15話 戦場把握
安全地帯の収縮がさらに進み、スターの力が及ぶ範囲はこの湿地帯だけとなった。
先に中央の高台を抑えておいた僕たちは、当然その場所を明け渡すことなく戦闘を進めていた。
次の最終収縮はこの高台だけ、僕たちはこの位置を死守すればそのまま勝つことが出来る。
圧倒的に優位な状況。
しかし、優位になりすぎた、とも言えた。
「北の部隊にダウンが入れましたぞ。応急処置されるでしょうが、しばらくは攻め手が止みます」
「南東の部隊、ちょっとやばいかも! 装備が揃ってる! 最後の手榴弾使ってもいい!?」
「ええ、止むを得ません!!」
残り部隊数4。
僕たち以外の3部隊が、時計の12時、4時、8時のちょうど3方向からこの高台に向けて侵攻している。
この高台に到達する以外に生き残る方法が無いのだから当然だが、そのせいで僕たちは3部隊とも同時に当たらないといけなくなっていた。
これが高台がちょうど端に位置するような安全地帯の範囲だったら、3部隊も展開するスペースがなくて、下で同士討ちが始まっていただろう。高台が中央に位置して、圧倒的に優位になってしまったが故の悲劇だ。
僕らは1人欠けて3人部隊だ。
3部隊を相手するとなると1人で1部隊担当しないといけない。
どの部隊も人数が欠けていないため、1VS4が三つ発生していることになる。高所という有利条件があっても厳しい。
物資もちゃんと揃えていたが、こうも戦闘が長くなれば消耗も激しい。
ポーションやキットなど回復アイテムは十分にある。弾薬も何とか最後まで持つだろう。
手榴弾の消費が激しい。敵はどうしても上からの射線を切るために物陰に隠れながら進んでくる。そこに投げ込んで出て来たところを撃つという要領でどうにかここまで1VS4でも防衛出来ていたのだ。
ジイクさんは先に使い切った、リリィさんもこれで使い切る、残りは僕が持っている二つ。
「マモル様、指示を」
「マモル君、どうすれば!」
二人がオーダーを求める。
最終収縮まで残り30秒を切った。ここが最後の勝負所だと僕も二人もそして敵も感じ取っているだろう。
「…………」
ジイクさんが受け持っていた12時の部隊は応急処置と回復で現在休止状態、立て直すのに10秒ほどかかるはず。
リリィさんが受け持っていた4時の部隊は手榴弾の牽制で足止めしたけど、すぐに突っ込んでくるだろう。ここがおそらく一番装備も揃っていて強い。
僕が受け持つ8時の部隊は姿を現してぬかるみを進んでいる。陸地を伝っていくよりはショートカット出来るため、多少の被弾は覚悟の上で賭けに出たというところだろうか。ダッシュ出来ないため僕の腕前でも当てることは出来るはず。
状況を一瞬で洗い整理する。
そして導き出す、この3部隊を倒すための最適解は――。
「ジイクさん、リリィさんの方に加勢してください! 僕も向かいます!」
「……分かりましたぞ」
4時の方向、一番強い部隊に僕ら三人を集結させる。
一瞬ジイクさんが自分の受け持つ部隊を放っておいて良いのかと逡巡する気配はあったが、僕の指示に従ってくれた。
敵は突撃をかけようとしていたが、先ほどまでと違ってこちらには三人分の火力がある。高所のアドバンテージもあって二人をダウンさせる。
一カ所に火力を集中させると、当然残り2部隊はフリーになる。
だがもちろんそれも折り込み済みだ。
リリィさんの方に向かったから見えてないが、8時の部隊、僕が受け持っていた部隊の動きは手に取るように分かる。ぬかるみをショートカットして高台に一番近い陸地にある岩に辿り着き……そこに隠して設置しておいた罠にちょうどかかるタイミングだ。
僕はノールックで手榴弾を放り込む。
4時の方を見ている僕からちょうど真後ろ、10時の方向に。
敵がいないところに放り込んだ手榴弾の狙いは何か?
