19話 楽しさ
「そういえばマモルくんさ、この前一緒になったジイクフリートさんって覚えてる?」
「あ、覚えてます。あの後検索して動画も見ました」
マモルこと僕はいつものようにリリィさんといつものようにSSSをプレイ中だ。
安置も良くしばらく潜伏することになったため、暇になったリリィさんが雑談を始める。
「マモルくんも動画見たんだ」
「リリィさんは前から見てたんですよね、どこかで見た名前だって言ってましたし」
「うん。SSSの勉強するために片っ端から見ていた動画の一つにあったんだー」
「なるほど」
「それであのマッチの後ジイクさんとフレンドになったじゃない。だからちょくちょくメッセージでやりとりしていたんだけど」
「……すごいコミュ力ですね」
ジイクさんと一緒にプレイしたのは数日前だが、僕は一度もやりとりしていない。そもそもフレンドになったのも社交辞令みたいなもので、どうせその後一回も一緒にプレイすることなくふとフレンド整理する際に関係を解消されるのだろうと思っていた。
「そうかな?」
「そうですよ、僕だったら物怖じしますね」
「まあ仕事柄知らない人と話すの慣れているし」
「仕事? …………生徒会とかですか?」
「えっ? …………あっ、そうそう!! 他校の人とかとね!! よく話すから!!」
いきなり仕事と言い出すから聞き返すと、きょとんとした後にリリィさんが慌てながら答えた。
リリィさん生徒会入ってるんだ、頭良さそうだし色んな人に頼られてそう。
「それでどんなやりとりしてたんですか?」
「あ、うん。今度SSSの小規模な大会があるだけどマモルくんは知っているかな?」
「知ってますよ、最近話題ですし」
SSSコミュニティで話題になっている非公式小規模大会『スター杯』。
参加資格はプロではないこと、つまりアマチュアのみであり、そうであれば誰でも参加できる。
人数に応じて予選を行って、勝ち残ったものが本選に進む。
オンライン大会だからメンバーもそれぞれの家から参加できるし、優勝者にはそこまで多くはないが賞金も出るからSSSをやっているプレイヤーならとりあえずで参加する者も多い。
「『スター杯』は四人メンバーを集めないと参加できないけど、ジイクさんはいつもアカネって子と二人でプレイしていて後二人必要だから、私とマモルくんも一緒にどうですかって誘われたんだ」
「アカネ……っていうとあの……」
「そういえば動画見たんだったよね。かわいい子だよね」
「かわいい……で済ませていいんでしょうか?」
全編暴言童女をかわいいと評するリリィさん。
「私はまだ大会とか出るの早いかなあって思ってたんだけど、ジイクさんと話しているうちにそんな気負わなくてもいい、とりあえずで参加してみようって思ってきて乗り気になっちゃって。
マモルくんは大会の日程、再来週の土日は空いてる?」
「基本的に土日は何も予定が無いから大丈夫ですけど…………」
「あ、ごめんね、話進めすぎたね。そもそもジイクさんたちと組むのか……いや大会に出るのかって話だよね」
「はい、それですが――――敵です!! 仕掛けますよ!!」
「了解!!」
すっかり話し込んでいたが今はSSSをプレイ中だ。
足音で敵の接近を察知した僕たちは潜んでた建物の窓から覗き見て敵の位置を確認、こちらが有利だと判断して攻撃を仕掛ける。
リリィさんと野良の二人も連動して敵の部隊を壊滅させるが、その瞬間次の敵が来襲。
「逃げましょう!!」
「あ、でもそっちにも敵が……!」
慌てて逃げようとするも銃声を聞きつけたのは一部隊だけではなかったようだ。
二部隊に挟撃される形となってしまい抵抗するがジリ貧となり、そのまま負けてしまう。
「ごめんなさい。あそこは我慢して潜伏続けるべきでしたね」
「しょうがないって、漁夫が来るのが早かったし」
「……あーもう!! 勝ちたかったなあ!」
「ドンマイ、ドンマイ! 次行こっ!」
順位は6位。25部隊いる中であると考えると上位ではあるが1位ではない。
「………………」
SSSは一瞬の判断が勝敗を分けることもある。
