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2話 追放経緯


「はぁ……マジか」


 僕は着けていたヘッドセットを外して、後方に思いっきり体重をかける。ゲーミングチェアのリクライニングが機能して寝そべったような格好になる。

 天井を見上げながら未だに飲み込めない事態を理解するために一つ一つ振り返っていた。





 FPSゲーム、Star Struggle Shooting。通称SSS。

 SSSの基本ルールは四人一組の25チームで行われるバトルロワイヤルである。

 戦場に落ちている銃を拾って敵を倒し、装備を集めて、徐々に狭まっていく戦場を駆けながら最後の一チームになるまで戦い続ける。


 単純に考えて勝つ確率は1/25で4%だ。

 一回のマッチ毎に、96人の敗者の上に4人の勝者が生まれる。

 一対一の対戦ゲームが単純に50%であることを考えると、凄まじく少ない割合だろう。


 だけど、だからこそ一位になったときの喜びはひとしおだ。


 SSSでは一位になることをスターを取る、と呼称するのだが、初めてスターを取ったときの感動は今でも忘れられない。




 そうして僕はSSSにハマったのだが、周りにSSSをプレイしている人がいなかったため、一人でプレイするしかなかった。

 SSSは四人チーム戦だが、これは四人の仲間がいないとゲームが出来ないというわけではない。

 一人でゲームを開始しても、同じように一人でゲームしている人たちと勝手にマッチングして即席の四人チームが作られて戦うことが出来る。


 だが当然即席チームでは連携が覚束ない。

 一分一秒、いや一瞬を争う戦場において、普段からチームを組んで練習して阿吽の呼吸で動ける方が強いに決まっている。




 だから僕でも所属できるチームが無いかを探していて――『銀鷲』に入ったのは半年ほど前のことだった。

 ネット上で創立メンバーを募集しているところに応募したら歓迎された。

 メンバーは今と変わらないリーダーのギルバート、アランナ、レーナ、そして僕、マモルだった。


 チーム設立にあたってチームの方針を決める必要があった。

 方針は重要だ。

 SSSはゲーム、ゲームは楽しむためにするものだが、その楽しみ方は人それぞれあるだろう。


 みんなと通話しながらワイワイとゲームすること自体を目的とする、いわゆるエンジョイ勢のチームとするか。

 勝つためにそれぞれが鍛え、連携も極めるガチ勢。

 魅せプレイを目的としたり、チームコンセプトを決めて戦うなど千差万別だ。


 その中で『銀鷲』は『スターを多く取る』と、いわゆるガチ勢の目的を掲げた。


 本気で勝ちに行くとなれば、チームメンバーそれぞれの役割を規定するのが定石だ。


 ギルバートがメインアタッカー、アランナがサブアタッカー、レーヤがバックアップ、そして僕はオーダーを務めることになった。




 それから僕は必死にSSSのことを勉強した。

 野良チームでただただ銃を乱射していたころと比べて、知識も戦術も蓄えた。


 その中でバトルロワイヤルというルールにおける僕なりの持論が確立された。


 それは『なるべく戦わない方がいい』ということだ。


 自分以外が全て敵であるというこのルール。

 敵を減らすために戦うということは、勝てば勝利に一歩近づくし敵の装備を奪って強くなることが出来る。

 だが負ければそこまでだ。


 それに戦うことで戦場に銃声が鳴り響き、新たな敵を呼び寄せてしまうという側面もある。

 漁夫の利――両者が争っているところにやってきた第三者が労せず利益を得るという中国の故事から、二チームが戦っているところにやってくる第三者のチームのことを漁夫と呼ぶ。

 バトルロワイヤルというルールにおいて漁夫を狙うのは定番の戦法だ。

 戦いが発生してどちらかが勝ったところにやってくる漁夫がかっさらって、さらにそこに漁夫を漁夫するために新たなチームが、漁夫の漁夫を漁夫するために………………とスパイラルに陥ることは頻繁に起こる。




