21話 企み
チームを組むために集まったVCルームで起きた騒動。
マモルこと僕と暴言童女アカネは対立し戦うこととなった。
舞台となるのは三日後の『交流戦』。
当日の時間など細かいところの確認も終えたところだ。
「アカネ先に落ちるね。おやつの時間だし」
「ドーナツはいつもの戸棚にございます」
「そ、ありがと」
時刻は午後の3時ということでアカネがさっさと落ちていく。これまでの様子を見るに、何もかも自分の衝動に忠実なのだろう。まあ小学生に思慮深さを求めるのも大人げない話だ。
「それじゃ私たちも……」
「あ、ちょっとリリィさんは先に抜けててもらえますか? ジイクさんと話したいことがあるので」
「えっと……それは、その……」
「大丈夫です、ジイクさんに迷惑をかけたりはしませんよ」
リリィさんは自分が提案して集まったのに僕が暴言を食らったことで、色々と板挟みな状態になり気を回しているのは僕も理解していた。今も僕がジイクさんに文句の一つでも言うんじゃないかと心配しているのだろう。
……が実の所を言うと、リリィさんが今回の騒動で一番割を食っていたりする。
「うーん……分かった。じゃあ終わったらメッセージ飛ばしてもらえる?」
「了解です」
リリィさんは唸りながらも了承してVCルームを抜けていく。
これでルームには僕とジイクさんの二人だけになった。
僕は口を開く。
「さて、こんなところでどうですかね、ジイクさん。あなたが求めるところは達成出来ると思いますが」
「いやはや。流石ですな、マモル様」
気分は越後屋と悪代官だ。『お主も悪よのう』と言ってみるか?
僕とジイクさんの企みについて――話は昨夜に遡る。
「それでこんな時間にどうしたんですか?」
SSSのアカウント『マモル』宛に届いたメッセージ。
それはジイクさんからのものだった。
内容は今からVCルームで話すことは出来ないか、とのこと。
起きていたとはいえ、夜中に呼び出すのは礼儀正しいとは言えないだろう。
「ふぉっふぉっ、申し訳ありませんな」
ジイクさんとは野良マッチで一緒になって以来だ。
まあとはいえ一緒にチームを組むという話になったんだし、それなりの仲ということになるのだろうか。
「話があるなら明日の顔合わせのときにすれば良かったんじゃ……」
「いえいえ、私が話したいのはその顔合わせでのことです」
僕の疑問にジイクさんが答える。
「それは……」
「単刀直入に申し上げますと、アカネ様が『こんな弱いやつと組むの!?』とマモル様とチームを組むのに反対しているのです」
「え? でもそっちの方からチームを組みたいって……」
「それに関しては私のミスですな。アカネ様の同意を得ないまま話をしていたので」
「なるほど。ジイクさんとリリィさんだけで話を進めていた感じで」
「ええ。それで大会に出るためだって言えばゴリ押せると思ったのですが、中々に反発がスゴくてですな。いやはや失敗です」
「まあ僕の戦い方がパッと見強くないのは理解していますし、そう思っても仕方ないですが……」
「ご謙遜は止しなされ。マモル様の立ち回りはそれは素晴らしいものです。これは理解出来ないアカネ様が悪いのです」
「えっ、その、……ありがとうございます」
正面から褒められるとは思ってなくて面食らってしまう。
「話は分かりまし……いや、違うな。それでわざわざその話を僕にするってことはどういうことなんですか?」
内容は分かっても意図を測りかねる話だ。
「……このようなことを内々で済まさずに頼むのも心苦しいのですが。マモル様、どうにかアカネ様とチームを組んでくださいませんか?」
「え、でも反対しているんじゃ……」
「そこをどうにか説き伏せて欲しいのです。この件に関しては私の言うことも聞く耳を持たなくて……」
「えっと……その組みたくないって言ってる本人の意思は尊重しない感じで……?」
「アカネ様の本心は違うと私は思っています。
これは内緒にして欲しいのですが、アカネ様の夢はSSS界隈に留まることなく有名になることです。
現状の二人組のペア大会にしか出れない状況では到底達成できるとは思えません。やはりSSSのメインは四人組のチーム戦ですから。
そのことはアカネ様も分かっているはずなのです。一度はチームを組んだこともあったのですが、それを突然解散させて以来、何度チームを組もうと私が提案しても反対するばかりで」
「…………」
SSS界隈に留まらず『有名になりたい』……って夢か。
まあ可能か不可能かで言えば前者なのだろう。例えば将棋のことは分からなくても羽生さんや藤井さんのことを知っているという人は多い。そのように界隈で突出すればそれ以外の人にも知ってもらえる可能性はある。
