10話 マッチ後
マモルくんの命を使った罠張り。
スロウで動きの鈍った敵を一人、二人と倒す間、緊張で私の心拍数は上がりっぱなしだった。
「これでラスト……!!」
そして三人目を倒して画面に『You win the Star !!』と表示される。
「やった!! 勝った!!」
ユリこと私は思わず快哉を上げていた。
「お見事です、リリィさん」
VCでマモルくんも答える。
「全部マモルくんのおかげだよ」
「いえいえそんなことは、リリィさんのおかげで」
「何を言って、だからマモルくんが」
「リリィさんが」
お手柄を譲り合うという謎のやりとりをしている内に今回のマッチのリザルトが出る。
「8キルかあ……初めてだ」
私は8キル取ったことになっていた。
『廃墟の神殿』での戦いで4キル、最後の攻防で直接倒したのは3人だけど、残り1人をダウンさせた部隊は全滅したので私がキルを取った扱いになるようだ。
『部隊壊滅』の称号に加えて『部隊壊滅W』の称号も手に入る。
それにこれでキルレも少しは上がるだろう。
キルレとはキルとデスの割合で、FPSプレイヤーの上手さとしてよく言われる指標だ。
例えば全てのプレイを通して、敵を300回キル取って、でも600回自分が死んでいたら、300/600でキルレは『0.5』だ。
とりあえずキルレが1を越えていたら初心者脱出と言われる。
それほどまでに初心者は何も出来ずに死ぬことが多いゲームだ。
私も今はキルレが0.8くらいだけど、今回デスすることなく8キルも重ねたのはかなり大きい。
でもだからこそ。
「マモルくんの分のキルを奪ったみたいな形になって申し訳ないです」
リザルトにはチームメンバー、マモルくんの詳細も載っている。
最後ダウンした後範囲ダメージで死んだので、0キルで1デスしたことになっている。
あれだけ指令として活躍していたのに、キルレという面で見ればマイナスだ。
マモルくんと同時に敵を撃ったけど、私にキルが付いた形も何個かあったし。
「ああ、いいですよ。元々僕のキルレは『0.2』くらいですし。これ以上悪くなっても……まあそこまで気にしません」
「え!? 『0.2』ですか!?」
「低すぎるでしょう?」
自嘲気味に笑うマモルくん。
キルレ『0.2』とはあまり聞いたことが無い数字だ。
ある程度プレイした初心者が『0.5』で低いと嘆くくらいだ。
色々とマップの知識やゲームの仕様に詳しいマモルくんがそれよりも低いなんて……。
でも今回のマッチでもその片鱗はあったと思う。
完璧な指令に対して、稚拙な戦闘力。それに自分を犠牲にした作戦。
そんなのを繰り返していたら、確かにキルレは悪くなる一方だろう。
キルレは低い、それでもマモルくんのことが弱いとは思わなかった。
どころかこれまで私が一緒にプレイしてきた誰よりも強かった。
普通ではない視点……私たちが戦場に放たれた100の駒として動いている中、マモルくんはその駒を動かす指し手としての視点を持っているような……。
他の人とは異質な強さ。
それにもっと知りたくて、触れて見たくて。
「さて、マッチありがとうございました。僕はそろそろ落ち――」
「待ってください。マモルくん、私とフレンドになってもらえませんか」
私はそのように申し出ていた。
フレンドになると誘って一緒にマッチをプレイ出来たり、ゲーム外でもメッセージのやり取りが出来たりする。
「フレンド……ですか?」
「ええ、それで出来れば一緒にSSSをプレイ出来たらと。私、よく夜にプレイしているので」
「…………」
「駄目、ですかね? あ、もしかしてもう他にチームに入っているとか?」
SSSは4人チームでのプレイが基本だ。
4人固定のチームを組んでいたら、それ以外の人とプレイするのは難しかったりする。
たまたま今回は野良マッチをプレイしていただけで、普段はマモルくんは何らかのチームに所属しているとかかもしれない。
マモルくんほどの人材なら引く手数多だろうし。
「いえ今はチームには所属していなくて……ちょっと待ってくださいね、その嫌とかじゃないんです。ちょっと急だったので心の整理が追いつかなくて、それに僕なんかと一緒にプレイしたいなんて初めて言われたので」
「あっ、はい。急でしたね、待ちます、待ちます」
本当にいっぱいいっぱいな様子のマモル君の言葉を聞いて、私も焦って畳みかけすぎたかなと反省する。
たっぷり一分ほど待ってマモルくんが口を開いた。
「何て言えばいいんでしょう、今回のマッチ僕も色々楽しかったので。フレンドなれたらと思っていて……えっと、そのこちらから申請しておきますね」
「そうですか、ありがとうございます!」
言葉通り『フレンド申請届きました』という表示が出た瞬間、私は承諾のボタンを押していた。
これでマモルくんとフレンドになったことになる。
「はい、あとそれと一緒にプレイするってのもOKです。高校生なので平日は学校と宿題があるので大体夜からゲーム出来ますね。休日は大体一日大丈夫なんですが……リリィさんはどんな感じですか?」
予想通りやはりマモルくんは高校生のようだ。
話を振られたので私も26際のOLだと、残業はあまり無いので同じように平日は夜だけ、休日は一日プレイ出来ると伝えようとして――。
(ちょっと待って……本当に言うの?)
ブレーキがかかる。
26際、高校生からすれば約10歳は上だ。
私の年齢を聞いて、マモルくんは萎縮しないだろうか?
26なのにリリィなんて名乗っていることに引いたりしないだろうか?
『え、あっ、26なんですか。はー、ふーん、へー』
と何ともいえない反応の後、ブロックされる……ということにならないだろうか?
(SSS……基本はVCでやりとりする。私の姿は自分から明かさない限り見られない。プロフィールにも生年月日は表示されないはずだし……問題は声だけ)
声だけだったら……よく『声が若いわね~』と職場のおばさん上司にも言われる私なら……何とか誤魔化すことが出来ないだろうか?
何より初めてのSSS仲間となるマモルくんとは対等に接してみたい。
でも嘘を吐くのは……。
「リリィさん……?」
「…………」
「あれ、聞こえてませんか? VC切れたのかな……?」
「あ、ううん、大丈夫聞こえているよ!
それと私も高校生だから!
大体プレイ出来る時間も一緒くらいかな!?」
半分やけくそ、残りは勢いで自分を高校生だと偽る26歳OL。
言ってしまったことでマモルくんを騙しているとすごい罪悪感が胸を襲う。
しかしここで引っ込めたらただの26歳ではなく、高校生と偽ろうとしたという罪状ものしかかる。
もう押し切るしかない。
「あっ、高校生だったんですか。すいません、声の感じから成人なのかと思ってました」
「あははっ、よく大人びているって言われてるんだ!」
どの口が言ってるんだ……私の口か……。
「それじゃこれからよろしくお願いしますね、リリィさん!」
「うん、よろしくね、マモルくん!」
こうして出会った消極性オーダーの男子高校生と中級者の年齢詐称OL。
二人はここからSSS界に一大旋風を巻き起こしていくのだが。
今は誰もそのことを知らない。




