18話 『銀鷲』崩壊 ~本章~
人気のバトルロイヤル制FPSゲーム『Star Struggle Shooting』――通称SSS。
そのSSSをプレイするチーム『銀鷲』から消極性オーダー『マモル』が追放されて一週間が経った。
リーダーのギルバートはこれでチームが強くなり連戦連勝、実力も人気も兼ね備えたチームとなって、界隈のメインストリームを駆け上がっていく。
――と妄想していたが、現実は真逆、転落の一途を辿るばかりである。
「くそっ、どうして勝てねえんだ!! くそ、くそ、くそがっ!!」
『銀鷲』は今夜も配信しながらSSSをプレイしていたが、一戦も勝てないまま夜が更けてきたため終了して、チームのVCルームに戻ってきた。
ギルバートは配信用で表向きの好青年の仮面をかなぐり捨てて、開口一番で悪態を吐く。
彼は自分の思っていたとおりに行かない現実に不満を持つばかりで、何故そう上手く行かないのかについて考えることは無い。
「ちょっとギルバート落ち着いてってば」
「そうだよ、ギルバートは悪くない。ただちょっと運が悪かっただけ」
アランナとレーヤ。
ギルバートに好意を寄せる女性チームメンバーの二人がすかさずフォローに入る。
二人はとにかくギルバートに気に入られようと必死であり、その他のことに思考を回すことは無い。
そのため現状を把握出来ているのはマモル追放後に入ってきた新オーダー、フランツのみであった。
「(どうして勝てないって……そりゃ当然だろとしか)」
マイクをOFFにして溜め息を吐く。直接言ったり溜め息でも聞かせようものならギルバートがキレるだろうことは火を見るよりも明らかだった。
『銀鷲』というチームをよく知らずに加入したフランツだったが、流石に一週間も一緒にプレイしていれば見えてくる。
ギルバートというプレイヤーの問題に。
問題点1、敵を見かけたらどれだけ距離があってもとりあえず撃つ。
先制攻撃によって上手く行く場面が無いとは言わないが、遠すぎて敵を倒す前に遮蔽に入られればその敵にこちらの存在を知らせるだけだし、銃声によって周囲の敵に自分たちの位置を知らせることにもなる。
仕掛けるタイミングを計ることが大事だという思考回路がそもそも存在していない。
問題点2、クリアリング不足。
曲がり角や小部屋など死角になっているところに敵がいないか注意しながら進むことをクリアリングというが、ギルバートは全くそれをしない。
潜伏していた敵にやられると決まって『はぁっ!? 卑怯じゃねえか!』と口にするが、それも戦術だし警戒していない方が悪い。
問題点3、知識不足。
マップによって違う高所などの強ポジ、ハイドスポット、移動可能経路などの情報が全く頭に入っていない。そのため高所から普通に撃たれる場所なのに目の前に敵がいないから安心だと勘違いしたりしている。
またキャラのスキルについての知識も怪しいもので、『巫女』相手に無理攻めして『焔化』で逃げられて敵のチームメイトに蜂の巣にされたりしている。
他にもたくさん問題点はあって、上げだしたらキリが無くなる。
だったらオーダーの自分がカバーすればいいかというとそうでもない。
今日の一幕を思い返す。
自分の指示やアドバイスを全く無視してギルバートが先行、考えを共有せずその場の思いつきでパーティーを引き回し、敵を見つけて真っ先に突っかけ反撃を食らって不利な状況を作っておいて、カバーに入って敵を引きつけている自分たちの状況を後目にのんびりと回復する。
銃声に呼び寄せられた別の敵にも囲まれて完全に不利な状況になってギルバートはのたまった。
『おい、オーダー!! この状況どうにかしろ!!』
どうにか出来るか!!
オーダーを便利屋か魔法使いかと勘違いしているんじゃねえ!!
