【第一部】絶望 二章 地上と地底 3
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同級生らが、中学部の生活を始めた頃。
恭介は地底での生活を楽しむ余裕が生まれていた。
地底全体がどのくらい広いのかは、今もってわからなかったが、恭介が主に暮らしているエリアは、小規模な町一つ、といった感じだ。
メイロンと一緒の食材集めだけでも、一日に十キロやそこら、軽く走っている。
十キロを駆け抜けて息切れしなくなった恭介に、メイロンは「護身術」だと言って、中国の拳法みたいな動きを教えるようになった。
教えるといっても、メイロンの繰り出す手足の動きを止めるように、恭介は動くだけである。
「猫のじゃれあいみたいですね」
スズメには、そう言われていた。
そのスズメは最近、恭介に織物を教えるようになった。
地底に生えている草や蔓の繊維を紡ぎ、布を作っていく。
出来上がった布を器用に縫い合わせ、恭介の服としていた。
「すごいな、スズメ。これも理なの?」
スズメが作成したポンチョのような服に袖を通してみたら、思いのほか着心地が良かった。
「いいえ、恭介さん、これは理ではなく、生きるための知恵です」
恭介は学校で教えられた知識は持っていたが、知恵のストックは少なかった。
経済的には恵まれた環境だったため、自分の力で何かを作り出す経験は、希薄であったからだ。
「キヨスケよ」
「恭介です(このやりとりも、いい加減飽きてきたな)」
リンもスズメに、ベストのような服を作ってもらっていた。
「知識の集合体が知恵になるわけじゃない。でも知識がないと何の力も生まれん。よって無駄になる知識はないのだ」
相変わらず偉そうに講釈をたれる。
「お前の知的探検は、どこまで進んだか?」
「昨日は、恐竜時代です。一億年前までですか」
うんうんと、満足そうにうなずきながら、リンはどこかへ行った。