 対して理想論ではあるが、単純に最後まで隠れることで戦わず、その間に他のチームが潰し合い切った場合、その時点で二位が確定する。

 もちろんそんなのは理想論に過ぎず、どんどんランダムに狭まる戦場では、偶発的な戦闘が起こりやすいようになっている。

 それでもなるべく戦わないで済むような立ち回りを僕は必死に考えて身につけていった。


 他のメンバーが銃のエイム制御や戦闘におけるテクニックを覚えて敵を倒すための真っ当な成長をする中、僕は歪な成長を続ける。


 最初こそ成果は実らなかったが、銀鷲は徐々にスターを取る機会が増えていった。


 その頃からリーダーのギルバートは動画サイトで生配信しながらゲームをプレイするようになった。

 スターを重ねる銀鷲の強さにファンも急増。

 生配信をすれば平均視聴数は1000を越え、スターを取ったときはお祝いのスパチャも飛ぶようになって……。




「………………」


 今思うと、そのころから変わっていったのだろう。


 リーダーのギルバートはファンの女の子と度々会っていると噂されたし。

 そんなギルバートに恋慕を抱いているアランナとレーヤは嫌われないようにますますギルバートのイエスマンになってゲームにも集中していなかった。


 僕の立ち回りは時に数分間も同じ場所に待機することがある。お世辞にも配信映えしない。

 配信映えを意識して、華麗に一人で敵四人を討ち取るようなスーパープレイを目指して、ギルバートがオーダーを無視して無茶な突撃を繰り返しては負けることが増えた。

 そんなことになってもファンが慰めるため反省もなければ成長もない。




 それでも中々勝てないことにイライラするくらいの気持ちはあったのだろう。


 あれは先週のことだったか、配信では外面よく振る舞っているギルバートだがプライベートではそんなこと無い。

 チームのVCルームで敵が悪い、ゲームの運営が悪い、運が悪いと愚痴を喚き散らすギルバートに僕はつい言ってしまったのだ。


「いや、おまえが悪いんじゃないの?」


 なるべく角を立たせないように、軽い感じで。

 ギルバートだって僕のオーダーが悪いと散々喚いたのだ。

 これくらい言い返すのも当然の権利だと。

 俺と同じように軽く笑って受け流すだろうと。

 しかし。


「は? 黙れよ」


 自分が悪いとは露ほどにも考えていなかったのだろう。

 キレた声を上げて、その日は雰囲気の悪いまま解散した。




 あのときから僕を切ることを考えていたのだろう。

 思えば今日も生配信しながらマッチプレイしていたのだが、様子がおかしかった。

 最近は全く僕の指示に従わなかった3人が完全に僕の指示に従っていたのだ。

 やつらなりの最後の手向け、いや今から追放される僕を心の中でバカにしながらプレイしていたのだろう。


 そのおかげで今日は3マッチ連続でスターを取ることが出来たのだが、三人はそれを自分たちの実力じゃこれくらい当然といった雰囲気だったし、ありがたがるどころか絵面の地味さから配信の盛り上がりが微妙なことに文句さえ付けている始末だった。




 総合すると、僕が追放されたのは方針の不一致ということだろう。

 チームの方針、勝ちを目的とするところから、配信映えを意識していることに適応できなかった僕が悪いとも言える。

 だがそれも仕方ないだろう。

 ゲーム配信者のファンは派手なプレイを望んでいるが、それはそれとして最終的に勝つところを見たいものだ。

 僕だって派手なプレイをしながら勝てるのだったらそのようなオーダーに変化することも出来た。

 だが、今の堕落しきった三人を抱えて、そのようなプレイをしながら勝つことなんて無理だ。

 新しいオーダーを入れれば状況が改善するとでも思っているのか、聞いてみたいところだがもうみんなの考えを聞くことも出来ない。




 『銀鷲』は元々ネットを介して繋がったチームだ。

 ネット上の繋がりは先ほど完全にブロックされた。他の三人はオフでも会っていたようだが、住んでいる場所が遠い僕は会ったことがないため現実での繋がりもない。

 完全に関係が絶たれたせいか、未練が沸く余地も無かった。




「未練はないけどムシャクシャはあるな。このままじゃ寝れないし……一戦やるか」


 姿勢を戻してPCを操作、SSSを立ち上げる。

 ゲーム内ネームとしてマモルと表示されるが、僕自身の本名もまもるだったりする。

 これは初めてSSSをプレイするとき『名前を入力してください』という指示に、それまでネットゲームをしたことが無かったため、RPGの主人公に自分の本名を入れるのと同じノリで入力してしまった結果だったりする。

 今では後悔しているが名前は変更不可で、どうしても変えたい場合は新しいデータを作るしかないという状況なので諦めている。




 マッチを開始する。

 『銀鷲』に入って最近はチームマッチしかしてこなかったが、久しぶりに一人で潜ろう。


 時刻はもう夜。SSSでは消極性オーダーである僕の現実は高校生だ。明日も学校があることを考えると出来る時間は一戦くらいだろう。


 一戦で確実にスターを取ってやる。


 僕は三人の野良と組まされた即席チームで戦場に降り立つのだった。



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