13話 新たな出会い
チーム『銀鷲』を追放されて、守こと僕の生活は一変した。
全て野良マッチで偶然出会ったリリィさんのおかげだ。
自分を必要としてくれる、認めてくれる人とのSSSのプレイはこんなにも楽しいものだとは知らなかった。
今日も高校から帰宅してすぐに机にかじり付く。
ゲームを始めたら時間を忘れて没頭するのは目に見えているので、開始する前に宿題を終わらせておくためだ。
いつもより量の多かった宿題を終わらせて、SSSを立ち上げると既にリリィさんはインしているようだった。
「すいませんね、開始が遅くなって」
「大丈夫だけど今日はどうしたの?」
「化学の小田がドサッと宿題出したんですよ、しかも提出期限が明日で……ああもう」
「うんうん、宿題って大変だよねー」
僕の話にリリィさんは同意するけど……声音からして形だけの同意だった。
この一週間リリィさんとVCで話していて、彼女が学校の勉強で愚痴ったことは一回もない。
高校生活の大部分を占める勉強に煩わしさを感じないなんて、本当は高校生じゃないか、楽勝に思えるくらい頭が良いかのどちらかだ。
もちろんリリィさんは後者だ。宿題なんて苦に思ったこともないだろう。
その優秀さはSSSでも表れている。
最初はプレイに慣れてきた中級者ぐらいだった腕前が、この一週間でめきめきと上がってきている。
リリィさんは僕の立ち回りにすごい興味を持っているらしく、マッチの間暇さえあれば僕もその考え方を教えているのだが、一度話したことは完璧に理解して自分の知識として反映している。
僕と違ってエイム力などもあって戦闘も十分にこなせるし、このまま上達して行ったら大会とかでも活躍できるすごいプレイヤーになるのではないだろうか。
「………………」
とはいえ、今のところリリィさんの口から大会に出たいなどの言葉は聞いたことはない。
話したことはないけど、おそらく純粋に楽しむためにプレイしているのだろう。
僕だってリリィさんとプレイするSSSは楽しい。
現状僕らの思いは釣り合っていると見ていいだろう。
でも腕前が上達すれば、それを披露したいと思うことは不自然なことじゃない。
もしもリリィさんが大会に出てみたい、勝つためのプレイを極めてみたいと思ったとき。
僕はそれに応えるのだろうか?
一度裏切られた思いをまた抱けるだろうか?
……なんてまだ基本のチームメンバー4人すら集まっていないのに考えることでもないな。
そんなことより今は気を取り直して目の前のゲームだ。
「それじゃあ今日もマッチ開始していきますか!」
「よろしくー!」
始まったマッチ、今回のマップはリリィさんと初めて一緒に戦った場所でもある『熱帯雨林』だ。
僕とリリィさん、そして野良二人の即席チーム。
代表者に選ばれた僕は飛行船から一路『原生住民の住居』にチームを導いて降りる。
沸く物資こそ多くなく不人気なスポットだが、だからこそあまり他のチームも降りてこない。
一帯をチームで独占して物資を漁る、そこまでは順調だった。
「っ……銃声が近くないですか!?」
「どうやら味方の一人が接敵したようですね!」
効率のためにチーム四人とも散開して漁っていたのだが、違うスポットから逃げてきた部隊と野良の味方一人が遭遇、そのまま戦闘を開始してしまったのだ。
敵は一人欠けて三人、その全員が既に満身創痍だったようだが、とはいえ一人で相手するのは厳しい人数差だ。
離れていたことも災いして僕たちが援護に向かうまでの間に敵の二人と相打ちでダウン、残りの敵によってそのまま確殺まで入れられる。
幸いにも駆けつけた僕とリリィさんで残り一人をサクッと倒したので大事にはならなかった。
そして急いで味方の棺桶に向かったところで。
「よしっ、これで復活を……あっ」
「マッチ抜けて行きましたね」
SSSの仕様として、ダウン状態に陥った味方はその場の応急処置で治すことが出来る。
しかし確殺を入れられて棺桶になった味方は応急処置で治すことは出来ない。
その棺桶からタグを広い、マップに点在する通信所に持って行くと復活できるという仕組みだ。
だから今回はこのまま通信所に行けば、倒れた野良も復活出来るはずだった。
しかしその野良がマッチを抜ける、つまりリタイア・棄権をしたのだ。こうなっては復活させようが無い。
おそらくこの野良は、確殺を入れられて味方が復活させてくれるのを待つくらいなら、マッチを抜けて新しいマッチに参加した方が早いし楽だと考えているのだろう。
残された味方のことを、チーム戦であることを忘れた身勝手で自己中心的な考え方。FPSの民度の悪さの一端が現れている。
「どうしますか?」
「まあ三人で戦うしかないですから、積極的には動けないですね。次の次の安全地帯にまで入っていますから動く必要が薄くて良かったですね」
「あ、本当ですね……って、あれ? どうして次の次の安全地帯まで分かるんですか? マップに表示されてますけど……」
「もう一人の野良……ジイクフリート? さんのキャラのスキルですね」
変わった名前をしているなあと思いながら読み上げる。
SSSでは本来次に収縮する安全地帯の範囲が分かるようになっている。
しかしジイクさんのキャラ『祈祷師』のスキル『星の祈祷』により、チームメンバー全員が次の次に収縮する安全地帯の範囲まで分かるようになる。
一早く安全地帯が分かることによって、敵を待ち伏せたり、先に有利ポジションを取っておいたりなど役に立つスキルではあるが、『索敵』や『ウォール』などのスキルに比べると効果が地味なのは否めないためあまり使用率が高くないのが現状だ。
ちなみに『祈祷師』のキャラ自体は若男が白い和装束を身に纏っている出で立ちで結構人気がある。
「なるほどこれが『祈祷師』のスキルで……でもどうして『祈祷師』のスキルで安全地帯が分かったりするんですか?」
「……? どうして、とは?」
「いや、その『祈祷師』って言うからには祈ったりとかするんでしょうけど、それで安全地帯が分かったりするんですかね?」
「あーなるほど、ゲームの仕様じゃなくて設定的な話ですか」
リリィさんの質問の意図を掴む。
確かに『祈祷師』が安全地帯の範囲が分かるというのも、あまり合っていないスキルのように思える。
『安全地帯が分かる』というスキルの効果に合わせるなら、例えば頭にデカいアンテナを抱えたキャラが宇宙からの信号をキャッチしている、みたいな方がらしい気がする。
「………………」
んーでも何かその理由について聞いたことがある気もするなー。
ゲームの仕様とかは猛勉強したので詳しいけど、そういうキャラなどを含めた設定面については疎かったりする。
僕が思い出そうと首を捻っていると。
「ふぉっ、ふぉっ。それは『祈祷師』がスターの力を感知しているからですな」
そんな第三者の声が聞こえてきた。
「えっと……」
「その」
僕とリリィさんは何と答えていいのか悩む。
声の出所は分かる。僕たちはゲームのVCで会話している。そこにちょうど僕たちが話題にしていた『祈祷師』のプレイヤーである『ジイクフリート』さんが会話に参加してきたのだ。
野良が珍しくVCをミュートにしていないのは気付いていた。でもここまでずっと無言だったから話すつもりはないのだと思ってたけど……。
「おっといきなり失礼でしたな。私は『ジイクフリート』というものです。そのままでもジイクさんでも爺でも、好きなようにお呼びください」
声の感じからしてかなりの歳の男性は――それこそ本人が言ったように爺と呼ばれるくらい年配のように聞こえる――物腰丁寧な語り口でそのように自己紹介するのだった。




