20話 顔合わせ
「(ど、どうしよう……どうすれば……)」
ユリこと私はキリキリと胃が痛むのを感じていた。
以前野良で出会ったジイクフリートさんとやりとりをして大会に出ようという話になって、今日はそのメンバー四人がVCルームで初顔合わせを行うことになった。
みんな仲良くしてくれるといいな、という私の願いは早速潰される。
『マモルだっけ? アカネ、あんたみたいな雑魚と組むの反対なんだけど』
ジイクさんの相方、小学校6年生のアカネちゃんの暴言が炸裂したからだ。
「アカネ様!」
「ふんっ! 爺も爺よ。どうしてこんなやつと組もうと思ったわけ」
ジイクさんが諫めようとするがアカネちゃんは聞く耳を持たない。
「マ、マモルくん……」
私は言われた側、マモルくんのケアに回ろうと思ったが。
「大丈夫ですよ、リリィさん。別に気にしていません」
マモルくんは落ち着いているようで――。
「こんな『おこちゃま』に何を言われたところでどうとも思いませんよ」
……あ、いやキレてるやつだこれ。
「なっ!? あんた言ったわね!! アカネに対しておこちゃまって!!」
「実際そうだろ。おまえ何歳だよ」
「小学6年、12歳よ! 立派なレディだわ!!」
「はっ! まだまだガキじゃねえか」
「何よ、あんただってガキじゃない!!」
「マモルくん、お、落ち着いて……」
「これは…………」
12歳と17歳の言い争いを見守る26歳と推定60歳ほど。
この2人は5歳しか離れてないんだよね……あーでも10代の頃の5歳差って結構大きいか。
「アカネ様、謝りましょう」
ジイクさんが進言する。VCだから姿は見えないけど、こめかみに手を当てて困り果てている姿が目に浮かぶようだ。
「ふーん、だ」
「今日の3時のおやつのドーナツを抜きますぞ」
「えっ!? そ、それとこれとは話が違うじゃない!!」
アカネちゃんは当然突っぱねたため、ジイクさんは最終手段を切る。
「悪いことをして謝れない子に出すおやつはありません」
「で、でも! だってこいつが雑魚なのは事実じゃん! 爺が見せてくれた動画でこいついつも撃ち合い負けてばっかりだったし! ちょっとはオーダーっぽいことやってたように見えたけど、それくらい爺だって出来るじゃん! こんなやつと組むメリットなんて無いって!」
アカネちゃんは自分の正当性を主張する。言ってることが正しいかどうかと、行動が間違っているかは別の問題なのだがそこまで判断出来ないようだ。
「ジイクさん、いいですよ」
「マモル様……申し訳ありません。こちらからチームを組みたいと申したのにこのようなこと……」
「いえ、本当に大丈夫です。実際僕が撃ち合いに弱いのは事実ですし、そういう意味では雑魚ですから。勘違いするのも仕方ありませんって」
「そのようなこと……」
ジイクさんが言葉に詰まる。
「まあでも総合的に考えると、そんな僕よりも雑魚な人に雑魚だと言われるのはちょっとムカッとしますけどね」
マモルくんは飛び火させた。
「はぁっ!? 言ったわね、あんた!! SSSの訓練場に来なさいよ、タイマンでボッコボコにしてあげるわ!」
「いや、だから僕の強さは撃ち合いじゃなくて立ち回りも含めた総合性で……」
「だったら3日後の『交流戦』で決着を付けようじゃない!!」
アカネちゃんがそのように提案する。
「交流戦……って何ですか?」
私の疑問に答えるのはジイクさんだ。
「SSSには決められたルールで無差別の相手と戦う通常のオンラインマッチと違って、主催者がルールを決めて誘った相手だけと戦うことが出来るのがカスタムマッチというものがございます。大会や練習試合を行う際に使われるモードですな。
私たちのchでは月に1回、視聴者から参加者を募って、2人1組の50チームで行うカスタムマッチ、『交流戦』を開催しております」
「アカネは爺とあんたはそこのもう一人と組んで参加して、戦場で直接シロクロ付けるわよ!!」
SSSでは通常4人1組の25チームで戦うけど、どうやらそのモードを使えば2人1組の50チームとルールをカスタムして戦えるようだ。
その場でアカネちゃんとマモルくんが競い合う……。
確かにそうすれば強さを比べられるだろうけど……マモルくんがそれに付き合うかは別だ。
マモルくんは一緒にチームを組もうという発言に乗ってこの場に来たのに、開幕から暴言を食らうなんて失礼なことされたんだから、キレて当然だ。
そもそもそれで仮にマモルくんの方が弱いってなったとしても、だからってアカネちゃんの暴言が正当化されるわけではない。
「………………」
どうにか取りなしたいと思うもさっきから言葉が見つからない。
正直いつマモルくんがVCルームを退出してもおかしくないと思っている。そのときはジイクさんへの謝罪とマモルくんへのケアもちゃんとして……。
「いいじゃないか、それ」
考える私を余所にマモルくんは頷いた。
「勝手に巻き込みますが、ジイクさんとリリィさんもいいですか?」
「私はかまいません」
「私も大丈夫だけど……」
「なら勝負成立ですね」
さっきまでのキレていた様子とは打って変わってマモルくんは冷静だ。
「……?」
マモルくんの思考がよく分からない。
アカネちゃんに挑発するくらいキレていると思っていたのに落ち着いているし。
言われた当事者であるマモルくんが一番、暴言と強さに何の関係性も無いことを感じているはずなのに……それでもどうして勝負に乗ったんだろう……?
「ふぉっ、ふぉっ。失礼ながら口を挟ませてもらいます。後で争わないようにお二人の勝負における具体的なルールも決めておいた方がよろしいのではないでしょうか?
あ、ちなみに交流戦全体のルールとしては、今月はマップ『摩天楼』で3回マッチを行うことになっております」
「ルールって……確か大会とかだとキルを取った数と生存順位それぞれにポイントがあって組み合わせて最終順位を決めるって感じですよね」
「そんなの面倒じゃない、お互い相手チームを直接キルした方が勝ち……それでいいでしょ」
アカネちゃんが早速自分が有利なようにルールの提案をする。
直接キルした方が勝ちとなれば撃ち合いが強い方が有利だ。マモルくんお得意の潜伏して順位を伸ばすムーブが勝利に全く繋がらないからだ。
一応狭い訓練場でのタイマンよりは、広大な戦場において不意打ちだったり出来るので条件は良い。
「おまえ……」
アカネちゃんの露骨な態度にマモルくんは呆れるが。
「これは譲らないわよ。だってアカネたちが不利な状況で戦う以上それくらいのハンデはもらって当然じゃない」
「……まあ、それもそうか。いいですよ、そのルールを呑みます」
アカネちゃんの言葉に態度を翻して了承した。……にしても不利な状況ってどういうことだろう……?
「負けた方は勝った方に前言の撤回と誠心誠意を込めて謝罪すること。これでいいですかな」
「まあそれ以上をおこちゃまに求めるのも酷だな」
「何でアカネがする前提になってるのよ、あんたこそちゃんと考えておきなさいよね!」
あれよあれよと段取りが決まっていく。
こうして一緒にチームを組んで大会に参加するはずの話が、チームを真っ二つに割って戦うことになるのだった。




