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12話 新たな日常




「ユリさん、最近何か付き合い悪くない?」


 26歳OLの佐藤ユリ、こと私は定時ダッシュを決めようとしているところで、同僚のおばさんにそのように呼び止められた。




「付き合い、ですか?」

 思ってもいなかったことを指摘され私は理解に時間を要する。


「今だってそうじゃない、前は雑談でもしながらだらだら退勤準備してたのに、そんな急いじゃって」

「あっ、そうよそうよ。私も思ってたのよ、昼休みもずっとスマホと睨めっこしてるわよね」


 話を聞いていたのかもう一人おばさんが加わる。




 言われてみれば……付き合いが悪かったかもしれない。


 ゲーマーな私が最近プレイしているのは、FPSゲームであるSSS。

 その野良マッチで一週間前、出会いがあった。


 男子高校生のマモルくんだ。

 偶然が重なって繋がったVCボイスチャットで私たちはやりとりしながらマッチを制して、そのときフレンドになり一緒にSSSをプレイするようになった。

 それからというものの少しでもマモルくんと一緒にプレイする時間を取るために足早に帰宅していたし、昼休みもSSSの知識を詰め込むためにスマホで攻略wikiを調べていたりした。

 ちなみにゲーマーであることは何となく恥ずかしいため会社では隠している。




「…………」

 プライベートなことだしあまり聞かないでください、と拒絶することは簡単だが、別に二人とも悪い人ではないのだ。

 私が新人で分からないことばかりだったときに仕事を教えてもらったし、色々あったときに融通を利かせてくれたりもする。

 質問も気になったから聞いたくらいの意味合いでしかないのだろう。




 だから。


「ちょっと最近忙しくて交流も疎になってましたし、近い内に女子会でも開きます?」


 誤魔化しながら埋め合わせの機会を提示する。


「あー良いわね、女子会!」

「ぱーっと集めちゃいましょ、みんなに予定聞いておくから!」


 二人も乗り気のようだ。


「じゃあそういうことで、えっと今日のところは……」


「ああっ、ごめんねえ。急いでいるところに呼び止めて。お疲れさま!」

「お疲れさま! 夜にでもRINEするわね」


「お疲れさまです」


 私はペコリとお辞儀をして更衣室を後にする。






 残った二人は。


「男……かしら?」

「男……でしょうね」


 ユリの変調をそのように推測していた。当たらずとも遠からずといったところか。


「色恋沙汰に疎そうなユリちゃんに男ね……。いやあん、寂しい。この前寿退社で一人辞めたばかりなのに」


 干支二回りは離れた歳のユリのことを、二人は娘のように扱っている。




「ユリちゃんまで辞めたら若い子がごっそりいなくなるわね」

「一番若いのがアラフォーの田中さんになるかしら」

「そんなこと言ったら『まだ37です! 30代って言ってください!』って怒られるわよ」

「おっと失言ね」

「寂しいだけじゃなくて仕事も大変になるわね、大盛況のWEB販売部門のほとんどを取り仕切ってるのユリちゃんだし」

「ネットはおばちゃんにはよく分からんわ。かろうじて息子にRINEの使い方は教えてもらったけど」

「そういえば女子会の予定よ、予定。確かRINEってアンケート取るみたいな機能あったわよね」

「いや聞かれても分からないってば」


 二人はペチャクチャとしゃべりながら、だらだらと帰宅の準備を進めるのだった。








「すいませんね、開始が遅くなって」

「大丈夫だけど今日はどうしたの?」

「化学の小田がドサッと宿題出したんですよ、しかも提出期限が明日で……ああもう」

「うんうん、宿題って大変だよねー」


 ……宿題ってどんな感じだったかしら?


 帰宅した私は自分の名前『ユリ』の英語から取った『リリィ』としてSSSをプレイしていた。

 VCボイスチャットの相手は男子高校生のマモルくんだ。マッチ待機画面で、彼の高校トークに私も調子を合わせるように話す。

 というのも私は止むに止まれぬ事情……があるわけでもないが、自分のことを高校生だと偽ってマモルくんと接しているからだ。


 社会人生活にもすっかり慣れきった現在、高校生を偽るのは本当に大変だ。高校生がどのようなことを考えていたかすっかり忘れているからだ。




「あっ、そういえばまだ予定は決まってないんだけど今度女子会があるから、その日はSSSをプレイ出来ないかも」

「女子会ですか、へえどこに行くんですか?」

「うーん、まあたぶん、いざか」

「カラオケとかですか?」

「……あっ、そうそうカラオケ! いざカラオケに、ってね!」

「…………?」


 マモルくんが首を捻る気配が伝わってくる。


 危なかった……そうよね、女子高生が居酒屋に集まったらおかしいよね。高校生といえばカラオケよ。


 こんな感じで綱渡りだけどまだマモルくんにはバレていないと思う……思いたい。




「それじゃあ今日もマッチ開始していきますか!」

「よろしくー!」


 マッチ開始ボタンを押すと、二人が野良として入って4人1組の即席チームが組まれる。

 ここのところ毎日マモルくんとSSSをプレイしている。

 その目的は楽しむためだった。


 SSSは極めればプロチームやプロリーグがあるし、アマチュアでも大規模な大会が開かれていたりする。

 そのため上手くなるため、大会で優勝するため、といった目標を持ってSSSをプレイしている人も多いらしい。


 でもまだまだ中級者の入り口に差し掛かったと自分では思っている私には遠い話だ。

 やるからには上手くなりたいという意欲もあるが、直接的に結びつく物もないし、そう考えるとやはり私の今の一番の目的は楽しむためということになるだろう。




「………………」


 うーん、でもマモルくんはどういうつもりでプレイしているんだろう?

 大会に出たいとか言ったことはないけど、かといって楽しむためにプレイしている、と口にしたわけでもないし。




「……あれ?」

 キャラクターたちが飛行船に乗り込み本格的にマッチが始まるという直前。

 左下にチームメンバーたちの体力と名前が表示されたのを見て私は声を上げる。


「どうしました、リリィさん?」

「……ううん、何でもない」


 今でも私たちはゲーム内VCボイスチャットを通じて会話している。

 ゲーム外のVCボイスチャット、例えばRINEなんかでマモルくんと通話をすればいいんじゃないかとも思うが、私たち二人も野良マッチで出会った仲なのでまたこう偶然の出会いがあるんじゃないかと思っていたり、そもそも私が偽証がバレないように他のSNS垢を明かすのを恐れてこのような形になっている。


 そのため野良二人も私たちの会話を聞くことが出来る。といってもFPS界隈というのは基本的には民度が悪いため、暴言などが飛んでこないよう自衛のために野良の会話は聞こえないようミュート設定している人がほとんどだ。

 しかし今回、野良の内一人がマイクこそONにしてないようだが、ミュートにしていないことに私は気付き、その人の名前をどこかで見た覚えがあって声を上げたのだった。




 ジイクフリートさん……ってどこかで聞いた覚えがあったんだけど……どこで見たんだっけ……?



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