さらにチーム戦だ。
大会などで勝つことを目標とした際には、個々人の技量はもちろん、チームでの連携力も求められる。
これがもし格ゲーなどの個人ゲームで勝ちたいならただひたすらに個人の技量を磨けばいい。
しかし連携となると一筋縄ではいかない。メンバーの技量のばらつきやモチベーションの差なども大きく影響してくる。
『銀鷲』を追放された僕はそれを痛いほど理解していた。
今はいい。負けてもこうやってリリィさんと惜しかったね、って笑いあってゲームが出来る。
でもこれがチームを組んで、勝ちを目指すようになって。
そのときも僕は楽しくゲームが出来るだろうか……また辛い日々に戻ったりしないだろうか。
「……どうしたの、マモルくん」
「え?」
「いやなんか神妙にしてるからさ」
ロビーに戻って次のマッチの待機中、静かにしていた僕にリリィさんが話しかけてくる。
「それはその……さっきの話考えてたんですよ、大会に出るって話」
「あーそういえば敵が来て中断してたね」
「ジイクさんは分かりませんが……あのアカネって子の性格からして、大会に出るからには一番を狙うって言い出しそうですよね」
「言いそうだねえ。でもそもそも大会に出るからには一番を目指したいものじゃない。私だってそうだよ」
「その気持ちは分かるんですけど……でもそうなると大会での勝利を目指してゲームをプレイすることになって……こうやって楽しくゲームをする時間が失われるのが怖くて」
「……え? どういうこと?」
「だから――」
リリィさんはピンと来ていないようだ。おそらく大会などを目指してプレイしたことが無いのだろう。
僕は説明を追加しようとして。
「マモルくんの心配はよく分からないんだけど……私はマモルくんと一緒にゲームするの楽しいよ」
「…………」
「大会での勝利を目指すって言っても、私はいつだって勝利を目指しているし、負けたら悔しいのはどんなときだって一緒だし」
「…………」
「あれ、どうして黙ってるの? ……もしかして私なんかおかしなこと言ってる!? どうかな、マモルくんが言ってることと合ってる!?」
「合ってないですけど……よく分かりました」
「えっ!? 分かったって、何が!? もしかして私がアホな娘だって思われてる!?」
リリィさんの大仰なリアクションに、違いますよと言うべきなのだろうが面白いので放置しておく。
そうだな、リリィさんの言うとおりだ。
ゲームは楽しい。
それは真理だ。
悪いのは勝手に辛くなるプレイヤーサイドにある。
勝利を目指すことが辛いわけではない。
勝利を目指すことでギスギスする人間関係が悪かったんだ。
『銀鷲』は今思い返しても歪なチームだった。
その歪みが僕を狂わせていた。
でも今は違う。
『私はマモルくんと一緒にゲームするの楽しいよ』
そうだ、僕だってリリィさんと一緒にゲームするのは楽しい。
「間違ってるなら間違ってるって言ってよね!!」
「リリィさんは正しいですよ」
「そ、そう? なら良かったけど……いや喜んでいいんだよね? 騙そうとしてないよね?」
「それよりジイクさんに承諾の返事を送ってもらえますか?」
「えっと……あ、大会のこと?」
「はい。一緒に大会出て、優勝しちゃいましょう!」
「おー! 私、大会とか出るの初めてだから楽しみだなー」
呑気に楽しみにしているリリィさんの声を聞いて大丈夫だと今一度自分に言い聞かせる。
「…………」
問題があるとすればもう二人の方か。
ジイクさんとアカネ。
まあジイクさんはあの調子からして上手く行かないときや負けたときにキレたり味方の雰囲気を悪くしたりはしないだろう。
アカネの方は動画で見たことしかないけどあの暴言からして心配しかないが……はてさて。
その翌日。
リリィさんは早速ジイクさんに連絡したようで、一度VCルームで話そうという流れになった。
四人集まって早速口を開いたのはアカネだ。
「マモルだっけ? アカネ、あんたみたいな雑魚と組むの反対なんだけど」
開口一番、暴言をぶっ放されるのだった。




