えたならば。


「ああもう、ちゃんと私に殺されなさいよね!!」


 アカネ様は地団駄を踏みながらマモル様とリリィ様の棺桶を漁って少しでも物資の回収をしています。


 しかしながら私には分かっていました。

 今のはマモル様がわざとやったことだと。


 お互いの勝利条件は相手を直接キルすること……なるほど、自殺すれば相手を勝利させなくすることが出来ますか。

 もちろん自殺するだけなら足下に手榴弾を転がせばいいのですが、それではマナーが悪いので一か八かを狙った上でと偽装したのでしょう。

 乱反射させた上で自分の足下に戻ってこさせる……地味に高等テクニックですな。


 追い込まれて敗北必死の状況から引き分けに持って行かれましたか。

 まあ配信者の前でこの作戦を使ったので、その間抜けにも見える様子がSNSで拡散されて晒され続けるでしょうが……まあそれも甘んじて受ける覚悟で敗北を回避したのでしょう。

 決着は次のマッチに持ち越しですな。




「ふぅ…………」


 戦況が一段落したため私も一息吐き、マモル様たちとの短くも目まぐるしい攻防を思い返します。


 戦場はいい。

 私にとって百の言葉を交わすよりも、一度戦場で死合う方が分かることが多い。


 その結果はっきりしたことがあります。

 やはりマモル様とリリィ様の実力では、私とアカネ様には勝つことが出来ない、と。



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