【第一部】絶望 三章 リライブ 9
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内心、健次郎は驚嘆していたが、言葉はもちろん、表情にも出さなかった。
「頑張ったな」
一言だけ恭介に送った。
「はい」
恭介も、特に苦労話をするでもなかった。
「さて、これからなんだが、百万くらいで藤影グループと戦うのは無理だ」
恭介は頷く。
「まずは、戦う相手の懐に、入り込む必要がある」
「はい、俺もそう考えています」
名前を変え、新しい身分で、元の学校に戻ると、恭介は言った。
健次郎の構想と同じだった。
松本佳典。
恭介の新しい名前である。
その名を使い、狩野学園高等部への入試を受けたのは、師走の初旬だった。
保護者代理として、瑠香が同行した。
もっとも瑠香の目的は、東京方面の観光旅行であったが。
道すがら、恭介は瑠香から、あれこれと質問された。
「どうやって、百万貯めたの?」
「単純計算で、一日二万ずつ稼げば、五十日で貯められると思いました」
「だからあ、その二万を稼いだ方法よ」
一つは土木作業や廃棄物処理の現場だった。
もう一つは
「持っている知識を売りました」
五行やら、全天の星の動きやらを組み合わせれば、占術として使えると、リンが言っていた。
恭介は、昼は現場作業員、夜は街角の占い師として、現金収入を得たのだ。
「なんだあ、けっこう美少年なんだから、そっちで稼いだのかと期待したのに…」
瑠香はぶつぶつ独り言を言っていた。
「まあいいわ。じゃあ恭介、じゃなかった、佳典」
瑠香は恭介に顔を近づける。
「私のことも占ってよ。あ、身内なんだから、無料でね」
松本佳典宛てに、狩野学園高等部から、学費免除の特待生として合格通知が届いたのは、それから二週間後のことだった。