あとは何のために有名になりたいのかは気になるが……まあまだ聞けるような関係でも無さそうだ。
一度チームを解散させたという話も気になるが同様で…………ふむ。
「どうして僕なんですか?」
「……とは?」
「大会に出るためにチームを組みたい、それは分かりました。ジイクさんとアカネほど有名なら色んな人に頼めるはずなのに、どうして僕とリリィさんなんですか?」
「それならば先ほどもおっしゃったでしょう。私はマモル様、あなたのオーダーとしての腕を買っているのです」
ジイクさんにまたも評価される。声音からして嘘を吐いている様子も……。
「野良マッチの時は僕がオーダーだって知らないと言ってましたよね? どうにも先ほどからの話を聞いていると……僕が『銀鷲』にいたことを知っているんじゃないんですか? 配信を見て僕のオーダーとしての腕を知ったんじゃないですか?」
「ふぉっ、ふぉっ。どうでしょうかな? まあ配信者として他の配信者の情報を仕入れてはいましたが」
「………………」
この人は平気な顔して嘘を吐けるタイプだ。食えない爺さんである。
「とはいえマモル様の腕を買っているのは本当です」
「まあ、それは信じますけど。でないとわざわざこうやってコンタクトを取ってきたりもしないでしょうし。
そして話も理解しました。アカネの説得やってみましょう」
「ありがとうございます。いやはや本当迷惑をかけるようで申し訳なく……」
「まあまあ。同じチームになるんですし、迷惑なんてかけあうものですよ。それに……僕だってジイクさんとアカネの腕を買っているんです。一緒にチームを組めたら面白そうだって思うくらいには」
「左様ですか、こんな老いぼれの腕を買ってもらえるなんて恐縮ですな」
「アカネの説得に関しては明日、出たとこ勝負になると思います。ジイクさんはどうにか合わせてもらえると」
「承知しました」
こうして昨夜の僕とジイクさんの間での話は終わり――現在。
「申し訳なかったですな。あそこまでアカネ様が反発しているとは思わず」
「まあ激しかったですが、これでもFPS歴は長いですから。あれくらいの暴言はへっちゃらです」
「そう言ってもらえると助かります。しかしどうしてこのような話の流れに持って行ったのですか?」
ジイクさんの疑問。この様子だと僕が本当にキレていたのではなく、そういうフリして挑発していたりしたことは分かっているのだろう。
「アカネが主張する論理はシンプルです。『僕が弱い、だから組まない』。実際あまり正しいものではないと思いますが、しかしアカネの中ではこれが正しいんです。大人の道理で説き伏せても絶対に納得はしません。
だったら簡単な話で僕が強いことを証明してしまえば、アカネは反対していた理由を失う。だから挑発して力を比べる流れに持って行ったんです。アカネが言い出さなければ僕から提案してましたね」
渡りに船というよりはそうなるようにコントロールしていたというところだが、アカネは誘導されたことにも気付いていないだろう。
「マモル様は本当にオーダー向きの性格ですな」
「褒め言葉として受け取っておきます。まあこれで三日後の『交流戦』で打ちのめせば……それだけで決着はしないかもですが、話を大きく進めることが出来るでしょう」
「その件に関してですが……前提としてマモル様の勝利が必要となれば、アカネ様と組む私は……」
「ああ、手加減は無用ですよ」
アカネが負けてチームを組むことを望むジイクさんからすれば手を抜いてわざと負ければいいという考えを思いついても仕方ないがそれは不要だ。
「しかし、ルールからしてマモル様の不利では……?」
「まあ不利ですが、アカネにジイクさんが何故か手加減していたという言い訳を与える方が面倒ですので。
それにジイクさんが腕を買うオーダーがこれくらいの勝負に勝てないと思えますか?」
「……ふぉっ、ふぉっ。そこまで言われると良くないとは分かっているのに、どうしても打ち負かしてみたくなりますな」
「やれるものならやってみてください」
「いいでしょう。いやはや不本意ながらワクワクしてきましたな」
一時的とはいえ敵になる相手とそれ以上話すことはない。
ジイクさんと別れた僕はリリィさんと合流して、三日後の対策に乗り出す。
今回はマップが事前に分かっている。『摩天楼』の地形の把握や当日取るだろう作戦の確認などを行う。
時間はいくらあっても足りず、あっという間に三日が経って。
『交流戦』の当日を迎えることになった。