それは合図だ。
回復を終えて動きだそうとしている12時の部隊、そこに10時の方向で爆発。音がした方向を見れば……そこには罠にかかっている8時の部隊がいる。
「後ろで銃声が!?」
「下の部隊同士やりあっているのでしょうな……なるほど流石です」
8時の部隊は高台に近づいた結果、12時の部隊からもよく見える位置にいる。
罠にかかっている絶好の獲物だろうが、本当は撃つべきではない。敵の敵は味方の理論で、一丸となって高台を攻略するべきだからだ。
とはいえFPSプレイヤーの性として無防備な敵は撃ってしまうのが本能だろうし、そうでなくともここはバトルロイヤル、落とせるときに敵を落としておくことが完全に間違いだとも言い切れない。
そのまま8時の部隊は壊滅させられたようで画面には残り3部隊と表示される。
「しっ! ……これで終わりですな」
物陰に隠れていた敵が顔を出した瞬間、ジイクさんのスナイパーライフルが撃ち抜く。
実力が未知数だったジイクさんだが、戦闘が始まってから分かったのはその狙撃練度のすさまじさだった。
12時の部隊を回復しないといけないまでに追い込んだのもジイクさんの腕前である。
年配だから反射神経が落ちていないか心配だったけど、そんな心配を吹き飛ばすほどの強さだ。
これで4時の部隊も全滅。残り2部隊。
それと同時に最終収縮も開始する。
「残りの部隊の方へ!」
僕は慌てて指示するがその前に二人とも動いていた。まあこの場面指示するまでもなく取る行動は一択だ。
12時の部隊は8時の部隊を壊滅させた分で時間を使ったため、陸地を渡っていたのでは高台に間に合わないと判断したのか、ぬかるみを突っ切っているところだった。
駆けつけた僕たちはダッシュも出来ないその格好の的に銃弾の雨を降らせるが……。
「『ウォール』!?」
「っ、ここまで温存していたのか!?」
僕たちが撃つや否や、敵部隊前の地面から壁がそそり立ち銃弾を阻む。スキル『ウォール』の力だ。
『星の祈祷』のようにパッシブなスキルを除いて、基本的にスキルは一度使用するとインターバルが発生して連続で使用することが出来ないため、この局面になるまで温存していた敵の判断が的確すぎる。
まずい、このままだと高台に到達される。
対等な条件の戦いになってしまうと1人欠けている上、撃ち合いスキルが絶望的に低い自分を抱えているこっちが不利だ。
敵の侵攻を止めるためには……。
「壁の右側に手榴弾を」
「……え?」
「それで勝てます」
ジイクさんのVCで飛んできた指示。
意図は分からなかったが自分の中に他のプランも無くその指示に従う。
今まで隠れていた岩などと違って、ウォールは横に幅が広い。右に手榴弾を投げられても左に回避すればいいだけだ。
実際手榴弾は爆発したがダメージは誰にも入らなかった。
そして壁の左側から敵部隊の面々が出て来て。
次の瞬間、その動きが鈍った。
「え、何が起きたの?」
「あれは……罠師の罠?」
敵にスロウ効果が付与されている。そんな芸当が出来るとしたら罠師の罠くらいだ。
しかし、どうして? あんな場所に設置した覚えなんて……。
「あっ……」
いや、違う。そうだ、僕はあの場所に罠を設置した。
ジイクさんの話に聞き入ってボタンを誤爆して設置した罠。
ぬかるんだ地面のせいで敵にも味方にも見えなくなった罠。
セットした本人さえこんな中途半端な位置の罠なんて誰もひっからないだろうと忘れていたのに――ジイクさんは覚えていた?
「『戦場把握』それこそが戦場で一番大切な技能だと私は思うのです」
敵も味方も呆気にとられる中、ただ1人この事態が見えていたジイクさんはそのまま敵部隊を狙撃。
『You win the Star !!』
僕たちはマッチに勝利した。