と怒鳴り返す寸前まで行ったが、配信中で視聴者がいることを思い出してギリギリで踏み止まった。
仕方なくその状況における最前だと思われる指示を、近くの小屋に籠もって応戦したが、手榴弾を投げ込まれてから突破されて全滅した。
ロビーに戻ってきて言ったギルバートの言葉がこうだ。
『ドンマイ、ドンマイ』
まるで自分のオーダーが悪かったけど気にするなと言いたげで――ギルバート自身は一片も悪くないと思っていそうで――。
『…………』
怒り心頭過ぎてろくに言葉を返せる状況じゃなかったのは不幸中の幸いだっただろう。
「あー思い出すだけでまた腹が立ってきたな」
マイクはOFFにしたまま呟く。
「ほら、その後死んじゃったけど一気に3キルとかも取れたじゃない」
「高所に引き籠もる陰キャな部隊がいなければスター取れてた試合もあった」
ヘッドセットからはアランナとレーヤがどうにかギルバートを慰めようとする声が流れてくる。
これもまた問題を泥沼化させているポイントだろう。
顔が良く好青年を演じられるギルバートにはアランナとレーヤだけでなく、視聴者にも結構ファンがいる。
そいつらがギルバートがどんなミスをしても慰めたり、励ましたりするため、増長したギルバートは反省もせず成長もしない。
そうやってファンが集まるほどに、嫉妬したアンチも生まれる。
これに関してはギルバートが100悪いというわけでも……いやときどきアンチを煽ったりもするし……50くらい悪いか。
とにかく、このずっと勝てない状況にアンチはお祭り騒ぎ状態で、匿名掲示板やSNSなどでしばしば話題に上がっている。
ギルバートがイライラしがちなのも、おそらくエゴサーチなりしてその状況を知っているからだろう。
どうにか騒ぎを収めるためか、昨日ギルバートは『配信外でスターを取った!』という嘘動画を上げていた。何が嘘かというとこれまでの動画を編集でつなぎ合わせて、最近勝ったのだという風に装ったのだ。
『銀鷲』が全く勝てなくなったという論調に反論するためだろうが、すぐに偽装がバレてツッコまれたところで突如動画を非公開にした。
とはいえそれくらいで火消し出来るわけもなく、お祭りがさらに賑わう結果となっている。
幸いにもアンチは『銀鷲』というチームではなく、ギルバート個人に執着している。
ざっと見て回っただけでも『フランツかわいそう』『俺だったら投げ出しているわ』『フランツはよく頑張っている』など自分の評価は悪くない。
となれば沈みゆく泥船に掴まる意味もない、まだ加入してから一週間しか経っていないが脱退することも視野に考えて――――。
「アランナ、レーヤ、フランツ」
「……どうした」
ギルバートが唐突に呼びかけた。慌ててマイクをONにして返事する。
「今日の配信ではっきりしたことがある。オレたちが負け続ける原因について――原因はオレのせいだ」
「……何だと。いや、そうか……分かったんだな」
「ああ、苦労をかけさせたな、フランツ」
ギルバートが話し始めたのは意外なことだった。自分が原因だと分かったのか……こいつにも反省する部分があったんだな。
さんざんこき下ろしていた自分を恥じる。
「そんなこと無いってば、ギルバート! 私が力が足りないせいで……!」
「今日は運が悪かったのもあるし……それに私のバックアップがイマイチだったのも……」
「いや、違う。二人は頑張っているよ」
アランナとレーヤのフォローにもギルバートは謙虚に対応する。
ギルバートのこんな態度初めてだ。
何か思うところでもあったのだろうか……分からないが本当に反省しているなら、まだ目はある。ギルバートだってずぶの素人というわけではないのだ。
心を入れ替えて成長すれば、人気にふさわしい実力を身につける日だって来るだろう。
頑張ろうとしている人の足を引っ張るほど自分も性格は悪くない。これまでのことは水に流して新生『銀鷲』として――。
「負け続ける原因は……そう! オレのアンチがゲームの運営にいて、オレが負け続けるように勝敗を操作しているからだ!!」
ん?
「ここまで勝てないなんて常識的に考えてあり得ないだろう。だがそれを可能にするのがゲームの運営だ。オレの人気に嫉妬した運営の中のアンチがオレが負け続けるように操作している。そうだ、間違いない!!」
……いやいやいや、フラットなゲームルールの中で特定の一人を絶対に負けさせるとかどんな技術があれば出来るんだよ。
仮にあったとしても、SSSの運営がこんなプロでもない一チームに対してわざわざ妨害をかける意味がない。
常識的に考えれば分かることだが……ギルバートは本気で言っているようだ。
「運営がギルバートの邪魔をしていたなんて……」
「盲点だった……でも気付くなんて流石ギルバート」
となればフォローするようにアランナとレーヤがこのように言うのは当然だ。内心あり得ないと思っているのか、ギルバートの言葉を本気で信じているのかは分からないが……まあどっちにしろ変わらない。
「まさかここまで卑劣な手を使ってくるとはね。オレが目を付けられたせいでみんなには迷惑をかけたね。
でも分かりさえすれば対策が取れる。次からは勝てるぞ!!」
「ええ!!」
「うん!!」
「……そうだな」
返事が完全に棒だったが、盛り上がっている三人には気付かれていないようだ。
「………………」
さてこうなったら自分に出来ることは一つだ。
新しいチーム、早めに探さないとな。
「ふむ……そう返ってくるとは」
その翌日、ギルバートは早速行動に移っていた。
SSS運営の意見募集フォームに自分が勝敗操作をされているという根拠、運営内に自分のアンチがいるだろうこと、早急に運営内を調査した方がいいですよというアドバイスをまとめてメールで送ったのだ。
しかし、返ってきたのは機械的な対応メールだった。
完全に相手にされていない。
つまりここから読みとれることは一つ。
「オレのアンチは……運営の一部ではなく、運営全体……ということか?」
そうだ、運営にまともなやつがいたらこんな蔑ろな対応するはずがない。
……いや何人かは対抗するオレのファンもいるかもしれないか。でも完全にオレのアンチに実権を掌握されて動けないのだろう。
「くそっ、オレに力があればそいつらを助けてやれるのに……」
こうなっては運営を正すことが出来ない。
今後も勝敗操作は続けられ『銀鷲』は負け続ける。
愚かなアンチはその真実に気付かずオレを叩き続け、ファンは悲しむだろう。
そんなこと許すわけにはいかない。
「仕方ない。運営が相手だ……これを使うしかないだろう」
――腐っていてもギルバートはFPSプレイヤーだ
『それ』が悪いことだとは分かっていた。
『それ』を憎む気持ちも十分にある。
『それ』は許されないことだ。
だが追い詰められたと思い込んだギルバートは『それ』に手を出す。
FPS界隈を蝕む病巣――『チート』プログラムに。
狂人描写するの楽しい。
こんな引きしてなんですが、また視点戻ります。




